【速報】「マイナス25℃の壁」を突破。江崎グリコが冷凍物流の常識を覆す一手
「冷凍倉庫の自動化は難しい」——。物流業界、特に低温物流に携わる方であれば、この言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。バッテリー性能の低下、センサーの結露・凍結、過酷な環境下でのメンテナンス。数々の技術的課題が、冷凍倉庫における本格的な自動化の前に立ちはだかってきました。
しかし、2024年、その常識が大きく変わるかもしれません。
江崎グリコ株式会社(以下、Glico)の子会社である関西フローズン株式会社が、広島支店の新築移転に伴い、-25℃の極低温環境に対応した無人搬送車(AGV)の本格導入を発表しました。これは、これまで人力に頼らざるを得なかった過酷な環境下での重量物搬送を自動化する、画期的な取り組みです。
年間で約4928時間もの作業時間削減効果を見込むこの一手は、単なる一企業の効率化事例に留まりません。人手不足や2024年問題に直面する日本の物流業界、とりわけ食品コールドチェーンに、「自動化はここまでできる」という新たな可能性を突きつける、まさに“衝撃”とも言えるニュースです。
本記事では、このGlicoの挑戦が持つ真の意味を、物流業界の専門家の視点から多角的に分析・解説します。
ニュースの背景:江崎グリコ「関西フローズン」AGV導入の概要
まずは、今回の発表内容を正確に把握するため、事実関係を5W1Hで整理しましょう。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| Who | 江崎グリコの子会社、関西フローズン株式会社 |
| Where | 広島支店(新築移転先)の冷凍倉庫内 |
| What | -25℃の極低温環境に対応した無人搬送車(AGV)を導入 |
| Why | 重量台車の搬送作業自動化による、社員の負荷軽減、安全性向上、生産性向上、トラック待機時間の短縮 |
| How | 愛知機械テクノシステム株式会社らと共同開発した特殊仕様AGVを導入。倉庫管理システム(WES)と連携し、業務を自動化する |
注目すべき技術的ブレークスルー
今回のAGV導入が「画期的」と言われる所以は、-25℃という過酷な環境を克服した技術力にあります。
- バッテリー性能の維持: 一般的にリチウムイオンバッテリーは低温環境に弱く、性能が著しく低下します。今回のAGVでは、この課題をクリアする特殊な技術が採用されていると見られます。
- 結露・凍結対策: 常温エリアと冷凍エリアを行き来する際に発生する結露や凍結は、センサーの誤作動や故障の最大の原因です。これを防ぐための高度な設計が施されています。
これらの技術的課題を乗り越え、Glicoは年間約4928時間、1日あたり13.5時間相当の労働力創出という、極めて具体的な成果を見込んでいるのです。これは、現場の作業負荷軽減はもちろん、企業の収益性にも直結する大きなインパクトです。
参考記事: 人手不足を解消!物流 自動化で生産性を2倍にする実践ガイド【事例あり】
業界への具体的な影響:各プレイヤーの視点から読み解く
このニュースは、物流業界の各プレイヤーにどのような影響を与えるのでしょうか。それぞれの立場から考察します。
1. 冷凍・チルド倉庫業界:「自動化待望論」から「導入検討フェーズ」へ
最も直接的な影響を受けるのが、同業の冷凍・チルド倉庫業界です。
- 自動化のモデルケース出現: これまで「うちの環境では無理だ」と諦めていた企業にとって、Glicoの事例は具体的な成功モデルとなります。これにより、業界全体で低温環境対応の自動化ソリューションへの関心が一気に高まるでしょう。
- 人材獲得競争の変化: 「過酷な労働環境」というイメージが先行しがちな冷凍倉庫業務ですが、自動化によって「安全で働きやすい職場」へと変貌を遂げる可能性があります。これは、深刻化する人手不足に対する強力な一手となり、労働環境の改善は人材獲得における競争優位性にも繋がります。
2. 運送業界:「荷待ち時間削減」という荷主からの福音
トラックドライバーを悩ませる「荷待ち時間」。今回の取り組みは、この問題に対する荷主側からの具体的な回答でもあります。
- 庫内オペレーションの高速化: AGVによる24時間365日稼働可能な搬送体制は、入出庫作業のリードタイムを大幅に短縮します。
- 予約システムとの連携: WESと連携したAGVが計画通りに荷物を準備することで、トラックの到着時刻に合わせたジャストインタイムでの積み込みが可能となり、待機時間を抜本的に削減できます。これは、まさにキリンビール社の新ピッキングシステム導入事例などにも通じる、物流プロセス全体の最適化と言えるでしょう。
3. メーカー(荷主):「物流=コスト」から「物流=競争力」への意識改革
今回のGlicoの投資は、物流を単なるコストセンターとしてではなく、事業成長を支える競争力の源泉と捉えていることの証左です。
- サプライチェーンの強靭化: 自動化による安定した物流オペレーションは、BCP(事業継続計画)の観点からも非常に重要です。人への依存度を減らすことで、パンデミックや災害時にも安定した供給体制を維持しやすくなります。
- 他社へのプレッシャー: Glicoが「冷凍物流の標準モデル」を掲げたことで、他の食品メーカーも自社の物流戦略の見直しを迫られる可能性があります。物流品質や効率性で差がつけば、それがそのまま市場での競争力に直結するためです。
LogiShiftの視点:Glicoの挑戦が示す、3つの未来予測
単なるニュースの解説に留まらず、私たちLogiShiftはこの事例から読み取れる物流の未来について、独自の考察を提示します。
考察1:「標準モデル化」の真意は”データ駆動型物流”への布石
Glicoが目指す「Glicoグループの冷凍物流における新たな標準モデル」という言葉。これは、単に同じAGVを全国の拠点に横展開するという意味だけではないでしょう。
真の狙いは、全国の物流拠点をAGVとWESで繋ぎ、膨大な物流データを収集・活用する「データ駆動型物流プラットフォーム」の構築にあると見ています。
- 全国規模での在庫最適化: 各拠点のAGVの稼働データ、在庫の移動データをリアルタイムで分析することで、拠点間の在庫融通や生産計画へのフィードバック精度が飛躍的に向上します。
- 予知保全と動的オペレーション: AGVの稼働データを分析し、故障の予兆を検知してメンテナンスを行う「予知保全」が可能になります。また、需要予測データに基づき、倉庫内のレイアウトやAGVの動線を動的に変更するといった、より高度なオペレーションも視野に入ってきます。
この動きは、単なる省人化投資ではなく、サプライチェーン全体の最適化を目指す物流DXの本質を突いています。
考察2:現場の人材戦略は”オペレーター”から”システムマネージャー”へ
「AGVが仕事を奪う」という議論は時代遅れです。今回の事例が示すのは、現場で求められるスキルセットの高度化です。
過酷な肉体労働から解放された従業員は、次のような、より付加価値の高い役割を担うことになります。
- AGVフリート(群)の運行管理者
- システムの稼働データを分析するデータアナリスト
- 現場の課題を解決する改善提案者
- ロボットのメンテナンスを行う技術者
つまり、これからの物流現場は、身体を動かす「オペレーター」から、システムを管理・改善する「マネージャー」や「エンジニア」へと、その役割がシフトしていくのです。企業には、従業員に対する積極的なリスキリング(学び直し)への投資が強く求められます。
「社員の負荷軽減」は、未来の物流現場を担う人材を確保・育成するための、極めて重要な戦略的投資と言えるでしょう。
参考記事: 残業30%削減!倉庫 自動化で実現する現場改善ガイド【事例あり】
考察3:中小冷凍倉庫が今すぐ始めるべき「一点突破」の自動化
「Glicoのような大企業だからできることだ」と考えるのは早計です。この事例から、むしろ中小企業こそが学ぶべき重要なヒントが隠されています。
それは、「全工程ではなく、最も過酷でボトルネックとなっている工程から自動化する」という視点です。
Glicoは、ピッキングや検品などではなく、まず「重量台車の搬送」という、身体的負荷が大きく、かつ単純な繰り返し作業にAGVを投入しました。
中小の冷凍倉庫においても、
- トラックからの荷下ろし後の、定位置までのパレット搬送
- 出荷エリアへの商品集約のための拠点間搬送
など、特定の「運ぶ」作業に特化したAGVや自動化ソリューションは、比較的導入のハードルが低く、費用対効果も出しやすい領域です。自社のオペレーションを徹底的に分析し、「一点突破」で自動化できるポイントを見つけ出すことが、次の一歩に繋がります。
どのような自動化ソリューションがあるか、まずは情報収集から始めてみてはいかがでしょうか。
参考記事: 【担当者必見】倉庫 オートメーションの選び方完全版|4つの重要軸で徹底比較
まとめ:明日からあなたの会社が意識すべきこと
江崎グリコ(関西フローズン)の-25℃対応AGV導入は、冷凍物流の歴史における一つの転換点となる可能性を秘めています。
- 技術的障壁の突破: -25℃という極低温環境でのAGV本格稼働は、業界全体の自動化を加速させる。
- 多方面への好影響: 倉庫作業者の負荷軽減、ドライバーの待機時間削減、荷主のサプライチェーン強靭化に貢献する。
- 未来への示唆: データ駆動型物流への進化、現場人材のスキルシフト、中小企業における「一点突破」の自動化戦略の重要性を示している。
このニュースを「大手食品メーカーのすごい事例」で終わらせてはいけません。経営者、そして現場リーダーの皆様が明日から意識すべきことは、「自社の現場にある『-25℃の壁』は何か?」を問い直すことです。
それは、物理的な温度の話だけではありません。旧態依然とした作業プロセス、過酷な労働環境、データに基づかない勘と経験への依存――。あなたの現場の成長を阻む「壁」を特定し、それを打ち破るための最初の一歩を踏み出すことこそが、今、求められています。今回のGlicoの挑戦は、そのための力強い道標となるはずです。


