今、企業のサプライチェーンにおける環境負荷低減への取り組みが、新たなフェーズに突入しようとしています。印刷インキで世界トップシェアを誇る化学メーカーのDICが、ロジスティードの輸送CO2排出可視化ツールを導入し、製品輸送におけるCO2排出量の可視化を開始したと発表しました。この動きは、単なる一社の環境対策に留まらず、物流業界全体の構造変革を促す重要な一歩となる可能性があります。
1. ニュース概要：Scope3対応を本格化するDICの狙い
今回明らかになったのは、DICが国内外のサプライチェーン全体における製品輸送に伴うCO2排出量の算定・可視化を開始したというニュースです。この取り組みの背景には、企業活動における間接的な排出量、特に「Scope3」への対応という世界的な潮流があります。
DICは、ロジスティードが提供する輸送CO2排出量可視化ツール「SSCR-T」を導入。これにより、これまで把握が難しかった国内外の複雑な輸送データを、国際基準である「GLECフレームワーク」に準拠した統一基準で一元的に管理・分析することが可能になります。
本取り組みの要点を以下にまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 企業 | DIC株式会社 |
| 取り組み | サプライチェーン全体の製品輸送に伴うCO2排出量可視化 |
| 導入ツール | ロジスティード「輸送CO2排出量可視化ツール SSCR-T」 |
| 主な目的 | Scope3報告の精度向上とグローバル基準への準拠 |
| 今後の展望 | 輸送ルート最適化、モーダルシフト、共同配送の推進 |
| 位置付け | 持続可能な物流体制の構築と企業価値向上の両立 |
この動きは、企業のESG経営が投資家や顧客からの評価に直結する現代において、持続可能な物流体制の構築が企業価値向上に不可欠であるという経営判断の表れと言えるでしょう。
2. 業界への影響：荷主主導で進む「物流のグリーン化」
DICのような大手荷主がCO2排出量の可視化に踏み切ったことのインパクトは計り知れません。物流業界には、主に以下の3つの影響が考えられます。
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物流パートナー選定基準の変化:
これまでコストや納期が主だった選定基準に、「CO2排出量の少なさ」や「データ提供能力」という新たな尺度が加わります。環境性能の高い輸送モードや事業者を選ぶインセンティブが働き、業界全体のグリーン化が加速するでしょう。 -
データ連携の必要性増大:
荷主がScope3を算定するためには、委託先である物流事業者からの正確な輸送データ（走行距離、積載率、燃料種別など）が不可欠です。今後は、アナログな管理体制のままでは荷主の要求に応えられず、取引から排除されるリスクさえ浮上します。 -
可視化ソリューションの需要拡大:
ロジスティードのような可視化ツールを提供する企業にとっては、大きなビジネスチャンスとなります。今後、同様のツールやコンサルティングサービスの需要は急速に高まり、物流DX市場の新たな牽引役となる可能性があります。
3. LogiShiftの視点：「守りのコンプライアンス」から「攻めのDX」へ
今回のDICの事例が示す最も重要なメッセージは、CO2排出量の可視化が、単なる報告義務を果たすための「守りのコンプライアンス」ではないという点です。これは、物流コスト削減と企業競争力強化に繋がる「攻めのDX」の入り口に他なりません。
「見える化」されたデータを分析すれば、非効率な輸送ルートや積載率の低い便が明らかになります。そこから、より環境負荷の低い鉄道や船舶輸送へ切り替える「モーダルシフト」や、複数の荷主でトラックをシェアする「共同配送」といった具体的な改善策に繋げることができます。
これらの施策は、CO2排出量を削減するだけでなく、燃料費や人件費といった物流コストの削減に直結します。つまり、環境負荷低減と経営効率の向上はトレードオフではなく、両立可能な目標なのです。DICの取り組みは、自社の物流データを「コスト要因」ではなく「価値創造の源泉」として活用する、先進的なモデルケースと言えるでしょう。
4. まとめ：すべての企業が今、備えるべきこと
DICとロジスティードの取り組みは、サプライチェーンにおける環境対応が、もはや待ったなしの経営課題であることを明確に示しています。
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荷主企業: まずは自社の輸送実態を把握し、どこからCO2排出量を可視化できるか検討を始めるべきです。最初から完璧を目指す必要はありません。特定の輸送ルートや事業所からスモールスタートし、PDCAを回していくことが変革への第一歩となります。
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物流事業者: 荷主からのデータ提供要求に応えられる体制構築が急務です。これを新たなコストと捉えるのではなく、自社の輸送品質と環境性能をアピールする好機と捉え、デジタル化への投資を進めることが求められます。
物流の2024年問題をはじめ、業界が多くの課題に直面する中、CO2排出量の可視化は、持続可能な物流体制を構築し、企業競争力を高めるための強力な武器となり得ます。この潮流を他人事と捉えず、自社の戦略にどう組み込んでいくか。すべての企業にとって、今こそ行動を起こす時です。
