倉庫業務や配送業務の効率化、そして外部委G託先の管理は、多くの企業の物流担当者様や決裁者様にとって頭を悩ませる課題です。「2024年問題」や人手不足、EC需要の拡大といった外部環境の変化に対応するため、新たなシステム導入や機器購入を検討している方も多いのではないでしょうか。
しかし、ソリューション選びは簡単ではありません。「価格の安さだけで選んでしまい、現場が混乱してかえってコストが増大した」「多機能すぎて使いこなせず、高額な投資が無駄になった」「委託先とのシステム連携がうまくいかず、在庫差異や誤出荷が頻発した」といった失敗談は後を絶ちません。
この記事では、物流DXの専門家として、数多くの企業のソリューション選定に携わってきた知見を基に、倉庫・配送・委託に関連するソリューション選びで失敗しないための具体的なステップと比較ポイントを徹底解説します。
物流委託先の選定そのものにお悩みの方は、まずはこちらの記事もご参照ください。
参考記事: 物流委託で失敗しない選び方|4つの軸で比較【担当者必見】
プロが教える!失敗しないための4つの選定軸
ソリューションの比較検討というと、つい機能一覧や価格表に目が行きがちです。しかし、本当に重要なのは「自社の課題を解決し、事業の成長に貢献してくれるか」という視点です。ここでは、価格以外の3つの重要な選定軸を加えた、計4つの軸をご紹介します。
1. 費用対効果:「安さ」だけでなく「トータルコスト」で判断する
初期費用や月額料金の安さだけで判断するのは危険です。以下のトータルコストを算出し、長期的な視点で費用対効果を見極めましょう。
- 初期費用: システム導入費、機器購入費、設定作業費
- 月額・年額費用: ライセンス料、サーバー利用料
- 隠れコスト: カスタマイズ費用、追加機能のオプション料金、サポート費用、バージョンアップ費用
安価なツールでも、カスタマイズやサポートに別途高額な費用がかかるケースは少なくありません。自社の要件を満たすために必要な総額はいくらかを、必ず事前に確認しましょう。
2. 現場の定着度:誰でも使える「操作性」と「UI/UX」
どんなに高機能なシステムも、現場のスタッフが使いこなせなければ意味がありません。「一部のPCが得意な社員しか使えない」という状況では、業務の標準化は進まず、属人化を助長してしまいます。
- 直感的な操作性: マニュアルを熟読しなくても、誰でも直感的に操作できるか。
- UI/UXの最適化: 画面は見やすいか。クリック数は少なく、スムーズに作業できるか。
- 多言語対応・デバイス対応: 外国人スタッフの有無や、ハンディターミナル、スマートフォンなど使用したいデバイスで利用できるか。
導入前には必ずデモンストレーションを依頼し、可能であれば無料トライアルで実際に現場の担当者に触ってもらう機会を設けましょう。
3. 事業成長への追従性:「拡張性」と「柔軟性」
ビジネスは常に変化します。将来の事業拡大を見据え、システムがその変化に柔軟に対応できるか(拡張性)は極めて重要なポイントです。
- 機能の追加: 将来的に必要になるであろう機能(例: 複数拠点管理、ECカート連携)を後から追加できるか。
- 処理能力: 荷物量や拠点数が増加しても、パフォーマンスが低下しないか。
- API連携: 受注管理システム、会計システム、ECカートなど、既存・将来の他システムと柔軟に連携できるか。(API: Application Programming Interfaceの略。システム同士を連携させるための仕組み)
「今は必要ない」機能でも、3年後、5年後には必須になっている可能性があります。自社の事業計画と照らし合わせ、将来の拡張シナリオに対応できるシステムを選びましょう。
4. 導入後の安心感:「サポート体制」と「実績」
システムは導入して終わりではありません。むしろ、導入後の活用フェーズこそが重要です。トラブル発生時に迅速に対応してくれるか、業務改善の相談に乗ってくれるかなど、ベンダーのサポート体制は必ず確認しましょう。
- サポート範囲: 電話、メール、チャットなど、問い合わせ方法と対応時間。
- サポートの質: 専門知識を持った担当者が対応してくれるか。オンサイト(現地)でのサポートは可能か。
- 導入実績: 自社と同じ業界や事業規模の企業への導入実績が豊富か。
同業界での実績が豊富なベンダーは、特有の業務課題や商習慣への理解が深く、より実践的な提案やサポートが期待できます。
倉庫・配送委託ソリューションの主要3タイプ
市場には多種多様なソリューションが存在しますが、大きく以下の3タイプに分類できます。自社の課題がどの領域にあるかを明確にすることで、選ぶべきタイプが見えてきます。
タイプ1:WMS(倉庫管理システム)特化型
倉庫内の業務、すなわち「モノの管理」に特化したシステムです。入荷から出荷までの各プロセスを正確かつ効率的に管理し、在庫の可視化と精度向上を実現します。
委託先倉庫との連携においては、このWMSが重要な役割を果たします。詳細はこちらの記事でも解説しています。
参考記事: 倉庫委託の管理システム選び|失敗しない4つの比較軸を徹底解説【担当者必見】
- 主な機能: 入荷管理、在庫管理(ロケーション管理)、ピッキング、検品、棚卸、出荷管理
タイプ2:TMS(輸配送管理システム)特化型
倉庫から出荷された後の「モノの移動」に特化したシステムです。最適な配送計画の立案、配車業務の効率化、車両の動態管理、運賃計算などを通じて、配送品質の向上とコスト削減を実現します。
- 主な機能: 配車計画、配送ルート最適化、動態管理(GPS追跡)、運賃計算、請求書照合
タイプ3:統合プラットフォーム型
WMSとTMSの両方の機能を持ち合わせ、倉庫から配送まで物流プロセス全体を一元管理できるシステムです。近年では、需要予測やサプライチェーン全体の最適化を目指す高度な機能を持つものも登場しています。
- 主な機能: WMS・TMSの機能に加え、複数拠点管理、サプライチェーン全体のデータ分析・可視化など
【徹底比較】ソリューションタイプ別の長所と短所
それぞれのタイプにメリット・デメリットがあります。自社の状況と照らし合わせて、最適なタイプを見極めましょう。
| タイプ | 主なメリット | 主なデメリット | こんな企業におすすめ |
|---|---|---|---|
| WMS特化型 | 倉庫業務の深い最適化。比較的安価で導入可能。 | 配送領域は管理外。他システムとの連携が必須。 | 倉庫内の課題が明確で、まずは在庫管理を徹底したい企業。 |
| TMS特化型 | 配送コストの大幅な削減。最適な配送ルートを算出。 | 倉庫内の管理は管理外。他システムとの連携が必須。 | 配送網が複雑・広範囲で、配車業務の属人化に悩む企業。 |
| 統合プラットフォーム型 | データの一元管理。サプライチェーン全体の可視化。 | 導入コストが高額になりがち。機能が複雑で定着に時間。 | 複数拠点や複雑な物流網を持つ大手・中堅企業。 |
課題別!自社に最適なソリューション選定ステップ
最後に、企業の規模や抱える課題別に、どのようなソリューションを選べばよいかの具体例をご紹介します。
ケース1:EC事業を始めたばかりの中小企業
- 課題: 手作業での在庫管理に限界を感じている。誤出荷を減らしたいが、大きな投資は難しい。
- おすすめの選定方針:
まずはクラウド型のWMS特化型からスモールスタートするのが現実的です。月額数万円から利用できるサービスも多く、初期投資を抑えられます。選定時には、将来の事業拡大を見据え、利用しているECカートや受注管理システムとのAPI連携が容易かを確認することが重要です。
ケース2:複数の配送業者を利用している中堅卸売業
- 課題: 配送業者ごとに運賃体系が異なり、コスト管理が煩雑。どのルートが最適か分からず、配送コストが高止まりしている。
- おすすめの選定方針:
TMS特化型の導入が効果的です。各社の運賃を登録し、荷物の情報から最も安価な配送業者を自動で選択する機能や、最適な配送ルートを算出する機能により、配送コストの削減と業務効率化が期待できます。既存の基幹システムやWMSとの連携可否が選定の鍵となります。
ケース3:全国に物流拠点を持つ大手製造業
- 課題: 拠点ごとに異なるシステムが導入されており、全社横断での在庫状況が把握できない。拠点間の在庫移動も非効率。
- おすすめの選定方針:
統合プラットフォーム型の導入を視野に入れるべきフェーズです。倉庫から配送まで、サプライチェーン全体の情報を一元管理することで、全社的な在庫最適化や需要予測の精度向上に繋がります。導入は大規模なプロジェクトになるため、コンサルティングを含めた手厚いサポート体制を持つベンダーを選ぶことが成功の秘訣です。
まとめ:最適なソリューションは「自社の課題」の解像度で決まる
倉庫・配送・委託に関するソリューション選びで最も重要なことは、流行りのシステムや多機能なシステムに飛びつくのではなく、「自社の物流課題がどこにあるのか」を正確に把握することです。
- 在庫管理の精度が問題なのか?
- ピッキング作業の効率が問題なのか?
- 配送コストが問題なのか?
- サプライチェーン全体が見えないことが問題なのか?
まずは自社の課題を洗い出し、優先順位をつけてみてください。その上で、本記事で紹介した4つの選定軸(費用対効果、現場の定着度、拡張性、サポート体制)を基に各ソリューションを比較検討することで、自社にとって本当に価値のある投資となるはずです。
もし、課題の特定やソリューションの選定に迷う場合は、外部の専門家の視点を取り入れることも有効な手段です。この記事が、貴社の物流DX推進の一助となれば幸いです。


