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ニュース・海外 2026年7月28日

メルセデス・ベンツが約10億ユーロ投じるEV拠点拡張で調達最適化が加速

メルセデス・ベンツが約10億ユーロ投じるEV拠点拡張で調達最適化が加速

独メルセデス・ベンツはハンガリーのケチケメート工場へ約10億ユーロを投じて敷地を440ヘクタールへ拡張し、主力セダン『Cクラス』の新型電動モデル生産と敷地内バッテリー組み立てを開始しました。自動車の電動化(EVシフト)に伴う重量物・危険物物流のリスク削減と、デジタルツインを活用したサプライチェーンの最適化は、地政学リスクや物流コスト高騰に直面する日本企業にとっても最優先で学ぶべき先進モデルです。

メルセデス・ベンツの工場拡張に見る欧州EVサプライチェーンの最新動向

メルセデス・ベンツは2026年7月13日、ハンガリーのケチケメート工場における新生産棟の開所と新型電動『Cクラス』の本格生産開始を正式に発表しました(国内メディアでの報知は7月27日)。同社が進める「2022〜2026年ビジネスプラン」に基づき、約10億ユーロ(約1,600億円)規模の投資が実行された本プロジェクトは、同社にとって欧州における電気自動車(BEV)生産の重要拠点としての機能を飛躍的に高めるものです。

今回の拡張により、ケチケメート工場の敷地面積は従来の200ヘクタールから440ヘクタールへと2倍以上に拡大しました。これは同社のグローバル生産ネットワークにおいて、2番目の広さとなります。敷地内には新設計のボディ工場や組み立てラインに加え、第2プレス工場、環境負荷を最小限に抑えた塗装工場、そして駆動用バッテリーのモジュールおよびパックを組み立てる専用施設が新設されました。

以下の表は、今回拡張されたケチケメート工場の設備スペックおよびサプライチェーンにおける主要データをまとめたものです。

評価項目 定量スペック・詳細内容 物流および調達面への直接的影響
総投資額 約10億ユーロ(2022〜2026年中期計画) 欧州域内におけるBEV集中生産体制の構築
敷地面積 200 ha → 440 ha(2倍以上へ拡大) 部品サプライヤーのオンサイト集積スペース確保
主要新設機能 ボディ工場・組み立てライン2棟、敷地内バッテリー組み立て施設 重量物・危険物であるバッテリーの長距離輸送削減
環境・エネルギー 自家発電用太陽光パネル42.3 MWpを設置 工場運用におけるCO2排出量の削減とエネルギー自給
生産運用方式 既存ラインでのICE/BEV混流生産+新棟でのBEV専用生産 市場需要の変化に即応するマルチパワートレイン体制

同工場の大きな特徴は、完全なBEV専用工場への一本化ではなく、既存ラインにおいては内燃機関(ICE)車とBEVを同じラインで組み付ける混流生産能力を維持している点です。これにより、世界的なEV需要の変動に合わせてフレキシブルに生産比率を変更できるリスク分散体制が構築されています。

同時に、欧州内の生産拠点間で相互補完を行うネットワークも強化されています。例えば、電動SUV『GLC』の生産においては、ドイツのブレーメン工場とケチケメート工場の2拠点体制が敷かれ、地域ごとの需要急増や輸送障害が発生した際にもラインを止めない供給網のレジリエンスが確保されています。

参考記事: サプライチェーン・レジリエンスとは?BCPとの違いや強靭な供給網を築く実務戦略まで解説

ケチケメート工場の事例:オンサイト生産とデジタルツインによる供給網最適化

ケチケメート工場における大規模拡張の真意は、単なる組み立てラインの増設にとどまりません。自動車産業が直面する「バッテリー物流の難局」と「複雑化する部品管理」という2つの課題に対し、合理的なソリューションを提示しています。

危険物・重量物の長距離輸送を排除する「ローカル・フォー・ローカル」戦略

EVシフトを推進するうえで最大の物流障壁となるのが、車載用リチウムイオンバッテリーの輸送です。バッテリーは単体で数百キログラムに達する超重量物であると同時に、国連危険物輸送勧告や各国の消防法規において厳重な管理が義務付けられる危険物(Class 9)に該当します。輸送時の振動・温度管理コストが高額になるだけでなく、事故発生時のリスクも極めて高く、長距離の国際トラック輸送や鉄道輸送はサプライチェーン上の大きな弱点となります。

メルセデス・ベンツはこの課題に対し、バッテリーのモジュールおよびパックの組み立て施設をケチケメート工場の敷地内(オンサイト)に直接配置する戦略をとりました。

  • 輸送距離の縮小
    • 外部のバッテリー工場からセルを調達した後のパック組み立て、そして完成車ラインへの投入までを同一敷地内で完了させることで、危険物輸送の公道走行距離をほぼゼロに削減。
  • リードタイムと安全管理の最適化
    • 工場敷地内の専用コンベアやAGV(無人搬送車)を用いたジャスト・イン・タイム(JIT)供給を行うことで、危険物倉庫の外部保管コストと出荷待ちリードタイムを排除。
  • 地政学リスクへの耐性向上
    • 国境をまたぐコンテナ輸送や特定地域の物流ボトルネックの影響を最小限に抑え、地産地消型の「ローカル・フォー・ローカル」調達構造を完結。

NVIDIA Omniverseを活用したデジタルツインによる現場の可視化

もう一つのイノベーションは、生産ラインおよび物流プロセスの全面的なデジタル化です。ケチケメート工場では、米NVIDIAの「NVIDIA Omniverse」プラットフォームを活用し、新設された組み立てホール全体の「デジタルファクトリーツイン(バーチャル上の工場複製)」が構築されました。

1. 物理ライン構築前のバーチャル検証

実際の設備機器や搬送レールを設置する前に、バーチャル空間上で作業員の動線やAGVの走行ルート、部品バッファ(保管場所)の最適配置をシミュレーション。これにより、稼働後の物流ボトルネックやラインの停滞リスクを事前に洗い出し、立ち上げ時の初期トラブルを大幅に回避しました。

2. MO360データプラットフォームとのリアルタイム連携

メルセデス・ベンツ独自のデジタル生産エコシステム「MO360」を通じ、ケチケメート工場の生産進捗、在庫ステータス、部品調達状況がグローバル全体のデータ拠点とリアルタイムで同期されています。部品の入出庫データがリアルタイムで同期されるため、サプライヤーからの納入遅延が発生した場合でも、AIが即座に代替ルートや代替組み立て順序を提示します。

3. エネルギーおよびCO2排出量のリアルタイム追跡

建屋内の空調、塗装工程のエネルギー使用量、部材搬送に伴う炭素足をデジタルツイン上で追跡。敷地内に設置された42.3 MWpの太陽光発電施設からの電力供給量と連動させ、工場全体の脱炭素化(GX)をデータ主導で管理しています。

日本の製造業・物流企業が即座に取り組むべき2つの構造改革

欧州で加速する「EV地産地消型物流」と「デジタルツインを活用したサプライチェーン管理」は、日本の自動車・製造・物流業界にとっても決して他人事ではありません。特に日本国内においては、物流の2024年問題に起因するドライバー不足、消防法に基づく危険物倉庫の絶対的不足、そしてサプライチェーン全体の脱炭素化(Scope3対応)という複合的な課題が深刻化しています。

メルセデス・ベンツのケチケメート工場から、日本の実務担当者が抽出して直ちに実行すべきポイントは以下の2点に集約されます。

危険物・バッテリー保管物流のオンサイト化と拠点再編

日本の自動車産業においても、ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)、BEVの生産比率が上昇する中で、リチウムイオンバッテリーの輸送・保管網の限界が指摘されています。現在、日本国内では危険物倉庫の空き容量が逼迫しており、完成車工場の遠方にバッテリー保管拠点を置かざるを得ないケースが頻発しています。

しかし、長距離の危険物輸送はコストが高騰するだけでなく、ドライバーの拘束時間制限(年間残業960時間上限)の観点からも持続不可能です。

  • 組み立てライン近隣への危険物・高付加価値部品拠点の集積
    • 既存の遠方倉庫に依存するのではなく、完成車工場の隣接地や敷地内スペースを活用した「オンサイト調達拠点(サテライト倉庫)」の設置を荷主企業と3PL事業者が共同で推進する必要があります。
  • 危険物輸送専門ラインの確保と外注戦略の見直し
    • 危険物取扱資格を持つドライバーの確保や、法令に適合した温調機能付きコンテナの確保は、個別企業だけでは困難です。荷主・部品メーカー・物流事業者がアライアンスを組み、共同輸送(ミルクラン)を構築することが求められます。

参考記事: 危険物輸送完全ガイド|関連法令から実務知識・外注先の選び方まで徹底解説

デジタルツインを活用したサプライチェーンのボトルネック事前予測

日本市場においては、急進的なBEV化一辺倒ではなく、ガソリン車・HEV・BEVを並行して生産する「マルチパスウェイ戦略」が当面の主流となっています。これは、取り扱う部品点数(SKU)が削減されるどころか、むしろ多様化・複雑化することを意味します。例えば、トヨタ自動車が次世代EV新車台の計画見直しを行った事例に見られるように、多部品・高頻度小ロットのJIT輸送を維持しつつ、運行効率を高める「プロセスのDX」が不可欠です。

海外事例のような大規模なデジタルツインを構築することは容易ではありませんが、日本企業が真似できる「段階的デジタル化」のアプローチが存在します。

1. 庫内動線・配車計画の簡易バーチャルシミュレーション

既存のWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)のデータを用い、荷役作業の停滞場所や配車ルートの無駄を可視化するツールの導入。

2. データ標準化による荷主・3PL間のリアルタイム情報共有

工場側の生産計画の変更(内示データ)と、物流側の車両手配・在庫データをAPI連携によりシミュレーション可能にすることで、突発的なラインストップや荷待ち時間の発生を防ぐ。

参考記事: 供給網の可視化とは?Tier2以降の調達リスクを低減する実践ステップと最新トレンド

まとめ:EV時代の持続可能なサプライチェーン構築に向けて

メルセデス・ベンツによるハンガリー・ケチケメート工場の拡張と新型電動『Cクラス』の生産開始は、単なる生産能力の拡大にとどまらず、次世代の製造・物流が目指すべき理想像を提示しています。重量物・危険物であるバッテリーの「地産地消型オンサイト調達」によって物理的な輸送リスクとCO2を削り、「デジタルツインとデータ共有」によって需要変動に対する柔軟な適応能力を獲得する戦略です。

日本の物流業界・製造業界においても、単にハードウェア(車両)を電動化するだけでなく、供給網全体の配置・設計を見直し、デジタルの力でプロセス全体の無駄を削ぎ落とす「構造改革」が強く求められています。危険物物流の再設計とサプライチェーンのリアルタイム可視化に着手することこそが、不確実な時代において持続可能な競争力を獲得する鍵となるでしょう。


出典: レスポンス(Response.jp)
出典: Mercedes-Benz Group Press Release
出典: Electrek
出典: Automotive Logistics

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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