物流業界における「共同配送」は、もはや聞き飽きたバズワードになりつつあるかもしれません。しかし、今回取り上げるニュースは、これまでの単なる「荷物の混載」とは一線を画す、業界構造そのものを変革する可能性を秘めています。
丸紅ロジスティクスが主導するペットフード業界向けの共同配送プロジェクト「TC構想」が、経済産業省の2025年度「物流効率化に向けた先進的な実証事業(物流効率化・脱炭素化支援事業)」の補助金対象に採択されました。
なぜこのニュースが今、重要なのか。それは、本構想が物理的なトラックのシェアリングにとどまらず、「納品先コードの標準化」というデータ連携の核心に切り込んでいるからです。内閣府のガイドラインに準拠し、ベンダーロックインを回避しながら業界横断的なプラットフォームを構築しようとするこの動きは、物流DXの新たな「勝ち筋」を示唆しています。
本記事では、このニュースの詳細と背景、そして業界に与えるインパクトについて、経営層や現場リーダーが押さえておくべき視点から解説します。
丸紅ロジ「TC構想」の全貌と補助金採択の背景
今回の採択事業は、単に「A社とB社の荷物を一緒に運びます」というレベルの話ではありません。既存の物流インフラを再定義し、業界標準のデータ基盤を整備するという、極めて戦略的な取り組みです。まずは事実関係を整理しましょう。
プロジェクトの概要と5W1H
本プロジェクトの骨子を以下の通りまとめました。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| Who(主体) | 丸紅ロジスティクス(物流)、ジェックス(メーカー)、ジャペル(卸)、プラネット(システム) |
| What(内容) | ペットフード業界向け共同配送およびデータ標準化基盤の構築(TC構想) |
| Why(目的) | 物流2024年問題への対応、CO2排出量削減(目標6%減)、積載効率の向上 |
| How(手段) | 既存DCへのTC機能追加、納品先コードの統一、他メーカーへのインフラ開放 |
| When(時期) | 2025年度内に運用開始予定 |
| Result(効果) | 経産省「物流効率化・脱炭素化支援事業」への採択による公的支援の獲得 |
既存DCへの「TC機能」付加という発想
従来の物流センターは、在庫保管型(DC:Distribution Center)か、通過型(TC:Transfer Center)かに機能が分かれていることが一般的でした。しかし、本構想のユニークな点は、丸紅ロジスティクスが保有する既存のDC拠点に、新たにTC機能を追加する点にあります。
これにより、以下の2つのフローを一拠点で処理可能になります。
- 在庫品出荷: 倉庫に保管されている商品のピッキング・出荷
- クロスドッキング: 他メーカーから持ち込まれた商品を在庫せず、そのまま仕分けして出荷
特筆すべきは、「自社倉庫を利用していないメーカーにも拠点を開放する」というオープンな姿勢です。通常、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)は自社の保管顧客を優遇しがちですが、本構想では保管契約のないメーカーの商品もTC経由で受け入れ、共同配送ルートに乗せることを可能にします。これにより、幹線輸送と二次配送の集約密度が劇的に高まります。
鍵を握るプラネットとの「納品先コード標準化」
本ニュースの最大のハイライトは、日用品・化粧品業界のEDI(電子データ交換)プラットフォーム大手である「株式会社プラネット」との連携です。
共同配送が頓挫する最大の原因は、「データ形式の不一致」です。各社がバラバラのコードで納品先を管理しているため、物理的に荷物を積む前に、データの変換作業で現場が疲弊してしまうのです。
今回、丸紅ロジスティクスは以下の戦略を打ち出しました。
- 納品先コードの統一: 業界標準のコード体系を採用し、システム間の翻訳コストをゼロにする。
- 内閣府ガイドライン準拠: 「物流情報標準ガイドライン」に則ることで、特定のシステム会社に依存しない(ベンダーロックイン回避)オープンな基盤とする。
これにより、今回参加するジェックスやジャペル以外の企業も、後から容易に参画できる拡張性を担保しています。
サプライチェーン各層への具体的インパクト
この構想が実現し、運用が開始される2025年度以降、サプライチェーンに関わる各プレイヤーにはどのようなメリットや変化が生じるのでしょうか。
メーカー:インフラ開放による物流網の共有
メーカー(荷主)にとっての最大のメリットは、「持たざる物流」の高度化です。
- 物流コストの変動費化: 自前でセンターや車両を手配する必要がなく、丸紅ロジスティクスの構築した高効率な共同配送網を「利用」するだけで済みます。
- 小ロット配送の救済: ペットフード業界は多品種小ロット化が進んでおり、単独配送では積載率が低く、運賃高騰の影響をまともに受けます。共同配送網に乗ることで、この課題をクリアできます。
特に、これまでは「丸紅ロジスティクスの倉庫を使っているメーカー」しかメリットを享受しにくかったところ、TC機能の開放により、外部倉庫を利用しているメーカーも幹線輸送のメリットだけを享受できるようになった点は画期的です。
卸・小売:検品レス・車両削減による荷受け効率化
着荷主である卸や小売にとっても、メリットは明白です。
- 荷受け車両の削減: メーカーごとにバラバラに来ていたトラックが一本化されるため、荷受けバースの混雑が緩和されます。
- 検品作業の効率化: プラネットとの連携により、事前出荷情報(ASN)などのデータ連携が標準化されれば、検品レスや検品作業の簡素化が進みます。
物流事業者:積載率向上とCO2削減の両立
物流事業者としては、実車率(積載率)の向上が収益性に直結します。
- 帰り荷の確保: 幹線輸送の往復での積載率を高めることが容易になります。
- 脱炭素への貢献: 今回のKPIである「CO2排出量6%削減」は、荷主からの環境要求に応える強力な武器となります。
LogiShiftの視点|「物理」と「情報」の融合が描く未来
ここからは、単なるニュース解説を超えて、この動きが物流業界の未来に何を投げかけているのか、独自の視点で考察します。
「ベンダーロックイン回避」が意味する業界の成熟
これまで多くの「プラットフォーム構想」が、特定ベンダーによる囲い込み(ロックイン)を狙ったものでした。「ウチのシステムを使えば便利ですが、他社には乗り換えられませんよ」というモデルです。
しかし、丸紅ロジスティクスが「内閣府の物流情報標準ガイドライン準拠」を前面に押し出したことは、業界の潮目が変わったことを意味します。国が定める標準仕様に合わせることで、データのポータビリティ(持ち運びやすさ)を保証し、参加障壁を極限まで下げています。
これは、競争領域を「データの囲い込み」から「純粋な物流品質と効率」へとシフトさせる動きであり、長期的には業界全体のDXレベルを底上げする健全なアプローチと言えるでしょう。
See also: 【現地取材】25年度グリーン物流パートナーシップ表彰|受賞にみる「連携」の真価
(こちらの記事でも、個社最適の限界と連携による突破口について詳しく解説しています。合わせてご覧ください。)
ペットフード業界が試金石となる理由
なぜペットフードなのでしょうか。この商材は以下のような特徴を持ち、物流効率化の難易度が高いとされています。
- 重量物かつ嵩張る: 猫砂や大袋のフードは重く、スペースも取る。
- 多品種小ロット: プレミアムフードやおやつなど、SKUが膨大。
- 衛生管理: 食品と同等の管理レベルが求められる。
いわば「物流泣かせ」の商材です。この難易度の高い領域で、競合メーカーや卸を巻き込んだ標準化モデルが成功すれば、日用品や加工食品など、他の消費財カテゴリーへの横展開が一気に進むはずです。今回のプロジェクトは、日本の消費財物流の未来を占う「試金石」なのです。
次のフェーズは「商流」をも巻き込んだ最適化
システム企業のプラネットが参画していることの意義は深いです。物流(フィジカル)のデータだけでなく、受発注(商流)のデータと連動することで、将来的には「発注ロットの標準化」や「納品リードタイムの緩和」といった、商慣習そのものへのアプローチが可能になります。
物流部門だけで解決できる効率化は限界に来ています。今回の採択事業は、商流データと物流データを同期させ、製・配・販が一体となって全体最適を目指すための、強力な第一歩となるでしょう。
まとめ|明日から物流リーダーが意識すべきこと
丸紅ロジスティクスのTC構想と経産省補助金採択のニュースは、物流業界が「個社対抗」の時代を終え、「標準化による協調」の時代へ突入したことを象徴しています。
経営層や現場リーダーは、以下の3点を意識して自社の戦略を見直す必要があります。
- 自社データの標準化状況を確認する:
- 自社の納品先コードや商品コードは、業界標準(GTINなど)に対応しているか?独自コードに固執していないか?
- 「所有」から「利用」への転換:
- 自社倉庫や自社便を持つことが本当に競争優位なのか?オープンなインフラを利用した方が、コストと環境の両面で有利ではないか?
- パートナー選定基準のアップデート:
- 物流パートナーを選ぶ際、「運賃の安さ」だけでなく、「データ連携の標準化対応度」を評価軸に入れているか?
2025年度の実証運用開始に向け、この動きは加速します。波に乗り遅れないよう、まずは「標準化」への感度を高めていきましょう。


