トランプ次期米大統領がソーシャルメディア「Truth Social」で放った一言が、世界の物流関係者を震撼させています。「カナダ産品すべてに100%の関税を課す」。この警告は、単なる政治的な駆け引きを超え、北米サプライチェーンの根幹を揺るがす事態へと発展しつつあります。
背景にあるのは、カナダと中国が接近しつつある新たな貿易協定と、それを「米国の裏口」として利用されることへの強い警戒感です。もしこの関税が現実のものとなれば、自動車産業を中心に、米国経済は激しいインフレに見舞われ、その余波は日本企業にも確実に及びます。
なぜカナダが標的になったのか、そして日本企業はこの地政学リスクとどう向き合い、どのような手を打つべきなのか。海外の最新動向とデータをもとに、日本の物流・経営層が押さえるべきポイントを解説します。
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トランプ「関税100%」発言の真意と北米物流の激震
2024年10月時点で、米国がカナダ製品に課している実効関税率は平均3.89%です。これを一気に100%へ引き上げるというトランプ氏の構想は、まさに「異次元」の措置と言えます。
中国の「迂回ルート」を封じる狙いとは
トランプ氏が問題視しているのは、カナダが中国製品の「荷降ろし港(drop off port)」として機能し、米国市場への抜け穴になることです。
米国は対中関税を強化し続けていますが、中国企業はメキシコやカナダを経由することで、原産地を偽装したり関税を回避したりする「迂回輸出」を試みてきました。トランプ氏は、カナダが中国との経済的な結びつきを強めることで、この抜け穴が公認されることを恐れています。
特に懸念されているのが、電気自動車(EV)やその部品、そして鉄鋼・アルミニウムといった戦略物資です。これらがカナダ経由で無関税(あるいは低関税)で米国に流入すれば、米国内の製造業保護政策は骨抜きになります。トランプ氏の「100%関税」発言は、カナダ政府に対し、中国との協定を見直すか、あるいは米国市場へのアクセスを失うかという究極の二者択一を迫るものです。
カナダ・中国間の予備的合意が招いた火種
今回の引き金となったのは、カナダと中国の間で進められている予備的な貿易協定です。3月に一部発効が予定されているこの合意には、以下の内容が含まれていると報じられています。
表1:カナダ・中国間の予備的合意の主要ポイント
| 項目 | 内容と影響 |
|---|---|
| 中国産EVの輸入 | 年間49,000台規模の関税削減枠を設定。安価な中国製EVが北米市場に足場を築く可能性。 |
| 農産物市場の開放 | カナダ産農産物の対中輸出拡大と引き換えに、中国製品の受け入れを促進。 |
| 重要鉱物の協力 | EVバッテリーに不可欠なリチウムなどの供給網連携。米国の「脱中国」戦略と逆行する動き。 |
この動きは、米国が主導する「対中包囲網」に風穴を開けるものであり、トランプ氏にとっては看過できない裏切り行為と映ったのです。
実行されれば「異次元」のインフレが米国を襲う
ミシガン州立大学のサプライチェーン管理専門家、ジェイソン・ミラー教授(Jason Miller)をはじめとする多くの専門家は、この関税が実行されれば米国内で深刻なインフレを招くと警告しています。
カナダは米国にとって最大の貿易相手国の一つであり、特にエネルギー(原油)と自動車産業において、両国の経済は不可分に統合されています。
- エネルギー価格の高騰: カナダは米国への最大の原油供給国です。ここに関税がかかれば、米国内のガソリン価格や輸送コストが直撃を受けます。
- 自動車産業の麻痺: 米国の自動車工場は、カナダ製の部品やカナダで組み立てられた車両に依存しています。
- 消費者物価の上昇: 食料品から建材に至るまで、あらゆる輸入品の価格が倍増する恐れがあります。
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自動車産業を直撃するサプライチェーン寸断のリスク
この問題で最も深刻な打撃を受けるのが自動車産業です。北米の自動車サプライチェーンは、国境をまたいで部品が行き交う複雑なネットワークで成り立っています。
北米自動車産業の統合性とカナダの重要性
デトロイトの自動車メーカー(GM、フォード、ステランティス)だけでなく、トヨタやホンダといった日本メーカーも、カナダに大規模な生産拠点を構えています。これらの工場で生産された車両の多くは米国へ輸出されています。
もし100%の関税が課されれば、カナダ工場で生産された車両を米国で販売することは事実上不可能になります。例えば、3万ドルの車に関税が上乗せされれば6万ドルになり、市場競争力を完全に失うからです。
想定されるシナリオ:
1. 工場の操業停止: カナダ工場の稼働率が劇的に低下、あるいは閉鎖に追い込まれる。
2. 部品供給の途絶: エンジンやトランスミッションなど、カナダ製の基幹部品が米国工場に届かなくなり、米国内のラインも止まる。
3. 物流コストの爆増: 代替調達先の確保に走る企業により、航空貨物やトラック輸送のスポット運賃が高騰する。
過去の「対メキシコ関税」事例から学ぶ企業の対応策
トランプ氏は第1次政権時代の2019年にも、不法移民対策を理由にメキシコ製品への関税引き上げを警告しました。当時の企業の動きは、今回のカナダ危機への対応のヒントになります。
当時の企業の対応(ケーススタディ):
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在庫の積み増し(駆け込み需要):
関税発動の期日前に、可能な限り製品を国境の北側(米国側)へ移動させる動きが活発化しました。これにより一時的にトラック運賃が高騰し、国境での渋滞が発生しました。現在、カナダ国境でも同様の「駆け込み輸送」が発生する予兆があります。 -
ロビー活動の強化:
全米商工会議所や自動車工業会などが結束し、関税が米経済に与えるダメージを政権に訴え続けました。結果的に関税発動は回避されましたが、企業にとっては「政治リスクがいかに経営を左右するか」を痛感させる出来事でした。 -
生産拠点の分散検討:
これを機に、「チャイナ・プラス・ワン」だけでなく、「北米内でのリスク分散」を意識する企業が増えました。
現在、日本企業に求められているのは、こうした過去の教訓を活かし、最悪のシナリオ(関税発動)と、現実的な落としどころ(交渉による回避)の両方を想定した準備です。
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日本企業が直面する「巻き添え」リスクと対策
「カナダと米国の喧嘩だから関係ない」では済まされません。北米市場でビジネスを行う、あるいは北米経由で貨物を動かす日本企業にとって、この問題は直近の経営課題です。
北米生産拠点の見直しと調達ルートの複線化
日本企業の多くは、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)のメリットを享受するために、カナダやメキシコに拠点を置いています。しかし、トランプ氏の復帰により、USMCA自体の再交渉や形骸化のリスクが高まっています。
日本企業が検討すべきアクション:
– 原産地証明の厳格管理: 自社製品が「中国迂回」とみなされないよう、サプライチェーンの透明性を高め、部品レベルでの原産地管理を徹底する。
– 代替ルートのシミュレーション: カナダ経由の物流ルート(例:バンクーバー港揚げで鉄道輸送など)が寸断された場合、米国の西海岸(LA/LB港)や東海岸へのルート変更が可能か、コストとリードタイムを試算しておく。
– 在庫拠点の再配置: 国境をまたぐ頻度を減らすため、主要市場(米国)国内に在庫拠点を移す「オンショアリング」の検討。アパレル企業のAritziaが実施したような、物流拠点の国内回帰戦略が有効になる局面です。
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地政学リスクを管理する物流DXの活用
このような突発的な関税リスクに対応するには、人手による管理では限界があります。ここで重要になるのが、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)です。
DXで実現すべきリスク管理:
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サプライチェーンの可視化(デジタルツイン):
どの部品が、どの国のどの工場から来ているかをリアルタイムで把握する。関税の影響を受ける品目を即座に特定し、財務インパクトを計算できる体制を整える。 -
動的なルート最適化:
AIを活用し、関税コストを含めたトータルコスト(Landed Cost)が最小になるルートを自動算出するシステムを導入する。関税が100%になった瞬間、どのルートに切り替えるべきかをシステムが提案できる状態が理想です。 -
通関プロセスの自動化:
複雑化する原産地規則に対応するため、AIによるHSコード分類や書類作成の自動化を進め、コンプライアンス違反によるペナルティを防ぐ。
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まとめ:不確実性を前提とした「柔らかな」サプライチェーンへ
トランプ大統領の「カナダ関税100%」発言は、北米自由貿易の前提を覆す衝撃的な出来事です。たとえこれが交渉戦術としての「脅し」であったとしても、地政学リスクが物流コストを直撃する時代に入ったことは間違いありません。
日本企業にとっての教訓は、「固定化された効率性」よりも「変化に対応できる柔軟性」が重要になったということです。安くて早いルートが、一夜にして「通れないルート」になる可能性があります。
- カナダ・中国の接近に対する米国の強硬姿勢は続く。
- USMCAエリア内であっても、関税ゼロの特権は安泰ではない。
- DXによる可視化とシミュレーション能力が、企業の生存率を分ける。
2025年以降、物流戦略は単なるコスト削減ではなく、国家間のパワーゲームを読み解く「経営戦略そのもの」へと昇華していくでしょう。今こそ、有事に即応できる強靭なサプライチェーン構築に着手すべき時です。

