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ニュース・海外 2026年3月19日

「空陸統合」で拠点30%削減!米FedExに学ぶ脱ラストワンマイルと次世代物流戦略

FedEx to shutter 9 New York parcel centers

日本の物流業界が「2024年問題」の対応に追われる中、アメリカの巨大物流企業は既にその先のフェーズへと突き進んでいます。同じ地域に同じ企業のトラックが複数台走る非効率に疑問を持ったことはないでしょうか。

【Why Japan?】なぜ今、日本企業がこの海外トレンドを知る必要があるのか。日本の物流現場では長年、事業部ごとやグループ会社間での独立したネットワーク運営が当たり前とされてきました。「宅配便」と「法人向け重量物」が別々の車両で運ばれ、同じエリアで非効率な配送が繰り返されるケースは珍しくありません。しかし、労働人口の減少とドライバー不足が深刻化する現代において、この「重複」は経営を圧迫する最大の要因となっています。

こうした中、アメリカの物流大手FedEx(フェデックス)が打ち出したのが、かつてない規模の事業構造改革「Network 2.0」です。長年独立していた航空便と陸上便の配送網を完全に一元化し、「1つの地域に1台の車両」という究極の効率化を目指しています。本記事では、FedExがニューヨーク州などで進める大規模な拠点閉鎖の裏側を紐解き、日本の経営層やDX推進担当者が学ぶべき「次世代の構造改革」について解説します。

海外物流市場における戦略転換の潮流

米国や欧州の物流業界では、パンデミック特需の終焉とともに大きなパラダイムシフトが起きています。EC需要の落ち着きと、最大顧客であったAmazonの物流内製化(インソーシング)が重なり、従来の「ラストワンマイルの物量増を前提としたビジネスモデル」が限界を迎えているのです。

米国市場を揺るがす「低収益事業からの脱却」

アメリカでは近年、大手物流企業が相次いで戦略の転換を発表しています。これまでのシェア拡大を至上命題としていた路線から、利益率を重視した抜本的な構造改革へのシフトが鮮明になっています。特にラストワンマイル配送の領域は、各戸への停車回数が多く配送密度を劇的に高めるのが困難であることから、コスト構造上「利益を生みにくい事業」として再評価されています。加えて、急激なインフレーションによる燃料費の高騰や人件費の増加が、各社の利益を圧迫しています。

競合である米UPSも同様の課題を抱えており、大口顧客であったAmazonへの依存から脱却を図るため、より利益率の高いヘルスケア関連の物流や、中小企業向けのB2B配送サービスといった高付加価値領域へのシフトを急いでいます。かつてのように大量の荷物を安く運んで規模の経済を追求する消耗戦から、限られたドライバーや車両リソースをいかに効率的に運用し、利益を最大化するかというフェーズへ完全に移行しており、企業規模を問わずネットワークの統廃合が加速しているのが現在の姿です。

参考記事: UPS3万人削減の衝撃。脱Amazonで挑む「アジャイル物流」への転換

主要地域のトレンドと直面する課題比較

世界各国の物流プレイヤーが直面する課題と、それに対するアプローチを比較することで、今回のFedExの動きが持つ意味合いがより明確になります。

地域 市場の主な変化 物流企業のアプローチ 課題となる要因
米国 Amazonの物流内製化拡大 高付加価値・B2Bへのリソース集中 広大な国土による輸送コスト高
欧州 環境規制によるCO2排出削減 EV導入と共同配送網の構築 労働組合の強さと人件費高騰
アジア 越境ECとプラットフォームの拡大 デジタル技術へのインフラ投資 各国の法規制とインフラ格差
日本 2024年問題による供給力不足 運賃適正化とDXによる業務効率化 多重下請け構造と厳しい商習慣

このように、欧米では「いかに運ばないか(無駄を削るか)」に焦点が当たっているのに対し、日本ではいまだ「いかに今の物量を運び切るか」という視点に留まりがちです。ここからの脱却が、日本企業の次なるイノベーションの鍵となります。

FedEx「Network 2.0」が描く究極の全体最適

FedExが現在最終フェーズとして進めているのが、長年かけて準備をしてきた事業構造改革「Network 2.0」です。直近では、ニューヨーク州の9拠点を含む計10拠点の閉鎖を決定し、アメリカ国内で大きな話題を呼びました。

航空便と陸上便のネットワーク完全統合

この改革の核心は、これまで数十年にわたり完全に独立して運用されてきた「フェデックス・エクスプレス(航空便を中心とした特急配送)」と「フェデックス・グラウンド(陸上輸送を中心とした通常配送)」の巨大な配送網を一つに統合することにあります。

従来は、同じ住宅街や商業地域のビルに対して、エクスプレスの配送車両とグラウンドの配送車両が別々に、時には同じ時間帯に向かうという大きな非効率が発生していました。これを「1つの地域に1台の車両」に集約することで、1日あたりの停車密度の劇的な向上と、無駄な重複ルートの徹底的な解消を実現しています。同社は2027年までに全米の拠点数を約30%(約475カ所)削減する計画を立てており、すでに360拠点以上の最適化を完了させました。今回のニューヨーク州を中心とした拠点閉鎖も、この巨大プロジェクトの最終フェーズに向けた布石となります。

参考記事: 利益急増!FedExの「空陸統合」に学ぶ、物流巨艦の構造改革術

システム共通化による集配コスト10%削減

物理的な拠点の統合を成功させるために不可欠だったのが、水面下で進められてきたシステム基盤の一元化です。FedExは数年がかりで、航空便と陸上便で全く異なっていたテクノロジー基盤を統一する大掛かりなDXプロジェクトを実行しました。

  • 配送員が使用する携帯端末の統一による現場オペレーションの完全な標準化
  • 荷物のスキャンプロセスの共通化によるシームレスなデータトラッキング環境の構築
  • 全国の配送データを集約した精緻な配達ルート最適化アルゴリズムの全社展開

共通のテクノロジー基盤と携帯端末、そしてスキャンプロセスの導入が、この大規模なネットワーク統合の実現を裏から支える屋台骨となっています。これにより、最もコストがかさむとされる集配(Pickup and Delivery)コストが約10%削減され、2027年までに年間約20億ドルという桁違いの構造的コスト削減を見込んでいます。今年度だけでもすでに10億ドルの削減予測が立っており、システム統合がいかに強力なコスト削減ツールとなり得るかを、具体的な数字をもって証明しています。

ラストワンマイルから重量物・国際便へのシフト

拠点統合によるコスト削減と並行して進められているのが、サービスポートフォリオの大胆な入れ替えです。FedExは、パンデミック以降にEC需要の落ち着きとともに収益性が悪化したB2Cのラストワンマイル業務の優先度を下げ、より高い利益が見込める領域へ経営リソースを大胆にシフトしています。

具体的には、パレット単位で運ばれるような高付加価値な重量貨物、B2B向けの国際便、そして長距離輸送への注力です。低利益の小さな荷物を大量に追いかけるのではなく、強固に統合されたネットワークを活かして確実な利益を生み出す「質の追求」へと舵を切りました。これは、単なるコストカットや運賃の値上げによって利益を確保するだけでなく、自社が市場に提供する価値そのものを根本から再定義する戦略的な動きと言えます。

参考記事: 米2大物流「5.9%値上げ」の真実。データで制する2026年コスト戦略

日本企業への示唆:海外事例を国内にどう適用するか

FedExの「Network 2.0」は、単なる米国企業のリストラ戦略ではありません。日本の物流企業が今後数年間で取り組むべきテーマが凝縮されています。では、日本の経営層やDX推進担当者は、この事例から何を学び、どう実践すべきでしょうか。

グループ内物流の壁を越えた重複ルートの解消

日本企業において最も参考にすべきは、「組織の壁を越えた物理的ネットワークの統合」という視点です。日本では、同じグループ企業内であっても「B2Cの宅配部門」「B2Bの企業間物流部門」「食品を扱う低温物流部門」がそれぞれ独立した倉庫やターミナルを持ち、別々に配送網を構築しているケースが多々あります。事業部制の弊害とも言えるこの状況は、長らく見過ごされてきました。

FedExの事例は、これらを統合し「同じエリアには1台のトラックしか行かない」仕組みを作ることこそが、最大のコスト削減と人員不足解消につながることを示しています。例えば、人口減少が著しい地方都市においては、事業部間の壁を取り払い、同一のハブ拠点からあらゆる荷物を一括で配送するような「マイクロ拠点統合」の余地が多分に残されています。

日本特有の商習慣がもたらすシステム統合の障壁

一方で、海外の先進的な事例をそのまま日本に持ち込むには、高く険しいハードルが存在します。それは日本独自の「過剰なサービス品質」と、それに紐づく極めて複雑なシステム構造です。

  • 2時間単位での時間指定配達の細分化とそれを確実に守るための厳格な遵守義務
  • 世界でも類を見ない高い再配達率に対応するための属人的かつ動的なルート変更
  • 荷主企業の要望ごとに細かくカスタマイズされた多種多様な送り状フォーマット

FedExが実現したような「スキャンプロセスと端末の完全共通化」を行うためには、現場のシステムを統合する前に、これらの複雑なオペレーションや商習慣自体を標準化・簡素化する必要があります。最新のシステムを導入するだけでなく、顧客と折衝して不要な業務の断捨離を行うことが、物流DX成功の絶対的な前提条件となります。

今すぐ真似できる現場デジタルの標準化アプローチ

大規模な拠点統合や物理的なネットワーク一元化には膨大な時間と投資がかかりますが、日本のDX推進担当者が今すぐ着手できる現実的なアプローチもあります。それは「データの入り口」を共通化することから始める戦略です。

具体的には、異なる事業部や協力会社のドライバーがバラバラに使用しているハンディターミナルやスマートフォンアプリを、クラウドベースの共通プラットフォームに統一する取り組みです。荷物を読み取るスキャンプロセスを統一し、全社でリアルタイムの荷物データを同じ粒度・形式で取得できるようになれば、社内のどこに無駄な重複ルートが発生しているのかがデータとして可視化されます。まずはデジタル空間上での「空陸統合」を果たすことが、将来の物理的な拠点統合を進めるための強力なエビデンスとなるのです。

まとめ:部分最適から全体最適へ、次なる一手

FedExがニューヨーク州を含む全米の拠点を閉鎖し、「Network 2.0」を推進する背景には、激変する市場環境に対する強い危機感と、低収益モデルからの脱却という明確な意志があります。航空便と陸上便を統合し、2027年までに全米の拠点数を30%も削減するこの決断は、長年の成功体験と組織の壁を打ち壊す痛みを伴うものでした。

日本の物流企業も今、変革の岐路に立たされています。ドライバーの残業時間規制という目先の課題解決に終始するのではなく、FedExのように「そもそもなぜ同じ場所に複数のトラックが向かっているのか」という根本的な問いに向き合う時期に来ています。

低利益のラストワンマイルで消耗するのではなく、自社の強みが生きる高付加価値領域を見極め、それを支えるための強固で一元化されたネットワークとシステム基盤を構築する。この全体最適の視点こそが、これからの日本の物流企業が持続的な成長を遂げるための唯一の道となるでしょう。

出典: FreightWaves

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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