2026年4月に施行が迫る「改正物流総合効率化法(以下、改正物効法)」。物流業界におけるこの法改正は、単なる努力目標ではなく、荷主や物流事業者に対する「法的義務」を課す大きな転換点となります。
特に現場を悩ませているのが、「荷待ち・荷役時間の計測と把握」の義務化です。これまで手書きや感覚に頼っていた管理をデジタル化しなければなりませんが、導入コストや工事の手間が壁となっていました。
そんな中、丸紅I-DIGIOグループの丸紅ネットワークソリューションズが発表した「新物流効率化法対策ソリューション」が、業界の注目を集めています。「LAN配線工事不要」という現場の痛みに寄り添ったこのシステムは、物流DXのハードルを一気に下げる可能性があります。本記事では、この新ソリューションの詳細と、それが物流現場にもたらす影響について、専門的な視点から解説します。
改正物効法対策ソリューションの全貌と技術的特徴
丸紅ネットワークソリューションズが提供を開始したこのソリューションは、まさに「法対応への駆け込み寺」とも言えるタイミングと機能を備えています。なぜ今、このツールが必要とされているのか、事実関係を整理します。
車番検知とAIBOXによる自動記録の仕組み
本システムの核となるのは、アナログな記録作業の「完全自動化」です。
具体的には、トラックの出入り口に設置したカメラがナンバープレート(車番)を読み取り、AIBOX(エッジAI処理装置)が解析。クラウド上で入退場時刻を自動記録します。これにより、これまでドライバーや警備員が手書きで行っていた受付簿の記入や、Excelへの転記作業が一切不要になります。
2025年度から、特定事業者には計測・改善の「努力義務」が課されます。つまり、2026年の本施行を待たずして、今すぐにでも計測を始めなければならない状況において、この自動化は強力な武器となります。
LAN配線工事不要がもたらす導入スピードの革命
本ソリューションの最大の強みは、「現場でのLAN配線工事が不要」という点です。
従来のシステム導入では、カメラとサーバーを繋ぐために倉庫内の配線工事が必要で、これには多額の費用と、工事期間中の現場停止というリスクが伴いました。しかし、本システムはLTE通信(モバイル回線)を利用するため、電源さえあれば即座に稼働可能です。
以下に、本ソリューションの要点を整理します。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 製品名 | 新物流効率化法対策ソリューション |
| 提供企業 | 丸紅ネットワークソリューションズ(丸紅I-DIGIOグループ) |
| コア技術 | 車番検知カメラ、AIBOX、クラウド管理、LTE通信 |
| 最大の特徴 | 現場LAN配線工事不要、低コスト・短納期導入 |
| 対応法規制 | 改正物流総合効率化法(2026年4月施行/25年度努力義務) |
| 拡張性 | 外部システムとのAPI連携(バース予約、WMS等) |
物流各プレイヤーへの具体的な影響とメリット
このソリューションの登場は、荷主、倉庫事業者、運送事業者のそれぞれに異なるメリットをもたらします。
荷主・倉庫事業者:設備投資リスクの極小化とコンプライアンス遵守
改正物効法では、一定規模以上の荷主(特定荷主)に対し、中長期計画の作成や定期報告が義務付けられます。報告の基礎となるデータ(荷待ち時間等)が不正確であれば、コンプライアンス違反のリスクに直結します。
特に、賃貸倉庫を利用している場合や、建屋が古く大掛かりな工事ができない現場において、「配線工事不要」のメリットは計り知れません。原状回復義務を気にせず導入できるため、テナント型の物流センターでも意思決定がスムーズになります。
先日、大手メーカーの動向として以下の記事でも紹介しましたが、業界全体で「時間の可視化」は急務となっています。
See also: キリンビール全工場に新ピッキングシステム導入、荷待ち待機時間削減について|物流業界への影響を徹底解説[企業はどう動く?]
運送事業者:荷待ち時間の「証拠」による交渉力強化
運送会社にとって、荷待ち時間は売上を生まない「死に時間」です。これまで「たまたま混んでいた」で済まされていた長時間待機が、カメラによる客観的なデータとして記録されることで、荷主に対する改善要求の明確な根拠となります。
「〇月〇日の〇便は、入場から荷卸し開始まで2時間待機した」という事実が自動でログに残ることは、適正運賃収受や待機料請求への第一歩となります。
LogiShiftの視点:単なる「記録ツール」で終わらせないための戦略
ニュースの事実は以上の通りですが、ここからはLogiShiftとして、このソリューションが示唆する業界の未来と、企業が取るべき戦略について考察します。
「とりあえず計測」からの脱却とAPI連携の重要性
丸紅I-DIGIOのソリューションが優れているのは、「将来的な拡張性」を担保している点です。
単に入退場時間を記録するだけでは、”現状把握”はできても”改善”には繋がりません。「なぜ待機が発生したのか?」を分析するには、バース予約システムや倉庫管理システム(WMS)との連携が不可欠です。
本システムはAPI連携を前提としており、将来的には「予約システム」と連動し、予約車が到着したら自動でゲートを開け、バースへ誘導するといった「自動化エコシステム」の一部になることが予想されます。導入を検討する企業は、「記録」だけでなく、その後の「連携」を見据えた選定が必要です。
トラック予約システムに関しては、以下の記事で解説したハコベルとJVCケンウッドの連携事例のように、ハードとソフトの融合がトレンドになっています。
See also: ハコベルのトラック予約/受付システム、JVCケンウッドと連携|物流業界への影響を徹底解説[企業はどう動く?]
「スモールスタート」がDXの勝敗を分ける
これまでの物流DXは、「全拠点で一斉導入」「大規模改修」といった重厚長大なプロジェクトになりがちでした。しかし、2025年度からの努力義務期間は、いわば「予行演習」の期間です。
丸紅ネットワークソリューションズの提案する「工事レス・低コスト」のアプローチは、まず特定のボトルネック拠点だけでスモールスタートを切り、効果検証を回しながら全社展開するという、アジャイルなDX推進を可能にします。経営層は、完璧なシステムを数年かけて作るよりも、こうしたツールを使って「まずデータを取る」文化を現場に根付かせることを優先すべきです。
まとめ:2025年度に向けたアクションプラン
2026年4月の改正法本施行を前に、2025年度は実質的なスタートラインです。丸紅I-DIGIOのソリューション提供開始は、もはや「準備期間」が終わろうとしていることを告げるシグナルと言えます。
明日から意識すべきこと:
1. 現状の把握: 自社の拠点で、荷待ち時間の計測がアナログ(手書き等)で行われている箇所をリストアップする。
2. 工事制約の確認: 賃貸倉庫などでLAN工事が難しい拠点がないか洗い出す。
3. スモールスタートの検討: 全拠点一括ではなく、最も待機問題が深刻な1拠点での試験導入を検討する。
「配線工事不要」というキーワードは、これまでシステム導入を諦めていた現場にとって大きな福音です。法対応をコストと捉えず、業務効率化のチャンスと捉え、迅速な一手を打つことが求められています。


