2025年12月、コンテナ海運業界に新たな潮流を生み出す重要なニュースが飛び込んできました。コンテナ海運世界大手のOcean Network Express(ONE)と、ITサービス企業のエムティーアイが、ベトナム・ホーチミンに合弁会社「QUAVEO(クアベオ)」を設立しました。
このニュースが単なる「IT企業と物流企業の提携」にとどまらない理由は、その目的に「AIエージェントによる業務自動化」が明記されている点にあります。これまでのDXが目指してきた「デジタル化・可視化」のフェーズを超え、AIが自律的に業務を遂行する新たなステージへと海運業界が踏み出したことを意味します。
本記事では、新会社QUAVEO設立の背景と詳細、そしてこの動きが物流・サプライチェーン全体にどのようなインパクトを与えるのかを解説します。
ニュース詳報:新会社「QUAVEO」設立の全貌
まずは、今回発表された新会社設立の事実関係を整理します。ONEが持つグローバルな海運実務の知見と、エムティーアイが培ってきたアジャイル開発やAI活用のノウハウを融合させる狙いがあります。
QUAVEO(クアベオ)概要まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 会社名 | QUAVEO CO., LTD.(クアベオ) |
| 設立時期 | 2025年12月 |
| 所在地 | ベトナム社会主義共和国 ホーチミン市 |
| 出資比率 | エムティーアイ 51%、ONE 49% |
| 資本金 | 160万USD(約2.4億円 ※想定レート換算) |
| 事業内容 | ・海運向けオペレーション最適化ソリューションの開発 ・生成AI/AIエージェントを活用した業務自動化支援 ・流通・製造業向けデータ活用支援 |
エムティーアイの技術とONEの現場知見の融合
ONEは、日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合して発足した世界有数の海運会社です。一方、エムティーアイは「music.jp」や「ルナルナ」などのBtoCサービスで知られますが、近年はヘルスケアやフィンテック、そしてエンタープライズ向けのDX支援において、高度なAI技術とアジャイル開発の実績を積み上げてきました。
QUAVEO設立のポイントは以下の2点です:
- AIエージェントの実装: 単なるツール導入ではなく、人間の判断を支援・代行する「エージェント型AI」の開発を目指している点。
- ベトナム拠点の活用: 優秀なIT人材が豊富なベトナムに開発拠点を置くことで、グローバルな開発体制とスピード感を確保する戦略。
サプライチェーンへの衝撃と業界への影響
この新会社設立は、海運業界内部の話にとどまらず、荷主である製造業や流通業を含むサプライチェーン全体に影響を及ぼす可能性があります。
コンテナ海運におけるオペレーションの自律化
海運業界は、天候、港湾の混雑、地政学リスクなど、不確定要素が極めて多い環境で動いています。これまでは熟練の担当者が経験則に基づいてスケジュール調整やコンテナ配置を行ってきましたが、人手不足とサプライチェーンの複雑化により、限界が近づいていました。
QUAVEOが開発を目指す「AIエージェント」は、こうした変動要因をリアルタイムで分析し、最適解を導き出すだけでなく、システム上で自律的な調整を行うことが期待されます。これにより、遅延リスクの最小化や積載率の向上が実現すれば、運賃競争力やサービス品質に直結します。
製造・流通業への波及効果:スコープの拡大
特筆すべきは、事業内容に「流通・製造業への展開も視野」とある点です。
ONEのようなキャリア(船会社)が持つデータは、サプライチェーンの上流から下流までを繋ぐ重要な情報源です。QUAVEOのソリューションが海運の枠を超えて荷主企業に提供されれば、以下のような変化が期待できます。
- 在庫最適化: 到着予測(ETA)の精緻化による安全在庫の削減。
- 動的なルート変更: 港湾ストライキなどのリスク発生時、AIが代替ルートや代替輸送手段(インターモーダル)を即座に提案・手配。
LogiShiftの視点:なぜ「AIエージェント」と「ベトナム」なのか
ここからは、物流業界のトレンドを追うLogiShift独自の視点で、このニュースが示唆する未来を考察します。
「可視化」の限界を超える自律型AIの台頭
これまで物流DXの主役は「可視化(Visibility)」でした。「今どこに荷物があるか」を見えるようにすることがゴールだったのです。しかし、見えただけでは現場の混乱は収まりません。
QUAVEOが掲げる「AIエージェント」は、まさに「見る」段階から「指揮する(Orchestration)」段階へのシフトを象徴しています。生成AIを組み込んだエージェントが、人間の指示を待たずに状況判断し、業務プロセスを回していく。これは2026年以降の物流ITのメインストリームとなる動きです。
See also: 物流AIは「見る」から「指揮する」へ。2026年、自律エージェントの衝撃
開発拠点としてのベトナムの戦略的価値
なぜベトナムなのか。単なるオフショア開発による「コスト削減」と見るのは早計です。現在のベトナム、特にホーチミンやハノイは、AIやデータサイエンスに精通した高度IT人材の集積地となりつつあります。
日本のIT人材不足が深刻化する中、機動力のある開発チームを組成するには、ベトナムのようなハブ拠点が不可欠です。エムティーアイが持つベトナムでの開発ノウハウと、ONEのグローバルな事業基盤を組み合わせることで、日本国内のベンダーに依存しない、迅速なプロダクト開発が可能になります。
「既製AI」ではなく「現場密着型AI」を作る意義
米国の物流大手C.H. Robinsonもまた、汎用的なAIツールに頼らず、自社の現場データに特化したAIモデルを内製化することで成果を上げています。
See also: 見積もり20分が32秒に。株価55%増の米C.H. Robinsonが「既製AI」を捨てる理由
ONEが外部ベンダーへの丸投げではなく、合弁会社という形で開発の主導権を握ろうとしている点は、C.H. Robinsonの成功事例とも重なります。「現場の解像度」が高いデータを学習させたAIこそが、競争優位の源泉になることを理解している証左と言えるでしょう。
まとめ:経営層が今すぐ見直すべきDX戦略
ONEとエムティーアイによる新会社QUAVEOの設立は、海運業界におけるDXの潮目が変わったことを告げています。
物流企業のリーダーが明日から意識すべきこと:
- 「AIエージェント」への備え: 業務フローを「人が行い、AIが補助する」形から、「AIが提案し、人が承認する(あるいはAIに任せる)」形へどう移行できるか検討を始める。
- 開発体制の再考: DXを外部ベンダー任せにしていないか。コアとなる業務ロジックやデータ活用に関しては、JVや内製化を含めた主体的な開発体制を模索する。
- 異業種連携の可能性: 物流の知見(ドメイン知識)と、異業種のIT企業の技術力を掛け合わせることで、単独ではなし得ないスピード感での課題解決が可能になる。
コンテナ船が運ぶのは物資だけではありません。これからは、最適化された「データ」と「意思決定」を運ぶインフラへと進化していくでしょう。QUAVEOの今後のソリューション展開に要注目です。


