物流コストの高騰と「2024年問題」による輸送キャパシティの制約は、多くの荷主企業にとって喫緊の課題です。特に、緊急性の高い国内航空貨物においては、スピードとコストのトレードオフに頭を悩ませる現場リーダーも多いのではないでしょうか。
そのような中、NIPPON EXPRESSホールディングス(以下、日本通運)が2024年1月22日より開始した新サービス「NXマルチオーダー One」が、業界内で静かな注目を集めています。
本サービスは、同一届け先への複数オーダーを自動で集約し、出荷作業の効率化と輸送コストの最適化を同時に実現するものです。なぜ今、このサービスが重要なのか。その仕組みと、企業の物流戦略に与えるインパクトについて解説します。
「NXマルチオーダー One」の概要と導入背景
これまでの物流現場では、同一の届け先に対して複数の注文(オーダー)が入った場合、すべての商品が揃うまで出荷を待機するか、オーダーごとに個別に発送するかの二者択一を迫られていました。前者は出荷スペースを圧迫し、後者は輸送コストが割高になるというデメリットがありました。
「NXマルチオーダー One」は、このジレンマを解消するソリューションです。
サービスの基本スペックと仕組み
本サービス最大の特徴は、「出荷は五月雨(さみだれ)式、納品は一括」というオペレーションが可能になる点です。
荷主側は商品が準備できた段階で順次、日本通運のターミナルへ出荷します。日本通運側でそれらの貨物をデータ上でマッチングし、同一届け先分を物理的に取りまとめた上で、一括して航空輸送・納品を行います。
以下にサービスの要点を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| サービス名 | NXマルチオーダー One |
| 開始日 | 2024年1月22日 |
| 対象輸送モード | 国内航空貨物 |
| 利用必須システム | 送り状発行システム「S-Printer」シリーズ |
| 主要機能 | 同一届け先への複数オーダー番号を1つの送り状(MAWB)に集約 |
| 納品形態 | 複数個口として一括納品 |
| 運賃計算 | 個建(個数単位)から総重量(Total Weight)計算へ移行 |
個建運賃から「総重量計算」への転換
このサービスがコストメリットを生む最大の理由は、運賃計算のロジック変更にあります。
従来の「個建運賃」では、荷物1個ごとに最低料金や基本運賃が発生するため、小口で複数回送ると割高になりがちでした。一方、「NXマルチオーダー One」では、集約された貨物の総重量で運賃が計算されます。一般的に航空貨物運賃は重量が増えるほどキロ単価が割安になる(量目割引)傾向があるため、個別に送るよりも大幅なコスト削減が見込めます。
物流現場とサプライチェーンへの具体的な影響
この新サービスは、単なる「割引サービス」ではありません。導入によって、倉庫オペレーションや配送品質にどのような変化が生まれるのか、各プレイヤーの視点で分析します。
荷主(倉庫現場):出荷スペースの解放と作業平準化
倉庫現場において「出荷合わせ(名寄せ)」のための滞留在庫は、スペースを圧迫する大きな要因です。
すべてのアイテムが揃うまで出荷バース付近に荷物を仮置きする必要がなくなるため、以下のメリットが生まれます。
- 作業スペースの有効活用: 準備できたものから順次トラックに載せて搬出できるため、出荷待機スペースを最小化できます。
- 作業の平準化: ピッキング完了直後に出荷処理へ回せるため、トラック集荷直前の検品・梱包ラッシュを緩和できます。
納品先(着荷主):荷受け工数の削減
納品先にとってもメリットは明確です。
オーダーごとにバラバラに荷物が届くと、その都度検品や受領印の対応が必要となり、荷受け担当者の時間を奪います。「一括納品」されることで、検品作業が一度で済み、バックヤード業務の効率化に繋がります。
サプライチェーン全体:カーボンニュートラルへの寄与
複数の小口貨物をまとめて輸送することは、積載効率の向上を意味します。結果として、輸送にかかるCO2排出量の原単位を低減させる効果も期待でき、環境配慮型物流(グリーンロジスティクス)の観点からも評価される動きと言えます。
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LogiShiftの視点:データ連携がもたらす「物流DX」の本質
ここからは、単なるニュース解説を超えて、このサービスが示唆する業界の未来について考察します。
「物理的な集約」から「論理的な集約」へのシフト
「NXマルチオーダー One」の肝は、日本通運の送り状発行システム「S-Printer」を利用したデータの事前共有にあります。
従来、混載(Consolidation)は物理的に荷物が集まって初めて行われるものでした。しかし本サービスでは、出荷データ(オーダー情報)が先行して日通側に飛び、システム上で「これはまとめるべき荷物だ」と判断されます。
これは、物流が「モノを運ぶ産業」から「情報を管理してモノを最適化する産業」へと進化している好例です。S-Printerというデジタルインターフェースを握っているからこそ実現できたサービス設計と言えるでしょう。
B2B物流における「即出荷」の標準化
EC物流(B2C)では「注文即出荷」が当たり前ですが、B2B物流では「揃うまで待つ」が商習慣として残っていました。しかし、在庫回転率を重視する現代の経営において、倉庫での滞留時間はロスでしかありません。
今後、航空貨物だけでなく、トラック輸送や鉄道輸送においても、こうした「順次出荷・一括納品」のモデルが広がっていくと予測されます。特に2024年問題でトラックの配車が難しくなる中、「とにかく積めるものから積んで出してしまい、キャリア側で調整してもらう」というニーズは高まる一方です。
企業はどう動くべきか?
経営層や物流リーダーは、以下の観点で自社の出荷フローを見直すべきです。
- 「待ち」のコスト計算: 商品が揃うのを待つことによるスペースコスト、作業員の待機時間、キャッシュフローへの影響を可視化する。
- WMSとキャリアシステムの連携: 「S-Printer」のようなキャリア指定システムと、自社WMS(倉庫管理システム)の連携がスムーズに行えるか。CSV連携やAPI連携の整備が、こうした新サービス活用の鍵を握ります。
まとめ:スピードとコストの両立へ向けて
日本通運の「NXマルチオーダー One」は、国内航空貨物における「小口化・多頻度化」という課題に対し、データ活用による集約で「大口化メリット」を享受させようとする戦略的なサービスです。
明日から意識すべきアクション:
* 現在の航空便利用状況を確認し、同一届け先への複数出荷が発生しているかデータを分析する。
* 個建運賃で支払っているコストと、重量計算に切り替えた場合のシミュレーションを行う。
* 出荷作業スペースのボトルネックが「滞留貨物」にある場合、即時出荷オペレーションへの切り替えを検討する。
物流の選択肢は日々進化しています。既存の契約やルーチンに縛られず、新しいサービスの仕組みを理解し、自社の現場にフィットさせる柔軟性が、これからの物流戦略には不可欠です。


