「動態管理システムを導入したが、結局現場が電話で確認している」
「ドライバーにアプリを入れてもらったが、位置情報が正確ではない」
日本の物流DX担当者から、こうした嘆きが聞こえて久しくなります。2024年問題への対応として可視化ツールの導入が進む一方、現場の負担がむしろ増えているというパラドックスが発生しています。
実は今、米国でも同様の「可視化疲れ(Visibility Fatigue)」が課題となっています。そして、この状況を打破すべく、物流可視化のパイオニアである米Descartes Systems Group(デカルト)が、新たな一手「OpsForce AI」を打ち出しました。
本記事では、Descartesが発表した最新の自律型AI(Agentic AI)ソリューションを徹底解説。単なる「見える化」を超え、AIが自律的にトラブルへ介入する次世代の動態管理トレンドを、日本の物流企業がいかに取り入れるべきか紐解きます。
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なぜ今、可視化ツールの「質」が問われているのか
米国では日本に先駆けてリアルタイム可視化(RTTV)が普及しましたが、その弊害も顕在化しています。Descartesの動きを理解するために、まずは米国市場が直面している「信頼性の危機」について解説します。
「可視化疲れ」を起こす米国の物流現場
米国の物流テック市場では、長らく「接続数(ネットワーク規模)」が競争の主軸でした。「何百万台のトラックと繋がっているか」が評価基準となり、多くのプラットフォーマーが規模の拡大に走りました。
しかし、その結果生じたのはデータの質の低下です。
古いデータや不正確な位置情報がシステムに混在することで、荷主やブローカー(利用運送事業者)はシステム上の表示を信用できなくなりました。結果として、システムがあるにもかかわらず、運行管理者(ディスパッチャー)やドライバーに対して「今どこにいますか?」という確認電話(Check Call)が殺到する事態に陥っています。
信頼性低下が生む負の連鎖
Descartesのネットワーク担当副社長、Andrew Wimer氏は、現状の課題について「テクノロジーによるハラスメント」に近い状態だと指摘しています。
従来型の安価な可視化ツールや、設定が不十分なAIボットは、位置情報が数分途切れただけでドライバーに自動電話をかけ続けます。運転中や休息中のドライバーにとって、これは業務妨害以外の何物でもありません。
- ドライバーの不満: 監視されているストレスと、無意味な確認電話による業務中断。
- データの欠落: 嫌気が差したドライバーが追跡アプリを削除、または位置情報をオフにする。
- 業務効率の悪化: 結局、人間が電話で追いかけるアナログ業務に逆戻りする。
この「負の連鎖」を断ち切るために開発されたのが、Descartesの「OpsForce AI」です。
Descartes「OpsForce AI」が変える動態管理の常識
Descartesは、自社が持つ巨大な追跡ネットワーク「MacroPoint™」上に、自律的に判断して行動するAIエージェント「OpsForce AI」を実装しました。これは従来の「受動的な監視」から、「能動的な介入」への大きな転換点です。
途切れない追跡を実現する「ELD plus」戦略
OpsForce AIの中核にある概念が、「ELD plus(ウォーターフォール追跡)」です。これは、データの取得方法に明確な優先順位を設け、高品質なデータが取れなくなった時だけ、自動的に次の手段へ切り替える仕組みです。
| 優先順位 | 追跡手段 | 特徴 | 従来の課題 |
|---|---|---|---|
| 第1優先 | ELD / テレマティクス | 車載機器からの直接データ。精度が高く、ドライバーの操作不要。 | 接続設定が複雑で、中小運送会社での導入ハードルが高い。 |
| 第2優先 | モバイルアプリ | ドライバーのスマホアプリ経由。 | バッテリー消費やプライバシー懸念で、ドライバーがOFFにしがち。 |
| 第3優先 | AIエージェント | SMSや音声ボットによる自動確認。 | 頻繁な連絡がスパム扱いされ、着信拒否される。 |
OpsForce AIの革新性は、この切り替えをAIが自律的に行う点にあります。
例えば、ELD(電子記録装置)の信号が途絶えたとします。従来のシステムであれば、即座にエラー通知を出すか、人間が電話をしていました。しかしOpsForce AIは、まず「なぜ途切れたか」を判断し、ドライバーのアプリ位置情報を確認しに行きます。それも取れない場合のみ、AIエージェントが「状況確認」のメッセージを送ります。
必要な時だけ介入する3つの自律型エージェント
Descartesは今回、特に現場の負担軽減に直結する3つのAIエージェント機能を先行して提供しています。これらは単なるチャットボットではなく、目的を達成するために自律的にプロセスを実行する「Agentic AI(エージェント型AI)」です。
1. Carrier Onboarding Agent(導入支援エージェント)
新規の運送会社やドライバーがネットワークに参加する際の「設定」を自動化します。ELDの接続方法が分からない、アプリの設定が間違っているといった技術的な問題を、AIが対話形式でサポート。これにより、人間が電話で手取り足取り教える時間を削減します。
2. Check Call Agent(追跡復旧エージェント)
これが最も現場の負担を減らす機能です。追跡データが途切れた際、AIがドライバーや運行管理者に連絡を取り、追跡の復旧を試みます。「今どこですか?」と聞くだけでなく、「ELDの電源が入っていないようです」「アプリの位置情報許可がOFFになっています」といった具体的なトラブルシューティングを提示し、データフローを回復させます。
3. Arrival / Departure Agent(発着確認エージェント)
ジオフェンス(仮想の境界線)だけでは判定が難しい「実際の到着・出発時刻」や「荷積み・荷降ろしの完了」を確認します。AIがドライバーと連携し、証跡となるドキュメントの回収までをサポートすることで、請求処理の迅速化にも寄与します。
同様の取り組みとして、米大手フォワーダーのC.H. RobinsonもAIエージェントによる自動化を進めています。
併せて読む: 4時間が90秒に。米C.H. Robinsonが実証した「AIエージェント」の破壊力
日本の物流現場が学ぶべき「例外管理」の自動化
Descartesの事例は米国市場の話ですが、日本の物流企業にとっても極めて重要な示唆を含んでいます。特に「2024年問題」以降、ドライバーの労働時間管理が厳格化される中で、以下のポイントは即座に参考になります。
多重下請け構造における「見えないリスク」への対処
日本の物流は多重下請け構造(実運送体制の不透明さ)が課題です。元請け企業が導入したシステムに、下請け、孫請けのドライバーがすべて正確に従ってくれるとは限りません。
Descartesの「ELD plus」のアプローチは、「データが取れないことを前提にする」という点で日本向きです。
「全員が完璧にアプリを使ってくれる」という性善説ではなく、「データが途切れることはある。その時にどう自動で復旧させるか」という例外管理(Management by Exception)の思想設計が、DX成功の鍵となります。
日本の現場でも、全車両に高価なデジタコを義務付けるのが難しい場合、こうした「通常はデジタコ、ダメならアプリ、最終手段はAI電話」という柔軟なウォーターフォール型の管理体制が、現実的な解となるでしょう。
今すぐ始められる「電話削減」へのアプローチ
AIエージェント導入の最大のメリットは、「人間がやるべき電話」と「機械がやるべき電話」の選別です。
日本の配車担当者は、1日に数十本の確認電話に追われています。その多くは「あと何分で着くか」「無事に着いたか」という定型的な確認です。
Descartesの事例が教えるのは、「信頼関係の構築」のためにテクノロジーを使うという視点です。
- NG: 位置情報が取れないからといって、1時間に1回機械的に電話をかける。
- OK: AIが背景を判断し、「渋滞で遅れている可能性があるため、到着予定を確認しますか?」と必要なタイミングでのみ介入する。
このように、ドライバーの状況を「推測」した上でコミュニケーションを取るAIの導入は、人手不足が深刻な日本の運送会社において、配車係の負担を劇的に下げる可能性があります。
まとめ:ドライバーとの信頼関係こそが最強の可視化ツール
Descartesが「OpsForce AI」で目指しているのは、完全無人化ではなく、「ドライバーと運行管理者の信頼回復」です。
物流DXというと、どうしても「管理強化」や「監視」の側面に目が行きがちです。しかし、過度な監視や低品質なAIによるスパム的な連絡は、現場のモチベーションを下げ、結果としてデータの質を落とすという本末転倒な結果を招きます。
今後の展望
– 2025年後半: 日本国内でも、単純な位置情報追跡だけでなく、生成AIを活用した「対話型」の動態管理サービスが増加するでしょう。
– 2026年以降: 米国同様、ELD(デジタコ)データとアプリをシームレスに連携させ、人間が意識せずとも追跡が継続される「自律型可視化」が標準になると予測されます。
日本の経営層やDX担当者は、「システムを入れたから終わり」ではなく、「そのシステムは現場に不必要な負荷をかけていないか?」という視点を持つ必要があります。Descartesの事例は、テクノロジーが「現場の邪魔をしない」レベルにまで進化したことを示しています。次は、日本の現場がその恩恵を受ける番です。


