物流の「聖域」積載効率を見直す英断が生む波紋
物流業界において、長らく「正義」とされてきた積載効率の最大化。しかし今、その常識を覆す大きな動きがありました。ホームセンター大手のコメリ、物流大手の日本通運(NX)、そして日本パレットレンタル(JPR)の3社が連携し、国際輸送における「一貫パレチゼーション」を本格始動させました。
このニュースが業界に衝撃を与えている理由は、単なる業務提携だからではありません。「コンテナへの手積み(バラ積み)」という、最も積載効率が良いとされる手法を捨て、あえて「パレット輸送」を選択することで、年間1,000時間以上の荷役時間削減を実現した点にあります。
物流2024年問題によるドライバー不足、倉庫作業員不足が深刻化する中、企業は「部分最適(輸送コスト)」から「全体最適(サプライチェーン全体の効率化)」へと舵を切る必要に迫られています。本記事では、コメリと日通、JPRの取り組みの詳細を整理し、この事例が今後の国際物流にどのような変革をもたらすのかを解説します。
※本件の速報的な詳細については、以下の記事も併せてご覧ください。
【徹底解説】日本通運・コメリの国際一貫パレチゼーション|荷役1016時間減の衝撃
コメリ・日通・JPRによる国際一貫パレチゼーションの全貌
今回の取り組みは、海外の生産拠点から日本の店舗や物流センターまで、荷物を一度もパレットから降ろさずに輸送するものです。まずはその具体的な内容と成果を整理します。
取り組みの基本スキームと実績データ
従来、輸入コンテナの多くは、少しでも多くの商品を積むために「手積み(バラ積み)」が行われてきました。日本に到着後、倉庫作業員が手作業でデバンニング(荷降ろし)を行い、パレットに積み替える作業が発生していました。今回のスキームでは、中国の拠点でJPRのレンタルパレットに商品を積載し、そのまま日本国内まで輸送します。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 参画企業 | コメリ(荷主)、日本通運(輸送・フォワーディング)、日本パレットレンタル(パレット提供・管理) |
| 対象ルート | 中国の生産拠点 ~ 日本のコメリ物流センター |
| 使用パレット | JPRレンタルパレット(11型プラスチックパレット) |
| 荷役削減効果 | 年間約1,016時間削減(40ftコンテナ1本あたり約2時間短縮) |
| 環境効果 | 年間約20,000枚以上の木製パレット廃棄ゼロ、CO2排出量約170トン削減 |
| 主な変更点 | 「手積み・ワンウェイ木製パレット」から「循環型レンタルプラパレット」へ移行 |
なぜ今、3社が連携したのか
背景にあるのは、深刻な労働力不足と環境配慮への要請です。
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物流2024年問題への対応
トラックドライバーや倉庫作業員の労働時間規制が強化される中、手作業によるデバンニングは長時間労働の温床となっていました。コンテナ1本あたり数時間を要する作業を機械化(フォークリフト化)することは、待機時間削減に直結します。 -
SDGs・脱炭素への貢献
従来の輸入では、使い捨ての木製パレットが大量に廃棄されていました。耐久性の高いプラスチックパレットをレンタル方式で循環させることで、廃棄物をゼロにし、CO2排出量を削減することが可能になります。
これまでも国内での一貫パレチゼーションは進んでいましたが、国境を越えたレンタルパレットの循環(還流)は、パレットの回収・管理の難易度が高く、実現のハードルが高いものでした。今回、日通の国際物流網とJPRの管理システムが組み合わさることで、この課題をクリアした点が画期的です。
物流各プレイヤーへの具体的な影響とメリット
このニュースは、単にコメリ一社の成功事例に留まりません。同様の課題を抱える多くの企業にとって、業務プロセスを見直すきっかけとなります。
荷主企業(メーカー・小売)におけるコスト構造の変化
これまで輸入コスト削減といえば「コンテナ本数を減らすこと(=積載率向上)」が最優先でした。しかし、一貫パレチゼーションを導入すると、パレットの体積分だけ積載量は減少し、海上運賃の単価は上がる可能性があります。
一方で、日本国内での入荷作業費、デバンニング人件費、トラック待機料は劇的に下がります。
* 影響: 海上輸送費は微増するが、国内物流費と人件費が大幅減。
* 判断基準: トータル物流コスト(TLC)で見た場合に、どちらが安いか、あるいはBCP(事業継続計画)の観点で「人が集まらなくても回る物流」を優先するか。
物流事業者(倉庫・運送)の現場改善
現場にとって、手積みの輸入コンテナは最も忌避される作業の一つです。夏場のコンテナ内は酷暑となり、重量物の手降ろしは労働災害のリスクも伴います。
- 影響: フォークリフト作業への転換による身体的負担の軽減。女性や高齢者でも作業が可能になり、人材確保が容易になる。
- メリット: トラックの荷待ち時間が減り、回転率が向上する。
サステナビリティ推進部門へのインパクト
「木材資源の浪費」は、ESG経営の観点から無視できないリスクになりつつあります。
* 影響: ワンウェイパレットの廃止は、廃棄物処理コストの削減だけでなく、企業の環境姿勢をアピールする強力な材料となる。
詳しくは、こちらの記事でも解説しています:
【徹底解説】日本通運、コメリ/国際輸送で一貫パレチゼーション、海上コンテナ荷役は年1016時間減へについて
LogiShiftの視点:国際物流は「積載率」から「作業時間」へ
ここからは、ニュースの事実を超えて、LogiShiftとしてこの動きをどう読み解くか、独自の視点で解説します。
「パレット・コンテナライゼーション」の第2フェーズへ
コンテナ輸送が発明されたことで世界の貿易は爆発的に効率化しましたが、コンテナの内部(インナーカートン)の扱いは、長らく手作業に依存してきました。今回のコメリ・日通・JPRの取り組みは、いわば「コンテナライゼーションの第2フェーズ(コンテナ内物流の標準化)」の始まりと言えます。
今後、特に人件費が高騰している先進国向けの輸入においては、「バラ積み拒否」あるいは「バラ積みに対する高額なサーチャージ」が常態化する可能性があります。北米や欧州では既にパレット化が進んでいますが、日本も遅ればせながらその水準に合わせざるを得なくなるでしょう。
アジア圏におけるT11パレット標準化の試金石
今回の取り組みで注目すべきは、使用されているのが「11型(1100mm×1100mm)」の標準パレットである点です。アジア圏ではT11型が普及しつつありますが、欧米のISOパレット(1000×1200など)との規格争いもあります。
日系企業が主導して、中国ー日本間でT11型のレンタルスキーム(RTI: Returnable Transport Items)を確立することは、アジア物流圏における日本のイニシアチブ確保という意味でも重要です。
企業はどう動くべきか:調達物流の「見える化」と「標準化」
経営層や物流リーダーは、以下の視点で自社のサプライチェーンを見直すべきです。
- 調達部門との連携強化:
物流部門だけでパレット化を進めることは不可能です。海外のサプライヤーに対し、パレット積載を要請し、梱包形態を変更させるには、調達・購買部門の協力が不可欠です。「商品単価+輸送費」だけでなく、「荷受けコスト」まで含めた評価指標を導入する必要があります。 - レンタルパレット網の活用:
自社パレット(通い箱)で国際循環を行うのは、紛失リスクや管理コストを考えると現実的ではありません。JPRのようなプラットフォーマーを活用し、資産を持たずに利用するシェアリングモデルへの転換が加速するでしょう。
まとめ:明日から意識すべきこと
コメリ、日本通運、JPRによる国際一貫パレチゼーションの事例は、物流2024年問題を背景とした「必然の進化」です。このニュースから私たちが学ぶべきは、以下の3点です。
- 「積載効率至上主義」からの脱却:輸送費だけでなく、入荷・荷役作業を含めたトータルコストで判断する。
- 人手不足対策としてのパレット化:重筋作業を排除し、誰でも働ける現場環境を作ることが、物流を持続可能にする。
- パートナーシップの重要性:荷主、物流会社、パレットサプライヤーの3者が情報を共有し、連携しなければ、国際間の循環は実現しない。
「うちはまだ手積みでなんとかなる」と考えている企業こそ、要注意です。労働力不足は待ってくれません。他社がパレット化を進め、荷役時間の短い案件にトラックが集まるようになれば、手積み案件は取り残されるリスクがあります。今回の事例を参考に、自社の輸入プロセスの見直しを始めてみてはいかがでしょうか。


