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輸配送・TMS 2026年6月10日

郵船ロジスティクスが6月10日開始の共同東西ラウンド輸送でモーダルシフトを加速

郵船ロジスティクスが6月10日開始の共同東西ラウンド輸送でモーダルシフトを加速

「物流2024年問題」が本格化し、長距離トラックドライバーの不足や運賃高騰が全産業に深刻な影を落とす中、国内物流の持続可能性を担保するための歴史的な挑戦が始まりました。

郵船ロジスティクス株式会社は2024年6月10日、食品大手であるネスレ日本株式会社とキッコーマン食品株式会社の2社が共同で実施する、内航船を活用した「東西ラウンド輸送」のオペレーションを開始したことを発表しました。この取り組みは、千葉県(関東)と兵庫県(関西)を結ぶ長距離輸送を対象としています。

本件の最大のインパクトは、単なる「トラックから船舶へ」という従来のモーダルシフトの枠組みを超え、競合関係や業種の違いといった垣根を越えた「荷主間マッチング」によって、物流における最大の無駄である「復路の空車回送」を完全に排除した点にあります。自社単独での物流網維持が困難になる中で、3PL(サードパーティ・ロジスティクス)が強力なコーディネーター(オーケストレーター)として介在し、サプライチェーンの全体最適を実現した本施策は、今後の共同物流における標準モデル(デファクトスタンダード)となる可能性を秘めています。

本記事では、この画期的な東西ラウンド輸送スキームの全貌を整理し、各プレイヤーに与える影響や今後のロジスティクス戦略における提言を、専門的な視点から徹底的に解説します。

東西ラウンド輸送スキームの背景と事実関係

今回の取り組みは、郵船ロジスティクスがコーディネーターとなり、関東と関西の東西間において、食品メーカー2社の異なる貨物動線を一本の循環ループに統合した高度なラウンド輸送ネットワークです。

まずは、本スキームの運行プロセスと各社の役割について事実関係を整理します。

東西ラウンド輸送の運行プロセスと各社の役割

ステップ 区間・ルート 輸送貨物・手段 役割とオペレーション
1 千葉県流山市から千葉港・堺泉北港を経由し兵庫県高砂市へ キッコーマンの調味料(陸送+内航船) キッコーマン食品N-DCから調味料を出荷して千葉港へ。内航船で堺泉北港へ輸送後に高砂DCへ配送。
2 兵庫県高砂市から兵庫県姫路市へ 空車車両の回送(陸送) キッコーマン高砂DCでの荷下ろし完了後、近隣にあるネスレ日本姫路工場へ空車のまま車両を移動。
3 兵庫県姫路市から堺泉北港・千葉港を経由し千葉県野田市へ ネスレ日本の飲料製品(陸送+内航船) ネスレ日本姫路工場で飲料製品を同じ車両に積み込み。堺泉北港から内航船で千葉へ戻し、野田物流センターへ配送。
4 千葉県野田市から千葉県流山市へ 空車車両の回送(陸送) ネスレ野田物流センターでの荷下ろし完了後、最初の起点であるキッコーマン食品N-DCへ車両を戻して循環完了。

なぜ「東西ラウンド輸送」が必要だったのか

今回の協調体制が構築された背景には、2024年4月から適用されたトラックドライバーの時間外労働上限規制(年960時間規制)があります。これにより、特に関東〜関西間のようなワンマンでの日帰り往復が不可能な長距離幹線輸送において、輸送力の確保が極めて困難になりました。

さらに、製造業界全体に課せられた「温室効果ガス(CO2)の排出削減(Scope3への対応)」という環境負荷低減の要請も、強力な推進力となっています。長距離トラックをそのまま走らせる従来の手法では、環境目標の達成と物流の安定確保を両立させることは困難です。そこで浮上したのが、陸上輸送に比べてCO2排出量が約5分の1とされる内航船を活用したモーダルシフトでした。

しかし、単に個別メーカーが「片道だけ船に乗せる」という方法では、コンテナやシャーシが片側に滞留してしまい、結局は空のまま回収(回送)するための余分なコストや人手がかかってしまいます。この「片道輸送の限界」を突破するために、郵船ロジスティクスが両社の物量とスケジュールを緻密にすり合わせ、往路と復路の両方で常に実車率(荷物を積んで走る割合)を最大化する「東西ラウンド輸送」を設計したのです。

参考記事: 内航海運とは?基礎知識から2024年問題解決に向けた実務ポイントまで徹底解説

食品2社共同物流が各プレイヤーに与える具体的な影響

巨大なブランド力と安定した物量を持つネスレ日本とキッコーマン食品、そしてグローバル3PLである郵船ロジスティクスが強固なインフラ協調に踏み切ったことは、物流に関わるすべてのステークホルダーへ連鎖的な影響を及ぼします。

1. 倉庫事業者・3PLへの影響:手配屋から「オーケストレーター」への進化

3PL事業者や倉庫事業者にとって、この取り組みは事業ドメインを「単なる輸配送・保管の受託」から「サプライチェーン全体のオーケストレーター(調整役)」へと昇華させる重要な契機となります。

従来、荷主は個別に物流事業者をコンペで選び、自社専用の物流網を構築してきました。しかし、今回の事例で郵船ロジスティクスが果たした役割は、競合する可能性のある荷主や、異なる出荷波動を持つ企業のデータを預かり、最適な輸送ルートを能動的に設計する「仲介者」の役割です。
今後、荷主に選ばれる3PLの条件は、単に「安くトラックや倉庫を確保できること」ではなく、以下のような高度なコーディネーション能力の有無へと明確にシフトしていきます。

  • 複数顧客の出荷データを高度に分析し、ルートや時期をマッチングさせる「マッチング提案力」
  • 陸上輸送、内航海運、鉄道などの異なるモーダルをシームレスに繋ぐ「マルチモーダル構築力」
  • 突発的な天候不順や船の遅延時にも、瞬時にトラックへ切り替える「リスクマネジメント力」

自社単独で動脈物流(往路)だけを最適化する時代は終わり、他社の静脈・復路物流と重ね合わせて全体の収益性と安定性を高められる3PLだけが、市場で優位性を確保することになるでしょう。

2. 製造業者・メーカーへの影響:自前主義の崩壊と「コ・オペティション」の導入

荷主であるメーカー企業にとって、本施策は「自社専用物流網の維持」がもたらすリスクを再認識させ、経営戦略としての共同物流(コ・オペティション:協調的競争)の受け入れを迫るものとなります。

これまで、食品メーカー各社は「必要な時に、必要な量を、自社専用のルートで運ぶ」ことで、小売業や卸売業に対する配送リードタイムの短縮やサービス品質の向上を図ってきました。しかし、もはやドライバー不足が深刻化する日本において、自前主義に固執することは「モノが運べず、店頭に製品が並ばない」という致命的な欠品リスクに直結します。
今回、ネスレ日本とキッコーマン食品が手を結んだように、今後は以下のマインドセットへの転換が経営層に求められます。

  • 非競争領域のインフラ共有:製品の味わいやブランド、店頭でのプロモーションといった「商流(競争領域)」では激しく戦いながらも、運ぶためのコンテナや船、運行ルートといった「物流(非競争領域)」は徹底的にシェアする。
  • 物流標準化への適応:他社と共同で荷物を混載・ラウンド輸送するために、自社独自の伝票フォーマットやパレット規格、外装サイズなどを「業界標準」に合わせて素直にアップデートする。

これらを推進するためには、荷主企業側で強い決裁権を持つ「物流統括管理者(CLO)」の存在が不可欠となり、物流部門だけの判断ではなく、全社的な経営判断として協調物流にリソースを投資する姿勢が求められます。

参考記事: 共同配送とは?仕組みやメリット・デメリット、導入成功のポイントを徹底解説

3. 運送事業者への影響:長距離トラックからドレージ・地場配送への転換

実務で運送を担うトラック運送事業者にとっては、業務プロセスと車両・人員配置のドラスティックな再構築を伴う変化となります。

今回のラウンド輸送では、関東〜関西という超長距離の移動に内航船が使用されます。これにより、トラックドライバーが何日もかけて長距離を往復する過酷な「長距離運行」が不要になります。
代わりに、運送事業者に求められる役割は以下の2点に特化していきます。

  • 港湾ドレージ(コンテナ輸送)の確実な手配:千葉港や堺泉北港から、それぞれの物流センターや工場(高砂DC、野田物流センターなど)の間をピストン輸送する高品質なシャトル・ドレージ。
  • 地場配送(ラストワンマイル)の最適化:港や主要デポ(デリバリーセンター)に届いた大口貨物を小口に分割し、エリア内の小売・卸へ高頻度かつ正確に届ける配送網の維持。

これにより、運送会社は「ドライバーを長期間拘束するリスク」から解放され、日帰りが可能な「日中勤務・地場配送」主体の運行シフトに移行できます。これはドライバーの労働環境改善や、若手・女性ドライバーの採用促進において極めて強力なメリットとなります。一方で、長距離チャーター便の運行を主な収益源としてきた運送会社は、早急にドレージ対応シャーシの導入や地場共同配送のネットワークへの参画を検討しなければ、収益モデルの崩壊を招くリスクもあります。

参考記事: モーダルシフト完全ガイド|導入メリットと補助金・成功事例まで徹底解説

LogiShiftの視点(独自考察):共有インフラ化とゲインシェアが描く未来

郵船ロジスティクスによる本プロジェクトの立ち上げは、日本の物流が「自社専用の個別所有モデル」から「社会全体で共有するインフラモデル(フィジカルインターネット)」へと移行する歴史的な通過点(マイルストーン)であると位置づけられます。

この変化の先に待ち受ける課題と、それを乗り越えて企業が勝者となるための戦略を、独自の視点で深く考察します。

1. 「コ・オペティション」の障壁となる「便益配分(ゲインシェア)」の設計

競合や他業種との「協調物流」を進める上で、最も困難を極めるのが「発生した便益(ゲイン)と負担したコストを、どの比率で分かち合うか」というゲインシェアの問題です。

今回のケースを例に挙げると、往路と復路でそれぞれ異なるメーカーの貨物を積載していますが、以下のような不均衡が発生し得ます。

  • 積み込みや荷下ろしを行う現場(キッコーマンのDCやネスレの工場)において、一方の拠点の「待機時間」が長く、トラックやドレージの稼働を阻害してしまうケース。
  • 貨物の性質(重量、容積、温度帯など)によって、内航船のコンテナスペースを消費する割合が不均等であり、単純な「折半」では片方に不公平感が生じるケース。

日清食品のCLOなどの先行事例でも指摘されているように、企業が自ら投資して構築した仕組みが「他社を利するだけで、自社には十分なリターンがない」という状況に陥ると、プロジェクトは長続きしません。
ここで重要になるのが、中立的な立場を持つ3PL(郵船ロジスティクスなど)がデータに基づき、以下のような透明性の高い精算ルールを確立することです。

  • 走行距離や荷役時間に連動した「コスト負担の変動配分モデル」の構築。
  • 物流効率化によって削減されたCO2排出枠(排出権)の適切な分配ルールの設定。

このように、「公平かつ客観的なルールメイカー」としての機能を3PLが発揮できるかどうかが、アライアンスの持続可能性を決定づけます。

2. 内航海運モーダルシフトにおける「致命的弱点」の克服

内航海運へのモーダルシフトは環境面・労務面で非常に優れていますが、陸上輸送と比較して「リードタイムの長期化」と「気象リスクへの脆弱さ」という大きな弱点が存在します。

  • リードタイムの差:長距離トラックであれば関東〜関西間を1泊2日で配送可能ですが、船便を挟むと前後ドレージを含めて2〜3日以上のリードタイムが必要となる場合がほとんどです。
  • 自然災害リスク:台風や時化(しけ)、濃霧などによって船が運休・遅延した場合、陸上以上に代替手段の確保が難しくなります。

この弱点を乗り越えるため、荷主企業はサプライチェーン全体の「ゆとり(バッファ)」を許容しなければなりません。具体的には、納品先である小売業や卸売業との間で、「〇日前の発注確定」や「リードタイム緩和の合意」を取り付ける必要があります。

また、3PL事業者としては、船の運行状況をリアルタイムで可視化し、遅延予測が発生した瞬間に「自動的に長距離トラックのチャーター便へ切り替えて緊急輸送する」といった、デジタルを活用した「マルチモーダル制御(バックアッププラン)」のシステムを標準装備することが不可欠です。

3. 他事例(サントリー×ダイキン、伊藤園×ネスレ)との共通項に見る最適解

近年、今回の郵船ロジスティクスの事例と極めて類似した「往復輸送」「重軽混載」の取り組みが相次いで発表されています。

  • サントリー×ダイキン(鴻池運輸):ダブル連結トラックを活用し、群馬〜京都で飲料(重量物)を、大阪〜神奈川で空調機(容積物)を運び、空車回送を250台削減。
  • 伊藤園×ネスレ日本:静岡〜千葉でボトルコーヒー(重量)とリーフ製品(軽量)の「重軽混載」を行い、静岡〜関西では飲料と茶葉原料の「往復輸送」を構築。

これらの先行事例と今回の「郵船ロジ・ネスレ・キッコーマン」の事例に共通する決定的な成功法則は、「輸送特性がパズルのように補完関係にある荷主同士がマッチングされていること」です。

飲料や調味料といった液体・ボトル製品は「小さくても重い(重量勝ち)」という特性を持ちます。一方で、空調製品やスナック菓子、パウダーリーフ製品などは「容積は大きいが軽い(容積勝ち)」という特性を持っています。
今回のキッコーマン(調味料・重量物)とネスレ(飲料・重量物)の組み合わせでは、同じ重量物同士ですが、関東と関西の「生産・配送のベクトル」が美しく反転していたために、往復の「実車率」を極限まで高めることができました。

このように、企業は自社の製品特性(重量・容積・温度・匂い移りリスクなど)をデータ化して開示し、自社とは正反対の特性を持つ、あるいは動線が反転している「最高の相棒(パートナー)」を探索する体制を整えなければなりません。

まとめ:激動のサプライチェーンを生き抜くために「明日から意識すべきこと」

郵船ロジスティクスが提供を開始したネスレ日本とキッコーマン食品の東西ラウンド輸送は、2024年問題への一時しのぎの対策ではなく、次世代の「共有インフラ型物流(フィジカルインターネット)」の扉をこじ開ける象徴的なイノベーションです。

この激動期において、自社のビジネスを持続させ、さらに成長へと導くために、経営層や現場リーダーが明日から直ちに実践すべきアクションを以下に提示します。

  1. 自社トラックの実車率と「空走り」の徹底的なデータ化
    自社でチャーターしているトラックや自社便が、どこで空車(あるいは容積・重量の未達)のまま走っているかをすべて可視化してください。無駄な空間こそが、他社と共有できる「最大の価値(空きリソース)」です。
  2. 非競争領域(物流)でのアライアンスチャネルの開拓
    「ライバル企業だから」「異業種だから」という先入観を完全に捨て去りましょう。物流においては、競合他社こそが最大のインフラ共有パートナーになり得ます。3PLや業界団体をハブとして、非競争領域での対話プロジェクトを早急に立ち上げてください。
  3. リードタイムと納品条件の「標準化」プロジェクトの開始
    他社の運行スケジュールや、鉄道・船舶の運行ダイヤと自社の出荷を「連結」させるためには、自社独自の即日出荷ルールや、非効率な納品指定時間の緩和が前提となります。営業部門や取引先(着荷主)を巻き込み、持続可能なリードタイムへの変更について今すぐ協議を始めてください。

「自社の荷物は自社だけで運ぶ」という自前主義の終わりを冷徹に受け止め、インフラを「共創」する側にいち早く回ること。このマインドセットの転換こそが、明日からのサプライチェーンにおける最大の競争優位性となるのです。


出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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