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物流DX・トレンド 2026年6月22日

ライオンに学ぶ2026年4月改正物流効率化法への内製化必須対応

ライオンに学ぶ2026年4月改正物流効率化法への内製化必須対応

「自動化システムを入れたのに誤出荷が減らない」
「現場のちょっとした変更をシステムに反映したいが、ベンダーからの見積もりが高くて手が出ない」

多くの倉庫管理者や現場リーダーが、このような「デジタル化の罠」に頭を抱えています。外部ベンダーにシステムを丸投げした結果、現場はブラックボックス化します。小さな業務改善すらスピーディに実行できなくなる悪循環が生まれているのです。

物流2024年問題に伴う輸送力不足が顕在化する今、現場の非効率を放置することは許されません。2026年4月に本格施行された改正物流効率化法では、特定荷主への「CLO(物流統括管理者)」の選任が義務付けられました。物流を単なる「外部委託のコスト」と捉える時代は終わりました。

本記事では、大手消費財メーカーの「ライオン(LION)」が実践する全社DXの思想を物流現場に移植します。システムを「自分で回す」内製化の手法と、現場を牽引する「アクセル役」の育成プロセスを、明日から使える3ステップで徹底解説します。


1. 外部丸投げが招く「ブラックボックス化」の限界

多くの物流倉庫では、紙の伝票やベテランの「勘と経験」に頼ったアナログ管理が行われています。

これらを解決するために高額な倉庫管理システム(WMS)を導入しても、以下のような現場の限界が浮き彫りになるケースが後を絶ちません。

現場の不満と属人化が解消しない背景

  • 改修スピードの致命的な遅れ:
    「ピッキングリストの並び順を変えたい」という現場の小さな要望に対し、システムベンダーから数十万円の見積もりと数ヶ月の納期を提示される。
  • データのブラックボックス化:
    日々の入出庫データや作業員の動線データがベンダーのデータベース内に隔離され、自社で自由に抽出・分析できない。
  • 想定外の出荷波動への対応力不足:
    繁忙期に突発的なオーダー変更が発生した際、システムが硬直化しているため結局は手書きの付箋や目視によるダブルチェックという「人海戦術」に逆戻りする。

これらの根本原因は、システムの構築・運用を外部に依存しすぎている点にあります。自社にノウハウが蓄積されないままでは、どれだけ巨額の投資を行っても現場の「誤出荷」や「終わらない残業」を撲滅することはできません。


2. ライオン流「システム内製」と「アクセル役」の物流応用

この硬直化した状況を打破するための最強のロールモデルが、大手消費財メーカー「ライオン」の全社DX戦略です。

ライオンは「システム基盤の内製が大前提」という強力な開発方針を掲げています。これは、事業の意思決定スピードを最大化し、自社にデータアセットを蓄積するための戦略的な決断です。

さらに同社が育成に力を入れているのが、現場とシステムを繋ぐ「アクセル役」と呼ばれる人材です。

物流現場における「アクセル役」の定義

物流・倉庫現場における「アクセル役」とは、プログラミング言語を完璧に操るITオタクではありません。

  • 現場の泥臭いオペレーション(ピッキング、検品、梱包など)を熟知している。
  • デジタル技術やデータの活用方法を理解している。
  • 「現場のペイン(課題)」と「システムの論理」を翻訳し、自らカイゼンを回すことができる。

このような「ブリッジ人材」を現場に配置し、システムを自社でコントロールできる体制(内製化)を整えることが、持続可能なサプライチェーンを構築するための唯一の勝ち筋となります。

しかし、資金やITリソースの限られた中堅・中小の倉庫現場において、完全にフルスクラッチ(自前)でシステムを開発することは現実的ではありません。

そこで推奨されるのが、巨大なシステムを丸ごと抱え込まない「アセットライト(持たない経営)」の考え方です。必要な機能に特化した安価なSaaSツールをAPIで柔軟に連携させる「疎結合(コンポーザブル)なシステム設計」を導入します。これにより、初期投資を抑えながら「自分でシステムをコントロールする」簡易内製化が実現します。

参考記事: なぜ企業は「自分で回す」のか?資源・AI・物流の内製化がもたらす3つの効果|チバテレ

参考記事: ロジスティードホールディングスの営業利益率6.1%に学ぶ倉庫DX必須対応


3. 実践プロセス:疎結合で進める倉庫DXの3ステップ

では、具体的にどのようにしてシステム基盤を自分でコントロールし、現場の「アクセル役」を育てていくべきでしょうか。明日から実践できる具体的な3つの導入手順を解説します。

簡易内製化と人材育成の3ステップ手順

ステップ 具体的な実践内容 巻き込むべき対象者 主な成果とアウトプット
ステップ1 暗黙知のデータ化と商品マスターの整理 現場リーダー、ベテラン作業員 ロケーションコードの付与、正確な商品寸法データの登録
ステップ2 疎結合(API連携)によるWMS等のスモール導入 IT担当者、外部SaaSベンダー クラウドWMSやバース予約システム等の段階的な連携稼働
ステップ3 現場「アクセル役」の選定とアジャイルカイゼン 現場の実務担当者、管理者 現場データの可視化、作業手順の自律的な継続改修

【ステップ1】『暗黙知』のデータ化と商品マスターのクレンジング

いかなる最新システムを導入しても、ベースとなるデータが汚れていては正しく稼働しません。

まずはベテランスタッフの頭の中にある「この商品はあそこの棚に置く」「この組み合わせは誤出荷しやすい」といった暗黙知を、ルールとして徹底的に言語化・データ化します。

  • 全商品のサイズ、重量、SKU情報を正確に登録し直す。
  • 倉庫内の棚や床に、誰が見ても迷わない一意のロケーションコード(例:A-01-02)を付与する。

この「データクレンジング」こそが、内製化システムを自律的に動かすための絶対的な土台となります。

【ステップ2】API連携を前提としたシステムの『疎結合化』

高額な独自WMSをベンダーに発注するのではなく、月額数万円から利用できるクラウド型WMSや、バース予約システムなどの特化型SaaSを段階的に導入します。

  • 在庫管理とピッキング検品には「クラウド型WMS」
  • トラックの待機時間を削減するには「バース予約システム」
  • 配車計画の最適化には「AI配車システム」

これらをAPI(システム同士を繋ぐ窓口)を介して接続します。

万が一、業務プロセスが変わった場合でも、該当する特定のツールだけを入れ替えるだけで済みます。自社でシステムの組み合わせをコントロールできるため、ベンダーロックイン(特定ベンダーへの依存)を完全に回避できます。

【ステップ3】現場の「アクセル役」の選定とアジャイルカイゼン

現場から「キーパーソン」となる実務担当者を1名選定し、システムの管理者(アクセル役)として任命します。

  • 選定基準: ITの知識よりも、「現状の無駄な作業に強い問題意識を持っている現場スタッフ」が最適です。
  • 実践内容: WMSから出力されるピッキング時間や誤出荷のデータを、アクセル役がダッシュボードで日々確認します。
  • アジャイルな改善: 「ピッキングの歩行距離が長い」というデータが出たら、アクセル役が主導して棚のロケーションレイアウトをシステム上で即座に変更し、翌日からテスト運用します。

この「テストと学習(test-learn)」のサイクルを現場で自律的に回せるようになることこそが、内製型DXの真の完成形です。

参考記事: 物流DXでコスト20%減!CLO時代を生き抜く現場改善の3ステップ


4. 期待される効果:内製型DX導入前後の Before / After

この「疎結合システム×現場のアクセル役」による倉庫DXを導入することで、現場のオペレーションや品質はどのように変化するでしょうか。

導入前後の変化を、定量的・定性的な指標を交えて以下の比較テーブルに整理しました。

倉庫DX導入前後の定量的・定性的比較

評価項目 導入前の状態(Before) 導入後の状態(After) 現場にもたらされる具体的な効果
出荷精度とミス対策 目視と紙伝票のダブルチェックに依存し誤出荷が日常化 WMSとハンディ端末を用いたロケーション指示によるバーコード検品 誤出荷率を0.01%以下へ低減しクレーム処理時間を削減
改善のスピード 画面変更一つにとってもベンダーへの見積もり・稟議が必要で数ヶ月待ち 現場のアクセル役が管理画面から即座にフローや配置を自社で設定 業務プロセスの変化に対する即日対応アジリティの獲得
スタッフの即戦力化 倉庫内の商品配置がベテランの記憶に依存し新人教育に1カ月以上 端末が指示する棚番号へ行くだけで誰でも同じ精度で作業可能 入社初日のパートタイマーでも即戦力化し人手不足を緩和
全体的な物流コスト 誤出荷の回収や無駄な残業代が常態化しコストがブラックボックス化 データの可視化と動線の最適化により無駄な作業時間を徹底排除 庫内作業人件費を含む総物流関連コストを約20%削減

定量的な改善メリット

誤出荷率が極小化されることで、返品に伴う運賃や代替品の再パック費用が消滅します。さらに、ピッキング時の歩行距離が最適化され、作業効率が向上します。これにより、残業代の削減に直結し、全社的な物流管理コストを20%削減することが十分に可能となります。

定性的な改善メリット

「ベテランに聞かなければ作業が進まない」というストレスが現場から排除されます。直感的で標準化されたデジタル手順を提供することで、スタッフの心理的負荷が大幅に軽減されます。「ミスが起きない、誰でも安心して働ける現場」になるため、従業員の離職率が低下し、人材の定着に寄与します。


5. 成功の秘訣は「完璧主義を捨てるスピード感」

ライオンが推進する全社DXの本質、そしてこれからの物流クライシスを乗り越えるための最大の鍵は、「完璧主義を捨てるスピード感」にあります。

多くの企業が「すべての要件を網羅した完璧な仕様書ができるまで」と準備に時間をかけすぎ、結果として変化の早い技術トレンドや法改正のスピードに取り残されています。

  • 自前主義に固執して、巨額のシステムを一から自社でフルスクラッチ開発する必要はありません。
  • 外部ベンダーにすべてを委ねて、現場をブラックボックス化させる必要もありません。

既存のアセット(設備や人材)を最大限に活かしながら、必要なツールだけをAPIで後付けし、現場の「アクセル役」が主体となって小さく試して大きく育てる。この「アジャイルな共創アプローチ」こそが、これからの時代を生き抜く倉庫DXの標準戦略です。

まずは、商品マスターの徹底的なクレンジング、あるいは1台のスマートフォンのバーコードスキャンアプリの導入といった、小さな一歩から始めてください。自らデータを握り、システムをコントロールする主導権を現場に取り戻すこと。それが、次世代の強靭なサプライチェーンを構築するための確実な第一歩となるはずです。


出典・参考リンク

  • 出典: チバテレ+プラス
  • 出典: 国土交通省「物流の2024年問題について」
  • 出典: ダイヤモンド・オンライン
  • 出典: 物流(ロジスティクス)ニュースのLNEWS

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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