物流業界はいま、かつてない岐路に立たされています。2024年問題への対応が一巡し、次に見据えるべきは2026年の法改正、そしてCLO(物流統括管理者)選任義務化です。
多くの企業がこれを「規制強化によるコスト増」と捉えて悲観する中、一部の先進的なリーダーたちは「過去50年で最大の変革チャンス」と定義し、攻めの姿勢に転じています。
先日名古屋で開催された業界イベントでは、単なる賃上げや効率化を超えた「物流業界の社会的地位向上」が熱く議論されました。衝撃的だったのは、「現在約6万3000社ある国内の運送事業者が、業界再編により将来的に約4万社まで減少する可能性がある」という予測です。
約2万社が市場から退場を余儀なくされる淘汰の時代。生き残る鍵は、他業界からも、そして働く人々からも「選ばれる産業」へと生まれ変わることです。本記事では、現場の「人」に光を当てた具体的な変革シナリオと、そこから読み解く生存戦略を解説します。
「過去50年で最大の変革」その背景とイベント詳報
名古屋で開催されたこのイベントは、物流不動産大手のプロロジスらが主催し、地域の運送会社経営者や現場リーダーが集結しました。議論の中心となったのは、法改正をテコにした業界の構造改革です。
物流2法改正とCLO義務化がもたらすパラダイムシフト
物流関連2法の改正により、一定規模以上の企業には「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務付けられます。これは単に役職を一つ増やす話ではありません。物流管理を経営の中枢に据え、全社的な権限を持たせるという、日本企業の統治構造そのものの変革を意味します。
これまで現場任せにされがちだった物流課題が、経営マターとして扱われるようになる。これを「地位向上の好機」と捉えられるかどうかが、企業の命運を分けます。
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業界再編の衝撃|6万3000社から4万社へ
イベントで示された「運送事業者が4万社まで減少する」という予測は、業界関係者に強い衝撃を与えました。
これまでのような多重下請け構造や、過度な安値受注に依存したビジネスモデルはもはや持続不可能です。M&Aによる集約が進む中で、買収される側になるのか、それとも統合の核となるのか。その分水嶺にあるのが、「企業文化」と「人材育成力」です。
以下に、イベントで共有された主要な論点と事例を整理します。
| テーマ | 概要・重要なファクト |
|---|---|
| 変革の定義 | 物流2法改正やCLO義務化を「過去50年で最大のチャンス」と捉え、受動的な対応ではなく能動的な地位向上を目指す。 |
| 市場予測 | 国内約6万3000社の運送事業者が、M&Aや廃業により約4万社へ集約される可能性。選ばれる企業への転換が急務。 |
| 組織文化 | ダイセー倉庫運輸:「サンシャイン・マネジメント(褒める文化)」を導入。M&A後の異なる企業文化を統合し、心理的安全性を確保。 |
| 外国人材 | セイリョウライン:ポルトガル語の安全教育教材を自社開発。単なる労働力ではなく、仲間として受け入れるための多言語コミュニケーションを徹底。 |
| 拠点戦略 | プロロジス:名古屋駅から15分という立地を「物流効率」だけでなく「雇用の優位性(人が集まる場所)」として再定義。 |
現場発・社会的地位向上への具体的アプローチ
抽象的な「地位向上」という言葉を、現場レベルの具体的なアクションに落とし込んでいる企業の事例は、多くの示唆に富んでいます。
ダイセー倉庫運輸|「褒める文化」でM&A後の組織を統合
M&Aが活発化する物流業界において、最大の課題は「PMI(統合後の組織融合)」です。異なる文化を持つ会社同士が一緒になったとき、現場には軋轢が生まれやすく、離職の原因となります。
ダイセー倉庫運輸が提唱する「サンシャイン・マネジメント」は、従業員の承認欲求を満たす「褒める文化」を組織OSとして導入する試みです。
* 承認の仕組み化: 日々の業務の中で「当たり前のこと」を褒め合う仕組みを作る。
* 心理的安全性: ドライバーが孤立せず、帰属意識を持てる環境を整備する。
これにより、M&A後もスムーズな文化統合を実現し、組織力を強化しています。
セイリョウライン|外国人材を戦力化する「言葉の壁」突破術
人手不足の解消策として外国人材の活用が進んでいますが、「言葉の壁」や「安全教育の難しさ」から二の足を踏む企業も少なくありません。
セイリョウラインのアプローチは、既存の教材に頼らず、自社でポルトガル語の安全教育教材を開発するという徹底したものです。
* 母国語での教育: ニュアンスが伝わりにくい安全ルールを、母国語で正しく理解してもらう。
* 歩み寄る姿勢: 会社側が彼らの言語や文化を尊重する姿勢を見せることで、信頼関係が生まれる。
「使ってやる」ではなく「共に働く」という姿勢が、結果として定着率向上と事故防止につながっています。
プロロジス|立地を「雇用戦略」として再定義する
物流施設の立地選びといえば、従来は「ICからの距離」や「配送エリアへのアクセス」が最優先でした。しかし、プロロジスはここに「雇用の優位性」という視点を強く打ち出しています。
「名古屋駅から15分」という立地は、通勤の利便性が高く、人材確保において圧倒的なアドバンテージとなります。
* 働きやすさ: 通勤時間が短ければ、ワークライフバランスが向上する。
* 採用競争力: 人が集まりにくい郊外型施設に対し、都市型施設は若年層や女性を含めた多様な人材にアプローチできる。
施設選びがそのまま採用戦略になるという、経営視点の転換です。
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サプライチェーン全体へ波及する影響
今回の議論は、運送・倉庫事業者だけの話ではありません。荷主企業を含めたサプライチェーン全体に波及する影響があります。
運送事業者|「選ばれる」か「淘汰される」かの分岐点
約2万社が淘汰される未来において、運送事業者に求められるのは「価格競争力」ではなく「組織力」です。
- コンプライアンス: 法令遵守は当たり前。CLOと対等に話ができる管理体制が必要。
- 人材の質: 挨拶ができる、荷扱いが丁寧、デジタルツールが使えるドライバーを育成できるか。
これらを備えた企業だけが、荷主から選ばれる「4万社」に残ることができます。
荷主企業(メーカー・小売)|コスト要請からパートナーシップへ
CLO選任義務化により、荷主企業の経営層も物流に対する責任を負うことになります。これまでのような「安く運べればいい」というスタンスは、コンプライアンスリスクとして跳ね返ってきます。
- パートナー選定: パートナー(委託先)の労働環境や人権配慮が、自社のブランド価値に直結する。
- 共同解決: 物流コストの上昇を受け入れつつ、共に生産性を上げるためのDX投資や業務標準化が求められます。
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LogiShiftの視点|「人」への投資が最強の経営戦略になる理由
今回のニュースを通じてLogiShiftが注目するのは、各社の取り組みが「システム導入」や「トラック購入」といったハードウェア投資ではなく、「人の心」や「関係性」といったソフトウェア投資に向かっている点です。
賃上げ競争の限界と「心理的報酬」の重要性
賃上げはもちろん重要ですが、資本力のある大手には勝てません。中小規模の事業者が生き残る道は、金銭的報酬以外の「心理的報酬(やりがい、承認、成長実感)」を提供することです。
ダイセー倉庫運輸の「褒める文化」は、まさにこの心理的報酬を最大化する戦略です。ドライバーという職業は孤独になりがちです。その孤独を解消し、「この会社で働いてよかった」と思わせるエンゲージメントの高さこそが、離職を防ぐ最強の防波堤となります。
テクノロジーで「職人芸」を資産に変える未来
さらに一歩進んで、今後は「人のスキル」をテクノロジーで可視化・資産化する動きが加速するでしょう。
例えば、ベテランドライバーの運転技術や、倉庫作業員の効率的な動きをデータ化し、評価に反映する。あるいは、顔認証技術を使って個人の実績を正確に記録し、適切なインセンティブを与える。
「勘と経験」に頼っていた物流現場のスキルを、企業の知的資産として再定義し、それを正当に評価する。これこそが、物流業界の社会的地位を向上させるための本質的なDXではないでしょうか。
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また、こうした変革を牽引するためには、経営層だけでなく、現場と経営をつなぐCLOや物流マネージャーの育成が急務です。
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まとめ|明日から始める変革の第一歩
物流2法改正や業界再編の波は、避けることのできない現実です。しかし、それを「淘汰の危機」と恐れるか、「地位向上の好機」と捉えるかで、数年後の景色は全く異なるものになるでしょう。
名古屋で共有された事例は、特別な予算や大規模なシステムがなくても、「人」に向き合うことで変革は始められることを教えてくれています。
最後に、経営層と現場リーダーが明日から意識すべきアクションをまとめます。
| 対象 | アクションリスト |
|---|---|
| 経営層 | – 自社の「選ばれる理由」を言語化し、発信する。 – 従業員の心理的報酬(褒める、認める)を高める制度設計に着手する。 – CLO候補となる人材の育成計画を策定する。 |
| 現場リーダー | – 外国人スタッフや若手ドライバーとの対話時間を増やす。 – 現場の「隠れたファインプレー」を見つけ出し、称賛する。 – テクノロジー活用による業務負担軽減の提案を行う。 |
「現場から描く変革のシナリオ」は、誰かが書いてくれるものではありません。現場にいる一人ひとりが、日々の業務の中で書き上げていくものです。物流業界が憧れの産業となる未来へ向けて、まずは目の前の「人」を大切にすることから始めましょう。


