物流2024年問題が本格的なフェーズに突入し、運送業界だけでなく荷主企業を含めたサプライチェーン全体での構造改革が待ったなしの状況を迎えています。その中で、長年ブラックボックス化されていた「トラックに実際にどれだけの重さの荷物が積まれているのか」という課題に、革新的なテクノロジーで挑む動きが始まりました。
日本通運、アドヴィックス、スマートドライブの3社は、トラック車両の実重量ベースでの積載重量をデジタル化し可視化する実証実験を開始したと発表しました。このニュースは、2024年5月に施行された改正物流効率化法(改正物効法)への強力な対応策となるだけでなく、これまで配車担当者の「経験と勘」に依存してきた積載管理を根本から覆す可能性を秘めています。
本記事では、この3社による実証実験の詳細と背景を紐解き、運送事業者や荷主企業など物流業界全体にどのようなパラダイムシフトをもたらすのかを、LogiShift独自の視点を交えて徹底的に解説します。
実証実験の全貌とトラック積載率を取り巻く背景
今回の実証実験は、物流業界が抱える慢性的な課題である「積載率の低迷」に対し、ハードウェアのセンシング技術とソフトウェアのデータ解析技術を融合させて解決を図る画期的な取り組みです。まずは、その背景と具体的な実施内容について整理します。
3社による共同実証実験の概要
今回の取り組みの全体像を明確にするため、プロジェクトの要点を以下の表に整理しました。
| プロジェクトの要素 | 実施主体と対象 | 背景と解決すべき課題 | 活用されるコア技術 |
|---|---|---|---|
| 実証実験の枠組み | 日本通運・アドヴィックス・スマートドライブの3社が連携し実車両へ適用。 | 改正物効法による積載率向上の義務化。従来の実重量把握の困難さの解消。 | 走行中の動的な重量変化を捉えるデジタル化・可視化ソリューション。 |
| 技術的アプローチ | トラックの実重量ベースでの積載重量をリアルタイムで算出。 | 伝票上の概算値や配車マンの勘に依存した属人的な積載管理からの脱却。 | アドヴィックスの「車両重量推定技術」による車両挙動データの解析。 |
| データ連携の基盤 | 算出された重量データをクラウド上に集約し配車システム等と連動。 | 「あとどれくらい積めるか」が現場で即座に分からない情報伝達のタイムラグ。 | スマートドライブの「モビリティデータプラットフォーム」での統合管理。 |
| 期待される最終成果 | 空車回送の削減とサプライチェーン全体での積載効率の最大化。 | トンキロベースでの正確な環境負荷算定の必要性の高まり。 | 配車計画の精緻化およびCO2排出量の精緻かつ客観的な算出ロジックの確立。 |
改正物流効率化法が突きつける「積載率向上」の至上命題
2024年5月に施行された改正物流効率化法は、荷主企業および物流事業者に対し、これまで以上に厳しい基準で輸送効率の改善を求めています。その中で最も重要視されている指標の一つが「積載率」です。国土交通省のデータによれば、日本の営業用トラックの積載率は約40%を下回る水準で推移しており、輸送能力の半分以上が空気を運んでいる状態にあります。
しかし、現場で積載率を向上させようとしても、大きな壁が存在していました。それは「実際に何トン載せているのか」をリアルタイムかつ正確に把握することが困難だったという事実です。従来の物流現場では、荷主から提供される伝票上の概算重量を足し合わせるか、配車担当者やドライバーの経験則に頼るしかありませんでした。結果として、過積載を恐れるあまり安全マージンを過剰に取り、荷台にスペースが余っていても積み込みを見送るといった非効率が常態化していたのです。
参考記事: 【日本3PL協会】改正物流効率化法の実務対応を解説|CLO義務化と経営改革の全貌
車両挙動から重量を導き出す画期的な推定技術
この長年の課題を打ち破るのが、自動車用ブレーキシステムの大手であるアドヴィックスが提供する「車両重量推定技術」です。従来、トラックの重量を正確に量るためには、物流拠点に設置された巨大なトラックスケール(台貫)に乗せる必要があり、動的な重量変化を走行中に把握することは不可能でした。
アドヴィックスの技術は、ブレーキ時の減速度合いや車両の挙動データから、物理法則に基づいて車両の総重量を逆算的に推定するというアプローチを採用しています。これにより、専用の重量計を後付けすることなく、車両が備えている既存のセンサー情報等を活用して「いま現在、何トンの荷物が積まれているか」を導き出すことが可能になります。
モビリティデータプラットフォームによるリアルタイム可視化
さらに、この推定された重量データを実用的な形に昇華させるのが、スマートドライブの「モビリティデータプラットフォーム」です。算出された実重量データはクラウド上にリアルタイムで送信され、位置情報や走行履歴といったテレマティクスデータと統合されます。
これにより、運行管理者や配車担当者はパソコンの画面上で「〇〇インターを走行中のA号車は、現在積載に2トンの余裕がある」といった状況を瞬時に把握できるようになります。日本通運の実車両という巨大なフィールドでこの仕組みが検証されることで、机上の空論ではない、現場の実運用に耐えうるシステムが構築されようとしています。
積載重量の可視化が物流業界にもたらす多角的な影響
「実積載重量のリアルタイム把握」が可能になることで、物流業界の各プレイヤーにはどのような具体的な変化が訪れるのでしょうか。運送事業者、荷主企業、そしてサプライチェーン全体への影響を考察します。
運送事業者における配車計画の精緻化と属人化の排除
運送事業者にとって最も直接的な恩恵は、配車計画の圧倒的な精緻化です。従来、複数の荷主の荷物を混載して運ぶルート配送や積み合わせ輸送においては、「重量勝ち(重さで上限に達する)」と「容積勝ち(体積で上限に達する)」のバランスを取ることが配車担当者の腕の見せ所でした。
- 属人的スキルのデータ化: ベテラン配車マンの頭の中にしかなかった「この商品の組み合わせなら、あとどれくらい積めるか」というノウハウが、客観的なデータとして可視化されます。
- 動的な追加集荷の実現: 配送途中で荷物を降ろした際、システム上で「積載可能重量が回復した」ことが即座に共有されるため、帰り荷(バックホール)の獲得や、ルート上での突発的な集荷依頼に柔軟に対応できるようになります。
- 過積載リスクの完全排除: 意図しない過積載をシステム側でアラート検知できるため、コンプライアンス遵守と安全運行の徹底が図れます。
参考記事: 属人化配車を80%削減!運送DXで実現する配送最適化【実践ガイド】
荷主企業が直面するScope3対応とCO2排出量の正確な把握
荷主企業にとっても、実積載重量のデータ化は極めて大きな意味を持ちます。特に、ESG投資の観点から強く求められている「温室効果ガス(CO2)排出量の可視化と削減」において、この技術は切り札となります。
サプライチェーン全体の排出量を示す「Scope3」の算定において、輸送に伴うCO2排出量(カテゴリ4および9)は、通常「トンキロ法(輸送重量×輸送距離)」を用いて算出されます。しかし、従来の計算では伝票上の概算値やみなし重量が使われることが多く、実態との乖離が指摘されてきました。
実重量ベースでの正確なデータが提供されれば、自社の荷物がどれだけの環境負荷を与えているかを高精度に算出できます。また、積載率の向上による空車回送の削減は、ダイレクトにCO2排出量の削減に直結するため、企業のサステナビリティレポートの信頼性を大きく向上させる要因となります。
サプライチェーン全体での共同輸配送の加速
複数の荷主が同じトラックに荷物を積み合わせる「共同輸配送」は、積載率向上の特効薬として推進されています。しかし、企業間でシステムやデータフォーマットが異なるため、「誰の荷物をどれだけ積めば最適か」を調整するコストが非常に高いという課題がありました。
スマートドライブのプラットフォーム上で「車両の空き容量(重量)」が標準化されたデータとして共有されるようになれば、企業・業界の垣根を越えたマッチングが容易になります。「あと1トン積める」という客観的事実がオープンになることで、共同輸送データベースの活用はより現実的かつ強力なものへと進化するでしょう。
参考記事: 国交省大臣賞|積載率40%増「共同輸送データベース」の実力とは
LogiShiftの視点:重量データの可視化が切り拓く次世代物流モデル
ここからは、今回の日本通運・アドヴィックス・スマートドライブによる実証実験のニュースを踏まえ、物流業界が今後どのように変化していくのか、企業が取るべき戦略について独自の視点で考察します。
「空間」と「重量」の二次元管理がもたらす究極の積載最適化
これまで物流DXの多くは、荷台の「空間(容積)」をいかに埋めるかに主眼が置かれてきました。カメラや3Dセンサーを用いて荷台の空きスペースを判定する技術は既に存在しますが、それだけでは不十分です。なぜなら、鉄鋼部品や飲料など比重の重い荷物の場合、空間が半分以上空いていても重量制限に達してしまうからです。
今回の技術により「重量」がリアルタイムで可視化されることで、ついに「空間データ」と「重量データ」の二次元でのマッチングが可能になります。例えば、飲料(重量勝ち)の隙間に、スナック菓子やアパレル(容積勝ち)を組み合わせるという究極の混載モデルを、AIが自動で算出し、現場の作業員に指示を出すといった「計画と現場の完全なる統合」が実現する日も遠くありません。
参考記事: AIで「机上の空論」をなくす。欧米で進む物流の「計画と現場」統合とは?
実重量データを活用した「ダイナミック・プライシング」の可能性
重量データがリアルタイムに取得できるようになれば、運賃の算出方法にも変革が起こる可能性があります。現在、トラックのチャーター便は「1台あたりいくら」という貸切運賃が主流ですが、積載状況が可視化されれば、航空業界やホテル業界で導入されているようなダイナミック・プライシング(動的価格設定)が物流業界にも本格導入されるかもしれません。
- 空き容量に応じたスポット運賃の変動: トラックの空き重量と空き容積がリアルタイムでプラットフォームに公開され、「今すぐこのルートで1トンの荷物を載せてくれるなら、通常運賃の半額で引き受ける」といった柔軟な取引が成立するようになります。
- 荷主のコスト最適化: 荷主側も、急ぎではない荷物を「トラックの空きスペースが出たタイミング」で安価に運ぶといった戦略が取れるようになります。
業界最大手・日本通運の参画が意味する「データ標準化」の波
今回、業界最大手である日本通運が実証実験に参画していることは、非常に重要なシグナルです。物流業界における新しいテクノロジーは、規格が乱立してしまうと普及しません。日本通運という圧倒的な車両保有数と運行データを持つ企業がこのプラットフォームの構築に関与することで、ここで策定される重量算出のロジックやデータ連携のフォーマットが、今後の日本の物流業界における「デファクトスタンダード(事実上の標準)」となる可能性が高いと言えます。
中小の運送会社は、「自社には関係のない大手の実験だ」と静観するのではなく、いずれ自社の配車システムや荷主への報告フォーマットにも、この「実重量データの提出」が求められる時代が来ることを想定し、デジタル化への投資と社内体制の整備を進めておく必要があります。
参考記事: 【日本通運】2026年組織改正の衝撃|物流の再定義と企業が備えるべき3つのポイント
まとめ:データドリブンな積載管理へのシフトを急げ
日本通運、アドヴィックス、スマートドライブによる「トラック実積載重量の可視化」実証実験は、物流業界が長年抱えてきた「どんぶり勘定の積載管理」に終止符を打つ重要なマイルストーンです。明日から経営層や現場リーダーが意識すべきポイントは以下の通りです。
- 改正物効法への対応は「見える化」から始まる: 荷主や行政に対して積載率向上を証明するためには、客観的かつ精緻なデータが不可欠です。自社の運行データが現在どこまで取得できているかを再確認しましょう。
- 「経験と勘」からの脱却を社内文化として定着させる: 配車担当者の頭の中にあるノウハウを形式知化し、システムに落とし込む準備を進めることが、次世代の配車最適化への第一歩となります。
- 環境価値(CO2削減)を自社の武器に変える: 正確な重量データに基づく環境負荷の削減実績は、荷主に対する強力な営業ツールになります。輸送品質だけでなく、環境価値を提供できる企業へとシフトすることが求められます。
トラックの荷台という「移動する空間」の実態がデジタル空間にリアルタイムに再現されることで、物流の効率は飛躍的に向上します。この技術革新の波を捉え、自社の物流戦略をどのようにアップデートしていくのか、今まさにその構想力が問われています。

