フマキラー・JPR等が伝票電子化｜WMS連携で実現する「検品レス」への道

物流業界における「2024年問題」への対応が急務となる中、殺虫剤大手フマキラー、倉庫業の愛宕倉庫、そして物流テックを牽引するJPR（日本パレットレンタル）とTSUNAGUTEの4社による新たな取り組みが発表されました。

それは、フマキラーの物流拠点における納品伝票電子化・共有システム「DD Plus」の導入と、WMS（倉庫管理システム）とのAPI連携による完全自動化です。

単なる「ペーパーレス化」のニュースと捉えると、その本質を見誤ります。この取り組みは、倉庫内の事務作業削減はもちろん、トラックドライバーの待機時間削減、ひいてはサプライチェーン全体の「検品レス」化を見据えた重要な布石です。なぜ今、この4社が連携し、具体的にどのような変革をもたらすのか。経営層や現場リーダーが知っておくべき業界へのインパクトを解説します。

ニュースの背景：WMSと伝票システムのAPI連携がもたらす革新

これまで多くの物流現場では、WMS（倉庫管理システム）と伝票発行システムが分断されていました。出荷指示データをCSVで出力し、別のシステムに取り込んで伝票を発行する――この「ひと手間」が、繁忙期には大きなボトルネックとなり、ヒューマンエラーの温床となっていたのです。

今回のフマキラーらの取り組みにおける最大のポイントは、人の手を介さないAPI連携による自動化にあります。

プロジェクトの概要と参画企業

今回のプロジェクトは、メーカー、倉庫、システム提供者が一体となってサプライチェーンの最適化を目指すモデルケースと言えます。主要な事実は以下の通りです。

従来フローと新フローの決定的違い

従来の業務フローでは、倉庫担当者がWMSからデータを出力し、伝票発行システムへ手動で登録、その後プリンターで紙の伝票を出力して仕分けるというアナログ作業が発生していました。

これに対し、今回のAPI連携導入後は以下のようになります。

1. データ連携の自動化

   WMSで出荷確定処理を行うと同時に、必要なデータがAPI経由で即座に「DD Plus」へ送信されます。担当者がファイル操作を行う必要はありません。

2. プロセスのブラックボックス化解消

   手作業が介在しないため、「どのデータを使ったか」「いつ送信したか」といった履歴がシステム間で正確に保持され、トレーサビリティが向上します。

業界への具体的な影響：3つの視点から

このシステム導入は、単にフマキラー一社の業務改善に留まらず、物流業界全体が抱える課題に対する「解」の一つを示しています。

1. 倉庫事業者（愛宕倉庫）への影響：事務工数の劇的削減

倉庫現場において「伝票発行」は意外なほど工数を食う作業です。特に繁忙期には、大量の伝票を出力し、配送先ごとに仕分け、ドライバーに手渡すまでの管理コストが膨大になります。

• 入力作業ゼロ化: WMSとの連携により、再入力やCSV取り込みの手間が消滅します。
• ヒューマンエラー撲滅: 手作業による転記ミスや、古いデータの誤送信といったリスクが物理的に排除されます。

2. 運送事業者・ドライバーへの影響：待機時間の削減

トラックドライバーにとって、「伝票待ち」の時間は無駄そのものです。積み込みが終わっているのに、事務処理が終わらないために出発できないケースは少なくありません。

• スムーズな出発: 伝票データが自動連携されることで、ドライバー到着時には既に手続きが完了している、あるいは電子データとして即座に受け取れる状態になります。
• 非接触（Touchless）の推進: 紙の受け渡しが不要になれば、受付での混雑緩和や感染症対策にも寄与します。

3. 荷主（フマキラー）への影響：サプライチェーンの可視化

荷主にとっては、物流コストの削減だけでなく、納品精度の向上が期待できます。また、JPRが提供するシステムを利用することで、パレット管理との親和性も高まります。

• リアルタイム共有: 出荷状況や納品予定がデジタルデータとして共有されるため、着荷主（納品先）との連携もスムーズになります。

同様に、物流効率化の文脈では、パレット活用の最適化も重要なテーマです。以下の記事でも、国際輸送におけるパレット一貫輸送の事例を解説していますので、あわせてご覧ください。

See also: 【徹底解説】日本通運、コメリ／国際輸送で一貫パレチゼーション、海上コンテナ荷役は年1016時間減へについて｜物流の未来

LogiShiftの視点：API連携が拓く「検品レス」と「標準化」の未来

今回のニュースを単なる「伝票電子化の事例」として片付けてはいけません。LogiShiftでは、この取り組みが「物流DXの第2フェーズ」への入り口であると捉えています。

独自の考察1：部分最適から「データ連携による全体最適」へ

これまでの物流DXは、「AI-OCRで紙を読み取る」「RPAで入力を自動化する」といった、既存の非効率なプロセスを温存したままツールで補完する「対症療法」が多く見られました。

しかし、今回の事例は「WMSとプラットフォームのAPI連携」という根本治療です。
CSVを介在させるレガシーな連携ではなく、システム同士が直接会話することで、データの鮮度と正確性が保証されます。これは、今後WMSを選定・更新する企業にとって「外部プラットフォームとのAPI連携実績があるか」が極めて重要な選定基準になることを示唆しています。

独自の考察2：「検品レス」実現へのロードマップ

発表の中で特に注目すべきは、将来展望として語られている「検品レス体制の構築」です。

現在の商慣習では、納品時にドライバー立ち会いのもと、現物と伝票を突き合わせる検品作業が行われています。これがドライバーの拘束時間を長くする要因の一つです。
しかし、以下のような条件が揃えば、検品レスは現実味を帯びてきます。

1. 出荷データの信頼性（WMS直結により改ざんやミスの余地がない）
2. 伝票の電子化（データが事前に着荷主に届く）
3. パレット単位の管理（JPRなどのレンタルパレット活用による個体管理）

信頼できるデータが「モノ」より先に届くようになれば、着荷主は「ASN（事前出荷明細）」に基づき、到着時の検品を省略（あるいは抜き取り検査へ移行）できます。フマキラーとJPRの取り組みは、このゴールを見据えたインフラ作りと言えるでしょう。

独自の考察3：TSUNAGUTE・JPRによる「標準化」の加速

複数の荷主、複数の倉庫、複数の運送会社が絡む物流において、独自システムは孤立を招きます。JPRやTSUNAGUTEのようなプラットフォーマーが提供する「DD Plus」のような共通基盤に、各社のWMSがAPIで接続していく形こそが、業界標準化への近道です。

今後は、「自社専用の伝票システム」を作り込むのではなく、「標準プラットフォームにいかにスムーズに接続するか」に投資を集中すべきです。

まとめ：明日から意識すべきこと

フマキラー、愛宕倉庫、JPR、TSUNAGUTEによる今回の連携は、物流DXが「個社ごとのデジタル化」から「システム間連携によるサプライチェーン統合」へと進化したことを象徴しています。

このトレンドを踏まえ、経営層や現場リーダーは以下の点を意識してアクションを起こすべきです。

1. WMSの「接続性」を見直す

   自社のWMSは外部システムとAPI連携できるか？ CSV出力に依存していないか？ システム更新の際は「つながりやすさ」を最優先事項の一つに据えること。

2. 「紙」ではなく「プロセス」をなくす

   単に紙をPDFにするだけでは不十分です。伝票作成そのものを自動化し、人の手を介さないプロセスを構築することを目指してください。

3. プラットフォーム活用を前提とする

   自社だけで完結する仕組みは限界を迎えています。JPRやTSUNAGUTEのような業界標準プラットフォームの動向を注視し、早期に乗っかることが、将来的な「検品レス」「待機時間ゼロ」へのパスポートとなります。

物流の2024年問題を乗り越える鍵は、企業間の壁、そしてシステム間の壁を取り払うことにあります。今回の事例を参考に、自社のデータ連携のあり方を今一度見直してみてはいかがでしょうか。