2026年1月第4週。今週は、物流業界における「AI」の定義が決定的に書き換わった一週間として記憶されるでしょう。これまで画面の中での処理に留まっていたAIが、物理的な身体性を獲得し、現実世界(フィジカル)への直接介入を本格化させました。
Google DeepMindの頭脳がBoston Dynamicsの肉体を動かし、テスラの完全無人車が商用化され、SCSKが「フィジカルAI」へ参入する。これらの事象は、物流DXが「効率化のためのツール導入」から、「自律的な労働力の確保」へとフェーズ移行したことを示しています。一方で、地政学的なリスクや業界再編の波も最高潮に達しており、攻めと守りの両面で経営判断の質が問われる局面に入りました。
本サマリーでは、今週公開された20本の重要記事を体系化し、経営層が押さえるべき「実世界AIの台頭」「ソフトウェア定義型への転換」「地政学と構造改革」の3つの潮流を読み解きます。
1. 「具身知能(Embodied AI)」の爆発的進化と現場実装
今週最大のトピックは、AIが物理的な身体を持って作業を行う「具身知能(Embodied AI)」の急速な進展です。研究室レベルの話ではなく、実用化を前提とした提携や製品発表が相次ぎました。
Googleの頭脳がロボットの「常識」を変える
物流ロボットの課題は「教え込まれたことしかできない」点にありましたが、その壁が崩れつつあります。
Google AI×ボストンダイナミクス。人型ロボット「実務」時代の幕開けの記事にある通り、Boston Dynamicsの運動能力とGoogleのマルチモーダルAI「Gemini」の融合は、ロボットが「状況を判断して動く」時代の幕開けを告げました。これにより、不定形な作業が多い物流現場での活用が一気に現実味を帯びてきます。
また、この流れを加速させるのが「学習コストの低下」です。動画を見るだけで「物理」を学習?1X社「World Model」が壊すロボット導入の常識で紹介した1X社の技術は、ロボットがYouTube動画などから物理法則を学び、プログラミングなしでタスクを習得する可能性を示しました。これは、導入障壁となっていた「ティーチングコスト」を劇的に下げる破壊的イノベーションです。
日本の現場が挑む「フィジカルAI」の実装
この世界的潮流に対し、日本企業も動き出しています。SCSKがAIRoA参画|「フィジカルAI」で挑む物流現場の自律化革命に見られるように、国内大手SIerがロボットの「脳」の開発に参画することは、ハードウェア依存からの脱却を意味します。
さらに具体的な実装の場として注目すべきは、自動運転と荷役をAI統合|TRC平和島「フィジカルAI WG」発足の衝撃です。ここでは自動運転トラックと倉庫内ロボットをAIで接続し、物流のボトルネックである「荷役」の完全自動化を目指しています。AIがサイバー空間から飛び出し、トラックバースという物理的結節点を制御し始めたのです。
モビリティと物流の境界消滅
移動体(モビリティ)の領域でも、AIによる自律化が止まりません。テスラ「完全無人」商用化へ。物流DXが直面する実世界AIの衝撃では、イーロン・マスク氏がロボタクシー事業を通じて「実世界AI」の覇権を狙う姿勢が鮮明になりました。
また、配送ロボが病院へ。「Uber系」Serveの買収劇が示す2025年プラットフォーム戦略にあるように、屋外配送ロボット企業が院内物流企業を買収する動きは、「外」と「中」をシームレスに繋ぐプラットフォーム競争の激化を示唆しています。
2. 「ハード」から「ソフト」へ主戦場がシフトする自動化戦略
ロボットやマテハン設備の性能競争が一段落し、今週の記事からは「ソフトウェアの力で既存設備やハードウェアの価値を最大化する」というトレンドが浮き彫りになりました。
ソフトウェア定義型(Software-Defined)の物流
象徴的なのが、AutoStore×AIロボットの新機軸。スウェーデン3PLの「柔軟な自動化」です。物理的なレイアウト変更をせずとも、ソフトウェア上でロボットの動作範囲を定義し直すだけで多品種対応を実現するアプローチは、変化の激しい3PLにとって最適解となり得ます。
同様に、センサー追加なしで故障予測。独FestoのAI保全が物流を変えるも、新たなハードウェア投資をせず、既存設備のデータをAI解析することで予知保全を実現しており、「あるものを活かす」DXの好例です。
ニッチ領域のデジタル化と最適化
巨大なシステムだけでなく、特定の課題を解決する「ニッチなデジタル化」も進んでいます。
ナビタイム新機能|施設独自の「入庫動線」対応ルート検索が着車効率を変えるは、これまでベテランの頭の中にしかなかった「入庫のローカルルール」をデジタル化し、ラストワンマイルの着車効率を改善します。
また、多品種少量対応自動倉庫「rBox」|製造現場も視野に「荷役時間短縮」へ挑むや、冷食バラ出荷の自動化へ|Robowareセミナーに見る物流現場の次の一手のように、これまでは自動化が難しかった「極小部品」や「冷凍環境」といった特定領域に特化したソリューションが登場しています。
巨大ERPからの脱却とコンポーザブル化
システム選定の思想も変わりつつあります。CargoWise一強の終焉?欧米で加速する「脱・巨大ERP」の衝撃では、何でもできる巨大システムへの依存を脱し、各機能に特化したSaaSをAPIで繋ぐ「コンポーザブル(構成可能)な物流」へのシフトが指摘されています。変化への柔軟性を確保するため、システムを「一枚岩」から「ブロックの集合体」へと変える動きです。
3. 地政学リスクと国内再編が迫る「サプライチェーンの要塞化」
技術革新の一方で、外部環境のリスク増大と、それに対抗するための国内業界再編が加速しています。
北米リスクと「物流の国内回帰」
トランプ次期大統領の発言が波紋を広げています。北米物流崩壊の危機。トランプ「カナダ関税100%」警告と日本への余波は、サプライチェーンが政治的な人質になるリスクを浮き彫りにしました。
これに対し、「免税撤廃」でも利益増。米アパレルが挑んだ物流拠点の国内回帰で紹介されたAritziaの事例は、越境EC依存のリスクを見抜き、物流拠点を需要地(米国内)へ移すことで関税リスクを回避し、利益率を向上させるという「攻めの守り」を示しています。
生き残りをかけた国内M&Aと連合形成
リスクへの対抗策として、企業の巨大化・グループ化が進んでいます。センコーGHDが丸運へTOB開始|非公開化で挑む「再編と生存戦略」は、DXやGX(脱炭素)への巨額投資に耐えうる体力をつけるための必然的な動きです。
また、伊藤忠×エニキャリ提携|EC包括支援で狙う「物流のワンストップ化」とはのように、商社の総合力とスタートアップの機動力を組み合わせ、川上から川下までを一気通貫で抑える動きも活発化しています。
新技術によるモーダルシフトの可能性
人手不足への対抗策として、日本ロジテム×シーネット|AMR実証開始に見る「後付け自動化」の勝算のような既存倉庫でのAMR活用に加え、全く新しい輸送モードも提案されています。
機関車不要「自走する貨車」の衝撃。米国発・鉄道DXが奪うトラック需要や、棚卸し完全無人化の衝撃|ドローン凧システムが実現する効率500%増といった技術は、従来の人海戦術やトラック依存からの脱却を促すゲームチェンジャーとなり得ます。
そして、これら全ての変革を統括する責任者として、JILS大橋会長「支援に全力」|物流統括管理者義務化へ企業がすべきことにあるように、役員級のCLO(最高物流責任者)の設置が急務となっています。物流はもはや現場の改善活動ではなく、経営戦略そのものになったのです。
来週以降の視点(Strategic Outlook)
今週のニュース群から、来週以降注視すべきポイントは以下の3点に集約されます。
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「VLAモデル」の現場検証データの動向
GoogleとBoston Dynamicsの提携発表を受け、今後は「実際にどの程度の曖昧な指示でロボットが動くのか」という実証データが出てくるはずです。特に、日本の物流現場特有の「整理されていない環境」での適応能力に注目してください。 -
「システム連携(APIエコシステム)」の具体化
CargoWise離れやSCSKの動きに見られるように、異なるメーカーのロボットやソフトウェアをどう繋ぐかが勝負になります。単体の製品発表よりも、「どのプラットフォームと連携したか」「どのOSを採用したか」というニュースが、将来の勝者を占う鍵となります。 -
地政学リスクへの「具体的な」対抗策
トランプ政権の政策は予測不可能です。Aritziaのように「拠点を動かす」という大胆な決断をする企業が日本でも現れるか。また、CLO義務化に向けて、各社がどのような人物(現場叩き上げか、経営プロか)をトップに据える人事を行うかにも注目が集まります。
2026年の物流は、「AIという新しい労働力」をマネジメントしつつ、「分断される世界」の中でサプライチェーンを繋ぎ止めるという、極めて高度な経営手腕が試される一年となるでしょう。


