【Why Japan?】なぜ今、米国の「物流内製化」論争に注目すべきか
日本の物流業界において、2024年は「運べなくなる危機」への対応に追われた一年でした。法規制への適応が一巡した今、2025年以降の経営課題は、より本質的な「サプライチェーンの支配権をどこまで持つか」という点にシフトしています。
これまで日本のコンビニエンスストアや小売業界は、大手商社系卸による強力な物流網に依存するモデルが主流でした。しかし、米国では2025年に入り、この構造を根底から見直す動きが加速しています。キーワードは「Revisiting big c-store supply chain moves of 2025(2025年のコンビニ大手サプライチェーン改革の再考)」です。
米国では今、巨額を投じて自社物流センター(DC)を建設し「完全内製化」を目指す勢力と、巨大卸(ホールセラー)との提携を強化して「広域効率化」を突き詰める勢力の二極化が進んでいます。
本記事では、米国の最新トレンドと事例を紐解きながら、日本の物流企業や小売経営層が参考にすべき「攻めの物流戦略」について解説します。
米国コンビニ業界を揺るがす2025年のサプライチェーン再編
2025年の米国コンビニエンスストア(C-store)業界は、かつてない規模のサプライチェーン構造改革の只中にあります。背景にあるのは、消費者の「生鮮食品(Fresh Food)」への需要急増と、インフレ下での「コストコントロール」への圧力です。
業界地図を塗り替える巨大合併とハイブリッド戦略
まず押さえておくべきマクロな動きは、卸売業界自体の再編と、小売側の戦略的な使い分けです。
2025年の象徴的な出来事として、食品卸大手C&S Wholesale GrocersによるSpartanNashの買収が挙げられます。これにより、全米で約60の物流センター(DC)と10,000店舗以上をカバーする巨大な流通ネットワークが誕生しました。この動きは、小売側に対して「強力な卸に依存するメリット」を提示する一方で、「卸の支配力が強まりすぎるリスク」も突きつけました。
これに対し、Circle Kを展開するAlimentation Couche-Tard(クシュタール)のようなグローバル企業は、「ハイブリッド型」の構築に動いています。
- ハイブリッド戦略の概要:
- 既存ルート: 従来通りMcLaneなどの大手卸と提携し、全米14州・約1,600店舗への安定供給を維持。
- 新規投資: 戦略的に重要なエリアには自社DC(または3PLと連携した専用DC)を開設し、物流の主導権を確保。
このように、単なる「内製か外注か」の二元論ではなく、エリアや商品カテゴリーによって最適解を使い分ける高度な判断が求められています。
【先進事例】独自路線を貫くKwik TripとSheetz、効率重視のLove’s
ここでは、2025年に際立った動きを見せた主要チェーンの戦略を比較します。特に注目すべきは、生鮮食品の品質管理をトリガーとした自社物流網の構築です。
大手チェーンの物流戦略比較(2025年版)
| 企業名 | 戦略の方向性 | 具体的なアクションと投資内容 | 日本企業へのヒント |
|---|---|---|---|
| Sheetz | 完全内製化 (品質重視) | ・オハイオ州に1億6,000万ドル(約240億円)を投じ新DC建設 ・2026年稼働予定 ・食品加工施設を併設し「できたて」を提供 | 生鮮食品の差別化には、物流拠点の「製造工場化」が不可欠。 |
| Kwik Trip | 垂直統合 (支配権確保) | ・ウィスコンシン州で28万平方フィート(約2.6万㎡)の巨大DC稼働 ・バナナ追熟室など特殊設備を内製化 ・配送頻度を自社で完全コントロール | 「バナナ」のような鮮度が命の商品こそ、自社物流のキラーコンテンツになる。 |
| Love’s | パートナーシップ (効率・拡大) | ・Core-Markとの契約を640店舗以上で統一 ・自社投資を抑え、店舗拡大スピードを優先 ・IT連携による在庫最適化に注力 | 急速な多店舗展開フェーズでは、メガ卸のインフラ活用が合理的。 |
| Wawa | パートナーシップ (広域展開) | ・McLaneとの長期契約を更新・拡大 ・フロリダなど新市場への進出を卸の物流網でカバー | 未開拓エリアへの進出コストを下げるため、既存の大手卸網に「相乗り」する。 |
SheetzとKwik Tripに見る「物流=商品力」の方程式
特筆すべきは、SheetzとKwik Tripの動きです。彼らは物流を単なる「コストセンター」ではなく、「商品品質の担保装置」として定義しています。
バナナ追熟室まで自前で持つKwik Tripの執念
Kwik Tripの新DCにおけるハイライトは、自社で「バナナ追熟室(Banana Ripening Rooms)」を設けた点です。
通常、バナナのような青果物は専門商社や卸が管理しますが、Kwik Tripはこれを内製化しました。
- 狙い: 店舗に並ぶ瞬間の「色」「硬さ」を完璧にコントロールする。
- 効果: 廃棄ロスの削減と、顧客満足度(常に美味しいバナナがある店)の向上。
これは日本のコンビニが「おにぎり・弁当」専用の製造物流網を持っているのと似ていますが、米国ではこれを常温・チルドを含めた広範な商品群で、小売側が自ら巨額投資を行って実現しようとしている点に凄みがあります。
Sheetzの1億6,000万ドル投資が示唆する「中食」の未来
Sheetzがオハイオ州に建設する新DCは、単なる在庫保管場所ではありません。ここは実質的な「セントラルキッチン兼物流拠点」です。
米国コンビニ業界では今、レストラン品質の食事を提供する「Foodservice」が最大の利益源となっています。Sheetzは、外部卸に任せていては実現できないレベルの食材管理と配送頻度を実現するために、日本円にして200億円以上を投じる決断を下しました。
Love’sとWawaが選んだ「メガ卸活用」の合理性
一方で、トラベルセンター(ガソリンスタンド併設型)大手であるLove’sや、東海岸の雄Wawaは、Core-MarkやMcLaneといった「メガ卸」との提携を強化しています。
彼らの優先順位は「広域での均質性」です。
全米に散らばる店舗網に対し、自社ですべてDCを建設するのは投資対効果が悪化します。特にLove’sのように高速道路沿いに展開する場合、Core-Markのような既存の強力なネットワークを持つパートナーに物流を委ね、自社リソースを「店舗オペレーションのDX」や「EV充電インフラ」に振り向ける戦略は極めて合理的です。
日本の物流企業・小売業への示唆
これらの米国の事例は、日本の商習慣とは異なる部分もありますが、多くの示唆を含んでいます。
1. 「卸任せ」からの脱却と再定義
日本では、三菱食品、伊藤忠食品、三井食品などの大手卸が非常に強力な機能を持っています。そのため、小売側が「あえて自社DCを持つ」ハードルは米国以上に高いのが現実です。
しかし、Kwik Tripの事例が示すように、「競合と決定的に差別化したいカテゴリー(例:成城石井のような高品質惣菜や、産直野菜など)」については、汎用的な卸物流から切り離し、コストをかけてでも自社(または専用3PL)で管理する動きが、日本でも今後強まるでしょう。
2. DX投資の矛先を変える
Krogerの事例でも触れましたが、米国の小売業は「ハードウェア(DC建設)」と「ソフトウェア(AI予測・自動化)」の両面に巨額投資を行っています。
日本の物流DXは「現場の省人化」にフォーカスしがちですが、米国の事例は「売上を作るための物流投資(鮮度管理、欠品防止)」という視点が強烈です。「守りのDX」から「攻めのDX」へ、投資のKPIを見直す時期に来ています。
3. ハイブリッド・ネットワークの構築
Couche-Tardの戦略は、日本企業にとって最も現実的な解です。
すべてを自社化する体力がない場合でも、「コア商材は自社DC」「グロサリーは大手卸」「ラストワンマイルはギグワーカー」といったように、機能をレイヤー分けして最適なパートナーを組み合わせる「オーケストレーション能力」が、物流部門のリーダーに求められます。
まとめ:物流拠点は「倉庫」から「価値創造センター」へ
2025年の米国コンビニ業界の動きは、「物流を制する者が、店舗の棚(商品力)を制する」という事実を改めて浮き彫りにしました。
- SheetzやKwik Tripのように、品質支配のために巨額投資で内製化するか。
- Love’sのように、スピードと効率のために巨大プラットフォームに乗るか。
- あるいはCouche-Tardのように、その両方を使い分けるか。
どの戦略を選ぶにせよ、共通しているのは「物流戦略が経営戦略のど真ん中にある」ということです。
日本の物流現場も、単に「荷物を運ぶ」役割を超え、サプライチェーン全体の設計図を描き直す提案力が、今こそ求められています。


