2025年の世界の物流業界は、まさに「激動」と呼ぶにふさわしい一年となりました。
一方で地政学リスクがサプライチェーンを分断し、もう一方でテクノロジーが物理的な限界を突破する――。この相反する二つの巨大な潮流が、グローバル企業をかつてないスピードで変革させています。
なぜ今、日本の物流関係者がこの海外トレンドを直視すべきなのでしょうか。それは、日本の「2024年問題」以降も続く人手不足やコスト増への解決策が、海外の「極限効率化」の事例に隠されているからです。また、米国の通商政策の変更は、日本の輸出企業にとっても対岸の火事ではありません。
本記事では、「Top ten logistics stories of 2025」として海外で注目されたトピックの中から、特に日本企業への示唆に富む「地政学リスク」と「自動化DX」の最前線を解説します。
2025年、世界を揺るがした「二極化」の現実
2025年の物流トピックスを俯瞰すると、明確な二極化が見て取れます。一つは「政治による分断」、もう一つは「技術による結合(効率化)」です。
トランプ政権による「関税ショック」とサプライチェーンの再考
米国におけるトランプ政権の復帰は、世界の貿易地図を塗り替えました。特に注目すべきは、以下の二つの政策変更です。
- 全輸入品への10%関税導入: 特定国だけでなく、すべての輸入品に対して一律10%の関税を課す動きは、グローバル調達コストを劇的に押し上げました。
- 「デミニミス(少額免税)」の撤廃: これまで米国では800ドル以下の輸入品は関税免除とされていましたが、この制度が廃止されました。
これにより、越境EC(特にSheinやTemuなどのビジネスモデル)は根底からの見直しを迫られています。しかし、影響は中国企業だけではありません。米国向けに少額貨物を発送していた日本のEC事業者や部品メーカーにとっても、通関コストの増加とリードタイムの遅延は避けられない事態となっています。
インフレと在庫削減が招く輸送リスク
こうしたコスト増に加え、インフレ圧力は依然として経営を圧迫しています。企業はキャッシュフローを確保するため、再び「在庫削減」へと舵を切りました。
しかし、在庫という「バッファ」を持たないサプライチェーンは、ひとたび輸送トラブルが起きれば即座に欠品へと繋がります。この点については、以下の記事でも詳しく解説しています。
参考記事:在庫削減が招く「輸送危機」。米国最新データが教える2026年への備え
先進事例:リスクと戦うグローバル企業の決断
では、海外の先進企業はこの「二極化」する環境下でどのような手を打っているのでしょうか。具体的なケーススタディを見ていきましょう。
Mattel社:脱中国依存と「ニアショアリング」の加速
「バービー人形」で知られる米玩具大手Mattel(マテル)社の動きは、地政学リスクへの対応として象徴的です。同社は2025年、サプライチェーンの強靭化を掲げ、以下の目標を打ち出しました。
- 中国生産比率の縮小: かつて世界の工場であった中国での生産比率を40%未満にまで引き下げる。
- 単一国依存の回避: 2027年までに、どの国であっても生産依存度を25%以下に抑える。
これは単なる工場の移転ではなく、調達・製造・配送のネットワーク全体を再構築する巨大プロジェクトです。メキシコや東南アジアへのシフト(ニアショアリング/フレンドショアリング)を進めることで、関税リスクの回避と、消費地への物理的距離の短縮を同時に狙っています。
Royal Mail & FedEx:人手を介さない「極限の自動化」
一方で、コスト増と人手不足をテクノロジーでねじ伏せる事例も登場しています。特に注目すべきは、英国Royal Mailと米国FedExの事例です。
Royal Mail:荷卸し時間を「3.5時間→6分」へ
英国の郵便事業大手Royal Mailが新設したハブ拠点では、自動化ソリューションの導入により衝撃的な成果を上げました。
- 課題: 従来、HGV(大型貨物車)トレーラー1台分の荷物を手作業で降ろすには約3.5時間を要していました。
- 成果: 自動荷卸しシステムの導入により、この時間をわずか6分に短縮。削減率は驚異の97%です。
これは、日本の物流現場で慢性的な課題となっている「荷待ち時間」の解消に対する、一つの究極的な回答と言えます。
FedEx:毎時5.6万個をさばくメンフィス新ハブ
FedExは本拠地メンフィスに巨大な自動化ハブを稼働させました。ここでは毎時56,000個の荷物を仕分ける能力を有しています。
FedExが進める空陸統合戦略「One FedEx」の下、地上配送と航空輸送のネットワークをシームレスに繋ぐためには、結節点(ハブ)での滞留時間をゼロに近づける必要がありました。この自動化は、単なる省人化ではなく、配送スピードそのものを変える戦略投資です。
FedExの構造改革については、以下の記事で詳細を分析しています。
参考記事:利益急増!FedExの「空陸統合」に学ぶ、物流巨艦の構造改革術
国・地域別トレンド比較まとめ
ここで、2025年の主要な物流トレンドを地域別に整理します。
| 地域 | キーワード | 具体的な動きと影響 |
|---|---|---|
| 米国 | 保護主義と関税 | 全輸入品10%関税、800ドル免税撤廃。越境ECへの打撃大。在庫削減トレンドへの回帰。 |
| 中国 | 脱・世界の工場 | Mattel等の外資撤退加速。一方で、CATLのように自社工場へAIロボットを大量導入し、製造コストを極限まで下げる動きも。 |
| 欧州 | 超・自動化 | Royal Mailの荷卸し97%短縮。労働力不足を背景に、人間が介在しないプロセスの構築が加速。 |
※中国のAIロボット活用については、以下の記事も併せてご参照ください。
参考記事:【海外事例】CATLの具現化AIロボット大量導入に学ぶ!中国の最新動向と日本への示唆
日本企業への示唆:2025年の波をどう乗りこなすか
海外の「トップ10ニュース」は、決して海の向こうの出来事ではありません。日本の物流企業や荷主企業は、ここから何を学び、どう行動すべきでしょうか。
1. 「デミニミス廃止」に備えた輸出戦略の見直し
米国の「800ドル免税撤廃」は、越境ECを行う日本企業に直撃します。
これまで関税がかからなかった小口貨物に通関コストが発生するため、「米国倉庫への大口輸送(在庫配置)+現地配送」というモデルへの切り替えを検討する必要があります。ウォルマートやホームデポが進めるような、店舗やローカル拠点を活用した配送網の構築が参考になるでしょう。
参考記事:【海外事例】ウォルマート2025年の配送革命に学ぶ!米国の最新動向と日本への示唆
2. 「荷待ち時間」解消への技術投資
Royal Mailの事例は、日本の「2024年問題(ドライバーの拘束時間規制)」に対する強力なヒントです。
日本の商習慣では、検品や荷卸しをドライバーの手作業に頼りがちですが、これでは限界があります。バース予約システムのようなソフト面の対策だけでなく、「荷卸しそのものの自動化」というハード面への投資が、選ばれる物流拠点になるための条件となりつつあります。
3. サプライチェーンの「多重化」
Mattel社の事例が示す通り、特定国への依存はリスクそのものです。日本企業も、中国プラスワン(ASEANやインド、あるいは国内回帰)の検討を加速させるべきです。
しかし、拠点を分散させれば管理は複雑化します。そこで重要になるのが、Home Depotの事例に見られるような「デジタルと物理拠点の高度な融合」による可視化です。
参考記事:【海外事例】Home Depotのサプライチェーン高速化に学ぶ!米国の最新動向と日本への示唆
まとめ:防御と攻撃の両立が鍵
2025年の海外物流トレンドは、「関税・地政学リスクへの防御」と「自動化による攻撃的な効率化」のセットで動いています。
日本企業にとって、これらを同時に進めることは容易ではありません。しかし、外部環境(関税など)はコントロールできませんが、内部変革(自動化・DX)は自社の意思でコントロール可能です。
FedExやRoyal Mailが見せた「桁違いの効率化」は、技術的には日本でも実現可能です。まずは自社のボトルネックとなっている工程(荷卸し、仕分け、通関書類作成など)に対し、海外の最新ソリューションを「部分導入」する検討から始めてみてはいかがでしょうか。
変化の激しい2025年以降の市場を生き残るために、今こそ「世界標準」のスピード感を取り入れる時です。


