2024年問題への対応に追われる日本の物流業界ですが、海の向こう米国では、さらに先の「2026年の物流」を見据えた議論が始まっています。
米国のオンライン物流プラットフォーム大手「uShip」のCEO、Sean Wu氏は、衝撃的な提言を行いました。「2026年の勝者は、未来を予測する者ではなく、混乱(Disruption)を前提にビジネスを構築する者だ」というのです。
パンデミック以降、私たちは「いつ物流が正常化するのか」を問い続けてきました。しかし、Sean Wu氏が突きつける現実は、「正常化など来ない。混乱こそがニューノーマルである」という冷徹な事実です。
本記事では、uShip CEOが語る最新の物流トレンドと、予測不可能な時代を勝ち抜くための「適応力(Adaptability)」重視の戦略について、日本の経営層やDX担当者が取り組むべき具体策を解説します。
予測は無意味?米国物流で「混乱」が常態化した現実
かつて物流マネージャーの仕事は、過去のデータを分析し、来年の運賃とリードタイムを予測して契約を結ぶことでした。しかし、この「予測型」のアプローチはもはや機能不全に陥っています。
「混乱」の発生率は38%増。構造的な変化へ
Sean Wu氏によると、サプライチェーンにおける「混乱(Disruption)」の発生件数は今年だけで38%も増加しています。
ここで言う混乱とは、単なる天候不順や一時的な事故だけを指すのではありません。地政学的な対立、労働ストライキ、サイバー攻撃、そして急激な需要変動など、構造的な要因が複雑に絡み合っています。
例えば、米国のトラック・スポット運賃(燃料費を除く)は、短期間で8%も急騰するなどのボラティリティ(変動性)を見せました。日本の物流現場でも「突然トラックが見つからない」「傭車運賃が跳ね上がった」という経験があるはずです。これは一時的な現象ではなく、今後も続く「常態」なのです。
この状況下で、1年固定の契約運賃だけで乗り切ろうとすることは、リスク管理の観点から極めて危険であるとSean氏は警鐘を鳴らしています。
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2026年の勝者が実践する「強靭なサプライチェーン」3原則
では、混乱が常態化した世界で生き残る、あるいは勝者となる企業は何をしているのでしょうか。キーワードは「予測(Prediction)」から「適応(Adaptability)」へのシフトです。
Sean Wu氏は、強靭なサプライチェーンを構築するための3原則を提示しています。
- 多角化(Diversification)
- 可視性とスピード(Visibility & Speed)
- 強固なキャリア関係(Carrier Relationships)
これらが具体的にどう機能するのか、従来型モデルと比較して整理しました。
| 要素 | 従来型のアプローチ(〜2023年) | 2026年型のアプローチ(勝者の戦略) |
|---|---|---|
| 調達戦略 | 全量を固定契約(Contract)で固定し、安定を図る。 | 契約輸送とスポット市場を併用し、リスクを分散する。 |
| 意思決定 | 見積もり取得から決裁まで数日〜数週間かける(稟議)。 | デジタル基盤を活用し、数分〜数時間で即断即決する。 |
| 対応力 | 問題発生時、電話とメールでリルート先を探す。 | リアルタイムデータに基づき、自動または半自動で代替手段を確保する。 |
| 関係性 | 「運賃の叩き合い」によるコスト削減を優先。 | キャリアをパートナーと見なし、空車活用などで非効率を排除する。 |
1. 契約とスポットの「ハイブリッド運用」
日本企業は「固定契約(定期便)」を好む傾向にありますが、米国ではスポット市場(求車求貨)の戦略的活用が進んでいます。
全てをスポットに頼るのは危険ですが、全てを固定契約にすると、急な波動に対応できず、結果として高額な緊急便を手配することになります。「ベースロードは契約、変動分はデジタルプラットフォームでのスポット調達」というハイブリッドな運用が、2026年のスタンダードになります。
2. 承認プロセスの短縮こそが「スピード」の本質
Sean Wu氏が特に強調するのが「スピード」です。しかし、これは「トラックが速く走る」ことではありません。「荷主の意思決定スピード」です。
市場が混乱している時、利用可能なトラックは一瞬で奪い合いになります。「上司の承認印をもらうのに2日かかる」という日本の商習慣は、このスピード勝負において致命的な弱点となります。デジタルプラットフォーム上で承認フローを完結させ、条件に合えば即座に発注できる仕組み作りが不可欠です。
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「運賃の叩き合い」からの脱却とテクノロジー活用
コスト削減は常に至上命題ですが、その方法論も変わりつつあります。
デジタルプラットフォームによる「空車マッチング」
単に運送会社に値下げを強要するのではなく、デジタルプラットフォームを活用して「非効率」を排除することでコストを下げるアプローチが注目されています。
uShipのようなプラットフォームは、帰り荷のないトラック(空車回送)と荷主をマッチングさせることで、キャリアには収益機会を、荷主には割安な運賃を提供します。Sean氏は、これを「運賃の叩き合いではなく、システムの最適化によるWin-Win」と表現しています。
自動運転は「ハイブリッドモデル」が現実解
また、注目される自動運転技術についても、2026年の現実的な見通しが示されました。それは完全無人化ではなく、「ハイブリッドモデル」です。
- ハブ間輸送(ミドルマイル): 高速道路などは自動運転トラックが担当。
- ラストマイル: 複雑な市街地は人間が運転するトラックが担当。
この段階的な導入により、ドライバー不足を補いつつ、技術的なハードルをクリアしていく流れが確実視されています。DX担当者は、「いつか来る完全自動運転」を待つのではなく、「今使えるハイブリッド技術」をどう物流網に組み込むかを検討すべき時期に来ています。
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日本企業への提言:硬直した商習慣をどう突破するか
uShip CEOの提言は米国市場をベースにしていますが、日本の物流企業にとっても極めて重要な示唆を含んでいます。特に「2024年問題」や「災害リスク」に直面する日本こそ、この適応力が求められています。
1. 「見積もり合わせ」からの脱却
日本では依然として、その都度複数の運送会社に電話やFAXで見積もりを取り、一番安いところに決めるというアナログな手法が残っています。しかし、混乱時にはこの時間は命取りです。
API連携されたプラットフォームで瞬時に市場価格(スポットレート)を把握し、許容範囲内であれば即座にブッキングする。この「自動化された調達」への移行が急務です。
2. 在庫戦略と輸送戦略の連動
混乱に備えるためには、輸送だけでなく在庫戦略の見直しも必要です。米国では在庫を減らしすぎた結果、輸送の混乱が即欠品につながる事態が発生しています。
「適応力」とは、輸送が止まった時にバックアップとなる在庫をどこに持つか、というBCP(事業継続計画)とセットで考える必要があります。
See also: 在庫削減が招く「輸送危機」。米国最新データが教える2026年への備え
まとめ:波を止めるのではなく、乗りこなす準備を
uShip CEO、Sean Wu氏の言葉を借りれば、2026年の物流市場において「安定」は幻想です。
これからの勝者は、波(混乱)が来ないことを祈る企業ではありません。どのような波が来ても転覆しない「多角化された選択肢」と、波に合わせて即座に舵を切れる「意思決定のスピード」を持った企業です。
日本の物流部門は今、単なる「コストセンター」から、企業の生存を左右する「戦略的機能」へと変貌を遂げるチャンスを迎えています。まずは、硬直的な契約や承認プロセスを見直し、デジタルプラットフォームを活用した柔軟な調達網をテストすることから始めてみてはいかがでしょうか。


