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ニュース・海外 2026年1月13日

2026年は「支配権」争奪へ。物流M&Aが回復から戦略再編へ向かう理由

Transport & Logistics M&A 2026 outlook – why it matters more than 2025

2025年末にかけて、世界の物流・輸送業界におけるM&A(合併・買収)は大きな転換点を迎えています。パンデミック後の混乱を収拾するための「調整局面」が終わり、2026年は今後10年のサプライチェーンの覇権を決定づける「戦略的再構築(Strategic Recalibration)」の年になると予測されています。

日本の物流企業や荷主企業にとって、これは対岸の火事ではありません。グローバルプレイヤーたちが「量」ではなく「支配力」を求めて動き出した今、この潮流を読み解くことが、激動の時代を生き残る鍵となります。本記事では、海外の最新M&Aトレンドと、そこから日本企業が得るべき示唆について解説します。

2026年に向けた「戦略的再構築」とは何か

これまで物流業界のM&Aといえば、取扱量を増やすための「規模の拡大」が主流でした。しかし、最新の海外レポートが示す2026年のトレンドは異なります。キーワードは「戦略的再構築(Strategic Recalibration)」です。

「量」から「質と支配力」へのシフト

2021年から2022年にかけての海運ブームのような、単純な量的回復(リバウンド)は2026年には期待されていません。その代わり、欧州や中東の巨大プレイヤーたちは、より規律ある選択的な投資へと舵を切っています。

具体的には、単に船の数を増やすのではなく、「港湾ターミナル資産」や「陸上物流ネットワーク」を直接保有する動きが加速しています。これは、海上輸送から陸上配送までを一貫して管理する「垂直統合」を完成させ、サプライチェーン全体の支配力を高めようとする動きです。

欧州委員会による監視の強化

この垂直統合の動きに対し、規制当局も警戒を強めています。欧州委員会(EC)の競争当局は現在、市場支配力の過度な集中を懸念し、特定の海運大手に対する詳細な調査を開始しました。

特に焦点となっているのは、海運会社が港湾運営会社やフォワーダーを買収することで、競合他社を排除したり、価格決定権を独占したりするリスクです。2026年は、こうした「企業の野心」と「規制当局の監視」が激しく衝突する年になるでしょう。

参考記事:2026年「攻めの物流」5つの潮流。USMCAと自律AIが分ける勝敗

加速する「港湾・ターミナル」争奪戦の最前線

世界では今、海運会社(キャリア)が「船」以上に「港」を欲しがる現象が起きています。ここでは、象徴的な3つの主要プレイヤーの動きを見ていきます。

Hapag-Lloyd:インフラ資産のブランド化

ドイツの海運大手Hapag-Lloyd(ハパックロイド)は、2026年に向けてターミナル事業の強化を鮮明にしています。同社は新たに「Hanseatic Global Terminals」というブランドを立ち上げ、世界各地の港湾ターミナル資産を統合・管理する体制を整えました。

これは単なる投資ではなく、自社船の寄港優先権を確保し、遅延リスクを最小化するための戦略的防衛策です。自前のターミナルを持つことは、予測不能なサプライチェーンの混乱に対する最強の保険となります。

MSC:全方位的な垂直統合と規制の壁

世界最大のコンテナ船社であるMSC(Mediterranean Shipping Company)は、最も攻撃的なM&Aを展開しています。同社は、ドイツの港湾運営会社HHLA(Hamburger Hafen und Logistik AG)の株式取得を進めるなど、欧州主要港の「大家」になろうとしています。

しかし、この急速な拡大が欧州委員会の調査対象となっています。MSCの戦略は、海運、港湾、陸送、さらには航空貨物までを1社で完結させる「エンド・ツー・エンド」の支配ですが、2026年は独占禁止法との戦いが待ち受けています。

AD Ports Group:中東からの新たな刺客

アブダビを拠点とするAD Ports Groupもまた、台風の目です。豊富なオイルマネーを背景に、彼らは欧州やアジア、アフリカでの大規模な買収(Takeover)を準備しています。

彼らの動きは「物流」の枠を超え、国家戦略としての「貿易ルートの確保」という側面が強く、既存の欧米系プレイヤーとは異なる力学で市場を揺るがしています。

以前の記事でも触れましたが、こうした新興勢力の台頭は、スリランカのような要衝での港湾開発競争ともリンクしています。

参考記事:コロンボ混雑で急伸。スリランカ「第2の港」が迫る物流ルートの多重化

主要プレイヤーのM&A戦略比較

世界の海運・物流大手がどのような狙いで動いているのか、その違いを整理します。

企業・グループ名 本拠地 2026年に向けた主な戦略 狙いと懸念点
Hapag-Lloyd ドイツ ターミナル事業の新ブランド化(Hanseatic Global Terminals)による資産統合。 【守りの統合】 自社船の安定運航確保が主眼。堅実だが爆発力には欠ける可能性。
MSC スイス 港湾運営会社(HHLA等)への出資拡大による完全な垂直統合。 【攻めの独占】 圧倒的な支配力を目指すが、ECによる独禁法調査が最大のリスク。
AD Ports Group UAE 豊富な資本を背景とした、クロスボーダーな大規模買収と拠点拡大。 【新興の覇権】 欧州・アジア間の貿易ルートを掌握する国家戦略的な動き。

日本企業への示唆:グローバル再編の中でどう戦うか

海外の「メガキャリアによる垂直統合」というトレンドは、日本の物流業界にとってどのような意味を持つのでしょうか。日本の商習慣や市場環境に照らし合わせて考察します。

「枠」を確保できないリスクへの備え

海外の大手船社が港湾ターミナルを自社所有するということは、有事の際に「自社グループの貨物を最優先する」ことを意味します。
日本の荷主やフォワーダーが、これまで通り「中立的なサービス」を期待していると、港湾混雑時に後回しにされるリスクがあります。

2026年以降、日本企業は単に運賃の安さだけでなく、「どの船社がどの港の優先権を持っているか」というインフラ支配構造を理解した上で、委託先を選定する必要があります。

M&Aにおけるデューデリジェンスの重要性

日本国内でも物流業界のM&Aは活発化していますが、海外の事例から学ぶべき教訓があります。それは「統合後のシナジー」に対する厳しい目線です。
米国では急速な統合を目指した物流企業が、財務不備やシステム統合の失敗により破綻の危機に瀕するケースも報告されています。

「2024年問題」対応のための規模拡大も重要ですが、2026年を見据えた場合、システムや文化の適合性を無視したM&Aは致命傷になりかねません。海外の「戦略的再配分(規律ある投資)」という姿勢こそ、今の日本企業に必要なマインドセットです。

参考記事:米国発「統合失敗」の衝撃。物流M&A急拡大に潜む致命的リスク

日本企業がとるべき「ニッチトップ」戦略

巨大資本による垂直統合に対抗するため、日本企業がすべて同様のM&Aを行うことは現実的ではありません。代わりに有効なのが、特定の地域や商材、技術に特化した「ニッチトップM&A」や提携です。

  • 特定航路の強化: 東南アジア域内など、メガキャリアの手が届きにくいエリアでの現地物流企業の買収。
  • コールドチェーン特化: 食品や医薬品など、高度な管理が必要な分野での技術的統合。

海外の巨人が「面」を支配しようとするなら、日本企業は「点」や「線」の質を高め、彼らのネットワークにとって「なくてはならないパートナー」の地位を確立することが、2026年以降の生存戦略となります。

まとめ:2026年は今後10年の「骨格」が決まる年

2026年の物流M&Aトレンドは、単なる景気回復の波に乗るものではありません。それは、パンデミックの教訓を経たグローバル企業たちが、より強固で、より支配的なサプライチェーンを構築するための「構造改革」です。

  1. 量より支配力: 船社による港湾買収(垂直統合)が進み、インフラへのアクセス権が競争力の源泉になる。
  2. 規制の壁: 独占に対する監視が厳しくなり、M&Aのハードルは高くなる。
  3. 日本の活路: 規模で対抗するのではなく、戦略的な「質」の確保と、リスクを見極めた提携・買収が必要。

経営層やDX担当者の皆様は、国内の課題(人手不足・法改正)に対応しつつも、この世界的な「支配権争奪戦」の行方を注視してください。2026年に築かれた新たな物流の骨格は、今後10年間のビジネス環境を規定することになるでしょう。

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