なぜ今、英国の「サステナブル物流」に注目すべきなのか
2026年3月、英国バーミンガムで開催される「Sustainable Supply Chain Exhibition」。このイベントに、世界中の物流関係者が熱い視線を送っています。中でも注目を集めているのが、倉庫DXのパイオニアであるLucas Systems社のAndrew Southgate氏による登壇です。
彼は、倉庫内のワークフローをデジタル化(特に音声認識やAI活用)することが、単なる業務効率化にとどまらず、企業の社会的責任(ESG)を果たすための「最強の経営戦略」であると提唱しています。
日本国内の物流現場を見渡すと、「2024年問題」への対応に追われ、環境対応やDXは「コストがかかる義務」として後回しにされがちです。しかし、欧州の先進事例が示しているのは、「環境負荷を減らすプロセスこそが、最も利益率の高いオペレーションを生む」という事実です。
本記事では、英国の最新トレンドを紐解きながら、日本の物流企業が「コスト増なし」でサステナビリティと生産性向上を同時に実現するためのヒントを解説します。
世界の物流現場で進む「グリーン×デジタル」の潮流
欧州を中心に、物流業界では「グリーンロジスティクス」が競争力の源泉となりつつあります。これは単にCO2を減らすという話ではなく、無駄を削ぎ落とし、リソースを最適化することで収益性を高める動きと直結しています。
欧米中で加速するサステナブル投資のリアル
米国の調査会社などが示すデータによれば、倉庫自動化市場は年平均成長率(CAGR)10%以上で拡大を続けており、その投資判断の基準として「ROI(投資対効果)」に加え、「CO2削減効果」や「廃棄物削減」が重要指標として組み込まれています。
特に英国を含む欧州では、環境規制が厳格化しており、紙ベースのアナログな管理手法は「資源の浪費」としてだけでなく、「データの不透明性(トレーサビリティ欠如)」というリスク要因としても見なされ始めています。
各国のアプローチの違いを整理すると、以下のようになります。
| 地域 | 主なトレンド | 特徴 | 日本への示唆 |
|---|---|---|---|
| 欧州 (英国含む) | 環境規制主導のDX | 紙の全廃、エネルギー効率の最大化が「入札条件」になるケースが増加。 | ESG対応が受注競争力に直結する未来を先取りしている。 |
| 米国 | 圧倒的な効率化とスピード | 人手不足解消とスピードアップが主目的。結果として無駄が減りエコになる。 | 既存システムを活かした「後付けDX」が得意。 |
| 中国 | 無人化・ハイテク実装 | 巨大EC倉庫でのロボット活用、AIによる完全自動化への投資が巨額。 | 規模の経済が働かない日本の中小規模倉庫にはハードルが高い面も。 |
このように、アプローチは異なっても「デジタル化による最適化」が共通解となっています。日本企業も、この潮流を「対岸の火事」ではなく、次の成長機会として捉える必要があります。
参考記事:
脱RFIDの新潮流。AIビジョンが導く「自己最適化倉庫」の衝撃
英国Lucas Systemsが提唱する「稼ぐための環境対応」
Sustainable Supply Chain Exhibition 2026でAndrew Southgate氏が語るのは、派手なロボット導入だけがDXではないという点です。同社が強みとするのは、音声認識技術やAIアルゴリズムを活用した「ワークフローの最適化」です。
紙ベースからの脱却がもたらす3つの果実
Southgate氏は、倉庫内から「紙」をなくすことが、以下の3つの側面で劇的な効果をもたらすと指摘しています。
- 環境負荷の低減(Sustainability)
- 毎日大量に消費されるピッキングリストや伝票の印刷コストと廃棄物をゼロにします。さらに、プリンターのトナーや維持電力も削減可能です。
- 精度の向上(Accuracy)
- 紙リストを目で追い、手でチェックする作業はヒューマンエラーの温床です。音声やデジタルデバイスへの切り替えにより、誤出荷による再配送(=CO2排出とコストの無駄)を防ぎます。
- 効率の最大化(Efficiency)
- ハンズフリーでの作業や、AIによる最短ピッキングルートの指示により、作業員の移動距離を大幅に削減。少ない労力でより多くの出荷が可能になります。
既存システムを捨てずに「声」で繋ぐアプローチ
Lucas Systemsのアプローチで特筆すべきは、既存のWMS(倉庫管理システム)やERPを全面的に入れ替えるのではなく、それらに「知能(AI)」と「声(音声認識)」を付加するレイヤーとして機能させる点です。
例えば、大規模なマテハン機器を導入しなくても、ソフトウェアの力でピッキング順序を最適化し、作業員の歩行距離を30〜50%削減した事例もあります。これは、設備投資を抑えたい多くの企業にとって現実的な解となります。
このように、既存資産を活かしながら成果を出す手法は、米国の事例でも注目されています。
参考記事:
WMS入替なしで誤出荷ゼロへ。米物流の「後付けDX」が凄い
日本企業が「環境対応」をコストから武器に変えるには
では、英国や米国の事例を、私たち日本の物流現場にどう適用すべきでしょうか。「商習慣の違い」や「現場の抵抗」を乗り越えるポイントを解説します。
日本独自の「紙文化」と「現場力」をどう融合させるか
日本の物流現場は、現場作業員の熟練度(現場力)に支えられている側面が強く、それが逆に「紙の伝票運用でも何とか回ってしまう」というDXの阻害要因になることがあります。
しかし、人手不足が深刻化する今、熟練工の勘と経験に頼る運用は限界を迎えています。
- 「紙」をなくすことを目的にしない
- 目的は「紙をなくすこと」ではなく、「作業員が迷わず動ける環境を作ること」です。音声ピッキングやタブレット活用は、新人でも熟練工と同じパフォーマンスを出せるようにするための支援ツールと位置づけましょう。
- 「誤出荷ゼロ」をサステナビリティとして語る
- 日本では「環境」よりも「品質」への意識が高い傾向にあります。「DXでCO2削減」と言うよりも、「デジタル化で誤出荷をゼロにし、返品リスクと再送コストをなくす」という文脈の方が、経営層や現場の合意を得やすいでしょう。
2026年に向けて今すぐ着手すべき具体的なアクション
大規模なシステム刷新待つ必要はありません。以下のステップで「小さく始める」ことが可能です。
- ステップ1: 現状の「紙コスト」と「移動の無駄」を可視化する
- トナー代、用紙代だけでなく、紙を出力・配布・回収・保管するためにかかっている人件費を試算してください。
- ステップ2: アドオン型のデジタルツールを検討する
- WMSを乗せ換えるのではなく、既存システムと連携できる音声認識システムや、AIによる最適化エンジン(WES領域のツール)の導入を検討します。
- ステップ3: エネルギーの視点を持つ
- 業務効率化だけでなく、倉庫自体のエネルギー運用(太陽光発電やEV充電インフラなど)とセットで考えることで、企業価値はさらに高まります。
国内でも、キリンビールが全工場に新システムを導入し、トラックの荷待ち時間を削減するなどの動きが活発化しています。これらも広義の「サステナブルなワークフロー改革」と言えます。
参考記事:
キリンビール全工場に新ピッキングシステム導入、荷待ち待機時間削減について|物流業界への影響を徹底解説[企業はどう動く?]
また、施設自体のグリーン化については以下の記事も参考になります。
参考記事:
関宿低温物流センター太陽光発電開始|EVインフラ化する物流拠点の新戦略
まとめ:DXは「生き残り」から「勝ち残り」の手段へ
2026年のSustainable Supply Chain Exhibitionで語られるテーマは、遠い国の話ではありません。Lucas SystemsのAndrew Southgate氏が示すように、「デジタル化によるワークフローの刷新」こそが、環境負荷を下げつつ、企業の収益性を最大化する唯一の道です。
日本の物流企業にとっても、DXはもはや「システム導入」ではありません。「廃棄物を減らし、ミスをなくし、働く人を楽にする」ための経営戦略そのものです。
「紙」への依存から脱却し、データとAIが導く最適化された倉庫へ。海外の先進事例をヒントに、貴社の現場でもできることから「変革」を始めてみてはいかがでしょうか。


