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物流DX・トレンド 2025年12月15日

相次ぐサイバー被害で露わになる物流停止リスクについて|物流業界への影響を徹底解説[企業はどう動く?]

相次ぐサイバー被害で露わになる物流停止リスクについて

「またか…」近年、物流業界を震撼させるサイバー攻撃のニュースを目にするたび、多くの経営者や現場リーダーはそう呟いているのではないでしょうか。ロジスティクス関通、アサヒグループホールディングス、そして記憶に新しいアスクルへの攻撃。これらは単なる情報漏洩事件ではありません。私たちの生活を支える「物流」という社会インフラそのものを、根底から揺るがす深刻な事態です。

攻撃そのものの脅威に加え、被害発生後の初動の遅れが業務停止を長期化させ、サプライチェーン全体を麻痺させる――。そんな悪夢のような現実が、今、目の前で起きています。

経済産業省もこの事態を重く見て、2026年度にはサプライチェーン全体のセキュリティ評価制度を開始する方針です。もはやセキュリティ対策は、個社の問題ではなく、業界全体の存続をかけた共通課題となりました。

本記事では、物流DXの最前線を走るLogiShiftの視点から、相次ぐサイバー攻撃がもたらす物流停止リスクの本質を徹底解説。業界への具体的な影響を分析し、企業がこの「非常警戒時代」をどう乗り越えるべきか、具体的な処方箋を提示します。

止まらないサイバー攻撃、物流業界が標的に

なぜ今、これほどまでに物流業界がサイバー攻撃の標的となっているのでしょうか。まずは、近年発生した主要な被害事例と、その背景にある構造的な問題を整理します。

近年の主な被害事例

DX化の進展は、物流業界に効率化という恩恵をもたらした一方で、新たな脆弱性を生み出しました。WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)は、今や攻撃者にとって格好の標的です。

発生時期 企業・グループ名 被害概要
近年 ロジスティクス関通 ランサムウェア攻撃により基幹システムが停止。業務に大きな支障が発生。
近年 アサヒグループホールディングス サイバー攻撃により、生産・物流システムが停止。商品の受注や出荷に影響が及ぶ。
近年 アスクル 不正アクセスによりシステム障害が発生。ECサイトが停止し、顧客情報74万件が外部流出。

これらの事例に共通するのは、攻撃によって基幹システムが停止し、物理的なモノの流れ、つまり「物流オペレーションそのものが強制的に停止させられた」という事実です。

狙われるサプライチェーンの「結節点」

攻撃者が物流企業を狙う理由は明確です。物流は、メーカーから卸、小売、そして消費者へと繋がるサプライチェーンの「結節点」であり、社会インフラとしての重要性が極めて高いからです。

  • 影響範囲の大きさ: 一つの倉庫や運送会社のシステムを停止させるだけで、その影響は川上から川下まで、サプライチェーン全体に波及します。
  • 事業停止への耐性の低さ: 「24時間365日止まらない」ことが前提の物流オペレーションは、わずかなシステムダウンでも甚大な損害に直結します。
  • 金銭要求への圧力: 業務停止による損失が莫大になるため、攻撃者からの身代金要求(ランサムウェア)に応じざるを得ない状況に追い込まれやすいと考えられています。

さらに、経済産業省が2025年4月に「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」の中間取りまとめを公表し、2026年度の制度開始を予定していることからも、国がこの問題をいかに深刻に捉えているかが伺えます。これは、自社だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体のセキュリティレベルが問われる時代の到来を意味しています。

物流は止まる、その時あなたの会社はどうなるか?

「うちは大丈夫」という楽観はもはや通用しません。サイバー攻撃によって物流が停止した時、各プレイヤーはどのような影響を受けるのでしょうか。具体的にシミュレーションしてみましょう。

【運送会社】トラックはそこにあるのに、動かせない

  • 配車システムの停止: 最適な配送ルートやドライバーの割り当てができず、配車計画が完全に白紙に戻ります。紙の地図と電話でのやり取りでは、到底さばききれません。
  • WMS/TMSとの連携遮断: 荷主や倉庫からの出荷データが受け取れず、どの荷物をどこに運べばいいのかすら分からなくなります。結果、トラックは車庫で待機せざるを得ず、ドライバーの時間は無為に過ぎていきます。
  • 信頼の失墜: 配送遅延は荷主からの信用を根本から揺るがします。一度失った信頼を取り戻すのは容易ではなく、契約打ち切りに繋がるリスクも現実のものとなります。

【倉庫事業者】モノはあるのに、出せない

  • WMSのダウン: 在庫データが完全にブラックボックス化します。どこに何が何個あるのか分からず、入出庫作業は完全に停止。ピッキングリストも発行できず、広大な倉庫で途方に暮れることになります。
  • 現場オペレーションの麻痺: ハンディターミナルはただの文鎮と化し、自動倉庫やソーターも動きません。手作業での対応を試みても、膨大なSKUとロケーションを管理するのは不可能です。
  • 荷主への連鎖的被害: 出荷できないことで、荷主であるメーカーや小売業者の販売機会を奪い、サプライチェーン全体に甚大な損害を与えてしまいます。

【荷主(メーカー・小売)】作ったのに、売れない

  • 出荷指示の不能: 自社の基幹システムは無事でも、委託先の倉庫や運送会社が攻撃されれば、出荷指示が出せません。商品は工場や倉庫に滞留し、キャッシュフローは悪化します。
  • 販売機会の損失: ECサイトでは「在庫切れ」が多発し、店舗の棚からは商品が消えます。顧客は競合他社に流れ、売上は大きく落ち込みます。特に、セール時期や季節性の高い商品では致命的なダメージとなります。
  • 生産計画への影響: 製品が出荷できないことで、工場の生産ラインを調整・停止せざるを得なくなる可能性もあります。サプライチェーンの上流から下流まで、負の連鎖が止まらなくなります。

アスクルの事例でも明らかなように、一度の攻撃で顧客情報流出と業務停止という二重の打撃を受けます。詳細は過去の記事サイバー攻撃受けたアスクル、顧客などの個人情報74万件が外部流出について|物流業界への影響を徹底解説[企業はどう動く?]でも解説していますが、これはもはや他人事ではありません。

【LogiShiftの視点】「非常警戒時代」を乗り切るための3つの処方箋

では、この深刻化する脅威に対し、企業はどう立ち向かうべきなのでしょうか。単なるITツールの導入だけでは不十分です。経営層から現場まで、意識と体制を根本から変革する必要があります。

処方箋1:セキュリティ対策が「取引条件」になる時代への備え

これからの物流業界では、セキュリティ対策のレベルが運賃やサービス品質と同様に、企業の競争力を左右する重要な「評価軸」となります。

荷主・元請けからの「セキュリティ監査」が標準に

経済産業省が主導する評価制度の開始を待たずとも、先進的な荷主企業はすでに委託先の選定基準にセキュリティ項目を加え始めています。
「ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得していますか?」
「サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)は策定済みですか?」
こうした問いに明確に答えられない企業は、コンペの土俵にすら上がれなくなるでしょう。もはやセキュリティは「コスト」ではなく、ビジネスを継続するための「必須投資」なのです。

処方箋2:「防御」から「迅速な復旧(レジリエンス)」への発想転換

専門家が口を揃えるのは、「サイバー攻撃は100%は防げない」という現実です。この事実を前提とするならば、最も重要なのは「被害を受けた後に、いかに早く立ち直るか」というレジリエンス(回復力)の視点です。

最大の敵はウイルスではなく「判断停止」

多くの被害事例で被害を拡大させている元凶は、インシデント発生後の「判断停止」です。
「どこまで影響が広がっているか分からない」
「誰がシステム停止の判断を下すのか」
「下手に動いて事態を悪化させたくない」
こうした躊躇が、ウイルスがネットワーク全体に広がるための時間を与えてしまいます。有事の際には、経営トップが「事業を一時的に止める」という極めて重い決断を、迅速に下す覚悟と権限委譲の仕組みが不可欠です。

処方箋3:今すぐ策定すべき「サイバーBCP」

自然災害を想定したBCPを策定している企業は多いでしょう。しかし、サイバー攻撃を想定したBCPはありますか?今すぐ以下の4つのステップに着手すべきです。

  1. 重要業務の特定とリスク分析

    • 自社のどのシステムが停止すると、どの業務が完全に止まるのか?
    • 代替手段はあるか?その場合、業務継続レベルは平常時の何%まで落ち込むのか?
    • これらを具体的に洗い出し、リスクを可視化します。
  2. オフライン業務手順の確立

    • システムが全く使えない状況を想定し、紙と電話、人力で最低限のオペレーションを継続するための手順書を作成します。
    • 例えば、「主要な取引先の連絡先リスト」「手書き用のピッキングリストのテンプレート」「オフライン時の在庫確認ルール」など、具体的なツールや様式まで準備しておくことが重要です。
  3. 緊急時の体制と連絡網の整備

    • 誰が指揮を執り、誰が何を担当するのか、明確なエスカレーションフローを定めます。
    • 社内ネットワークやメールが使えないことを前提に、個人の携帯電話やSNSなど、代替の連絡手段を複数確保し、全従業員に周知徹底します。
  4. 実践的な訓練の実施

    • BCPは「作って終わり」では意味がありません。年に1〜2回、実際にシステムを一部停止させるなど、現実に即した訓練を繰り返すことで、計画の実効性を高め、従業員の対応能力を向上させることができます。

まとめ:明日から意識すべきこと – サイバー攻撃は「災害」である

相次ぐサイバー攻撃は、もはや対岸の火事ではなく、明日自社を襲うかもしれない「デジタル災害」です。この新たな脅威の前では、企業の規模の大小は関係ありません。

  • 経営層の方へ: セキュリティ投資をコストと捉える時代は終わりました。これは、事業の存続、従業員の雇用、そして顧客からの信頼を守るための最優先の経営課題です。自社のBCPに「サイバー攻撃」の項目があるか、今すぐ確認してください。
  • 現場リーダーの方へ: もし明日、PCやハンディターミナルが一切使えなくなったら、あなたのチームはどう動きますか?部下を守り、オペレーションを最低限でも継続するための手順を、日頃からシミュレーションしておくことがあなたの責務です。

この喫緊の課題に対し、私たちLogiShiftは2025年12月19日(金)に緊急オンラインイベント「物流、非常警戒時代―迫る火災とサイバーの脅威―」を開催します。本稿で述べたリスクへのより具体的な対処法や専門家の知見を共有する貴重な機会です。

来るべき「非常警戒時代」を乗り越えるため、今こそ業界全体で知見を結集し、備えを固める時です。この記事が、その第一歩となることを願っています。

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