北米の物流業界に激震が走りました。小規模事業者(SMB)向け配送プラットフォームとして名を馳せた「Sendle」、大口配送に強みを持つ「ACI Logistix」、そしてファーストマイルの集荷網を持つ「FirstMile」。これら3社が統合し、2024年8月に華々しく発足した「Fast Group」が、わずか数ヶ月後の11月に事業停止(清算)を発表しました。
あらゆる規模の荷主をカバーする「全方位型物流プラットフォーム」を目指した野心的なプロジェクトは、なぜこれほど短期間で瓦解したのでしょうか。
本記事では、この衝撃的なニュースの背景にある米国の市場環境変化と、そこから日本の物流企業が学ぶべき「M&Aおよびプラットフォーム戦略のリスクと勝機」について解説します。2024年問題以降、日本でも加速する物流再編の行方を占う重要なケーススタディです。
海外物流トレンド:統合と淘汰が加速する北米市場
まず、今回の破綻劇が起きた背景として、世界の物流市場、特に北米の現状を把握する必要があります。パンデミック後のECブームが沈静化し、物流企業は「成長」から「利益体質」への転換を迫られています。
USPS依存からの脱却と「ゾーンスキッピング」の限界
米国では長年、FedExやUPSといった二大巨頭に対抗するため、地域配送業者(リージョナルキャリア)やUSPS(米郵政公社)を活用した「安価な配送網」の構築が進められてきました。
特に、荷物を目的地近くの郵便局まで自前で運び、ラストワンマイルだけをUSPSに委託する「Workshare(ワークシェア)」や、長距離輸送を効率化する「Zone Skipping(ゾーンスキッピング)」という手法が、安さの源泉でした。
しかし、USPSは近年、自身の赤字解消のために「Ground Advantage」などの新サービスを導入し、大口割引の縮小や提携ルールの厳格化を行いました。これにより、USPSの安価なレートを前提にビジネスモデルを組んでいた「物流アグリゲーター(仲介業者)」たちの収益構造が一気に悪化しています。
世界の物流再編トレンド比較
日本企業が参考にすべき、主要地域の物流トレンドを整理します。
| 地域 | キーワード | 最新動向と課題 |
|---|---|---|
| 北米 | USPS改革・統合 | Fast Groupのような3社合併による規模の追求が進む一方、USPSの制度変更やAmazon Shippingの台頭により、中堅事業者の淘汰が加速。 |
| 中国 | スマート物流・越境 | Cainiao(菜鳥)やJD Logistics(京東物流)が圧倒的な技術力で市場を支配。国内は過当競争のため、TemuやSHEINと連動した越境物流へ主戦場がシフト。 |
| 欧州 | サステナビリティ | 都市部への車両進入規制が厳格化。EV導入やカーゴバイク活用が必須となり、コスト増を吸収できない中小事業者がM&Aの対象となっている。 |
ケーススタディ:Fast Group(Sendle親会社)の統合失敗要因
2024年8月、Fast Groupの設立は「SMBからエンタープライズまで全領域をカバーする最強のチャレンジャー」として期待されました。しかし、その実態はあまりにも脆いものでした。
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資金調達失敗とUSPS制度変更のダブルパンチ
Fast Groupの破綻要因は、複合的な「負の連鎖」にあります。
- 市場環境の激変
USPSの提携ルール変更により、統合のシナジー効果として見込んでいた「配送コストの削減」が想定通りに進まなくなりました。また、UPSやFedExが余剰キャパシティを埋めるために安値攻勢をかけ、価格競争力が低下しました。 - キャッシュフローの枯渇
統合直後の混乱期を乗り切るために計画していた追加の資本調達に失敗しました。金利上昇とテック投資への慎重論が広がる米国市場において、収益モデルが揺らいだ企業への融資は凍結されました。 - 統合プロセスの不全
Sendle(デジタルプラットフォーム)、ACI(倉庫・仕分け)、FirstMile(集荷)という異なる文化・システムを持つ3社を、わずか数ヶ月で有機的に結合させることは不可能でした。
顧客への影響と事業停止のプロセス
Fast GroupのCEO、Kevin Diamond氏は「現在の最優先事項は、滞留している荷物の配送完了と返却だ」と述べています。
- Sendleの状況: オーストラリアおよびカナダに拠点を置くSendleの一部部門では、日曜付ですべての集荷・配送予約を停止しました。
- 顧客対応: 突然のサービス停止により、ホリデーシーズン前のEC事業者は代替手段の確保に追われています。
この事例は、プラットフォーム型の物流企業が「実運送機能(アセット)」を持たず、提携キャリアに依存することのリスクを浮き彫りにしました。
日本の物流企業への示唆:対岸の火事ではない
日本でも「2024年問題」を契機に、地域運送会社のM&Aや、求車求貨システムによるマッチングプラットフォームの活用が進んでいます。Fast Groupの失敗は、日本の物流DXや経営戦略にどのような教訓を与えるのでしょうか。
「規模の拡大」先行型M&Aの危険性
日本国内でも、物流M&Aが活発化しています。しかし、Fast Groupのように「機能を補完し合えば勝てる」という安易な足し算の統合は危険です。
- 日本への適用: 異なる配送管理システム(TMS)や倉庫管理システム(WMS)を持つ企業同士が合併する場合、システム統合のロードマップと、その間の資金繰り(ランウェイ)を厳密に見積もる必要があります。
- デューデリジェンスの深化: 財務面だけでなく、「提携キャリア(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便など)との契約条件が、統合後も維持できるか」という事業継続性のリスク評価が不可欠です。
特定キャリア依存からの脱却とマルチキャリア戦略
Fast GroupはUSPSのエコシステムに過度に依存していました。日本においても、特定の大手宅配キャリア1社に依存したビジネスモデルは、そのキャリアの運賃改定や総量規制によって一瞬で瓦解するリスクがあります。
日本企業が今すぐ取り組むべきアクション:
- キャリアの多様化(マルチキャリア化):
大手3社だけでなく、地域限定の配送業者やギグワーカー配送網(Uber Direct等)を組み合わせ、リスクを分散させる。 - シッパー(荷主)主導の制御:
配送キャリアの選定を「自動最適化」するシステムを導入し、A社が値上げしたら即座にB社へ切り替えられる柔軟性を持つこと。これが真の「物流レジリエンス」です。
「SMB向け物流」の難しさと可能性
Sendleは「小規模事業者でも大企業並みの配送料」を武器にしていました。日本でもBASEやShopifyを利用する個人・小規模事業者は増えていますが、この層は価格に敏感で、かつ配送品質への要求も高い傾向にあります。
日本の物流企業がこの層を取り込むためには、単なる「安売り」ではなく、以下のような付加価値が必要です。
- 手間の削減: ラベル発行から集荷依頼までの完全自動化。
- ブランディング支援: 配送追跡画面での顧客接点強化など、マーケティング機能の付与。
安さだけで勝負するプラットフォームは、市況の変化で容易に淘汰されることが、今回の事例で証明されました。
まとめ:レジリエンスこそが次世代物流の鍵
北米のFast Group破綻は、野心的な「統合・拡大戦略」が、足元の「キャッシュフロー」と「外部環境変化」によって一瞬で崩れ去る現実を見せつけました。
日本の物流業界も今後、ドライバー不足によるネットワークの再編、運賃の高騰、そしてM&Aによる業界地図の塗り替えが加速します。その中で生き残るのは、単に規模が大きい企業ではなく、外部環境の変化に合わせて柔軟に配送網を組み替えられる「レジリエンス(回復力)」を持った企業だけです。
DX担当者や経営層は、華やかな「プラットフォーム構想」を描くと同時に、泥臭い「オペレーションの統合」と「リスク分散」を徹底できるか。今まさに、その手腕が問われています。


