ERP(基幹業務システム)とは?図解でわかる基礎知識と導入の成功ポイントとは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:ERPとは、企業経営に必要な人材、資金、設備、情報といった資源を一つのデータベースでまとめて管理するシステムのことです。従来のシステムが部署ごとに独立していたのに対し、ERPは全社のデータをリアルタイムで連携させ、経営の全体最適化を目指します。
  • 実務への関わり:物流現場では、営業が受注を入力すると同時に倉庫の在庫が引き当てられ、出荷指示が自動で出るといった業務の効率化が実現します。データ入力の二度手間が減る一方、システム上の在庫と実際の在庫を合わせるための正確な現場作業がより一層求められます。
  • トレンド/将来予測:クラウド型ERPの普及が進むとともに、今後はAIや機械学習を活用した需要予測や、サプライチェーン全体を最適化する次世代型ERPへの進化が期待されています。これにより、2026年問題などの環境変化に強い物流体制の構築が可能になります。

物流業界において「DX(デジタルトランスフォーメーション)推進」が企業の生存条件となる中、レガシーシステムの老朽化やIT人材の枯渇が深刻化する「2025年の崖」は、時間外労働の規制強化や環境対応が重なる「2026年問題」として、さらに複合的かつ深刻な形で業界に重くのしかかっています。この未曾有の環境変化を見据え、企業の情報基盤刷新が待ったなしの状況を迎える中、その中核的役割を担うのが「ERP(企業資源計画)」です。

本記事では、検討初期段階の経営層やDX担当者が直面する「そもそもERPとは何か」「従来の基幹システムと何が違うのか」という根本的な疑問に対し、単なるIT用語の解説にとどまらず、物流現場のリアルな運用実態、実務上の落とし穴、そして成功に導くためのチェンジマネジメント手法までを含めて徹底的に解説します。

目次

ERP(企業資源計画)とは?図解でわかる基本と「基幹システム」との決定的な違い

ERPの定義と経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)の一元管理

ERP(Enterprise Resource Planning)とは、企業経営の根幹をなす資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」をリアルタイムで一元管理し、経営の意思決定を迅速化・高度化するための概念であり、それを実現するための統合型ソフトウェアパッケージを指します。本記事では、この「一元管理」を『単一のデータベース(Single Source of Truth:SSOT)上で全業務領域のデータがリアルタイムに連動し、いかなる部門からも矛盾なく参照できる状態』と定義します。

表面的な定義では非常に美しいERPですが、サプライチェーンを支える物流の「超・実務視点」から見ると、その導入と運用は決して容易なものではありません。たとえば、営業部門がERP上で「受注」を入力した瞬間、即座に倉庫側の論理在庫(システム上の在庫数)が引き当てられ、自動的に出荷指示データが生成されます。これは見事な一元管理の恩恵ですが、現場が最も苦労するのは「論理在庫(ERP上の数字)」と「物理在庫(倉庫内の現物)」のズレをなくすための、極めて厳格な業務規律の維持です。

入荷時の検品漏れ、ピッキング時のスキャン忘れ、庫内での破損処理の遅延など、ほんのわずかな現場のオペレーションミスが、全社で共有されているデータベースに即座に波及し、「システム上は在庫があるのに、現場に行くとモノがない」という欠品クレームに直結します。ERPを真に機能させるためには、システムを導入するだけでなく、現場の作業品質を根本から引き上げる「チェンジマネジメント(変革管理)」が不可欠となるのです。

【比較表】「ERP」と「基幹システム」の構造的な違い(部分最適 vs 全体最適)

ここで、従来型の「基幹システム」という用語を『販売管理、在庫管理、財務会計など、特定の業務を遂行するために不可欠な独立したシステム(サイロ化されたシステム)』と定義します。ERPと基幹システムの違いは、決定的に『点(部分最適)』か『面(全体最適)』かに集約されます。

比較項目 従来の「基幹システム」(点・部分最適) 「ERP」(面・全体最適)
システムのアーキテクチャ 業務ごとに分断されたサイロ化構造。データベースが別々に存在し、マスターデータが散在。 全業務モジュールが単一データベース(SSOT)上で統合されたアーキテクチャ。
データ連携の鮮度と手法 夜間バッチ処理やCSVファイルの手動アップロードによる「タイムラグ」が常態化。 データ入力と同時に全モジュールへ「リアルタイム」かつシームレスにトランザクションが反映。
物流現場のリアルな実態 営業の販売システムとWMS(倉庫管理システム)が分断。朝出社するとバッチエラーで出荷指示が降りておらず、現場が大混乱する。 受注確定と同時に在庫引当・ピッキング指示が完了。欠品リスクや過剰在庫の早期検知、急なオーダー変更への即応が可能。
経営の意思決定スピード 月末締めの処理を経て、翌月中旬にならないと正確な原価、部門別利益、在庫回転率が不明。 経営層やセンター長がダッシュボードを通じて「今この瞬間」の利益率、在庫状況、キャッシュフローを即座に把握。

従来の基幹システム環境下では、営業担当者が画面上で在庫「あり」を見て大口の受注をしたにもかかわらず、実際には物流部門の別の専用システムで既に他の出荷に引き当てられており、「欠品による致命的なクレーム」に発展するケースが散見されます。ERPの最大の導入メリットは、こうした部門間の情報の断絶(サイロ化)を破壊し、全社レベルでの全体最適をもたらす点にあります。

なぜMRPから進化したのか?ERP発展の歴史と背景

ERPの概念は、ある日突然生まれたものではありません。その起源は、1970年代の製造業において考案されたMRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)に遡ります。これは「必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ」手配するための生産・在庫管理手法でした。その後、1980年代には人員や設備、資金といった要素を含めたMRP2(Manufacturing Resource Planning:製造資源計画)へと進化し、1990年代に入って対象を製造部門だけでなく、人事、財務、販売など全社・全業務に拡大した「ERP」へと発展を遂げました。

現代の複雑化したグローバルサプライチェーンにおいて、ERPは単なる「社内の記録システム(System of Record)」という枠を超え、調達から販売、物流に至るまでの「血流」をコントロールするプラットフォームへと昇華しています。近年では、本社機構には重厚長大なグローバルERPを置きつつ、各地域の子会社や物流拠点には軽量で小回りの利くクラウドERPを導入して連携させる「2層ERP(Two-Tier ERP)」や、後述するAPI連携を前提とした「ポストモダンERP」と呼ばれるアーキテクチャが主流となりつつあります。

検討段階の担当者が直面する最大の悩みは、「自社のビジネスモデルや物流要件に、どの種類・構成のERPが最適なのか」という点です。これを誤ると、多額の投資が水泡に帰すだけでなく、日々の出荷業務すらままならない最悪の事態を招くことになります。

ERP導入で企業はどう変わる?3つのメリットと注意すべきデメリット

メリット1:リアルタイムな経営状況の可視化と意思決定の迅速化(重要KPIの達成)

ERP導入の最大のメリットは、経営層や各拠点のセンター長が「いま、自社で何が起きているか」を秒単位で把握できる点です。物流・サプライチェーンにおいて、情報は鮮度が命であり、データの遅延はそのままコストの増大と機会損失に直結します。

実務レベルで見ると、従来は欠品や輸送遅延が発生した際、営業部門から物流センターへ電話で在庫状況を確認し、さらに運送会社へ配送状況を問い合わせるという「伝言ゲーム」が発生していました。ERPによる一元管理下では、営業担当者が画面を見るだけで、どの倉庫に出荷可能な在庫(引当可能在庫:ATP)があり、現在どの配送フェーズにあるのかを即座に確認できます。

経営へのインパクトとしては、重要KPIの飛躍的な改善が挙げられます。例えば、「OTIF(On Time In Full:指定納期に完全な数量で納品できた割合)」の向上や、在庫の適正化による「CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル:資金回収までの期間)」の短縮です。トラックドライバー不足による運賃高騰が懸念される中、急な傭車費用の増加が利益をどう圧迫しているのか、部門別・顧客別・商品別のリアルタイムな損益管理が可能になります。これにより、不採算ルートの即時見直しや戦略的な在庫の再配置など、データに基づいたプロアクティブな意思決定が実現します。

メリット2:データ入力の二度手間削減による劇的な業務効率化

物流現場やバックオフィスにおいて、システムの分断は「無駄な作業」の最大の温床です。受注管理システム(OMS)、倉庫管理システム(WMS)、輸配送管理システム(TMS)、そして経理部門の財務会計システムがそれぞれ独立している環境では、同じデータを複数のシステムに何度も手入力する「二重入力・三重入力」が常態化しています。

ERPを導入し、これらを統合型システムでカバーするか、あるいはマスターデータ管理(MDM)を徹底した上で各システムをシームレスに連携させることで、この悪循環を断ち切ることができます。

  • 受注データが確定すると同時に、WMSへピッキング指示と出荷予定データが自動連携される。
  • 出荷実績(検品完了)の登録と同時に在庫データが引き落とされ、会計システム側で自動的に売上と売上原価が計上される。
  • 月末月初に経理・事務スタッフが徹夜で行っていた、システム間の請求データや在庫差異の突き合わせ作業(突合業務)がゼロになる。

近年ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を用いてシステム間の転記作業を自動化する企業も増えていますが、これはあくまで「分断されたシステムを表面上の絆創膏で繋ぐ」対症療法に過ぎません。ERPによる根幹からのデータ統合こそが、深刻な人材不足に悩む物流現場におけるDX推進の強力な起爆剤(根本治療)となります。

メリット3:情報のブラックボックス化を防ぐ内部統制の強化

物流現場では、しばしば「現場の担当者しか知らない情報」が存在します。属人的なExcel管理による見えない在庫調整、パレットの隅に追いやられた滞留在庫や不良在庫、特定の荷主に対するイレギュラーな運賃値引き処理やリベートの計算などです。これらは経営の視界から外れ、重大なコンプライアンス違反や粉飾決算の温床となる危険性を孕んでいます。

ERPは、システム上で行われるすべての操作に対して「誰が・いつ・何を入力・変更・承認したか」というトランザクションログを厳密に残します。また、職務分掌(SoD:Segregation of Duties)に基づいた細かなアクセス権限の設定が可能なため、発注者と検収者を分けるといった内部牽制をシステム的に強制することができます。これにより、不正やミスの温床となるブラックボックスが排除され、強固なガバナンスが構築されます。J-SOX(内部統制報告制度)をはじめとする監査対応の工数削減はもちろん、上場企業やIPOを目指す企業にとっては必要不可欠なIT全般統制(ITGC)の基盤となります。

デメリット:導入コストと業務プロセス変更による「現場の反発」リスクと落とし穴

一方で、ERP導入には企業の存続を揺るがしかねない重篤なデメリットやリスクも存在します。導入検討の初期段階にある担当者は、以下の「導入失敗の3大要因」を直視し、対策を練らなければなりません。

  1. 高額な初期コストと見えない追加費用(アドオンの罠)
    ERPの種類(オンプレミスかクラウドか)によって費用構造は異なりますが、全社導入となれば数千万〜数十億円規模の投資になることも珍しくありません。最も陥りやすい落とし穴が、自社の既存業務プロセスにERPを無理やり合わせようとして発生する「膨大なアドオン(追加機能)開発」です。カスタマイズを重ねるほど開発・テスト費用は膨れ上がり、将来のバージョンアップすら困難になる「ベンダーロックイン」状態に陥ります。
  2. チェンジマネジメントの壁(現場の猛反発)
    ERPの強みを最大限に発揮するためには、「Fit to Standard(システムの標準機能に業務を合わせる)」のアプローチが推奨されます。しかし、これを現場に強いると、「画面が変わってハンディターミナルの操作が遅くなった」「なぜ物流現場が、経理のための細かい理由コードまで追加入力しなければならないのか」といった強い反発が必ず発生します。経営層のトップダウンだけで押し切ろうとすれば、現場は新しいシステムへのデータ入力をサボタージュし、結果的にシステム上のデータが使い物にならなくなります。
  3. システム障害時のオペレーション完全停止(単一障害点のリスク)
    全てのデータがリアルタイムで連携しているがゆえに、万が一システム本体やネットワーク回線がダウンした際の影響は甚大です。WMSが止まり、電子的な出荷指示が出なくなった際、アナログな紙のピッキングリストでどうバックアップ体制を敷くのか。現場のBCP(事業継続計画)の再構築が求められます。

自社に最適なシステムは?ERPの種類と代表的な比較基準

提供形態の比較:主流の「クラウドERP」と「オンプレミス型」の違い

「ERPと基幹システムの違い」を正しく理解し、各部門でサイロ化していたシステムを統合して一元管理と全体最適を実現することがERPの核心です。しかし、いざDX推進に向けて選定を始めると、「自社に合う提供形態はどれか」という壁に直面します。

現在、新規導入の圧倒的多数を占めているのが「クラウドERP(SaaS)」です。自社でサーバーインフラを構築・保有する従来の「オンプレミス型」と比較し、初期費用の抑制や保守性の高さが最大の強みとなっています。特に物流や小売業界においては、新規拠点の立ち上げやM&Aに伴うシステム展開のスピード感が命です。オンプレミスで数ヶ月かかるインフラ構築が、クラウドERPであれば数週間で完了するケースも珍しくありません。

ただし、クラウドERPにも実務上の深刻な落とし穴が存在します。それは「現場の通信環境への完全な依存」です。地方の大型物流センターなどでWi-Fi環境やインターネット回線が不安定になった瞬間、クラウド上のシステムにアクセスできず、出荷作業が完全に停止するリスクがあります。そのため、クラウド移行時にはネットワーク回線の冗長化(メイン回線とバックアップ回線の複数契約)など、インフラ面での強固なリスクヘッジが不可欠です。

システム構成の比較:一気通貫の「統合型」か、柔軟な「コンポーネント型(ベストオブブリード)」か

システムアーキテクチャの観点では、企業のすべての業務モジュールを1つの巨大なパッケージで網羅する「統合型(モノリシック)ERP」と、必要な業務領域ごとに最適なシステムをパズルのように組み合わせて連携させる「コンポーネント型(ベストオブブリード)」に大別されます。

  • 統合型の強みと現場の壁:
    全業務のマスターデータ統合が初めから完了しており、経営層がリアルタイムで全社のKPIを誤差なく把握できる点が最大の魅力です。しかし、前述の通り、汎用的な標準機能で構成されているため、物流現場からは「これまでの専用WMSの方が画面遷移が少なく、直感的で作業が早かった」という不満が噴出しやすく、既存の業務フローをシステムの標準仕様に合わせるためのチェンジマネジメントが極めて難航する傾向にあります。
  • コンポーネント型(ベストオブブリード)の現実解:
    財務会計や販売管理、調達といった中核(コア)には軽量で堅牢なERPを置き、現場の作業効率に直結するWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)には、使い慣れた既存システムや、業界に特化した高機能な専門SaaSを据え置き、これらを「iPaaS(Integration Platform as a Service)」などの連携基盤を用いてAPIでリアルタイム接続するアプローチです。現場の反発を最小限に抑えつつ、緩やかに全体の一元管理を実現できるため、現在の複雑なサプライチェーン実務において非常に有効かつ現実的な選択肢として支持されています。

【物流現場のリアル】サプライチェーンを最適化する業務特化型ERPの台頭とBCP対策

物流業界における深刻な人手不足や、法規制・労働環境変化による輸送力不足の常態化(2026年問題)を乗り越えるため、近年は汎用型ではなく、特定業界のサプライチェーン全体に特化した「業務特化型ERP」が注目を集めています。これらは、汎用ERPではカスタマイズ(アドオン)なしにはカバーしきれない、厳密なロットトレース管理、賞味期限の逆転防止(日付の古いものから出荷するFEFO管理)、複数拠点間の高度な在庫引き当て、不定貫(重量が一定でない商品)の管理など、物流・食品・化学業界特有の複雑な要件が標準実装されている点が特徴です。

ここで強く警鐘を鳴らしたいのは、コンポーネント型でERPと外部の専門WMSをAPI連携させる際に生じる「データ不整合」と「システム停止時のバックアップ体制(BCP)」の甘さです。API連携のタイムラグや、ネットワークの瞬断によるトランザクション処理エラーにより、ERP上の論理在庫とWMS上の物理在庫がズレる事象は、現場レベルでは日常茶飯事です。このズレを解消するために、毎朝事務スタッフが両システムからCSVを出力し、ExcelのVLOOKUP関数で差分リストを突合するという「隠れたアナログ作業」が復活してしまっては、システム刷新の意味が全くありません。データの整合性を担保する堅牢なミドルウェアの選定や、エラー時の自動再処理(リトライ)機能の設計が必須です。

さらに、万が一クラウドや連携サーバーがダウンした際、現場が止まったままではトラックの待機時間(荷待ち時間)が増大し、荷主からのペナルティや運送会社からの契約解除に直結します。「WMSだけはエッジ側(拠点内のローカルサーバー)で独立稼働できる構成を残す」、あるいは「完全停止時は紙のピッキングリストと目視検品でどう出荷を乗り切るか」、そして「復旧後に、手作業で処理した実績データをどうやってERPに流し込み、在庫を正確に同期させるか」というアナログ運用への切り替え手順(BCPマニュアル)を綿密に定義しておくことこそが、真の現場視点でのシステム導入と言えます。

失敗しないERPの選び方と導入ステップ【DX・2026年問題対策】

導入ステップ1:システム起点ではなく「自社の経営・業務課題」を明確化する

ここまでの解説で、ERPの基本的な仕組みやメリット・デメリットについてはご理解いただけたはずです。しかし、どれほど多機能で高価なシステムであっても、導入アプローチを誤れば「高額なだけの使いにくい箱」になり下がります。ERP導入を成功に導くための第一歩は、「ITベンダーのシステムにどんな最新機能があるか」を比較・評価することではありません。「自社のどの業務課題を解決し、どう全体最適を図るか」という目的(WhatとWhy)を明確に定義することです。

例えば物流現場では、「各拠点・倉庫ごとに独自の在庫管理Excelが乱立し、全社的な可視化ができていない」「WMSと販売管理システムが分断されているため、欠品による緊急手配(チャーター便の乱発)や、拠点間での横持ち輸送のムダが常態化している」といった課題が散見されます。こうした業務上の痛みを丸裸にし、解決すべき要件をまとめたRFI(情報提供依頼書)やRFP(提案依頼書)を作成します。

重要なのは、ベンダーに「丸投げ」しない体制を作ることです。情報システム部門だけでなく、物流部門、営業部門、経理部門からエース級の人材を集め、全社横断的なプロジェクトチームを組成することが、後の工程での「こんなはずじゃなかった」を防ぐ最大の防波堤となります。

導入ステップ2:現場を巻き込む社内体制の構築(チェンジマネジメントとデータクレンジング)

ERP導入において最も高いハードルとなるのが、現場の反発を乗り越える「チェンジマネジメント(変革管理)」と、過去の負の遺産を清算する「データクレンジング」です。

・現場キーマンの巻き込みとFit to Standardの徹底
導入初期の要件定義(フィット&ギャップ分析)の段階から、各拠点のセンター長や現場のオピニオンリーダー(チェンジエージェント)をプロジェクトチームに引き入れます。システムの標準仕様に業務を合わせる(Fit to Standard)ことの重要性を説き、どうしてもシステムでカバーできない「真の自社独自の強み」となる業務プロセスのみを例外として定義します。また、「システムへの入力負担が増える代わりに、月末の報告書作成がゼロになる」といった、現場にとっての明確なメリット(What’s in it for me?)を提示し、評価指標(KPI)自体を新システムの運用に合わせて変更するなどの組織的な工夫が必要です。

・マスターデータの統合とデータクレンジングの泥臭い作業
ERPが一元管理の威力を発揮するための大前提は、「マスターデータ(品目、顧客、仕入先など)がクリーンで統一されていること」です。しかし多くの企業では、旧システムにおいて「同じ商品なのに拠点ごとに商品コードが違う」「既に取引のない休眠顧客データが山のように残っている」「全角・半角が混在している」といった状態が放置されています。新しいERPにこれらの「ゴミデータ」を移行すれば、新システムは初日からゴミを生み出すシステム(Garbage In, Garbage Out)と化します。データ移行前の徹底した名寄せ、重複排除、ルールの再定義といった泥臭いデータクレンジング作業こそが、プロジェクトの成否を分ける隠れた最重要タスクです。

DX推進と2026年問題への対策:サプライチェーン全体を最適化するERPの役割

現代の物流業界において、「DX推進」は単なるバズワードではなく、企業の存続をかけた急務です。2024年問題に続き、労働人口のさらなる減少、中小企業での時間外労働割増賃金率の引き上げ定着、さらに環境対応(GX:グリーントランスフォーメーション)への要請が強まる「2026年問題」が目前に迫っています。

この複合的な危機を乗り越えるためのコアとなる武器がERPです。従来の部分最適なシステム環境では、倉庫内の歩行動線の効率化(WMS)や配送ルートの最適化(TMS)といった局所的な改善にとどまっていました。しかし、ERPを通じて調達・製造・販売・物流のデータがサプライチェーン全体で繋がることで、企業のレジリエンス(回復力・柔軟性)は飛躍的に向上します。

例えば、ERPの販売計画データ(未来の情報)と、WMSの実在庫データ(現在の情報)、さらにはTMSの配車制約データをリアルタイムで連携させます。これにより、「来週末のキャンペーンによる出荷波動に対して、事前にどれだけのチャーター便と庫内作業員の応援を手配すべきか」を高精度に割り出すことが可能になります。さらに、サプライチェーン全体のCO2排出量を算定・可視化する「スコープ3(Scope3)」への対応など、荷主・物流事業者・運送会社間のシームレスな情報連携の要(ハブ)となることこそが、次世代におけるERPの真の価値なのです。

次世代ERPの展望:AI・機械学習・デジタルツインがもたらす予測分析と業務自動化の未来

最後に、少し先の未来に目を向けてみましょう。現在、主要なERPベンダーがこぞって開発を進めているのが、AI(人工知能)や機械学習、さらにはデジタルツイン技術を中核に据えた「次世代ERP」です。これは単なる過去の実績データを記録・集計するツール(System of Record)から、未来を予測し、自律的にアクションを実行・提案するシステム(System of Intelligence)への劇的な進化を意味します。

物流・SCM領域においては、以下のような革新的な運用が現実のものになりつつあります。

  • 高度な需要予測と在庫最適化:
    過去の販売履歴だけでなく、気象情報、SNSのトレンド、マクロ経済指標などの膨大な外部データをAIが機械学習で分析。「来週、関東エリアの物流センターに、この商品を○ケース前倒しで補充すべき」といった最適解を自動で提示し、欠品と余剰在庫の双方を極限まで削減します。
  • 自律型の業務自動化(タッチレスERP):
    予測データに基づき、サプライヤーへの自動発注や、倉庫間での在庫移動(横持ち)指示をERPが自動生成して実行します。人間の担当者は、日々のルーチンワークから解放され、AIがフラグを立てた「異常値」や「例外事項」のみを確認・承認する形へと業務スタイルがシフトします。
  • デジタルツインによるSCMシミュレーション:
    現実のサプライチェーンを仮想空間上に再現(デジタルツイン)し、「もし台湾有事で特定の航路が寸断されたら」「台風で関西のメインセンターが機能停止したら」といったシナリオをシミュレーションし、代替ルートや在庫の再配置案を瞬時に導き出します。

こうした次世代システムの恩恵をフルに享受するためには、大前提として「社内のデータがサイロ化しておらず、クリーンな状態で一元管理(SSOT)されていること」が絶対条件となります。来るべきAI時代、そして物流の2026年問題という未曾有の荒波を乗り越えるために、今こそ自社のシステム環境の現状を厳しく見つめ直し、強靭なデジタル基盤となるERPを構築する第一歩を踏み出してください。

よくある質問(FAQ)

Q. ERP(基幹業務システム)と従来の基幹システムの違いは何ですか?

A. 従来の基幹システムが各部門の業務を個別に処理する「部分最適」な仕組みであるのに対し、ERP(企業資源計画)はヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を一元管理する「全体最適」のシステムです。これによりデータ連携がスムーズになり、リアルタイムな経営状況の可視化が可能になります。

Q. ERPを導入するメリットとデメリットは何ですか?

A. メリットは、データ入力の二度手間削減による劇的な業務効率化や、迅速な意思決定、情報のブラックボックス化を防ぐ内部統制の強化です。一方でデメリットとして、導入コストの負担や、業務プロセスの変更に伴う現場の反発リスクといった実務上の落とし穴に注意する必要があります。

Q. ERPシステムにはどのような種類がありますか?

A. ERPは提供形態とシステム構成によって分類されます。提供形態には現在の主流である「クラウドERP」と自社運用の「オンプレミス型」があります。またシステム構成には、業務を一気通貫でカバーする「統合型」と、必要な機能を柔軟に組み合わせる「コンポーネント型」が存在します。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。