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物流DX・トレンド 2026年6月3日

ヤマト運輸と協業のBest Beer Japan、1樽693円回収で樽不足解消に直結

ヤマト運輸と協業のBest Beer Japan、1樽693円回収で樽不足解消に直結

クラフトビール業界において、飲食店から醸造所(ブルワリー)への「空樽(ケグ)」の返送業務は、長年にわたりサプライチェーン全体の大きなボトルネックとなっていました。1配送あたり1,500円〜2,500円という高い配送料に加え、送り状の手書きや重い樽の結束作業といったアナログな工数が店舗側の大きな負担となり、結果として多くの空樽が飲食店に滞留。これが醸造所側の「樽不足」を招き、ビールの生産や出荷に支障をきたすという悪循環が生じていたのです。

こうした構造的な課題を解決すべく、クラフトビールの流通効率化を支援するスタートアップのBest Beer Japan株式会社は、ヤマト運輸株式会社と提携し、2024年6月2日より業務用オンライン卸サイト「クラフトビール・プラットフォーム」において飲食店向けの「空樽回収サービス」を開始しました。

本サービスは、1樽から回収が可能で、送り状の準備や結束作業が不要。さらに返送料も1樽あたり693円(税込)からと、従来の一般宅配利用時と比較して最大70%ものコスト削減を可能にしました。これは、単なる配送の低価格化ではなく、プラットフォームを通じた「情報のデジタル化」と大手運送会社の「物理物流網」をシームレスに組み合わせることで、業界全体の「静脈物流(回収物流)」を最適化した極めて重要なDX(デジタルトランスフォーメーション)事例です。


空樽回収DX:Best Beer Japanとヤマト運輸の提携による新サービスの全貌

今回の新サービスがクラフトビール業界に提示した価値は、これまで個別の飲食店や醸造所が抱えていた「高コスト」「アナログ事務工数」「バックヤードの圧迫」という三重苦の解消です。

まずは、本サービスの基本的な仕組みと事実関係を時系列および機能別で整理します。

項目 詳細内容 期待される主な効果
サービス開始日 2024年6月2日 飲食店の空樽滞留を早期に解消する。
協業パートナー Best Beer Japan株式会社、ヤマト運輸株式会社 デジタルプラットフォームと全国の強固な物理配送網が融合。
回収費用 1樽あたり693円(税込)から 従来の一般宅配(1,500〜2,500円)から最大70%のコストを削減。
運用上の特徴 1樽から集荷可能。送り状の作成不要。結束作業も不要。 飲食店のバックヤード解放と、梱包に伴う肉体的・事務的負担のゼロ化。
システム連携 プラットフォーム上で送付先醸造所と樽数を選択するだけ 送付先の住所検索や伝票の手書き、集荷手配の手間を完全自動化。

クラフトビール業界を悩ませていた「動脈・静脈物流」の不均衡

クラフトビールは、大手ビールメーカーによる画一的な大量生産とは対照的に、全国各地の多様な小規模醸造所(マイクロブルワリー)で製造されています。これらの醸造所は、主に「ケグ(ケグ樽)」と呼ばれるステンレス製などの通い容器にビールを詰め、全国の飲食店へ出荷しています。

このケグは1本当たり数千円から1万円以上する、醸造所にとって非常に高価な固定資産です。ビールの販売が伸びて「動脈物流(製品出荷)」が活発化しても、飲食店から「静脈物流(空容器の回収)」が機能しなければ、次の製品を詰めて出荷することができません。つまり、クラフトビール業界のサプライチェーン回転率を決定付けるのは、空樽の回収スピードそのものでした。

しかし従来の仕組みでは、飲食店が空樽を返送する際、一般の宅配便を利用せざるを得ず、高い配送料がかかっていました。このコストを嫌い、多くの飲食店が「複数本の樽が空くまで店内にためておく」というまとめ送りを実践。これが狭い飲食店のバックヤードを占有し、衛生面や作業スペースの悪化を招いていたのです。

また、返送時には送り状の記入、送付先ブルワリーの住所確認、重い樽をロープやPPバンドで固定する「結束作業」など、煩雑なアナログ業務が発生していました。これが店舗スタッフの大きな負担となり、返却が後回しになることで、醸造所の「樽不足」による機会損失が発生するという負の連鎖が常態化していました。

参考記事: 資材リサイクル完全ガイド|静脈物流の実務から法規制・DX戦略まで徹底解説


業界への具体的な影響:各ステークホルダーはどう変わるか

今回の「空樽回収サービス」は、クラフトビールを製造するブルワリー、提供する飲食店、そして配送を担う運送事業者の三者それぞれにドミノ効果をもたらし、業界の構造変化を加速させます。

製造業者(醸造所・ブルワリー)における資産回転率の最大化

醸造所にとって、ケグ樽は製品供給を維持するための「心臓部」とも言えます。樽の返送が迅速化されることで、以下の劇的な変化が期待されます。

  • 設備投資(追加ケグの購入費用)の抑制
    これまで滞留によって眠っていた資産が素早く手元に戻るため、限られた樽数でより多くの製造・出荷サイクルを回すことが可能になります。これは、キャッシュフローの改善と無駄なアセット買い増しの防止に直結します。
  • 生産機会損失の防止
    「ビールは醸造できたが、詰める樽がないため出荷できない」という最悪の事態を回避し、需要の波に合わせたジャストインタイムな製品供給が可能となります。

小売・サービス業者(飲食店)におけるノンコア業務の徹底的な削ぎ落とし

深刻な人手不足にあえぐ外食産業にとって、スタッフが「本業(接客や調理)」に集中できる環境を整えることは死活問題です。

  • 物流事務工数のゼロ化
    「クラフトビール・プラットフォーム」の管理画面から、返送したいブルワリーと個数を選択するだけで依頼が完結。伝票の手書きやヤマトへの個別集荷依頼の手間が完全に消滅します。
  • 梱包に伴う労働負荷の軽減と安全性向上
    重いスチール製の樽を結束する作業は腰痛などの労災リスクを伴いましたが、結束・梱包不要で1樽からヤマト運輸のドライバーがそのまま引き受けてくれるため、店舗スタッフの労働環境が「ホワイト化」されます。
  • 限られたスペースの有効活用
    1樽単位で随時返送できるため、バックヤードに大量の空樽をためておく必要がなくなり、店舗スペースの最大活用と店内衛生の向上が図れます。

運送事業者(ヤマト運輸)におけるBtoB小口回収の標準化と効率化

これまで個別バラバラに発生し、運送会社にとっても集荷や荷役の手間が大きく非効率であった「飲食店の空樽回収」という領域を、プラットフォーム主導でシステム連携・標準化した点にヤマト運輸側のメリットがあります。

  • 情報の先取りによる集荷ルートの最適化
    プラットフォーム側で回収データが事前に統合されるため、ヤマト運輸は集荷依頼をデータで先取りし、自社の運行ルートに組み込むことができます。「行ってみないと個数がわからない」といったロスを排除し、ラストワンマイルの生産性を向上させます。
  • 他社サービスとのシームレスな統合
    ヤマト運輸が推進する「統合型ビジネスソリューション拠点」や全国の輸送網(動脈物流の帰り便)を効果的に機能させる「帰り荷の確保」としても、こうした静脈物流の標準プラットフォームとの連携は強力な武器となります。

参考記事: ヤマト運輸の新「統合型拠点」がもたらす3つの変革!EC配送のリードタイムを短縮


LogiShiftの視点(独自考察):静脈物流の標準化プラットフォームが示す「自前主義の終焉」と他業界への応用可能性

今回のニュースを単なる「一スタートアップとヤマト運輸のサービス開始」と捉えるのは早計です。本セクションでは、この取り組みが今後の日本のロジスティクス戦略に与える本質的なインサイトを提示します。

「動脈」の共同化から「静脈」の標準化プラットフォームへの進化

物流の共同化といえば、サッポロビールとキリンビールが神奈川エリアで物理的な拠点を一本化したように、「動脈物流(製品出荷)」の領域で競合が手を結ぶ事例が目立っていました。

参考記事: サッポロ・キリン共同配送の衝撃!拠点統合が現場に与える3つの影響

しかし、サプライチェーンの最終フェーズである「静脈物流(回収)」については、個社ごとのアセット管理や顧客接点の違いを理由に、これまで標準化や共同化が後回しにされがちでした。

Best Beer Japanが示したのは、自社が「卸売プラットフォーム」という商流を押さえた上で、そこに蓄積されるデータとヤマト運輸の配送網をAPI連携させ、静脈物流を「低コストかつ極めて容易な自動プロセス」へと再定義した点です。これにより、各ブルワリーは「自前で回収ルートや個別契約を維持するコスト」から解放され、非競争領域である物流インフラを共同利用する「シェアード・エコシステム」へと移行したのです。

循環型サプライチェーンにおける「回転速度」と「回収コスト」の二律背反を突破する

サーキュラーエコノミー(循環型経済)やリターナブル資産の運用を推進する際、企業は必ず「資産回収・修復にかかる手間とコスト」と「在庫(通い容器)の回転速度」の激しいトレードオフに直面します。

参考記事: 実行率 20%の壁を打破!循環型物流で利益を生む3つの突破口

回収プロセスが面倒であれば返送は滞り、回転速度が低下します。逆に回収を急ごうとすれば、個別チャーター便などを手配することになり、物流コストが跳ね上がって経済的に持続不可能となります。

今回のBest Beer Japanの事例は、まさにこのトレードオフを「ITによる依頼の簡素化(送り状・結束不要)」と「配送網の標準化(1樽693円〜という料金設定)」によってスマートに突破しました。この「情報のデジタル化(商流)」と「物理インフラのシェア(物流)」の融合こそが、稼げる静脈物流・循環型物流を構築する上での完成された勝ちパターンです。

多品種少量生産・個別回収を必要とする「他業界」へのドミノ効果

このビジネスモデルは、クラフトビール業界だけに留まるものではありません。以下の特徴を持つ他業界においても、極めて容易に応用可能なポテンシャルを秘めています。

  • 理美容・ヘルスケア業界
    使用済みのヘアカラー剤のアルミチューブや、個別のサロンから排出される特定の容器回収。
  • オフィス・OA機器業界
    中小事業所に点在する使用済みトナーカートリッジや、小型精密機器の回収とリユース。
  • 製造業・マテハン業界
    中小規模の倉庫や工場間で流通する、プラスチック製リユースパレットやプラスチック通い箱の回収。

これまでは「回収に回るトラックのコストが、回収する資材の価値を上回る」として不法投棄や廃棄物処分に頼っていた領域が、プラットフォーム型の共同回収によって次々と「サステナブルな有価物循環プロセス」へと生まれ変わる可能性を秘めています。


まとめ:明日から荷主企業・物流事業者が意識すべきこと

Best Beer Japanとヤマト運輸によるクラフトビールの空樽回収DXは、これまで日本のサプライチェーンにおいて「コストセンター」として敬遠されがちだった静脈物流に、鮮やかな光を当てた画期的なマイルストーンです。

物流現場のリーダーや経営層が、この事例を自社の戦略に落とし込むために明日から意識すべきアクションは以下の通りです。

  • 自社の「リターナブル資材(通い箱、パレット等)」の回転率と滞留期間の可視化
    自社のアセットが顧客の手元でどれだけ眠っているか、その回収にかかる「見えないコストと事務負担」をデータ化すること。
  • 回収プロセスの「圧倒的な簡素化」に向けたDX設計
    顧客に対し「梱包して、送り状を書いて、電話して」と求めているうちは回収率は上がりません。スマートフォン1タップ、あるいはAPI連携で「結束不要、1個からでも引き取る」レベルにまでプロセスを磨き上げること。
  • プラットフォーマーや異業種運送会社との共創の模索
    自前の物流網だけで解決しようとする「自前主義」を捨て、すでに全国網を持つ大手物流企業やデジタルプラットフォームと手を組み、非競争領域である静脈物流を共同インフラ化する対話を始めること。

「優れた製品を届ける(動脈)」だけでは、サステナビリティと2024・2026年問題の壁を乗り越えることはできません。「確実に、かつ低コストで戻す(静脈)」という循環の環(ループ)をいち早く完成させた企業こそが、次世代の持続可能な市場において、最大の競争優位性を獲得することになるでしょう。


出典: LOGI-BIZ online

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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