自動運転トラックの開発競争において、潮目が大きく変わりつつあります。
これまで業界の常識とされてきたのは、高速道路のみを自動化し、インターチェンジ付近の拠点(ハブ)で有人トラックに積み替える「ハブ・アンド・スポーク型」でした。しかし、このモデルに対し「経済合理性がない」と真っ向から異議を唱えるプレイヤーが現れました。カナダ発の自動運転スタートアップ、Waabi(ワービ)です。
彼らが目指すのは、一般道を含む「ドア・ツー・ドア(拠点間直行)」の完全自動化。なぜ今、高速道路限定モデルが否定され、技術的難易度の高い一般道走行へ舵を切る必要があるのでしょうか。
本記事では、Waabiが提示する衝撃的なコスト試算と、生成AIを活用した技術的ブレイクスルー、そしてこの潮流が日本の物流DXに突きつける課題について解説します。
「高速道路だけ」では顧客メリットが出ない市場の現実
自動運転トラックの導入において、多くの企業が「まずは高速道路から」と考えます。信号や歩行者がいない高速道路は技術的なハードルが低く、安全性が担保しやすいからです。しかし、ビジネスの視点で見ると、ここには大きな落とし穴があります。
ハブ・アンド・スポーク型に潜む「隠れコスト」
Waabiやそのパートナー企業の分析によると、高速道路限定の自動運転(ハブ・アンド・スポーク型)には致命的なコスト課題があります。それは、両端の「ラストワンマイル」輸送にかかるコストです。
高速道路を自動運転で走破しても、高速を降りた後の「インターチェンジから物流センターまで」を人間が運転する場合、そこで積み替えやドライバーの手配が発生します。
この「ドレージ(短距離輸送)」と呼ばれるプロセスにおいて、片側だけで200〜300ドル(約3万〜4.5万円)の追加コストが発生すると指摘されています。
往復(または発着両側)で考えれば、数百ドルのコスト増です。長距離輸送で得られる燃料費や人件費の削減分が、この「両端のコスト」によって相殺、あるいは赤字になってしまうのです。これでは、荷主企業にとって導入する経済的メリット(ROI)が存在しません。
市場の90%は「ドア・ツー・ドア」を求めている
物流市場のデータを見ても、ハブ型輸送はあくまでニッチな存在です。
北米における貨物輸送の90%以上は「施設から施設へ(Door-to-Door)」直接運ばれています。既存のサプライチェーンは、中継拠点を経由することを前提に作られていません。
つまり、「高速道路しか走れないトラック」を導入するために、荷主側がわざわざ中継拠点を整備し、短距離ドライバーを別途手配するという「運用の変更」を強いること自体が、普及の足かせとなっているのです。
各輸送モデルの比較
米国市場における自動運転導入モデルの違いを整理しました。
| 特徴 | ハブ・アンド・スポーク型(従来主流) | ドア・ツー・ドア型(Waabi等) |
|---|---|---|
| 走行範囲 | 高速道路のみ(一般道は人間が運転) | 高速道路 + 一般道(市街地) |
| オペレーション | 高速出入口付近に「中継ハブ」が必要 | 既存の物流センターへ直行可能 |
| コスト構造 | 両端で+$200〜300の追加コスト発生 | 追加コストなし(人件費削減効果大) |
| 技術難易度 | 中(一定の環境下で制御可能) | 高(複雑な交通状況への対応必須) |
| 顧客受容性 | 低(運用の手間とコスト増がネック) | 高(既存フローを変えずに導入可) |
参考記事:100万マイルの壁。米カリフォルニア自動運転解禁が示す物流の未来
先進事例:WaabiとVolvoが描く「2026年の無人輸送」
この「ラストワンマイルのコスト問題」を解決するために、技術的難易度の高い一般道走行を含めた完全自動化に挑んでいるのがWaabiです。
生成AIとシミュレーションで「一般道」を攻略
Waabiの最大の特徴は、実走行データに頼り切らない「AIファースト」のアプローチにあります。
従来の自動運転開発は、何百万マイルもの公道を走り、データを集める必要がありました。しかし、複雑な一般道のあらゆるシナリオ(急な飛び出し、工事、悪天候など)を実走行だけで学習するには、途方もない時間とコストがかかります。
そこでWaabiは、生成AIを活用した高度なシミュレーター「Waabi World」を開発しました。
* デジタルツイン: 現実世界を模倣した仮想空間で、AIドライバーに何億通りものシナリオを学習させる。
* エッジケースの生成: 現実には滅多に起きない危険な状況をAIで生成し、重点的に学習させる。
これにより、物理的な走行距離を最小限に抑えながら、一般道での複雑な判断能力を短期間で獲得することに成功しています。ハードウェアの進化サイクルが「年単位」から「四半期単位」へ加速していることも、このソフトウェア中心のアプローチを後押ししています。
参考記事:ロボット育成は「データ工場」へ。Noitom数十億円調達が示す未来
Volvo Autonomous Solutions (VAS) との提携による安全性担保
ソフトウェアがどれほど優秀でも、トラック自体の安全性が欠かせません。Waabiは2024年、Volvo Autonomous Solutions (VAS) との提携を強化しました。
Volvoは、ブレーキやステアリングなどに冗長性(バックアップ機能)を持たせた自動運転対応トラックのハードウェアを提供します。
- Waabi: 脳(AIドライバー)
- Volvo: 体(冗長性のある車両プラットフォーム)
この分業体制により、2026年には安全なドライバーレス・トラックの商用化を目指しています。これは、既存の物流フローを変えることなく、今のトラックをそのまま「無人化」できることを意味します。
日本の物流企業への示唆:インフラ依存からの脱却
Waabiの事例は、日本の物流業界、特に「2024年問題」以降の戦略を練る経営層にとって重要な示唆を含んでいます。
1. 「高速道路の自動化」だけでは不十分
現在、日本では新東名高速道路の一部区間における自動運転レーンの設置や、成田空港周辺での「自動物流道路」構想などが進んでいます。これらは非常に重要な取り組みですが、Waabiの指摘通り、「高速を降りた後どうするか」の議論が抜け落ちると、経済合理性が破綻するリスクがあります。
日本の道路事情は米国よりも複雑で狭隘です。しかし、「難しいから人間がやる」と割り切ってしまうと、結局その区間のドライバー確保がボトルネックとなり、トータルコストが下がらない可能性があります。
参考記事:成田「自動物流道路」実証開始|公道初実験が示す2030年の物流革命
2. 「予測なき適応」を実現するAI活用
Waabiのアプローチは、事前に全てのルートをマッピングするのではなく、AIがあらゆる状況に適応できるようにするものです。
日本の物流現場においても、ルート固定型の自動化(AGVなど)から、環境変化に強い自律型(AMRやAI搭載ロボット)への移行が求められます。「特定の道しか走れない」技術は、災害や工事による通行止めが多い日本では脆弱だからです。
3. ハードウェアより「学習モデル」への投資
ハードウェア(車両やセンサー)の性能は日進月歩で陳腐化します。Waabiが証明しつつあるのは、競争力の源泉が「質の高いAI学習モデル」と「シミュレーション環境」にあるということです。
日本の物流企業も、単に自動運転車を購入するユーザーになるだけでなく、自社の運行データをAIの学習用データとして資産化し、テック企業と対等にパートナーシップを組む姿勢が必要です。
まとめ:2026年、物流の「中抜き」が変わる
Waabiの挑戦は、自動運転トラックが単なる「高速道路の巡航装置」ではなく、「熟練ドライバーの完全な代替」になり得ることを示しています。
- ハブ・アンド・スポークはコスト高: ドア・ツー・ドアの実現こそが経済合理性の鍵。
- 生成AIが開発を加速: 実走行距離に依存しない学習モデルが勝敗を分ける。
- 日本への教訓: インフラ整備と並行して、「一般道を含むラストワンマイル」の無人化技術に注目すべき。
2026年、もしWaabiの技術が確立されれば、「ハブでの積み替え」という工程そのものが過去の遺物になるかもしれません。既存のサプライチェーン構造を維持したまま、中身だけをAIに置き換える――そんな静かなる革命が、すぐそこまで迫っています。
物流の「混乱」が常態化する時代、海外の先端事例は、私たちが次に打つべき手を教えてくれています。

