2026年の幕開けとともに、物流業界は決定的なフェーズの転換を迎えました。今週届いた一連のニュースが指し示すのは、AIやロボティクスが「実験室(PoC)」を飛び出し、泥臭い「物理世界(Physical World)」で実利を生み出し始めたという事実です。
これまで物流DXの主役は「可視化(Visibility)」でした。しかし、画面上で荷物を追跡するだけでは、人手不足もコスト高騰も解決しないことに世界は気づき始めています。中国の「1元ロボットレンタル」や米国の「ドア・ツー・ドア自動運転」といった衝撃的なニュースは、テクノロジーの役割が「監視」から「実行」へと移行したことを告げています。
今週は、物理的な「身体性」を獲得したAIの進化と、それに伴う物流経営のパラダイムシフトについて、3つの視点から深層を読み解きます。
1. 具身知能(Embodied AI)の民主化と「所有」の終焉
ロボットはもはや高嶺の花でも、特定の工程専用の機械でもありません。今週のニュースで最も衝撃的だったのは、ロボット導入における「コスト」と「運用」の壁が、海外勢によって破壊されつつある現実です。
RaaSがもたらす「労働力のユーティリティ化」
中国市場では、SF映画のような未来が驚くべき低価格で現実のものとなっています。QRで呼ぶヒト型ロボット。中国「1元レンタル」が壊す導入の壁の記事にある通り、スマートフォン一つで、わずか数十円でヒト型ロボットをレンタルできるサービスが始まりました。
これは単なる価格破壊ではありません。ロボットが「高額な固定資産」から、電気や水道、あるいはスポット派遣のように「必要な時に蛇口をひねれば使える労働力(ユーティリティ)」へと変貌したことを意味します。日本企業が稟議書にハンコを押している間に、中国企業はQRコード一つで労働力を調達しているのです。
この流れを技術面から支えているのが、「具身知能(Embodied Intelligence)」の進化です。トヨタも採用「具身知能」が上場へ。10万台実績が示すロボット実戦配備の幕開けで報じられたDobot Roboticsの上場計画は、アーム型から人型、四足歩行までを一つのAI頭脳で制御する時代の到来を告げています。
「眼」と「手」の進化が段取りを消滅させる
物理世界への適応力という点では、フランス発の技術も見逃せません。乱雑な箱から1秒でピッキング。「人間のような適応力」を持つInboltの衝撃は、AIビジョンが「整列されていないモノ」を瞬時に認識できるようになったことを示しています。これにより、物流現場における「段取り(整列作業)」という工程そのものが消滅する可能性があります。
また、中国の芸当から実務へ。中国「知能化ロボット」が物流現場にもたらす衝撃にあるように、ロボットはバク宙をする見世物から、地味だが確実な作業を行う「同僚」へと進化しています。これらの動きは、物流1800億個を支えるAI投資。中国ECが示す日本の未来が示す通り、圧倒的な物量を捌くための必然的な進化と言えるでしょう。
経営層への示唆:
「ロボットは高い」「使いこなせない」という固定観念を捨てるべき時です。世界の潮流は、初期投資ゼロのサブスクリプションやレンタルモデルへ移行しています。日本企業は「所有」にこだわらず、外部のリソースとしてロボットを使い倒す「利用」の戦略へと舵を切る必要があります。
2. 自動運転とエネルギーの「経済合理性」への回帰
自動運転技術においても、夢物語のフェーズは終わり、シビアな「収益性」が問われる段階に入っています。今週のニュースからは、技術的難易度よりもビジネスモデルの優劣が勝敗を分ける傾向が鮮明になりました。
ハブ・アンド・スポークの否定と「ドア・ツー・ドア」
長らく自動運転トラックの常識とされてきた「高速道路限定(ハブ・アンド・スポーク型)」モデルに対し、強力なアンチテーゼが登場しました。「高速限定」は稼げない。Waabiが挑む「完全無人」ドア・ツー・ドアの衝撃です。
高速道路だけを自動化しても、インターチェンジでの積み替えコストが発生すれば、トータルコストは下がりません。Waabiのアプローチは、技術的に困難な一般道走行をクリアしてでも「拠点間直行」を実現しなければ、荷主にとっての経済的メリットがないことを喝破しています。
この「実利主義」はラストマイル配送でも同様です。物流コスト半減の実績。1億ドル調達「白犀牛」が変えるラストマイルの常識にあるように、中国の白犀牛(White Rhino)は、実験ではなく「コスト半減」という明確な果実を武器に、すでに2000台以上を稼働させています。
インフラとしての「交換式バッテリー」と「鉄道」
EVトラックの普及を阻む「充電時間」の壁に対し、中国CATLは「物理的な交換」という力技で解決策を提示しました。充電不要5分で交換。CATLが実証する「EVトラック物流」の収益革命が示すように、わずか1年で1300カ所以上のステーションを整備するスピード感は、日本のインフラ戦略にも再考を迫るものです。
一方で、既存インフラの活用という点では、鉄道ヤード自動化が優勝。米TechCrunch注目16社に見る「物流の物理革命」の記事が興味深い視点を提供しています。鉄道と道路の両方を走れる車両の開発は、モーダルシフトが進まない日本の現状に対する一つの解となり得ます。
ただし、安全性への懸念は依然として最大の障壁です。100万マイルの壁。米カリフォルニア自動運転解禁が示す物流の未来にあるように、カリフォルニア州が提示した厳格な基準は、今後の世界標準となる可能性があります。また、自動運転トラックが走る広告塔に?米国の「安全 vs 収益」論争の全貌のような、収益化を急ぐあまり安全を犠牲にする議論には注意が必要です。
経営層への示唆:
自動運転やEV導入を検討する際、「技術的に可能か」ではなく「トータルコストが下がるか」という原点に立ち返るべきです。積み替えの手間や充電待機時間がコスト削減効果を相殺していないか、シビアな計算が求められます。
3. 「見るだけ」から「自律判断」へ進化する管理業務
ハードウェアだけでなく、ソフトウェア(管理業務)の領域でも「自律化」が進んでいます。これまでのSaaSは人間が判断するための材料を提供するツールでしたが、最新のAIは人間に代わって意思決定を行い、業務を完結させようとしています。
Actionable Intelligence(行動を促す知能)
「見るだけ」の物流は時代遅れ。AIが自律判断するタッチレス革命で紹介されたPortcastの事例は象徴的です。「荷物が遅れています」と報告するだけのツールはもはや不要であり、「遅れているので、代替ルートAを手配しますか?」と提案し、人間が承認すれば処理を完了する「Actionable Intelligence」こそが求められています。
この流れは、複雑怪奇な通関業務においても同様です。通関ミスで数億円損失?米国発「AI自動分類」が救う物流の未来にあるように、自然言語処理(NLP)を備えたAIは、HSコードの分類という専門業務において、人間のベテランに匹敵、あるいは凌駕する判断力を発揮し始めています。
日本の法改正が迫る「データドリブン経営」
こうした海外のAIトレンドは、日本の法規制対応とも密接にリンクします。1月1日に施行された改正下請法「取適法」始動や、2026年に迫るCLO義務化と改正下請法で経営はどう変わる?といった規制強化は、荷主企業に対し、物流現場の「実態把握」を義務付けています。
無償作業や荷待ち時間を削減するためには、現場データの可視化が不可欠です。AIで変わる、サプライチェーンのデータ管理と利活用で解説されているように、AIによるデータ管理は、単なる効率化だけでなく、コンプライアンス遵守のための防波堤としても機能します。
また、物流の「混乱」は常態化へ。2026年を勝つ「予測なき適応」戦略にあるように、予測不能な時代においては、固定的な計画よりも、リアルタイムデータに基づいてAIが即座に対応策を弾き出す「適応力」が企業の生死を分けます。
経営層への示唆:
「可視化」をDXのゴールにしてはいけません。その先にある「判断の自動化」こそが本丸です。また、法改正への対応を単なるコスト増と捉えず、AI導入によってサプライチェーンの透明性を高め、競争力を強化する好機と捉えるべきでしょう。
来週以降の視点(Strategic Outlook)
今週のニュース群が示したのは、「AI×フィジカル」の融合が実験段階を終え、実益を生むフェーズに入ったことです。これを踏まえ、来週以降は以下のポイントに注目すべきです。
-
「統合制御プラットフォーム」の覇権争い
ロボット単体の性能ではなく、異種ロボット(アーム、AGV、ヒューマノイド)を束ねる「OS」や「プラットフォーム」を提供するプレイヤーの動きに注目してください。DobotやInboltのように、ハードウェアに依存しない「知能」を提供する企業が、次の物流DXの中核になります。 -
日本版「100万マイル基準」の議論
カリフォルニア州の規制案を受け、日本国内でも自動運転トラックの安全性証明に関する議論が活発化するでしょう。特に、「PoCの実績」ではなく「商用ベースでの事故率」などの定量データが重視されるようになります。 -
「非同期物流」の実装事例
ロボットは人を待たない。米病院で実現した「完全非同期」物流の衝撃にあるように、ロボットと人間が「待ち時間なし」で連携する仕組み(スマートロッカー等との連携)が、日本の物流センターや病院物流でどのように日本流にアレンジされて実装されるか、具体的な事例の登場が待たれます。
世界は「自動化」から「自律化」へ。そして「デジタル」から「フィジカル」へ。2026年の物流は、画面の中ではなく、現場の物理的な動きを変えることから始まります。


