王子ホールディングスの完全子会社である王子物流株式会社は、自動運転スタートアップの株式会社T2と共同で、関東―関西間約510kmにおける紙製品の定期商用輸送を2026年7月27日に開始しました。実証段階を超えて実際の商流に適用した本決定は、人手不足が常態化する長距離幹線輸送の能力を自力で確保・防衛する強力な施策となります。
王子物流とT2による約510km自動運転商用運行の全体像
実証フェーズから実商流への完全移行と実施経緯
王子ホールディングス株式会社の100%子会社としてグループの物流中核を担う王子物流株式会社(東京都中央区)と、自動運転トラックの開発および運行サービス化を推進するスタートアップの株式会社T2(東京都千代田区)は、2026年7月27日より、関東―関西間を結ぶ約510kmの幹線ルートにおいて、自動運転トラックを用いた紙製品の定期商用輸送を開始しました。
本取り組みにおける最も重大な意義は、単なる一時的な技術検証(PoC)の枠組みを完了し、実際のビジネス商流に乗せた「定期的な商用運行」へと完全に舵を切った点にあります。
両社は2025年10月から2026年5月にかけて計4回にわたる実証走行を段階的に重ねてきました。高速道路走行時における急制動の発生有無、車線変更時の追従性や走行安定性に加え、特に紙製品特有の輸送課題である「加減速の衝撃による荷崩れリスク」や輸送品質への影響を厳格に検証しました。その結果、既存の熟練プロドライバーによる有人輸送と同等以上の安全基準および品質基準を満たしていることが確認され、定常的な商用運行への移行が決定しました。
運行ルートの構造とレベル2自動運転の適用範囲
今回の定期輸送は、東京都江東区にある王子物流の有明支店などを起点とし、大阪府大阪市にある安治川支店などを結ぶ約510kmの往復幹線ルートで実施されています。
全行程約510kmのうち、東名高速道路の綾瀬スマートIC(神奈川県)から京滋バイパスの久御山JCT(京都府)に至る約420km(全体の約82%)が「レベル2自動運転(ドライバーが搭乗した状態での部分的運転自動化)」の適用区間となっています。
一般道区間や複雑な分岐路、高速道路の料金所や出入口周辺においては、同乗するプロドライバーが手動操作を行います。一方で、長距離の高速巡航区間においては自動運行装置が加減速や車線維持、車間距離の調整を代替します。これにより、ドライバーの長時間の連続集中に伴う精神的・肉体的負荷を劇的に軽減するハイブリッド型の運行体制が確立されました。
本プロジェクトの運行スペックおよび取り組みの概要を以下の表に整理します。
| 項目 | 詳細情報 | 物流業界における重要性 |
|---|---|---|
| 商用運行開始日 | 2026年7月27日 | 実証実験を完了し実際の商流に乗せた定期商用運行へ移行 |
| 全体運行距離 | 約510km(東京都江東区~大阪府大阪市) | 日本の物流の大動脈である東海道・名神区間を結ぶ長距離幹線網 |
| 自動運転適用区間 | 約420km(綾瀬スマートIC~久御山JCT) | 全行程の約82%にレベル2自動運転を適用し運転負荷を大幅削減 |
| 輸送対象品目 | 印刷用巻取紙をはじめとする各種紙製品 | 1本1トンを超える重量物であり高い荷崩れ防止品質が求められる資材 |
| 実証実験の経過 | 2025年10月~2026年5月(計4回実施) | 加減速の滑らかさや走行安定性、荷崩れリスクの検証を完了 |
| 将来的な目標 | 2027年度以降のレベル4社会実装 | 無人幹線輸送サービスへの本格参画と活用を検討 |
輸送品目の特性と技術的検証のクリア
王子物流が主軸として取り扱う紙・パルプ製品の輸送は、物流業界の中でも特に難易度が高い領域として知られています。特に印刷工場などに納品される「巻取紙」は、1本あたりの重量が1トンを超え、トラック1台で数十トン規模の極めて重い荷物となります。
重量物輸送においては、急発進や急ブレーキ、急なハンドル操作によって生じる慣性力が荷台上の貨物に直接伝わり、大きな荷崩れや製品損傷、さらには横転事故に繋がる深刻なリスクを孕んでいます。
T2が開発する自動運転システムは、高精度なLiDARやカメラ、ミリ波レーダーなどのセンシング技術と、AIによる高度な加減速制御アルゴリズムを統合しています。人間の運転操作に起因する急制動のブレを最小限に抑え、滑らかで均一なスピードコントロールを行うことで、重量物であっても荷崩れを起こさない安定走行を実現しました。この輸送品質の立証が、今回の商用化への強い推進力となりました。
技術開発元「株式会社T2」の基本構造とインフラ整備
本プロジェクトの技術基盤と運行サービスを提供する株式会社T2は、2022年8月に設立された自動運転スタートアップです。三井物産株式会社や株式会社Preferred Networksなどの出資によって設立され、主要株主には三菱地所株式会社、日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)、KDDI株式会社、福山通運株式会社、鈴与株式会社、大和物流株式会社、三井倉庫ロジスティクス株式会社など、日本の物流・インフラを支える大手企業が名を連ねています。
T2は単に車両制御用ソフトウェアを開発するだけでなく、2027年度以降に予定されている「高速道路上でのレベル4(特定条件下での完全自動運転)幹線輸送サービス」の実現に向け、ハードウェアと物理インフラの一体開発を進めています。
同社は2026年3月、関東―関西間(約500km)の高速道路本線において、ドライバーの手動介入が一度もない完全無介入での本線完走を達成しました。また、2026年5月にはETCバー認識技術などを活用し、綾瀬スマートICおよび西宮北ICでの料金所自動通行実証にも成功しています。
さらに、一般道(有人)と高速道路(無人)をスムーズに接続するための自動運転切替拠点「トランスゲート」を神奈川県綾瀬市(トランスゲート綾瀬)および兵庫県西宮市(トランスゲート西宮北)などに整備し、将来の完全無人輸送に向けたオペレーション基盤を着々と拡張しています。
産業界全体に広がるテクノロジー活用と企業間連携
王子物流とT2による商用運行の本格化と同時期には、産業界全体で物流危機の克服に向けた構造的アプローチが加速しています。
例えば、長瀬産業株式会社は化学品業界における「AI共同物流マッチングサービス」の展開や交流会の開催を通じて、荷主企業同士が競合の垣根を越えてトラックを共同利用する「伴走支援」を強めています。また、大王製紙株式会社と株式会社PALTACが520km区間で自動運転商用運行を開始するなど、製造業や流通業が自ら最先端の輸送インフラを活用して供給網を防衛する動きが相次いでいます。
人手頼みだった従来の個別物流から、テクノロジーと企業間連携(オープンイノベーション)を組み込んだ持続可能な次世代型物流網への再構築が、日本全国で本格化しています。
参考記事: 王子物流とT2が関東―関西約510kmで自動運転商用輸送を開始、幹線省人化が加速
参考記事: 王子物流が510km区間で自動運転商用運行を開始し長距離輸送防衛へ
物流サプライチェーンに関わる各プレイヤーへの具体的影響
王子物流による自動運転トラックの定期商用運行参画は、2024年問題以降の労働力不足に悩む物流サプライチェーンの主要プレイヤーに対して、それぞれ異なる次元の影響と変革をもたらします。
荷主・製造業者:輸送力を自力で防衛する「能動的荷主」への進化
製造業者や荷主企業にとって、今回の事例は「物流を運送会社へ外部委託するだけの受動的な体制」からの完全脱却を象徴しています。
2024年問題以降、長距離トラックドライバーの労働時間規制と高齢化が一段と進み、運賃の引き上げを提示しても長距離トラックが確保できない「運べないリスク」が現実化しています。特に製紙業界のように、重量物かつ大容量の資材を定常的に出荷する製造業にとって、幹線輸送の滞留は工場稼働の停止に直結する死活問題です。
王子物流のように、荷主の物流子会社が自ら初期段階から自動運転技術の実装に関与し、自社製品の物理的特性(巻取紙の重量や寸法)に最適化した輸送スキームを構築することは、サプライチェーンの継続性(物流BCP)を強靭化する極めて有効な手段となります。
自社製品の輸送特性に対応した自動運転運用ノウハウを早期に蓄積した荷主企業は、将来的な輸送力不足の局面においても安定した出荷能力を維持し、強力な競争優位性を発揮することになります。
参考記事: 大王製紙と株式会社PALTACの520km自動運転、日用品の安定輸送に直結
運送事業者:自前主義からの脱却と「ハイブリッド運行モデル」の確立
運送事業者にとって、自動運転トラックの台頭は自社のビジネスを脅かす存在ではなく、不足する輸送能力を補完するための「共有型インフラ」として機能し始めています。
高額な自動運転車両や高度な制御システムを自社単独で購入・維持することは、中堅・中小の運送事業者にとって容易ではありません。しかし、T2のような自動運転サービスプロバイダーが提供する幹線運行プラットフォームを活用することで、自社で莫大な投資を抱え込むことなく、長距離便の輸送ラインを維持することが可能になります。
高速道路上の長距離巡航区間を自動運転フリートに委託し、自社は「中継拠点(トランスゲート等)から納品先・集荷先までのミドルマイル・ラストワンマイル輸送(支線輸送)」に自社ドライバーと車両を集中的に投入する運用へシフトできます。これにより、ドライバーを日帰り可能な勤務体系へ転換させることができ、過酷な労働環境の改善と採用力の飛躍的な向上が期待されます。
参考記事: 株式会社T2が国交省事業に採択、2026年1月からの共同実証で幹線無人化が加速
ドライバー・現場オペレーター:過酷な運転労働からの解放と役割の高度化
現場のトラックドライバーにとっては、業務負荷の「質的転換」が加速します。
全工程約510kmのうち約420kmにおよぶ高速道路区間でレベル2自動運転が適用されることで、長時間の連続運転に伴う精神的な疲労や肉体的ストレスは大幅に軽減されます。運転中のドライバーの役割は、精神をすり減らす長時間のハンドル操作から、車両の安全監視や周囲の状況判断を中心とする「運行オペレーター」へと進化します。
さらに、2027年度以降に予定されるレベル4(特定条件下での完全無人運転)への移行が進めば、過酷な深夜の長距離ピストン走行そのものが無人化されます。人間は地場エリアでの緻密な配送、顧客とのコミュニケーション、複雑な荷役作業など、人間にしかできない付加価値の高い専門業務へ集中的にリソースを配分できるようになります。
物流不動産・テクノロジーベンダー:拠点価値の再定義と同期システムの需要拡大
自動運転トラックの商用運行拡大は、物流不動産の立地価値やテクノロジーベンダーの主戦場を書き換えています。
不動産分野においては、単なる消費地近郊の大型倉庫であることに加え、「高速道路の主要インターチェンジ(IC)に至近であること」や「有人運転と無人運転を切り替えるトランスゲート等の拠点へ円滑にアクセスできること」が施設の新たな評価軸となっています。
SaaSやテクノロジーベンダーにおいては、単体の自動運転制御ソフトウェアにとどまらず、自動運転トラックの到着予定時刻(ETA)をリアルタイムに把握し、中継拠点での待機時間を最小化する輸配送管理システム(TMS)や、スワップボディコンテナの着脱データを管理する「運行調停システム」の重要性が高まっています。
参考記事: 日本郵便の1100km自動運転実証、スワップボディで長距離輸送の省人化に直結
LogiShiftの視点(独自考察)
王子物流とT2による約510kmの定期商用運行開始は、日本の幹線輸送が労働集約的な「手動運搬」から、高度に制御された「装置産業」へと構造的に不可逆な転換を果たし始めたことを意味しています。
重量物輸送と自動制御アルゴリズムの極めて高い親和性
本事例において最も注目すべき技術的・構造的ファクトは、輸送対象が「1トンを超える紙製品(巻取紙)」という極めて繊細な重量物である点です。
人間のドライバーによる運転では、疲労や路面状況、前方に割り込んだ他車への対応によって、どうしても急ブレーキや急なステアリング操作が発生します。重量物である紙製品において、これらの急激な荷重移動は「荷崩れ」や製品の破損を引き起こす最大の要因でした。
しかし、ミリ波レーダーやLiDAR、高度な制御アルゴリズムを備えた自動運転システムは、車間距離の微小な変化をミリ秒単位で検知し、人間では不可能なレベルで滑らかな加減速と操舵を行います。自動制御の正確性が、重量物や壊れやすい高付加価値商品の「荷崩れリスク低減」という具体的な輸送品質の向上に直結することが立証された意義は極めて大きいと言えます。
2027年度レベル4時代を見据えた「荷役分離」の徹底
2027年度に予定されるレベル4(完全無人運転)の社会実装に向けて、今後最大の経営課題となるのは車両技術そのもの以上に、現場における「荷役分離(アンバンドル化)」の徹底です。
どれほど車載AIが進化し、高速道路上を無人トラックが24時間体制で疾走できたとしても、荷受け先の物流センターで手積み・手降ろし作業を行ったり、数時間の荷待ち時間が発生したりしていては、高価な自動運転車両の稼働率(ROI)は著しく低下します。
自動運転という「走るインフラ」の恩恵を最大化するためには、トラックの車体(シャーシ)と荷台(コンテナ部)を切り離す「スワップボディ」や「100%パレット輸送」を標準化し、中継拠点での車両滞留時間を数分単位まで削ぎ落とすオペレーションの構築が不可欠です。
単に自動運転車を利用するだけでなく、自社の拠点設備や荷姿そのものを自動化プラットフォームに適合させられるかどうかが、今後の荷主企業および物流事業者の命運を分けることになります。
参考記事: 総合物流施策大綱が示す2030年度輸送力25%不足に荷主の経営改革が必須
まとめ:持続可能な幹線輸送を構築する3つのアクション
王子物流とT2による関東―関西間の自動運転トラック商用運行は、幹線輸送の省人化がもはや将来の技術予測ではなく、「現実のビジネスの選択肢」となったことを明確に提示しています。
持続可能なサプライチェーンを再構築するために、物流関係者が明日から取り組むべき具体的なアクションは以下の3点です。
- 自社幹線輸送ルートのデータ化と自動運転適合度の試算
自社が取り扱っている長距離輸送ルート(関東―関西等)の運行ダイヤ、物量、荷姿、積載率を詳細に数値化し、将来的に中継拠点間の自動運転プラットフォームへ置き換え可能な区間を早期に特定する。 - 手積み依存の脱却と「荷役分離」への対応推進
現場での手作業や手積みを排除し、パレット輸送への完全切り替えを取引先と協議する。トラックの車体と荷台を切り離すスワップボディやドロップ&フックの運用環境を順次整える。 - 高速道路ICおよび「トランスゲート」接続性を考慮した拠点戦略の見直し
将来的な拠点再編や新規開設の際、単なる消費地への距離だけでなく、全国で整備が進む自動運転切替拠点「トランスゲート」や主要高速ICへのアクセスの良さを立地選定の最優先基準に組み込む。
自動運転テクノロジーによる物流インフラの刷新は着実に進行しています。この構造変化を捉え、自社の物流オペレーションを早期にデジタル・自動化へ適合させた企業こそが、今後の深刻な人手不足時代を生き抜く強力な競争力を手にするでしょう。
出典: 化学工業日報 電子版
出典: LOGI-TODAY
出典: PR TIMES
出典: カーゴニュース



