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Home > サプライチェーン> 物流統括管理者が挑む安全在庫1.4倍の罠、着荷主の改革で現場改善が加速
サプライチェーン 2026年5月29日

物流統括管理者が挑む安全在庫1.4倍の罠、着荷主の改革で現場改善が加速

物流統括管理者が挑む安全在庫1.4倍の罠、着荷主の改革で現場改善が加速

1. 現場の努力を無にする「欠品ゼロ」要求と倉庫のサイロ化(Before)

「1個の欠品も許されない」現場にのしかかるプレッシャー

物流倉庫の最前線で働く現場管理者や実務担当者の皆様は、日々「欠品」の二文字に怯えていないでしょうか。
営業部門や、納品先である着荷主(卸・小売)からは、「欠品は即ペナルティ」「絶対に棚を切らすな」と厳しいサービスレベルを求められます。

この過剰な要求に応えるため、現場は常に大量の安全在庫を抱え込まざるを得なくなります。
「とにかく多めに発注して保管しておく」という運用が、現場の意思決定を支配してしまうのです。

過剰在庫が引き起こす現場の作業効率低下と誤出荷

「あれば安心」と積み上げられた在庫は、倉庫の保管スペースを瞬く間に圧迫します。
本来、通路であるはずのスペースにまでパレットが直置きされ、フォークリフトの動線が塞がれます。

その結果、ピッキング作業員の歩行距離が伸び、商品を探す無駄な時間が発生します。
また、慌ただしい作業環境の中で焦りが生じ、誤出荷やピッキングミスといったヒューマンエラーが多発する悪循環に陥ります。

これが、部門ごとの部分最適が引き起こす「組織のサイロ化」の弊害です。
倉庫内でどれだけWMS(倉庫管理システム)を用いて動線を最適化しても、他部署や顧客からの「欠品ゼロ」要求という聖域に阻まれ、根本的な改善に至らないのが現場の限界でした。

参考記事: スバルに学ぶ!CLOを動かし物流サイロ化を打破する現場改善3ステップ


2. 着荷主CLO主導による「欠品ゼロ」の再定義(What)

統計学的に不可能な「欠品ゼロ(サービス率100%)」の真実

そもそも、欠品を完全にゼロにする(サービス率100%)ことは理論上不可能です。
安全在庫の計算式を紐解くと、サービス率を高めるための「安全係数」は以下のように変化します。

  • サービス率90%(欠品率10%):安全係数 1.28
  • サービス率95%(欠品率5%):安全係数 1.65
  • サービス率99%(欠品率1%):安全係数 2.33
  • サービス率99.9%(欠品率0.1%):安全係数 3.09

サービス率を95%から99%へわずか4%引き上げるだけで、必要な安全在庫量は約1.4倍(2.33÷1.65)に跳ね上がります。
欠品率を0%に限りなく近づけようとすれば、この係数は無限大に近づき、天文学的な量の在庫を抱えなければなりません。
これは企業のキャッシュフローを致命的に圧迫し、倉庫をパンクさせる最大の原因となります。

着荷主CLOが握るサプライチェーン最適化の主導権

2024年の法改正、そして2026年4月に本格施行される改正物流効率化法により、特定荷主に対してCLO(物流統括管理者)の選任が義務付けられました。
この法改正の最大のインパクトは、メーカー(発荷主)だけでなく、卸や小売といった「着荷主」側にも法的責任が及ぶ点です。

物流専門メディア『LOGISTICS TODAY』の連載「The CLO」などでも注目されている通り、最先端の企業では、着荷主側のCLOが自らの発注データや販売データを分析し、「本当に欠品ゼロを維持する必要があるのか」とデータに基づいて問い直す改革に着手しています。

これまでは、発荷主側が「運べなくなるリスク」を一方的に引き受けてきました。
しかし、着荷主CLOが主導し、複数メーカーからのオーダーを束ねて納品条件を設計する「水平連携×垂直連携」モデルへと転換することで、サプライチェーン全体の非効率を根本から見直すことが可能になります。

参考記事: 日清食品CLO直伝!物流2026年問題を打破する3つの改革と着荷主起点の新連携


3. データ駆動で欠品を問い直す3つの実践改善ステップ(How)

現場の管理者や実務リーダーが、CLOという「経営トップの盾」を動かし、これまでの無理な商習慣を打破するための具体的な3つのステップを解説します。

ステップ1:WMSやBIツールを活用した物流データの可視化

最初のステップは、感情的な対立を排除し、事実に基づくデータを用意することです。
「欠品を防ぐための無理な作業が多くて困っている」という現場の不満を、定量的な数値へと変換します。

具体的には、WMS(倉庫管理システム)やBIツールを導入・活用し、以下のデータを可視化します。

  • 突発的な特急便・チャーター便の手配回数と追加運賃コスト
  • 特定の商品(動きの悪いロングテール品)の過剰な保管坪数と保管コスト
  • 出荷の波動(月末集中など)に伴う現場作業員の残業時間

「欠品ゼロを盲信して過剰在庫を維持することが、どれだけ利益を圧迫しているか」をデータで証明することで、経営層(CLO)の迅速な意思決定を引き出します。

参考記事: 紙とFAXの物流課題を解決!CLO設置義務化に対応する3つのDX戦略

ステップ2:ABC分析を掛け合わせた「サービス率(許容欠品率)」のグラデーション設定

すべての商品を一律で「欠品ゼロ」の対象にするのをやめ、売上貢献度や出荷頻度に基づく「ABC分析」を導入し、商品特性に応じた許容欠品率を設定します。

  • Aランク(上位20%の主力商品)
    • 売上の大半を占めるため、サービス率98%〜99%を厳格に死守。安全在庫を週次で再計算します。
  • Bランク(中堅商品)
    • サービス率90%〜95%(許容欠品率5%〜10%)に設定。過剰在庫とのバランスを重視します。
  • Cランク(下位のロングテール商品)
    • サービス率70%〜80%(許容欠品率20%〜30%)を容認。場合によっては自社在庫を持たず、メーカー取り寄せ(受発注品)に切り替えます。

このグラデーション設定により、Cランク品の余分な安全在庫が削減され、倉庫内のロケーションに劇的な余裕が生まれます。

参考記事: 欠品率完全ガイド|実務担当者が知るべき計算方法と在庫最適化の秘訣

ステップ3:発着荷主間の納品リードタイム適正化と共同配送

最後のステップは、データという武器を持って、着荷主(卸・小売)と発荷主(メーカー)の間で納品条件を交渉し、再設計することです。

これまで「受注の翌日納品(D+1)」が当たり前だったルールを、データに基づいて「翌々日納品(D+2)」へ変更するよう交渉します。
リードタイムに1日の猶予が生まれるだけで、物流現場は計画的な配車組みが可能となり、トラックの積載率を飛躍的に高めることができます。

さらに、着荷主側がハブとなり、同一ルートを通る複数メーカーの荷物を1台のトラックに相乗りさせる「共同配送」のスキームを設計します。
これにより、倉庫での待機時間は大幅に削減され、持続可能な輸送網が確立されます。

参考記事: 【2026年4月施行】物流統括管理者(CLO)選任期限カウントダウンと最終対策【2026年05月版】


4. 欠品率再設計がもたらす定量的・定性的な組織変化(After)

現場作業の平準化と物流コスト20%削減のロードマップ

これらの3ステップを実践することで、物流倉庫の現場には劇的な変化が訪れます。
過剰在庫が整理されて通路が確保されれば、ピッキング効率が向上し、人的な作業ミス(誤出荷)は限りなくゼロに近づきます。

また、納品リードタイムの緩和によって出荷の波動が平準化されるため、月末や特定時間帯の残業時間が半減します。
運送会社にとっても、「接車後すぐに荷降ろしができる」「積載効率が高い」魅力的な倉庫へと進化するため、トラックの手配力が大幅に強化されます。
最終的には、追加チャーター便や待機料の削減により、全体的な物流コストを20%以上削減することも十分に可能です。

導入前(Before)と導入後(After)の比較

改善項目 導入前(Before) 導入後(After) 期待される効果
在庫管理とスペース 欠品を恐れて全商品過剰保管し倉庫がパンク ABC分析による適正な安全在庫管理でスペース創出 庫内ピッキング生産性の向上と保管坪数コスト削減
特急便・傭車の手配 欠品や急な即日納品指示で毎日突発手配が発生 リードタイム緩和と事前申請制のルール化 配送コストの20%削減と手配工数の削減
トラックの待機時間 到着時間が集中し常時2時間以上の待機が発生 バース予約システムと共同配送の導入 待機時間の原則1時間以内達成とドライバー負担軽減
出荷の波動と残業 月末や営業の指示により物量が極端に集中 全社的な出荷計画の平準化により作業を固定化 残業時間の半減と焦りによる誤出荷の撲滅

5. まとめ:成功の秘訣は「6割」でのアジャイルな出発

物流統括管理者(CLO)の義務化と、着荷主を巻き込んだサプライチェーンの変革は、日本の物流が「コスト」から「競争力の源泉」へと進化するためのラストチャンスです。

この改革を成功させる最大の秘訣は、「名ばかりCLO」を作らないこと、そして完璧を求めすぎないことです。
日清食品の深井CLOが「業界全体で6割も進めば十分」と述べているように、最初からすべての部門・すべての商品で100%の同意形成や計画完成を目指して立ち止まっては意味がありません。

まずは現場のデータをかき集め、特定の主要商品や特定の拠点に絞って「欠品ゼロをデータで問い直す」テスト運用を開始してください。
現場から発信する確かなファクトデータと、経営層(CLO)によるトップダウンの決断が噛み合ったとき、企業は真の物流改革を遂げることができます。
運べなくなる未来を回避し、持続可能なサプライチェーンを構築するための第一歩を、今日から力強く踏み出しましょう。


出典: LOGISTICS TODAY
出典: 物流総括管理者(CLO)設置義務化について|国土交通省
出典: 日清食品株式会社 公式サイト

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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