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サプライチェーン 2026年7月31日

7月31日に政府が脅威狩り決定|物流事業者は能動的防御の構築が必須対応に

7月31日に政府が脅威狩り決定|物流事業者は能動的防御の構築が必須対応に

2026年7月31日、政府のサイバーセキュリティ戦略本部(本部長・高市早苗首相)は、高度化するサイバー攻撃に対処するため、システム内の攻撃兆候を事前探知する「脅威ハンティング(脅威狩り)」の普及・促進を盛り込んだ新たな基本方針を決定しました。同月に起きた冷凍食品大手ニチレイのシステム障害が外食や生活協同組合などの供給網全体に深刻な混乱を招いたことを受け、政府は物流をエネルギーや交通と並ぶ「重要インフラ」と位置づけ、事業者の能動的な防御体制の構築を強力に支援する方針です。

ニュースの背景・詳細:政府が打ち出した「脅威ハンティング」の全容と事件の文脈

2026年7月31日、政府は首相官邸でサイバーセキュリティ戦略本部の会合を開き、サイバー攻撃の高度化・巧妙化に対応するための新たな基本方針を正式に決定しました。

今回の基本方針において最大の目玉とされているのが、システム内に潜伏するサイバー攻撃の兆候を能動的に探索して排除する技術・手法である「脅威ハンティング(脅威狩り)」能力の普及促進です。

会議の冒頭、本部長を務める高市早苗首相は「加速度的に脅威を増すサイバー攻撃はわれわれの準備を待ってはくれない」と強く指摘し、「取り組みの不断の強化と見直しを行い、世界最高水準の強靱化確保に向けて全力で取り組んでほしい」と関係閣僚らに指示を出しました。

従来型のセキュリティ対策は、ファイアウォールやウイルス対策ソフトによって社内ネットワークの境界で侵入を塞ぐ「境界型防御」や「侵入検知」が主流でした。しかし、近年のサイバー攻撃は正規の管理権限を悪用したり、未知の脆弱性(ゼロデイ)を突いたりすることで従来の検知メカニズムをすり抜け、最深部の制御系システムへ長期潜伏する手法へと劇的に変化しています。基本方針では「早期発見は事業停止など経営上のリスク回避に直結する」と明記され、攻撃を受ける前にシステム内の異変を能動的に見つけ出すアプローチへの転換が示されました。

政府は物流、エネルギー、交通、情報通信、金融といった生活基盤を支える重要インフラ事業者を対象に、擬似的なサイバー攻撃を活用した実践的演習や専門人材の育成を強力に支援します。さらに、同盟国・同志国との連携を強化し、最新の攻撃検知手法や脅威インテリジェンスの共有を推進する方針です。

基本方針決定の背景にある「ニチレイショック」の現実

政府が物流を重要インフラ防衛の最優先課題の一つとして挙げた背景には、2026年7月に発生した株式会社ニチレイおよびそのグループ会社に対するサイバー攻撃事案があります。国内の低温物流(コールドチェーン)最大手である同社のシステム停止が、一企業のITトラブルの枠を超えて日本全国の食のサプライチェーンを麻痺させた実態が、政府に危機感を抱かせました。

以下は、2026年7月に起きたニチレイグループのインシデントの推移と、政府基本方針の主要ポイントを整理した時系列および概要の比較表です。

項目 ニチレイグループのインシデント推移 2026年7月31日決定の政府基本方針
主な出来事・内容 7月13日にシステム異常検知、7月15日にサイバー攻撃と公表。ネットワーク緊急遮断により受発注・出入庫が一部停止。 サイバーセキュリティ戦略本部にて、能動的防衛を軸とする新基本方針を決定。高市首相が不断の強化を指示。
被害・対象範囲 ニチレイフーズ・ニチレイロジの受発注や出荷機能。KFCでの時短営業・販売制限、生協等での欠品・受注制限。 物流、エネルギー、交通、情報通信、金融などの重要インフラ事業者全般。
攻撃・防衛のアプローチ 侵入を検知した後のネットワーク物理遮断と、バックアップからの手動復旧・縮退運転による応急対応。 潜伏する脅威を未然に探知する「脅威ハンティング」の普及支援、実践的人材育成、同盟国との情報共有。
影響と復旧時期 7月22日に委託先の外食チェーンが通常営業へ復帰、7月24日にはニチレイ全拠点で受発注制限を解除し通常稼働。 早期発見による事業停止リスクの回避、官民連携および国際連携を通じたサプライチェーン強靭化。

物流・サプライチェーンへ波及した影響の全容

ニチレイの事例が示したのは、自社の食品製造だけでなく、同社の冷蔵倉庫や輸配送網を利用する約5,000社の荷主企業や配送委託先へ被害が波及するという「連鎖型リスク」の恐ろしさです。

  • 低温物流インフラ(ニチレイロジグループ): 自社製品のみならず、競合メーカーを含む他社寄託品や共同配送の受発注・入出庫データが遮断されたことで、倉庫内での出庫指示や配車組み立てが一時不全に陥った。
  • 外食・フードサービス: ニチレイロジへ物流を委託している日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)において、店舗への食材供給が滞り、一部店舗で営業時間の短縮や「レッドホットチキン」など主要商品の販売制限が発生した。なお、ニチレイと日本ケンタッキー・フライド・チキンとの間に資本関係はない。
  • 生協宅配・店頭小売: コープデリやパルシステム、東海コープなどの宅配サービスや一般スーパーにおいて、冷凍食品やアイスクリームの配送遅延・欠品・受注制限が多発した。

このような社会機能の停止を未然に防ぐため、政府は事後対応中心の防衛から、システム内部に潜む攻撃の芽を事前につむ「脅威ハンティング」の横展開を急速に進めようとしています。

参考記事: 2026年7月に起きた株式会社ニチレイのシステム障害と物流BCPの必須対応

業界への具体的な影響:各プレイヤーに迫られる防衛姿勢のパラダイムシフト

政府が物流事業者を「重要インフラ」として特定し、脅威ハンティングの支援に乗り出したことは、運送事業者、倉庫事業者・3PL、そして行政・荷主企業のそれぞれに対して、これまでのセキュリティ管理を一変させる大きな地殻変動をもたらします。

運送事業者・輸配送事業者:TMS(運行管理)の停止防止と「踏み台化」の回避

トラック運送会社や輸配送事業者は、配車管理システム(TMS)や動態管理システム、ドライバー向け端末のクラウド化を急ピッチで進めています。しかし、配車データや配送先リストを管理するTMSがサイバー攻撃によってロックされた場合、車両が稼働可能な状態であっても「どこへ何を何時に運ぶべきか」が分からず、全車両の稼働がストップします。

1. 運行停止に伴う配車・配送機能の即時不全

配車計画がデジタル化されている現代の運送現場では、基幹システムへのアクセスが遮断されると、指示書の出力やドライバーへのリアルタイム配送指示が出せなくなります。荷主に対する納品遅延は違約金や契約解除に直結するため、非常に大きな経営リスクとなります。

2. サプライチェーン攻撃における「踏み台」リスクと個人情報漏洩

大手荷主や3PLとAPIやEDIでデータ連携している運送会社は、自社のセキュリティの穴(古いルーターやID・パスワードの管理不備)から侵入され、本丸である大手企業のシステムへ侵入を許す「サプライチェーン攻撃の踏み台」にされる懸念が高まっています。また、佐川急便において不具合復旧時の設定ミスにより約7万人の個人情報漏洩の恐れが生じた事案に見られるように、システム運用時のミスや設定の脆弱性に対する厳格な品質管理(QA)も問われています。今後は、政府の支援パッケージを活用し、模擬攻撃演習などを通じた専任人材の育成や脅威探知ツールの導入を進めることが不可欠です。

倉庫事業者・3PL:制御系システム(OT)の防御とセキュリティの「取引条件化」

倉庫管理システム(WMS)に加え、無人搬送車(AGV)や自動ソーター、自動倉庫などのマテリアルハンドリング機器(マテハン)の導入を進める3PLや倉庫事業者にとって、制御系システム(OT領域)へのサイバー攻撃は「物理的な物流の死」を意味します。

1. 自動化拠点における「物理的停止」の恐怖

WMSや機器制御サーバーがランサムウェア等で暗号化された場合、倉庫内で「どのロケーションにどの商品が何個あるのか」が完全にブラックボックス化します。マテハン機器が緊急停止すれば、作業員を配置しても手作業でのピッキングすら行えず、バース周辺には出荷待機のトラックが滞留して物流機能が完全に停止します。

2. 荷主企業からのセキュリティ要件厳格化

ニチレイのシステム停止が取引先に与えた衝撃から、今後は荷主企業が3PLや倉庫事業者を選定・継続する際、「脅威ハンティングやEDR(エンドポイント検知・対応)が導入されているか」「どのようなサイバーBCPを備えているか」を厳しくチェックするようになります。適切なセキュリティ投資を行えない事業者は、コンペティションから排除される時代に突入しています。

参考記事: サイバー攻撃が生む連鎖リスク、株式会社ニチレイ7月13日障害と防衛の必須対応

行政・荷主・規制当局:「能動的サイバー防御」の制度化と集団防衛の強化

政府による基本方針決定を受け、行政および荷主企業は、物流業界全体へのセキュリティ基準の底上げとガイドラインの適用を強めています。

1. 能動的サイバー防御の法制化と監査基準の引き上げ

政府が進める「サイバー対処能力強化法」の検討とも連動し、重要インフラに指定された物流事業者に対しては、従来の受動的な報告義務だけでなく、サイバー攻撃の兆候を早期探知・対処するための体制整備が求められます。行政によるセキュリティ監査や、荷主企業からのチェックシート提出要請は一層厳しくなる見通しです。

2. 流通ISACなど業界横断組織との連携

高度な専門知識を要する「脅威ハンティング」を、人的リソースに限りのある中小の物流現場へいかに普及させるかが最大の課題です。2026年4月にアサヒグループジャパンや花王、サントリー、三菱食品など大手企業が設立した「一般社団法人 流通ISAC(Information Sharing and Analysis Center)」のように、製造・卸・小売・物流が横断して脅威情報を共有する枠組みと、政府支援策との連携が鍵を握ります。

参考記事: アサヒグループジャパンなど10社が2026年4月に流通ISAC設立、共倒れ防ぐ

LogiShiftの視点(独自考察):「能動的探知」と「泥臭い縮退運転」を両立させる二重の強靭性

2026年7月31日に政府のサイバーセキュリティ戦略本部が打ち出した基本方針は、日本の物流セキュリティが「侵入されないための壁を厚くする受動的防衛」から、「侵入されている前提で兆候を自ら狩りに行く能動的監視」へと構造的に変化したことを明確に示しています。

ニチレイの事案が証明した「単一障害点(SPOF)」の危険性

ニチレイのシステム障害において際立ったのは、同社が国内の低温物流において巨大なシェアを持っていたがゆえに、同社のシステム停止がそのまま社会全体の食の寸断(SPOF:Single Point of Failure)に繋がった点です。

物流DXの推進は、「データを一元化し、リアルタイムにシームレス連携する」ことで効率を極限まで高めてきました。しかし、この密に結合されたデジタル網は、一箇所が塞き止められた瞬間に全体へ被害が急拡散する脆さを孕んでいます。

これからの物流企業に求められるのは、政府が推進する「脅威ハンティング」などの最新テクノロジーを導入して高度な探知網を敷くことだけではありません。未知の脆弱性やAIを悪用した高速自動ハッキング(GPT-5.5等の悪用)により、100%の防壁は存在しないという冷徹な事実を直視する必要があります。

「能動的監視」と「アナログ回帰力」のハイブリッド構成

真に強靭なサプライチェーンを築くためには、以下の2つのアプローチを同時に保持する「ハイブリッドなレジリエンス」が不可欠です。

  1. テクノロジーによる能動的監視(攻めの防衛)
  2. EDR/MDRや脅威ハンティングツールを導入し、システム内の不審な挙動や特権IDの異常使用を常時モニタリングする。
  3. 流通ISACなどの情報共有網に参画し、他社で検知された攻撃の兆候(IoC:侵入指標)を自社の防御システムに即時反映させる。
  4. システムダウンを前提とした泥臭いアナログ復旧(守りのBCP)
  5. 万が一ランサムウェア等でWMSやTMSが即座に遮断された場合、現場リーダーの判断でLANケーブルを物理遮断し、感染の横展開を防ぐ。
  6. オフラインで定期取得しているバックアップデータから、紙のピッキングリストや仮送り状を出力し、優先順位の高い重要荷物の「手作業による縮退運転」を維持する。

高市首相が述べたように「サイバー攻撃はわれわれの準備を待ってくれない」からこそ、高度な脅威探知能力という「デジタルな刀」を研ぐと同時に、停電やシステム全滅時にも現場の力で荷物を動かし続ける「アナログな盾」を現場に備えることが、物流企業としての持続可能な生存戦略となります。

参考記事: 自動ハッキングAIの脅威!物流インフラをサイバー攻撃から守る3つの防衛策

まとめ:強靭な物流防衛に向け、明日から意識すべき3つのアクション

政府が2026年7月31日に決定したサイバーセキュリティ基本方針は、物流を社会の重要インフラと明確に位置づけ、「脅威ハンティング」の導入を通じた強靭化を求める画期的な方針転換です。ニチレイのシステム障害が残した重い教訓を無駄にせず、自社とサプライチェーン全体を守るために、明日から経営層や物流現場のリーダーが着手すべきアクションは以下の3点です。

  1. 自社のIT資産とアタックサーフェス(攻撃対象領域)の完全な棚卸しを実施すること
    現場で稼働している古いOSの制御用PC、初期パスワードのまま運用されているネットワークカメラやルーター、私用スマートフォンなどの「シャドーIT」を洗い出し、パッチの適用や多要素認証(MFA)を全社で徹底する。
  2. 「脅威ハンティング」や外部SOC/MSSの導入を検討し、能動的監視体制を整えること
    自社単独での監視が困難な場合は、24時間体制でシステムの異常挙動を探索・対処してくれる専門サービス(SOC/MSS)や政府の模擬攻撃演習プログラム等の支援施策を積極的に活用する。
  3. システム全滅時を想定した「デジタル災害訓練(アナログ代替運用訓練)」を定期実施すること
    WMSやTMSが完全に機能を停止した事態を想定し、現場レベルでネットワークを即座に物理遮断する権限を明確化するとともに、紙とペン、手作業の帳票を用いて最優先の出荷業務を継続できるルールをマニュアル化し、避難訓練のように訓練を重ねる。

物流は社会の血流です。いかなるサイバー攻撃に直面しようとも、能動的な脅威の検知と現場のアナログ復旧力を組み合わせ、モノの流れを止めない体制を構築することが、今後の物流企業における最大の信頼と競合優位性となります。


出典: 時事通信
出典: デイリースポーツ
出典: ニッキンオンライン
出典: ネットショップ担当者フォーラム
出典: Wedge ONLINE

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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