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ニュース・海外 2025年12月9日

【海外事例】コールドチェーンのサイバー脅威|制御システムの脆弱性と米欧の防衛策

How Security Flaws Hidden in Control Systems Can Threaten the Entire Cold Chainについて

はじめに:見過ごされるコールドチェーンの「アキレス腱」

食品から医薬品まで、私たちの生活に不可欠な製品の品質を維持するコールドチェーン。その心臓部である温度管理は、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)やSCADA(監視制御システム)といった「制御システム(OT: Operational Technology)」によって支えられています。しかし、物流業界のDXが加速する一方で、これらの制御システムに潜むセキュリティの脆弱性が、今、サプライチェーン全体を脅かす静かな時限爆弾となりつつあります。

サイバー攻撃といえば、オフィスIT環境への侵入やデータ漏洩を想像しがちですが、真に恐ろしいのは、倉庫の冷凍機を止めたり、輸送中のコンテナの温度設定を書き換えたりするOTシステムへの攻撃です。一つの拠点の機能不全が、大規模な製品ロス、ブランドイメージの失墜、そして人々の健康被害にまで直結しかねません。

さらに、消費者の予算引き締めによる価格競争の激化は、企業にコスト削減を強いています。その結果、目に見えにくいOTセキュリティへの投資は後回しにされがちです。本記事では、物流業界の海外トレンドウォッチャーとして、コールドチェーンの制御システムに潜む脅威の海外動向、先進企業の取り組みを解説し、日本の物流企業が取るべき道筋を提示します。

海外の動向:国家レベルで動き出すOTセキュリティ対策

コールドチェーンのOTセキュリティは、もはや一企業の課題ではなく、国家の重要インフラ防衛のアジェンダとなっています。米国、欧州、中国では、それぞれ異なるアプローチでこの見えざる脅威への対策が進んでいます。

なぜ今、OTセキュリティが重要視されるのか?

背景には3つの大きな変化があります。

  1. ITとOTの融合: かつては独立していた工場や倉庫の制御システムが、効率化のためにインターネットに接続され、攻撃対象領域が拡大しました。
  2. ランサムウェアの標的化: サイバー犯罪者は、事業停止が莫大な損失に繋がる製造業や物流業のOTシステムを「儲かる標的」として認識し始めています。
  3. 地政学的リスク: 国家間の対立が激化する中で、敵対国の重要インフラである物流網を麻痺させるサイバー攻撃のリスクが高まっています。

国・地域別アプローチの比較

国・地域 主な動向・アプローチ 具体的な脅威・インシデント例 特徴
米国 政府機関(CISA)によるガイドライン策定と官民連携での情報共有(ISACs)を推進。NISTサイバーセキュリティフレームワークのOT環境への適用を奨励。 大手食肉加工業者JBSへのランサムウェア攻撃(2021年)。生産が一時停止し、サプライチェーンに甚大な影響。 業界主導・官民連携によるベストプラクティス共有と、インシデントからの学習を重視。
欧州 NIS2指令やサイバーレジリエンス法案など、法的拘束力のある規制によって重要インフラ事業者へセキュリティ対策を義務化。 欧州の港湾ターミナル(ロッテルダム、アントワープなど)がサイバー攻撃を受け、石油製品の荷役が数週間にわたり混乱。 トップダウンの規制主導型。サプライチェーン全体でのセキュリティ水準の底上げを目指す。
中国 「サイバーセキュリティ法」に基づき、重要情報インフラの保護を国家管理下に置く。国内技術・製品の利用を推進し、独自のセキュリティ基準を構築。 (公表事例は少ないが)国家レベルでの物流データプラットフォーム構築と、それに伴うサイバー主権の確保を重視。 国家主導による統制と標準化。サイバーセキュリティを経済安全保障の中核と位置付ける。

このように、各国・地域がそれぞれのアプローチで対策を強化しており、コールドチェーンを含む物流インフラのセキュリティ確保は、グローバルなビジネス展開において無視できない要件となっています。

先進事例:脅威を「投資」に変える企業たち

サイバー攻撃の被害を経験した企業や、リスクを予見して対策を講じるスタートアップは、OTセキュリティを単なるコストではなく、事業継続と競争優位性を確保するための「投資」と捉えています。

教訓から学ぶ大手企業:Maersk & Americold

デンマークの海運大手A.P. Moller – Maerskは、2017年にランサムウェア「NotPetya」の攻撃を受け、世界中の港湾業務が10日以上にわたり停止、約3億ドルもの甚大な被害を受けました。この苦い経験から、同社はITとOTを統合したグローバルなサイバーセキュリティ体制を再構築。ネットワークを細かく分離(セグメンテーション)し、万一侵入されても被害を最小限に食い止める「ゼロトラスト」の考え方をOT環境にも導入しました。これは、脅威への「防御」だけでなく、「回復力(レジリエンス)」を重視する現代のセキュリティ戦略の象徴です。

また、世界最大級の冷蔵倉庫会社である米国のAmericoldも、2020年にランサムウェア攻撃を受け、顧客との連携システムや在庫管理システムが停止しました。同社はこのインシデントを機に、OTシステムの監視体制を強化し、異常な通信や操作をリアルタイムで検知する仕組みを導入。復旧プロセスを迅速化し、顧客への影響を最小化するための投資を続けています。

日本未上陸のOTセキュリティ専門スタートアップ

コールドチェーン特有の課題を解決する、専門的な技術を持つスタートアップも次々と登場しています。

  • OT脅威の「監視カメラ」を提供する企業群(Claroty, Dragos, Nozomi Networksなど)
    これらの企業は、産業用制御システム(ICS)専用のセキュリティプラットフォームを提供します。彼らの技術は、冷蔵倉庫内のPLCやセンサーがどのような通信を行っているかを「可視化」し、通常とは異なる不審な挙動(例:許可なく温度設定を変更しようとするコマンド)を即座に検知します。これは、従来のIT用ファイアウォールでは見つけられなかった脅威を発見する「OT世界の監視カメラ」のような役割を果たします。

  • 品質保証とセキュリティを両立するソリューション(Controlant, Varcodeなど)
    アイスランドのControlantは、リアルタイムの温度監視IoTロガーとクラウドプラットフォームを組み合わせ、医薬品輸送などの厳格な品質管理を実現します。そのデータは改ざんが困難な形で記録され、セキュリティと品質保証を同時に提供します。また、イスラエルのVarcodeは、バーコード自体が温度変化を記録するスマートタグ技術を開発。データのインテグリティ(完全性)を物理レベルで確保し、デジタルな改ざんリスクを低減します。これらのアプローチは、セキュリティを「付加価値」として顧客に提供する新しいビジネスモデルと言えるでしょう。

日本への示唆:2024年問題の先にある「サイバーレジリエンス」

日本の物流業界は、目下「2024年問題」への対応に追われていますが、効率化のために導入が進む自動倉庫やIoTセンサーは、同時に新たなサイバーリスクの入り口にもなります。今こそ、OTセキュリティを経営課題として捉え、具体的な一歩を踏み出す時です。

日本企業が直面する3つの壁

  1. 意識の壁: 「うちは中小企業だから狙われない」「工場や倉庫はネットに繋いでいないから安全」といった楽観論が根強く残っています。しかし、サプライチェーンの一角を担う以上、自社が踏み台にされ、取引先へ被害を拡大させるリスクは常に存在します。
  2. 組織の壁: セキュリティを担当するIT部門と、現場設備を管理するOT部門との間に深い溝があるケースが多く見られます。OTの知見がないままITの論理でセキュリティ対策を進めると、現場の操業に支障をきたす恐れがあります。
  3. 予算の壁: 短期的なROI(投資対効果)が見えにくいため、セキュリティ投資は後回しにされがちです。特に、価格競争が激しい市場環境では、経営層の理解を得ることが困難な場合があります。

今すぐ始めるべき4つのステップ

完璧な対策を待つのではなく、段階的にでも始めることが重要です。

  1. ①資産の可視化: まずは自社の冷蔵・冷凍倉庫や輸送機器に、どのような制御システムがあり、どこがネットワークに接続されているかを棚卸しすることから始めます。「何を守るべきか」を知ることが第一歩です。
  2. ②リスクの評価: 可視化した資産の中で、どれが停止すると事業への影響が最も大きいか(製品ロス、納期遅延、信用の失墜など)を評価し、対策の優先順位を付けます。
  3. ③段階的な防御: ネットワークの分離(セグメンテーション)や、不要なポートの閉鎖、USBメモリ等の利用制限といった基本的な対策から着手します。これらは、比較的低コストで大きな効果が期待できます。
  4. ④インシデント対応計画の策定: 万が一攻撃を受けた場合に、「誰が、何を、どのように」対応するのかを定めた計画を準備し、定期的に訓練を行うことが、被害を最小限に抑える鍵となります。

大規模な高機能倉庫の建設は、アジアにおける物流の競争力を高める上で不可欠ですが、その価値は安定稼働が前提です。まさに、シンガポールの新港に建設されるような巨大物流施設は、その運用を支えるOTシステムの堅牢性が生命線となります。(参考:【解説】NXシンガポール、トゥアス新港の倉庫4万m2拡張が示すアジア物流の未来)

まとめ:未来のコールドチェーンは「信頼性」で選ばれる

コールドチェーンのスマート化・自動化は、今後ますます加速します。それは同時に、サイバー攻撃のリスクが常に隣り合わせであることを意味します。将来的には、AIが脅威の予兆を自律的に検知・防御する世界が訪れるでしょう。

しかし、技術だけでは企業を守れません。最も重要なのは、経営層がOTセキュリティを「コスト」ではなく、「事業継続と顧客からの信頼を守るための投資」と認識することです。

消費者が価格に敏感な市場であっても、一度失われた「食の安全」や「医薬品の品質」への信頼を取り戻すのは容易ではありません。サイバー攻撃への備え、すなわち「サイバーレジリエンス」は、これからの物流企業にとって、価格やスピードと並ぶ、あるいはそれ以上に重要な競争力の源泉となるのです。

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