5G(第5世代移動通信システム)とは?物流・製造DXを支える基礎知識と導入戦略とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:5Gとは、スマートフォンの通信速度を飛躍的に上げるだけでなく、「超高速・大容量」「超高信頼・低遅延」「多数同時接続」という3つの特徴を持つ次世代の通信インフラです。人だけでなく、あらゆるモノや機械をインターネットに繋ぐ基盤として注目されています。
  • 実務への関わり:物流や製造の現場において、5Gは自動搬送ロボットや無人フォークリフトの遠隔制御、リアルタイムな在庫管理などを実現します。これにより、2024年問題や慢性的な人手不足といった課題を解決し、作業の効率化と自律化を強力に後押しします。
  • トレンド/将来予測:企業が自社専用の通信網を構築できる「ローカル5G」の導入が進んでおり、通信の安定性や強固なセキュリティ環境が整備されつつあります。将来的には次の世代である「6G」を見据えた中長期的なIT投資戦略が、企業の競争力を左右する鍵となります。

物流や製造現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が加速する中、「5G(第5世代移動通信システム)」は単なる通信インフラの枠を超え、企業の事業継続性と競争力を左右する中核的なテクノロジーへと進化しています。慢性的な労働力不足や「2024年問題」、さらには労働人口の絶対的枯渇や3G完全停波が重なる「2026年問題」といったマクロ環境の激変に直面するサプライチェーンにおいて、現場の自律化・無人化はもはや避けて通れない経営課題です。本記事では、5Gの基本的な技術仕様から、ローカル5Gの構築ノウハウ、実務上の落とし穴、そして次世代の6Gを見据えた中長期的なIT投資戦略まで、物流・製造の最前線で求められる超・実務的な視点から徹底的に解説します。

5G(第5世代移動通信システム)とは?基礎知識と普及の背景

5Gの定義と社会インフラとしての役割

5G(第5世代移動通信システム:5th Generation Mobile Communication System)とは、これまでのモバイル通信の常識を覆す次世代の通信規格です。国際電気通信連合(ITU)が定める技術基準「IMT-2020」に準拠し、「eMBB(超高速・大容量)」「URLLC(超高信頼・低遅延)」「mMTC(多数同時接続)」という3つの高度な要件を満たすよう設計されています。広域をカバーする「Sub-6」帯と、圧倒的な帯域幅を持つ「ミリ波」帯を組み合わせて運用されるのが特徴です。

しかし、産業界、とりわけ物流や製造現場において、5Gは単なる「スマートフォンの通信速度を上げる技術」ではありません。働き方改革関連法から派生したドライバーの労働時間規制(2024年問題)や、労働人口の急減・レガシーシステムのサポート終了が複合的に絡み合う「2026年問題」に直面する企業にとって、物流DXやスマートファクトリーの実現を根底から支える極めて重要な「ミッションクリティカルな社会インフラ」として機能します。

これまでの現場では、データは「人が端末に入力して初めてシステムに反映される」ものでした。しかし5Gの普及により、現場のあらゆるモノ(ロボット、フォークリフト、パレット、作業員)が常時ネットワークに接続され、自律的にデータを生み出し、瞬時にクラウドのAIが最適解をフィードバックする「サイバーフィジカルシステム(CPS)」の構築が可能になります。5Gは人と人をつなぐ通信から、機械と機械(M2M)、さらには空間全体をデジタル化するインフラへとパラダイムシフトを遂げているのです。

4G・これまでの通信規格との決定的な違い(スペック比較表)

ここでは、5Gと従来の4G(LTE)の決定的な違いを整理します。このスペック差こそが、現場の自動化レベルを根本から引き上げる技術的根拠となります。

比較項目 4G(第4世代) 5G(第5世代) 物流現場へのリアルなインパクトと変革
通信速度
(下り最大)
約1Gbps 最大10Gbps〜20Gbps 高精細カメラやドローンの4K/8K映像をエッジAIへ遅延なく送信。入出荷バースの待機状況解析や、パレット上の荷物のリアルタイム画像検品(外装ダメージ判定など)が実用化レベルに。
遅延
(レイテンシ)
約10ms(ミリ秒) 1ms(ミリ秒)以下 自動搬送ロボット(AGV/AMR)のブレーキ応答速度や群制御アルゴリズムが劇的に向上。数十ミリ秒の遅れが重大事故につながるフォークリフトや建機の遠隔操作において、操作感の「ズレ」を完全に解消。
同時接続数
(1km²あたり)
約10万デバイス 約100万デバイス 作業員のハンディターミナルだけでなく、無数のコンテナや個別の荷物に付与されたIoTセンサー、RFIDタグを一斉に読み取り可能。庫内在庫や動線の「完全なデジタルツイン化」を実現。

上記の表が示す通り、産業用途における5Gの真の価値は、過酷な要求に耐えうる「極限の低遅延」と「圧倒的なデバイス収容力」にあります。これまでの4Gや旧規格のWi-Fi環境では、移動体がアクセスポイントを切り替える際(ハンドオーバー)に生じる通信の瞬断が最大のネックでした。この瞬断により、AGVが同期エラーを起こして安全停止を繰り返し、結果として「ロボットを導入したのに人が監視・復旧作業に追われる」という本末転倒な事態が多くの現場で発生していました。

5Gネットワークでは、コアネットワーク側で高度に制御されたシームレスなハンドオーバーが実現されるため、数百台規模のロボット群が広大な倉庫内を一切止まることなく、最高速度で行き交う環境が構築可能です。次のセクションでは、これらの変革をもたらす3つの技術的特徴(eMBB、URLLC、mMTC)のメカニズムについて、さらに深く解説していきます。

5Gを支える「3つの特徴」と技術的裏付け

5Gの導入を検討する際、メディアで頻繁に語られるのは「通信速度の飛躍的な向上」ですが、物流現場の最前線で求められているのは単なるスピードではありません。自社のビジネス要件や現場のオペレーションに合わせて、ネットワークの特性を自在に最適化・分割(ネットワークスライシング)できる点にあります。企業のDXを推進する上で欠かせない5Gの3大要件について、表面的な定義だけでなく「現場でどう運用されるか」「導入時に何がボトルネックになるのか」という超・実務視点から解説します。

超高速・大容量(eMBB)の仕組みと周波数帯(Sub-6・ミリ波)

eMBB(Enhanced Mobile Broadband)は、大容量データの瞬時伝送を可能にする要件です。この通信品質を理解し、現場に正しく実装する上で欠かせないのが、5G通信を物理的に支える2つの周波数帯、「Sub-6」と「ミリ波」の使い分けです。

周波数帯 物理的特徴と最高通信速度 障害物への強さ(現場適性と落とし穴)
Sub-6(サブシックス)
※3.7GHz/4.5GHz帯など
4Gの延長線上で広範囲のエリアを安定してカバーできる。最高速度はミリ波に劣るが、実運用上のバランスが最も良い。 波長が長いため、ラックや壁などの障害物をある程度回り込む(回折する)性質がある。複雑なレイアウトの倉庫内でも死角ができにくく、AMRの走行エリア全体を覆うのに適している。
ミリ波(ミリハ)
※28GHz帯などの高周波数帯
超広帯域を確保できるため、数Gbpsクラスの圧倒的な超高速・大容量通信(真の5Gスペック)を実現する。 波長が短く直進性が極めて強い。金属や水分(人体、飲料ケース、湿った段ボール等)に激しく吸収・反射される。障害物に非常に弱く、フォークリフトが横切っただけで通信断(シャドウイング)が起きるリスクがある。

物流実務への応用事例として、高精細な4K/8Kカメラ映像をクラウドへ常時伝送し、AIがパレットの積載崩れや商品の外装異常(へこみ・破れ)をコンベア上で瞬時に検品するシステムが挙げられます。しかし、現場のネットワーク導入担当者が最も苦労するのが「ミリ波の直進性による通信断」です。巨大なスチール製のネステナー、高く積まれたパレット、激しく動き回るフォークリフトが電波の死角を次々と生み出します。

そのためプロの現場設計では、広範囲のカバーにはSub-6を用い、大容量データ転送が必要な高速検品ゲートや固定のロボットアーム周辺など、特定エリアにのみミリ波を局所的に照射する「ハイブリッド運用」が基本となります。

超高信頼・低遅延(URLLC)がもたらすリアルタイム性とMEC

URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)は、通信のタイムラグを1ミリ秒(0.001秒)以下に抑え、99.999%の通信可用性(信頼性)を担保する技術要件です。これは、スマートファクトリーや大規模物流センターで稼働する自動搬送ロボットのリアルタイム群制御において決定的な役割を果たします。

さらに、このURLLCの恩恵を最大限に引き出すために不可欠な技術が「MEC(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)」です。データを遠く離れたクラウドサーバーまで往復させると、物理的な距離による遅延(数十ミリ秒)が避けられません。そこで、現場の5G基地局のすぐ側(エッジ側)にサーバーを配置し、ロボットの制御指示やAIの画像処理を現場内で完結させるアーキテクチャを採用します。これにより、真の超低遅延が実現されます。

しかし、実務者が直視すべき課題は「万が一、ネットワークや上位のWMS(倉庫管理システム)がダウンした場合、どうやって業務を継続するか」です。「絶対に止まらないインフラ」など存在しないという前提に立ち、以下のようなフェールセーフ(安全側への制御)設計が求められます。

  • 上位のクラウドWMSとの通信が途絶えた瞬間に、エッジサーバー(MEC)が即座に処理を引き継ぐフォールバック構成の構築。
  • ロボット側が通信断を検知した瞬間、自身のLiDARセンサーを用いたスタンドアロンの自律回避モードへシームレスに移行し、安全に減速・退避する設計。

多数同時接続(mMTC)とIoTの爆発的進化

mMTC(Massive Machine Type Communications)は、1平方キロメートルあたり約100万台という、4Gの10倍以上にも及ぶ膨大なデバイスの同時接続を可能にする要件です。これにより、倉庫内の温湿度センサー、パレットやカゴ車に貼付されたRFIDタグ、作業員のバイタルを監視するスマートウォッチ、さらにはフォークリフトの稼働ログまで、あらゆる物理リソースをネットワークに接続するIoTの爆発的進化が現実のものとなります。

サプライチェーン全体の可視化が急務となる中、mMTCは在庫のリアルタイムトラッキングを可能にします。しかし、実務運用における最大のハードルは「膨大なデバイスの電源管理」と「トラフィックの輻輳(ふくそう:通信の渋滞)」です。数万個のIoTデバイスのバッテリーが切れれば、トラッキングデータは即座に欠損し、電池交換のために膨大な人件費が飛んでいきます。

この課題を解決するためには、長寿命バッテリーを採用したLPWA(低消費電力広域ネットワーク)技術の併用や、環境発電(エナジーハーベスト:電波や振動から微小な電力を生成する技術)を用いた「電池交換不要のスマートタグ」の選定が不可欠です。また、「ネットワークスライシング」技術を活用し、1つの物理的な5G網を論理的に分割して「AGV制御用の帯域(URLLC)」と「大量のセンサーデータ収集用の帯域(mMTC)」を完全に分離させることで、センサー側でトラフィックの爆発が起きてもロボット制御に一切干渉しない堅牢なネットワーク運用を実現します。

5Gがビジネスにもたらすメリット・デメリットと投資対効果(ROI)

企業DXを根本から推進する5Gのメリットと重要KPI

ビジネスの現場において、5Gの本質的なメリットは通信の主役が変わる点にあります。4Gが「人と人の通信(スマートフォン)」に最適化されていたのに対し、5Gは「機械と機械の制御(M2M・IoT・ロボティクス)」を前提に設計されています。このパラダイムシフトが、企業のDXを根本から推進する強力な基盤となります。

5G導入の成功を測る上で、経営層と現場が共有すべき「重要KPI(重要業績評価指標)」には以下のようなものがあります。

  • 設備総合効率(OEE)の劇的な向上:
    Wi-Fi環境下で頻発していたAGVの通信エラーによるチョコ停(一時停止)を根絶することで、ロボットの稼働率を99%以上に引き上げます。
  • ピッキング・検品エラー率の極小化:
    eMBBを活用したAI画像判定により、人的ミスに依存しない品質担保を実現し、出荷ミスのPPM(100万分の1)レベルでの管理を達成します。
  • リードタイムの短縮と庫内スペースの最適化:
    リアルタイムなデジタルツインにより、空きバースの即時把握や最適なロケーション配置を動的に行い、庫内滞留時間を大幅に削減します。

導入前に知っておくべきデメリットと実務上の落とし穴

一方で、5Gのメリットだけを鵜呑みにし、潜在的なリスクやデメリットを軽視することは危険です。現場のシステム担当者が直面する最大の壁は「初期投資の重さ」と「動的な電波環境の変動」です。

1. コストとROI(投資対効果)の壁:
特に自社専用網である「ローカル5G」を構築する場合、アンテナやコアネットワーク設備の導入、そしてライセンス費用に数千万円規模の莫大なコストがかかります。また、5G対応の産業用モジュール(通信チップ)を搭載したロボットや端末自体も依然として高価です。「通信環境を良くする」という曖昧な目的では決して稟議は通りません。人件費の削減効果、エラー対応工数の削減、歩留まりの向上といった明確な数値を算出し、数年単位での緻密なROI設計が求められます。

2. 実務上の落とし穴:マルチパスフェージングとシャドウイング:
導入前の電波調査(サイトサーベイ)では問題がなくとも、いざ実運用が始まると通信トラブルが発生することが多々あります。その原因の多くは「荷動きによる環境変化」です。繁忙期に段ボール(水分を含む)が高く積まれた途端に電波が遮断される「シャドウイング」や、金属製のカゴ車が大量に移動することで電波が乱反射し、受信側で干渉を起こす「マルチパスフェージング」が発生します。日々在庫量や荷姿が変動する現場では、固定のアンテナ配置だけでは対応しきれないため、定期的な電波の再チューニングや、指向性アンテナの自動追従技術などを組み込む泥臭い運用体制の構築が必須です。

【産業別】5Gの具体的な活用事例とビジネス変革

5Gの「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」が、現場の物理的な制約をどのように取り払うのか。本セクションでは、物流・製造現場における解像度の高い具体的な事例を中心に、その運用実態を深掘りします。

物流・サプライチェーン(自動搬送ロボット・遠隔監視)

最新のメガロジスティクスセンターでは、ローカル5Gによる完全自律化が進んでいます。最大の成功事例は、数百台の自動搬送ロボット(GTP:Goods to Person型ロボットなど)の「交差点デッドロックの回避」です。

Wi-Fi環境では、大量のロボットが一斉に通信を行うと帯域がパンクし、交差点でロボット同士が譲り合いを続けて停止してしまう(デッドロック)現象が起きていました。5GのURLLC(超低遅延)とMEC(エッジコンピューティング)を組み合わせることで、中央の制御サーバーがすべてのロボットの位置・速度ベクトルをミリ秒単位で把握し、「信号機のない交差点を数百台の車がノンストップで擦り抜ける」ような極めて高度な群制御が可能になりました。これにより、ピッキングエリアの処理能力は従来の数倍に跳ね上がっています。

また、eMBBを活用したフォークリフトの遠隔操作も実用化が進んでいます。車載カメラの4K映像を遅延なくオペレーターのモニターに伝送することで、危険物倉庫やマイナス20度の冷凍倉庫といった過酷な環境から作業員を解放しました。これにより、遠隔地から1人のオペレーターが複数拠点のフォークリフトをシフト制で操作することが可能となり、深刻化する人手不足への強力な切り札となっています。

製造・スマートファクトリー(生産ラインの完全自動化)

製造業におけるDXの終着点であるスマートファクトリーでは、5Gが「ラインのレイアウトフリー化」を実現します。従来の有線LANによるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)接続を5Gへ置き換えることで、多品種少量生産や製品ライフサイクル短期化に伴うライン変更のコスト・ダウンタイムを劇的に削減します。

現場で特に効果を発揮しているのが、「高精細カメラとエッジAIによるリアルタイム外観検査」です。高速で生産ライン上を流れる精密部品の表面にある数十ミクロンの傷を8Kカメラで撮影し、瞬時にAIへ伝送・解析します。4G環境では帯域不足とネットワーク遅延により、検査結果が出る前に不良品が次の工程へ流れてしまうケースがありましたが、5Gの導入によりコンマ数秒の世界で異常を弾き出し、歩留まり率の大幅な向上が達成されています。

建設・医療・小売などその他の先進事例

5Gの恩恵は他産業にも波及しており、これらは広義のサプライチェーンとも密接に連携しています。

  • 建設業界:建機の遠隔操作。資材のジャストインタイム配送と連携し、建設現場の完全無人化・省人化を推進。山間部などでもローカル5Gを仮設展開するケースが増加しています。
  • 医療分野:遠隔手術支援や、ドローンを活用した緊急血液・医薬品の自律輸送。物流のラストワンマイル配送において、人命に関わる最高難度かつ極めて高いセキュリティと低遅延が求められるモデルケースです。
  • 小売業界:mMTCを活用した数千個の電子棚札(ESL)のリアルタイム一斉更新や、多数のAIカメラ連動による顧客行動分析。店舗のバックエンドではWMSの在庫データとシームレスに同期し、店舗そのものを小型の物流拠点として活用する「ダークストア化」を支えています。

自社専用の通信網「ローカル5G」の活用と導入手順

物流現場の高度な自動化を目指す中で、通信キャリアの基地局に依存しない自社専用のネットワーク「ローカル5G(プライベート5G)」への注目が急激に高まっています。

パブリック5Gとの違いとローカル5Gを導入するメリット

一般的な通信キャリアが提供する「パブリック5G」は、広域をカバーできる反面、災害時や周辺での大規模イベント時にトラフィックが急増すると、帯域が圧迫され遅延が発生するリスクがあります。一方、「ローカル5G」は自社敷地内に専用のコアネットワークと基地局を構築するため、外部環境に一切左右されない安定した通信環境を独占できます。

比較項目 パブリック5G ローカル5G
帯域の独占性 他ユーザーと共有(混雑時の遅延リスクあり) 自社で完全占有(外部トラフィックの影響ゼロ)
セキュリティ キャリア網を経由するためクラウドへの経路管理が必要 敷地内でデータ処理が完結(閉域網による強固な機密性)
カスタマイズ性 キャリアの仕様に依存(上り/下りの速度比率の変更不可) 自由設計可能(監視カメラ等の大容量データアップロードに特化した「上り特化」の設定も可能)

特に物流実務においてローカル5Gが圧倒的に有利なのは「上り(アップロード)通信のカスタマイズ」です。パブリック5Gは一般ユーザーの動画視聴(下り通信)に最適化されていますが、スマートファクトリーや物流センターでは、無数のカメラ映像やセンサーデータをサーバーへ吸い上げる「上り通信」が極めて重要になります。ローカル5Gであれば、この上りと下りの帯域比率を自社の要件に合わせて自由にチューニングすることが可能です。

ローカル5G導入に向けた実務的ステップと組織的課題

ローカル5Gの導入は、Wi-Fiルーターを設置するような手軽なものではありません。IT部門が直面する「電波免許の取得」や「特殊なインフラ構築」、そして「現場部門との連携」という組織的課題をクリアする必要があります。

  • ステップ1:要件定義と組織横断チームの組成
    「導入すること」自体が目的化する「PoC(概念実証)死」を防ぐため、IT部門だけでなく、実際の現場オペレーションを担う物流・製造部門を巻き込んだ横断チームを組成します。どの業務プロセスのボトルネックを解消するために、どの周波数帯(Sub-6 / ミリ波)が必要かを厳格に定義します。
  • ステップ2:電波干渉調査と総務省への免許申請
    ローカル5Gの運用には、国(総務省)への「無線局免許」の申請・取得が必須です。近隣の工場や通信キャリアの基地局と電波干渉を起こさないか、事前の厳密なシミュレーションと実測が求められます。また、運用にあたっては「第三級陸上特殊無線技士」などの有資格者の配置が必要になる場合があり、手続きだけで数ヶ月を要します。
  • ステップ3:現場の物理的ハードルを考慮したインフラ構築(DASとLCX)
    倉庫特有の「金属反射」と「遮蔽」への対策として、単一の強力なアンテナを置くのではなく、複数の小型アンテナを分散配置する「DAS(分散型アンテナシステム)」や、ケーブル全体から電波を染み出させる「LCX(漏洩同軸ケーブル)」をラックの通路に沿って敷設する手法が有効です。これにより、AGVがどこを走っても均一な電波を享受できる環境を構築します。
  • ステップ4:SLA(サービスレベル合意)とバックアップ運用ルールの策定
    ローカル5G機器自体の物理的な故障や、予期せぬ停電に備え、コアネットワークの冗長構成を組み込みます。万が一5G網がダウンした際、WMSへのデータポーリングをどのように有線LANやバックアップ用のWi-Fi網へフェイルオーバーさせるか、具体的な切り替え手順とSLAを事前に現場スタッフとすり合わせておくことが現場担当者の最大の責務となります。

5Gが切り拓く物流・製造業の未来とDX戦略

5Gは、あらゆる機器や設備がリアルタイムで連動し、現場の最適化・高度化を根本から実現するための「自律的な神経網」です。サプライチェーンの断絶リスクや、企業のDX推進が急務となる中、5Gインフラの構築はマクロなビジネス課題を解決するコアエンジンとなります。

労働力不足・2026年問題に対する5Gの解決アプローチ

2024年問題の先には、ドライバー不足や庫内作業員の高齢化がいよいよ限界に達する「2026年問題」が控えています。この圧倒的な労働力不足に対し、5Gの導入による完全な無人化・省人化のアプローチはもはや「選択肢」ではなく「必須要件」です。

属人的なピッキング作業や目視による検品作業は、5Gの「eMBB」とエッジAIの連携によって完全に代替されます。また、「URLLC」によるロボットの自律走行と群制御は、人に依存しない24時間365日の連続稼働(ダークウェアハウス化)を実現します。さらに「mMTC」によってすべての在庫やパレットがデジタル上でリアルタイムにトラッキングされることで、欠品や滞留といったサプライチェーンのムダが可視化され、より少ないリソースで高いスループットを生み出す「筋肉質なロジスティクス」が完成します。

次世代通信「6G」を見据えた中長期的なIT投資戦略

経営層やDX推進部門が問うべきは、「なぜ今、多額のコストをかけて5Gインフラへ投資すべきか」という点です。その答えは、現在研究開発が進められ、2030年代の実用化が見込まれる次世代通信「6G」時代を見据えたデータ基盤の確立にあります。

6Gでは、通信速度が5Gのさらに10倍〜100倍となり、陸・海・空・宇宙をシームレスに繋ぐ超広域カバレッジが実現します。5Gで実現した「現場のデジタルツイン」は、6Gへと進化することで、拠点間を跨いだドローンや自動運転トラックとの完全自律協調や、五感情報の伝達を伴う究極のサイバーフィジカルシステムへと到達します。

通信規格 現場の運用レベルと設備状態 解決できるビジネス課題
4G / Wi-Fi ハンディターミナルによる部分的なデータ収集。移動体の通信断が頻発。 限定的なペーパーレス化、システムによる在庫の静的・事後管理。
5G(ローカル5G) 多数の自動搬送ロボットの無停止群制御。高精細カメラによるリアルタイムAI検品。 属人化の排除、深刻な労働力不足(2026年問題)の解消、リアルタイムな動的リソース配分。
6G(将来展望) 拠点間を跨いだドローン・自動運転車・ロボットの完全自律協調。空間全体のセンチメートル級同期。 サプライチェーン全体の完全無人化、究極の予測型在庫・配送ロジスティクスの完成。

今のうちから5Gによるデータ収集基盤を構築し、現場の自動化・最適化に着手していなければ、6G時代へのアップデート要件を満たすことは到底できません。5Gインフラへの投資は、単なる通信設備の入れ替え費用ではありません。それは、今後激化する労働力確保の競争から脱却し、予測不可能な事態(パンデミックや激甚災害)にも柔軟に対応できる強靭なサプライチェーン(レジリエンス)を手に入れるための、最も有効かつ不可欠な中長期的な経営戦略なのです。

よくある質問(FAQ)

Q. 5Gと4Gの決定的な違いは何ですか?

A. 5G(第5世代移動通信システム)は、4Gと比べて「超高速・大容量」「超高信頼・低遅延」「多数同時接続」という3つの決定的な違いがあります。これにより、4Gでは難しかった大量のIoT機器の同時接続や、通信の遅延が許されない機器のリアルタイムな遠隔制御が可能になります。物流や製造現場の完全自動化を支える不可欠な通信インフラです。

Q. 物流現場で5Gを導入するメリットは何ですか?

A. 物流現場における5G導入の最大のメリットは、業務の自律化・無人化による深刻な労働力不足(2024年問題・2026年問題)の解消です。5Gの超低遅延通信により、倉庫内の自動搬送ロボットの安全で正確な遠隔制御が可能になります。また、あらゆる荷物や設備をIoT化することで、サプライチェーン全体の状況をリアルタイムに把握できるようになります。

Q. 5Gの3つの特徴(要件)とは何ですか?

A. 5Gを支える3つの特徴は、「超高速・大容量」「超高信頼・低遅延」「多数同時接続」です。これらはSub-6やミリ波といった新しい周波数帯や、データ処理の遅延を防ぐMEC技術によって実現されています。スマートフォンだけでなく、産業用ロボットや無数のセンサーを同時にネットワークへ繋ぎ、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を根本から推進します。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。