物流業界における「自動化のジレンマ」をご存知でしょうか。「人手不足解消のためにロボットを入れたい」と願いつつも、「数億円規模の初期投資(CapEx)」「数年にわたる償却期間」「導入までの長いリードタイム」という高い壁に阻まれ、多くの企業が二の足を踏んでいます。
特に、中小規模の現場や、設備投資に制約がある賃貸倉庫では、この傾向が顕著です。
しかし今、ドイツからこの常識を覆す新たな波が押し寄せています。ドイツのロボットスタートアップ「NEOintralogistics(ネオ・イントラロジスティクス)」が提唱する、完全な従量課金制(Pay-per-pick)モデルです。
本記事では、初期投資ゼロで既存倉庫を自動化できるこの「RaaS(Robotics-as-a-Service)」の最新事例を深掘りし、世界の物流トレンドが「所有」から「利用」へと劇的にシフトしている現状を解説します。そして、この波が日本の物流現場、特に2024年問題以降の効率化にどう寄与するのかを紐解いていきます。
なぜ今、「Pay-per-pick(従量課金)」が世界で注目されるのか
世界の倉庫の約80%は、いまだに手作業中心で運営されていると言われています。なぜ自動化が進まないのか。その最大の理由は「リスク」です。
従来の自動化プロジェクトは、多額の初期投資を伴う「ハイリスク・ロングリターン」の決断でした。市場環境が激変する現代において、5年後、10年後の荷量や商品構成を正確に予測することは不可能に近く、固定的な設備投資は経営の足かせになりかねません。
資産投資(CapEx)から運用費(OpEx)への転換
ここで台頭してきたのが、ロボットを資産として購入するのではなく、サービスとして利用する「RaaS」モデルです。
米国や欧州ではすでに主流になりつつあるこのモデルですが、最新のトレンドは単なる月額固定サブスクリプションを超え、「作業した分だけ支払う(Pay-per-pick)」という完全成果報酬型へと進化しています。
主な自動化モデルの比較
| 比較項目 | 従来の自動化(CapEx) | 一般的なRaaS(月額固定) | 次世代RaaS(Pay-per-pick) |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | 非常に高額(数億円〜) | 中〜低額(セットアップ費等) | ゼロ(原則なし) |
| 支払い形態 | 一括またはリース | 月額固定費 | ピッキング回数に応じた変動費 |
| 財務上の扱い | 資産(減価償却) | 経費(OpEx) | 完全な変動費(OpEx) |
| リスク | 需要変動リスクを自社で負う | 固定費のリスクが残る | リスクをベンダーと共有 |
| 主な対象 | 大規模・自社倉庫 | 中規模以上 | 中小規模・賃貸倉庫 |
この「変動費化」は、物流コストを売上や取扱量に完全に連動させることができるため、繁閑差の激しいEC物流や、将来予測が困難な3PL事業者にとって理想的なソリューションとなります。
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独NEOintralogisticsが仕掛ける「自動化の民主化」
このトレンドの最前線にいるのが、今回300万ユーロ(約4.8億円)のシード資金調達を完了したドイツのNEOintralogisticsです。
Amadeus APEX Technology Fundなどが主導したこの出資は、同社のビジネスモデルが欧州市場で高く評価されている証拠でもあります。彼らが掲げるミッションは「倉庫自動化の民主化(Democratize warehouse automation)」。その具体的な中身を見ていきましょう。
1. 初期投資ゼロ・完全従量課金の衝撃
NEOintralogisticsの最大の特徴は、導入時の初期費用がかからないことです。ロボット本体、ソフトウェア、設置費用といったイニシャルコストを撤廃し、顧客は「ロボットがピッキングした回数」に応じて料金を支払います。
これにより、自動化プロジェクトにおけるROI(投資対効果)の計算や稟議プロセスが劇的に簡素化されます。「投資回収に何年かかるか」ではなく、「人件費と比較して1ピックあたりの単価が下がるか」というシンプルな比較で導入可否を判断できるのです。同社によると、このモデルにより運用コストを最大65%削減可能としています。
2. ブラウンフィールド(既存設備)への適応力
従来のAGV(無人搬送車)やAS/RS(自動倉庫)の多くは、専用の棚やグリッド、あるいは広大なスペースを必要としました。しかし、日本の多くの倉庫と同様、欧州でも既存の倉庫(ブラウンフィールド)にはすでに棚があり、レイアウト変更が難しいケースが多々あります。
NEOintralogisticsのソリューションは、既存の棚や設備をそのまま活用することを前提に設計されています。
大規模な工事が不要であるため、通常数ヶ月〜数年かかる導入期間を、わずか「数週間」に短縮可能です。これは、稼働を止められない物流現場にとって極めて重要な要素です。
3. 大手企業との強固なエコシステム
同社は単なる独立系スタートアップではなく、物流機器大手Jungheinrich傘下のロボット企業Magazinoからのスピンオフです。さらに、欧州物流大手のGLSや、保管システム大手のBITOといったプレイヤーと提携しています。
技術的なバックボーンと、物流現場のリアリティを知るパートナーシップが、この「Pay-per-pick」モデルの信頼性を担保しています。
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日本企業への示唆:賃貸倉庫・中小規模現場の勝機
このドイツ発のトレンドは、日本の物流企業にどのような意味を持つのでしょうか。
「賃貸だから無理」を過去にする
日本では、多くの物流拠点が賃貸倉庫やマルチテナント型倉庫に入居しています。原状回復義務や契約期間の制約から、床にアンカーを打つような大型設備の導入は困難でした。
しかし、NEOintralogisticsのような「既存棚活用 × 初期費ゼロ」のモデルであれば、賃貸倉庫であっても導入のハードルは劇的に下がります。設備への「投資」ではなく、派遣スタッフを雇うのと同じ感覚でロボットを「採用」できるからです。
変動費モデルによる経営の安定化
2024年問題による人件費の高騰は、物流企業の利益率を圧迫しています。しかし、固定費である人件費を削減するために固定費(借入金返済やリース料)を増やすのでは、経営のリスクは変わりません。
「Pay-per-pick」モデルの導入は、固定費を変動費に変える財務戦略そのものです。荷量が減ればロボットへの支払いも減るため、不況時や閑散期でも利益を確保しやすくなります。
日本導入に向けた課題と対策
もちろん、海外モデルをそのまま日本に持ち込むには障壁もあります。
- 商習慣の違い: 日本の現場は「すり合わせ」による高品質なオペレーションが強みですが、RaaSモデルは標準化されたプロセスを好みます。
- WMSとの連携: 既存の倉庫管理システム(WMS)と、海外製ロボット制御システムのAPI連携が必要です。
しかし、これらは乗り越えられない壁ではありません。重要なのは、現場のDX担当者が「完全自動化」を目指すのではなく、「人とロボットのハイブリッド運用」を前提に、まずはスモールスタートで検証を始めることです。
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まとめ:自動化は「資産」から「機能」へ
NEOintralogisticsの事例が示しているのは、物流自動化技術のコモディティ化と、ビジネスモデルのパラダイムシフトです。
かつてサーバーを購入して自社で運用していた企業が、こぞってクラウド(AWSやAzure)に移行したように、物流ロボットも「所有する資産」から「必要な時に必要な分だけ使う機能」へと変化しています。
初期投資300万ユーロというシード資金は、この巨大な市場転換への期待値の表れです。日本の物流企業も、「高すぎて買えない」と嘆くのではなく、「買わずに使う」選択肢を模索するフェーズに入っています。
これからの物流DXは、いかに優れたハードウェアを買うかではなく、いかに柔軟な契約形態で、自社のキャッシュフローに合わせて自動化機能を調達できるかが、競争力の分水嶺となるでしょう。


