物流業界における「2024年問題」が現実のものとなり、ドライバー不足や輸送コストの高騰が経営の根幹を揺るがす中、非常に示唆に富んだニュースが飛び込んできました。
ブルボン、不二製油、センコー、中越通運、JR貨物の5社による、鉄道と31フィート冷蔵コンテナを活用した「ラウンド輸送」の開始です。
なぜ、このニュースが今、業界関係者から熱い視線を浴びているのでしょうか。それは、単なる「モーダルシフト」の事例にとどまらず、「企業間の垣根を超えたリソース共有(シェアリング)」という、次世代物流の最適解を体現しているからです。
本記事では、この先進的な取り組みの全容を解説するとともに、物流業界の経営層や現場リーダーが今こそ直視すべき「持続可能な物流網構築」へのヒントを、独自の視点(LogiShiftの視点)を交えて紐解きます。
ブルボンなど5社によるラウンド輸送スキームの全容
まずは、今回のプロジェクトが具体的にどのような仕組みで動いているのか、事実関係を整理します。今回の取り組みの肝は、新潟と関西という長距離区間において、異なる荷主がコンテナを「往復利用」することで、物流の最大の敵である「空回送」を解消した点にあります。
5社連携プロジェクトの基本骨子
本スキームは、菓子メーカーのブルボンと、食品素材メーカーの不二製油が荷主となり、物流事業者が連携して鉄道コンテナをリレー形式で運用するものです。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 参画企業(荷主) | ブルボン(新潟)、不二製油(大阪) |
| 参画企業(物流) | 中越通運(ブルボン担当)、センコー(不二製油担当)、JR貨物(鉄道輸送) |
| 活用資産 | 31フィート冷蔵コンテナ(大型トラックと同等の積載量) |
| 輸送ルート(往路) | 新潟(ブルボン工場)→ 南長岡駅 → 百済貨物ターミナル → 関西(配送センター) |
| 輸送ルート(復路) | 関西(不二製油工場)→ 百済貨物ターミナル → 南長岡駅 → 新潟(ブルボン工場) |
| 主要な成果 | 空コンテナ回送の解消、ドライバー運転時間の削減、CO2排出量の削減 |
なぜ「31フィート冷蔵コンテナ」なのか
このプロジェクトで特筆すべきは、31フィート冷蔵コンテナの活用です。
従来の鉄道コンテナ(12フィート)では、大型トラック1台分の荷物を運ぶのに複数のコンテナが必要となり、積み替えの手間や積載効率の面で課題がありました。しかし、31フィートコンテナは大型トラックとほぼ同等の積載容量を持ちます。これにより、モーダルシフトへの移行障壁となっていた「ロット単位の調整」を最小限に抑え、トラック輸送からのスムーズな転換を可能にしました。
さらに「冷蔵」機能を有することで、温度管理が厳格な食品物流においても、品質を維持したまま大量輸送を実現しています。
業界各プレイヤーへの具体的な影響とメリット
この5社連携のスキームは、関わる全てのプレイヤーにメリットをもたらす「三方よし」ならぬ「五方よし」のモデルです。それぞれの視点から具体的な影響を見ていきましょう。
荷主企業(ブルボン・不二製油)における物流コストとCSR
荷主企業にとっての最大のメリットは、「輸送能力の安定確保」と「環境経営の推進」です。
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輸送リソースの確保:
長距離トラックの確保が年々困難になる中、鉄道へのシフトはBCP(事業継続計画)の観点からも重要です。往復でコンテナを利用することで、片道利用の場合に発生しがちな「空回送コスト」の転嫁を防ぎ、コスト構造を最適化できます。 -
脱炭素社会への貢献:
鉄道輸送はトラック輸送に比べ、CO2排出量を大幅に削減(約1/10〜1/6程度)できます。環境負荷低減は、上場企業にとって投資家や消費者への強力なアピール材料となります。
物流事業者(センコー・中越通運)における運行効率化
物流事業者にとっては、「ドライバーの労働環境改善」が喫緊の課題への直接的な回答となります。
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長距離運行からの解放:
新潟〜関西間という長距離運行を鉄道に任せることで、ドライバーは両端の近・中距離輸送(駅〜工場/倉庫)に専念できます。これにより、拘束時間を大幅に削減し、日帰り運行が可能になるなど、コンプライアンス遵守とドライバーの定着率向上に寄与します。 -
資産回転率の向上:
コンテナを往復で稼働させることで、資産のアイドルタイム(非稼働時間)を減らし、収益性を高めることができます。
鉄道事業者(JR貨物)におけるモーダルシフトの加速
JR貨物にとっては、長年の課題であった「鉄道貨物の復権」を後押しする事例となります。
- 新たな需要の掘り起こし:
温度管理が必要な食品分野での成功事例は、これまで鉄道輸送に二の足を踏んでいた他の食品メーカーや医薬品メーカーへの強力な営業ツールとなります。
LogiShiftの視点:単なる「共同配送」を超えた未来への提言
ここからは、本ニュースを単なる一事例として終わらせず、今後の物流戦略にどう活かすべきか、独自視点で考察します。
「競争」から「共創」へ:水平連携が標準化する
今回のケースで最も注目すべきは、異なる業種の荷主(製菓と製油)が手を組んだ点です。これまでは「同業他社による共同配送」が話題になりがちでしたが、今後は「異業種間でのルートマッチング」こそが、物流効率化の主流になるでしょう。
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エリア×アセットのマッチング:
製品カテゴリが違っても、「新潟と関西」という発着地、「温度管理が必要」という条件が合致すれば、協業は可能です。自社の物流ルートだけで最適化を図る時代は終わりました。 -
物流部門のオープン化:
企業は自社の物流データを(一定の範囲で)オープンにし、マッチング可能なパートナーを能動的に探す姿勢が求められます。「運びたいもの」ではなく「空いているスペースとルート」を軸にしたパートナーシップが加速するでしょう。
31フィートコンテナが変える「物流の単位」
31フィートコンテナの活用は、今後のモーダルシフトの標準規格(デファクトスタンダード)になる可能性があります。
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トラックとの親和性:
倉庫のドックシェルターや荷役機器は、多くが大型トラックを基準に設計されています。31フィートコンテナはこれら既存インフラをそのまま活用できるため、設備投資を最小限に抑えてモーダルシフトを実現できます。 -
倉庫オペレーションへの影響:
「鉄道コンテナ=小さい」という固定観念を捨て、倉庫側も31フィートコンテナの受け入れを前提としたオペレーション設計(クロスドッキングなど)を見直す時期に来ています。
デジタルプラットフォームによる「帰り荷」の自動化
今回の5社連携は、おそらく綿密な協議の上で成立したスキームですが、今後はこれをデジタルプラットフォーム上で自動的にマッチングする動きが出てくるはずです。
- 動的マッチングの可能性:
「来週、関西行きに空きが出る」という情報をプラットフォームに投げれば、条件の合う復路の荷主が即座に見つかる。そのような「物流版Uber」のような仕組みが、BtoBの幹線輸送レベルで実装される未来は遠くありません。経営層は、こうしたプラットフォームの動向を注視し、早期に参画できる準備をしておくべきです。
まとめ:明日から意識すべきアクション
ブルボンなど5社による冷蔵コンテナ活用のラウンド輸送開始は、持続可能な物流への大きな一歩です。しかし、これを「大手だからできたこと」と片付けてはいけません。
規模の大小に関わらず、以下の3点を意識することで、自社の物流改革の糸口が見つかるはずです。
- 「片道」で考えない:
自社の輸送ルートにおける「戻り便」がどうなっているか再確認する。空気を運んでいる区間があれば、そこは「利益の源泉」になり得ます。 - 異業種との対話:
物流会社任せにせず、荷主同士が直接対話できる場(物流協議会やセミナーなど)に参加し、ルートが重なるパートナーを探す。 - 31フィートコンテナの検討:
トラック輸送に固執せず、大型コンテナを活用した鉄道輸送のシミュレーションを一度行ってみる。
物流は今、コストセンターから「企業の競争力を左右する戦略部門」へと変貌しています。5社の事例を参考に、貴社の物流網を「持続可能」なものへとアップデートしていきましょう。

