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Home > ニュース・海外> 全面刷新は不要。英国3PLが実践した「部分自動化」でROIを最大化するDX戦略
ニュース・海外 2026年3月13日

全面刷新は不要。英国3PLが実践した「部分自動化」でROIを最大化するDX戦略

On-Demand: How a 3PL automated to meet new productivity needs for a global CPG leader

物流業界において「倉庫の自動化」は避けて通れないテーマとなっていますが、多額の初期投資と稼働停止のリスクが壁となり、足踏みしている企業は少なくありません。特に、複数の荷主の荷物を預かる3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者にとって、多種多様な商材が混在し、契約期間もバラバラな「マルチクライアント倉庫(複数荷主同居型倉庫)」を全面刷新することは、投資回収の観点からも極めて困難です。

こうした中、海外物流の最前線では「全か無か」の全面自動化ではなく、特定の荷主やプロセスに絞ってロボットを導入する「オンデマンド型」や「部分自動化」が主流となりつつあります。本記事では、英国の大手3PL企業がグローバルCPG(日用品)ブランド向けに実践した最新の物流DX事例を紐解き、日本の物流経営層やDX推進担当者がリスクを抑えて生産性を劇的に高めるための戦略を解説します。

海外物流市場で加速する「アドオン型」自動化へのパラダイムシフト

海外の物流トレンドを俯瞰すると、かつて主流であった「新築のメガ倉庫に最新鋭の自動化設備をフルインストールする」というアプローチから、既存の稼働中倉庫に後付け(アドオン)で柔軟に導入できる自動化ソリューションへと投資の軸足が移っています。

米国や欧州では、インフレによる金利上昇と建設コストの高騰により、グリーンフィールド(新規開発)投資が冷え込み、既存施設を有効活用するブラウンフィールド投資が急増しています。これに伴い、特定のエリアだけを区切って導入できるAMR(自律走行搬送ロボット)や、グリッド型の高密度保管システムの導入が加速しているのです。

各国の3PL倉庫における自動化トレンド比較

世界の主要エリアにおける3PLの自動化戦略には、それぞれの市場環境を反映した明確な違いが見られます。

地域 自動化の主要トレンド 導入のアプローチと特徴
北米 労働コスト高騰対策としてのAMR導入 人の作業を支援する協働型ロボットの月額利用が主流。繁忙期の短期的な需要増に対して柔軟に台数を増減させるオンデマンド運用が定着。
欧州 既存施設の有効活用と省スペース化 環境規制や土地不足を背景に既存倉庫の改修を重視。高密度保管システムとロボットを組み合わせた局所的な自動化でROIを極大化。
中国 圧倒的な物量を裁くフルオートメーション 安価なハードウェアを武器に倉庫全体の無人化を推進。近年は余剰となったロボット技術を東南アジアや欧州の3PL向けに輸出展開。

特に欧州の3PL事業者は、厳しい労働法制とサステナビリティ要求に対応するため、限られたスペースと人員で最大のパフォーマンスを発揮する「柔軟な自動化」のノウハウを蓄積しています。

参考記事: AutoStore×AIロボットの新機軸。スウェーデン3PLの「柔軟な自動化」

先進事例:英国Howard Tenens Groupが実証した「部分的自動化」の成功法則

ここからは、本題である英国の大手3PL企業、Howard Tenens Groupの具体的なケーススタディを深掘りします。同社は、ネットスーパーの自動化技術で世界的に知られるOcado Intelligent Automation(OIA)と連携し、マルチクライアント倉庫内において革新的な自動化プロジェクトを成功させました。

このプロジェクトの最大の特徴は、倉庫全体の自動化を急ぐのではなく、ある「特定のグローバルCPGブランド」のオペレーションに焦点を当てた点にあります。

干渉リスクを克服した「稼働中マルチクライアント倉庫」での導入

通常、複数の荷主が同居する3PL倉庫では、荷主ごとに異なるWMS(倉庫管理システム)の仕様、作業動線、出荷頻度が複雑に絡み合っています。そのため、一部に巨大な自動化設備を導入しようとすれば、他荷主のフォークリフトの動線を塞いだり、稼働を一時停止させたりする「干渉リスク」が避けられません。

Howard Tenens Groupは、OIAのロボットソリューションを採用することで、この課題をクリアしました。OIAのシステムは、既存の建屋の梁や柱を避けながら柔軟にグリッドを構築できるため、他荷主の従来型オペレーション(人手とフォークリフトによる作業)を一切止めることなく、対象となるCPGブランド専用の自動化エリアを「倉庫内倉庫」のように構築したのです。

繁忙期の需要増を吸収するロボットとソフトウェアの連携

グローバルCPG(消費財・日用品)ブランドの物流において最大の課題は、大規模なプロモーションや季節要因による「極端な需要の波(ピーク)」です。従来、このピークを乗り切るためには、数カ月前から大量の短期アルバイトを確保し、不慣れな作業員による誤出荷のリスクと戦う必要がありました。

今回の自動化導入により、Howard Tenens Groupは需要のピーク時における生産性ニーズを完全に満たすことに成功しました。OIAの高度なアルゴリズムが、過去の出荷データやリアルタイムの注文状況を解析し、出番の多い商品をロボットが取り出しやすい位置に自動で再配置します。結果として、人手を増やすことなく、ソフトウェアの計算能力とロボットの稼働時間を延ばすだけで、数倍に跳ね上がる繁忙期の出荷量を平然と吸収できる体制を構築したのです。

参考記事: 人手不足を解消!物流 自動化で生産性を2倍にする実践ガイド【事例あり】

「データ主導」のレポート提供による3PLの戦略的価値向上

このプロジェクトがもたらした最大の成果は、単なる「作業の効率化」にとどまりません。自動化システムの導入によって、すべてのピッキング動作や在庫の動きがデジタルデータとして克明に記録されるようになりました。

グローバル企業は現在、サプライチェーン全体の透明性(トレーサビリティ)を強く求めています。Howard Tenens Groupは、OIAのシステムから得られる精緻なオペレーションデータを活用し、クライアントに対して「どのSKUがどの時間帯によく動くか」「包装資材の無駄はどこにあるか」といった高度なデータ視認性を持つレポートを提供するようになりました。

これにより、同社は単なる「荷物を保管して出荷する下請け業者」から、「データに基づきサプライチェーンの最適化を提案する戦略的パートナー」へと自らのポジションを引き上げることに成功したのです。

参考記事: 英国3PLが実証!多荷主倉庫でROIを最大化する「選択的自動化」戦略

日本の物流企業への示唆:海外事例を自社に適用するためのロードマップ

Howard Tenens Groupの成功は、労働力不足と投資リスクの板挟みになっている日本の物流経営層にとって、リスクを抑えたDX推進のロールモデルとなります。しかし、日本の商習慣のままでは、この海外事例をそのまま適用することはできません。日本企業がこの事例から学び、実践すべきポイントを解説します。

日本特有の「短期契約・坪貸しモデル」という障壁

日本の3PL契約は、1〜3年程度の短期更新が一般的であり、契約面積に応じた「坪貸し」や、作業員数に応じた「人月計算」の色彩が強く残っています。数億円単位の投資が必要な自動化設備を導入しても、数年で荷主に契約を切られてしまえば、投資回収(ROI)は絶望的になります。

そのため、日本で「部分的自動化」を成功させるためには、ビジネスケースの構築段階で以下の条件をクリアする必要があります。

  • ターゲット荷主の厳選
    将来の成長が見込まれ、かつ長期間(5〜10年)の戦略的パートナーシップを結べる優良クライアント(今回の事例のような高付加価値のグローバルブランドなど)を1社選定する。
  • 成果報酬型・トランザクション型への契約シフト
    単なる面積貸しではなく、自動化によって得られる「出荷あたりのコスト削減メリット」や「正確性の向上」を荷主とシェアする料金体系へ移行する。

日本企業が今すぐ真似できる「データ可視化」のステップ

高額なロボット設備をすぐに導入できなくても、Howard Tenens Groupの事例から今すぐ取り入れられるエッセンスがあります。それは「データ視認性の向上による荷主への価値提供」です。

  1. WMSデータの徹底活用
    現在使用しているWMSから、ピッキングの生産性、在庫の回転率、返品の発生理由などのデータを抽出し、ダッシュボード化する。
  2. 荷主へのプロアクティブな提案
    「月末の出荷集中を平準化すれば、これだけコストが下がります」「この商品の梱包サイズを見直せば積載率が上がります」といった、データ主導(データドリブン)のレポートを定例会で提案する。

このステップを踏むことで荷主との信頼関係が深まり、将来的に「お互いのためにこの区画を自動化しよう」という共同投資や長期契約の合意を取り付けやすくなります。

参考記事: 「可視化」は取引条件へ。欧米サプライチェーンで常識化した透明性の正体

まとめ:自動化は「全か無か」の二元論から脱却せよ

英国のHoward Tenens GroupとOcado Intelligent Automationが実証した事例は、多種多様な荷主が混在する3PL倉庫であっても、戦略的な「部分自動化」によって十分なROIと生産性向上が達成できることを証明しました。

日本の物流現場が直面する労働力不足は待ったなしの状況です。しかし、巨額の予算を投じて倉庫全体を刷新するようなハイリスクな賭けに出る必要はありません。まずは自社のマルチクライアント環境の中から「最も投資対効果の高い特定の荷主・特定のプロセス」を見極めること。そして、稼働を止めずに導入できる柔軟なロボット技術と、データ視認性を高めるソフトウェアを組み合わせること。

この「小さく生んで大きく育てる」選択的自動化のアプローチこそが、日本の物流企業が次世代のサプライチェーンにおいて生き残り、荷主にとって不可欠なパートナーとなるための最も確実なDX戦略となるでしょう。

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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