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Home > 輸配送・TMS> 国交省調査、標準的運賃の8割収受は35%に留まる実態と対策
輸配送・TMS 2026年8月26日

国交省調査、標準的運賃の8割収受は35%に留まる実態と対策

国交省調査、標準的運賃の8割収受は35%に留まる実態と対策

国土交通省は2026年8月26日、トラック運送事業者と荷主企業を対象に実施した「標準的な運賃」に関するアンケート調査結果を公表し、告示運賃の8割以上を実際に収受できている事業者が約35%にとどまる実態を明らかにしました。運賃交渉を行う事業者が9割に達し一定の理解が進む一方で、制度自体の強制力不足や実勢運賃との乖離が依然として事業者の収益改善を阻む構造的課題として浮き彫りになっています。

2026年3月実施アンケートにみる標準的運賃の収受実態

国土交通省が公表した調査結果は、2024年3月に告示された改定版「標準的な運賃」の浸透状況を把握するために2026年3月に実施されたものです。調査対象は、全日本トラック協会の会員事業者約1200社および「ホワイト物流推進運動」に参加する荷主企業約200社です。

交渉実施率は90%に達するも高水準収受は限定的

調査結果によると、荷主に対して運賃交渉を行った事業者の割合は約90%に達しました。過去の調査と比較しても交渉実施率は着実に上昇しており、トラック運送業界全体において価格転嫁を求める動きが定着しつつあることが確認できます。

運賃交渉を行った事業者のうち、荷主から「一定の理解を得られた」と回答した割合は約78%でした。これを受託事業者全体に対する割合に換算すると、実質約70%の事業者が荷主との交渉で何らかの進展を得ている計算になります。

しかし、実際に収受できている運賃水準を見ると、2024年3月告示の「標準的な運賃」と比較して8割以上の水準を収受できている事業者は約35%にとどまりました。さらに、現行の標準的な運賃を100%収受できている事業者は全体の約1割にとどまっており、荷主側の「理解」が必ずしも告示運賃に準拠した満額回答に結びついていない現実が示されています。

制度上の課題は「強制力の欠如」と「実勢運賃との乖離」

アンケートにおいて標準的な運賃を活用する上での課題(有効回答数1097、複数回答)を尋ねたところ、最も多かった回答は「標準的運賃に強制力がないこと」(752件)でした。次いで「標準的運賃の水準が実勢運賃の水準と乖離している」(552件)、「標準的運賃が自社の運行形態に対応していない」(107件)という回答が続きました。

順位 挙げられた主な課題項目 回答件数 現場における具体的な問題点
1位 標準的運賃に強制力がない 752件 行政告示にとどまり荷主に対する法的拘束力がないため、最終的な価格決定権が荷主側に偏る。
2位 実勢運賃の水準との乖離 552件 告示水準と長年形成されてきた市場相場との差が大きく、提示しても受け入れられにくい。
3位 自社の運行形態への非対応 107件 多様な輸送形態や特殊な作業要件に対して告示運賃の算定基準が適合しきれていない。

現場の運送事業者にとって、国が算出した指標が存在しても法的な強制力を伴わない限り、激しい受注競争や荷主優位の商慣習のなかで満額収受を勝ち取ることは極めて困難であることが浮き彫りになっています。

原価データの有無が交渉妥結率を大きく左右

今回の調査結果では、価格交渉時にどのような根拠を提示したかによって荷主の合意形成率に明確な差が生じることも判明しました。

交渉時に「標準的な運賃」を根拠として提示した事業者の場合、約80%が希望額または一部の引き上げを勝ち取っています。さらに、「標準的な運賃」に加えて「自社独自の原価計算データ」を提示した事業者においては、約88%が希望額または一部の収受を達成しました。

単に「燃料費が高騰している」「他社も値上げしている」といった感覚的な要求にとどまらず、国の指標や自社の運行原価を客観的な数値として提示できる事業者ほど、荷主からの理解と適正な対価の収受に結びついていることがデータから実証されています。

標準的運賃制度の変遷と「適正原価」義務化へのロードマップ

トラック運送業界の適正な取引環境整備に向けた法制度は、ドライバーの処遇改善と労働時間規制の遵守を背景に段階的な強化が続けられてきました。

2018年創設から2024年改定までの制度推移

トラック運送業界は中小・零細事業者が約99%を占めており、荷主に対する価格交渉力の弱さが長年の構造的課題となっていました。この状況を是正するため、2018年12月の議員立法によって貨物自動車運送事業法が改正され、国が適正な運賃の目安を示す「標準的な運賃」告示制度が創設されました。

2020年4月に最初の告示が行われた後、燃料価格の高騰や物価上昇、2024年4月から適用された時間外労働の上限規制(年960時間)に対応するため、国土交通省は2024年3月22日に新たな「標準的な運賃」を告示しました。この改定では、運賃水準が平均約8%引き上げられたほか、待機時間料や積込・取卸料の別建て明記、燃料サーチャージ基準額(120円)の設定、利用運送における下請手数料(10%)の設定など、取引環境の適正化に向けた具体的な算出基準が盛り込まれました。

2025年法改正による「適正原価」義務付けと検討会の始動

告示制度による周知が進む一方、前述の調査結果が示す通り強制力のない指標だけでは運賃転嫁に限界があることから、法制度はさらなる実効性の確保へと舵を切りました。

2025年6月に公布された「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(令和7年法律第60号)では、運送契約において国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運送受託および委託を禁止する義務規定が新設されました。この規定は公布から3年以内に施行される予定であり、違反事業者や違反原因行為を行った荷主に対しては行政処分や是正指導の対象となります。

これを受け、国土交通省は2026年7月に「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を立ち上げました。2026年8月26日に開催された第2回検討会では、今回のアンケート結果が報告されるとともに、全日本トラック協会など業界団体へのヒアリングが実施されました。

年月 主な政策・制度動向 運賃交渉および業界環境の変化
2018年12月 改正貨物自動車運送事業法の成立 標準的な運賃告示制度が法的に創設される。
2020年4月 初代「標準的な運賃」告示 国が初めて適正運賃の目安を公表、交渉の参考指標となる。
2023年6月 物流革新に向けた政策パッケージ策定 政府全体で商慣行見直しと荷主への働きかけを強化。
2024年3月 新たな「標準的な運賃」告示 平均8%引き上げ、荷役・待機対価やサーチャージを別建て規定。
2025年6月 改正貨物自動車運送事業法公布 「適正原価」を下回る契約の禁止義務化を規定(3年以内施行)。
2026年3月 国交省・荷主および運送事業者調査実施 交渉率90%に達するも8割以上収受は35%にとどまる実態が判明。
2026年7月 適正原価の設定に向けた有識者検討会設置 義務化基準となる適正原価の算定方法の議論が本格化。
2026年8月 第2回適正原価検討会・調査結果公表 実態調査公表と全ト協等ヒアリングを実施。

全日本トラック協会の寺岡洋一会長は検討会において、重点項目を絞って説明した上で個別内容の意見書を提出し議論に反映させるよう要請しました。また、同協会の馬渡雅敏副会長は、一般貨物と原価構造が異なる特別積合せ運送の適正原価を別途設定する必要性や、荷主に対する取引適正化法や物流特殊指定に基づく厳格な法的措置、実勢運賃を下落させる要因となっているマッチングサイト事業者に対する是正指導などを訴えました。

荷主・運送事業者・行政における具体的な業界影響

今回の調査結果と適正原価義務化に向けた動きは、物流サプライチェーンに関わる各プレイヤーに大きな影響を及ぼしています。

行政・規制当局:参考指標の提示から法的執行と監視強化へ

国土交通省をはじめとする規制当局は、「努力目標」としての標準的運賃から、法的な強制力を持つ「適正原価」への移行を着実に進めています。

調査で事業者から「強制力がない」との不満が最多となったことは、現行の告示制度の限界を裏付けています。今後は、公正取引委員会と連携した「下請法」や「独占禁止法(優越的地位の乱用・物流特殊指定)」の適用強化、トラックGメンによる荷主・元請事業者への監視と是正指導がさらに厳格化されます。特に適正原価を下回る運賃での買いたたきや、燃料高騰分・附帯作業料の転嫁拒否に対しては、荷主名の公表を含む強い是正措置が取られる方針です。

トラック運送事業者:原価データの客観的立証と別建て収受の徹底

運送事業者にとっては、これまでの「お願い」による運賃交渉から、客観的根拠に基づく対等な契約更新への転換が急務となっています。

単に標準的運賃の表を提示するだけでは、荷主から「市場相場と乖離している」として減額要求を受けやすいのが実情です。8割以上の収受を達成している先進事業者のように、デジタルタコグラフや動態管理システムを活用して運行ごとの拘束時間、荷待ち時間、荷役作業の実態をデータ化し、自社の実際原価を算出して提示する体制構築が不可欠となります。また、運賃本体と荷役料・待機料・燃料サーチャージを明確に分けた見積書の提示が収益確保の鍵を握ります。

発注側荷主企業:運賃不払いがもたらす調達途絶とコンプライアンス違反

荷主企業にとって、運送事業者の要求に対して「理解は示すが支払わない」という姿勢を続けることは、将来的な輸送力確保の途絶に直結します。

トラックドライバーの賃金水準改善が進まない場合、運送事業者は不採算な荷主からの撤退を進めざるを得ません。結果として繁忙期や突発的な輸送需要において車両が確保できず、自社のサプライチェーンが寸断されるリスクが高まります。また、適正原価義務化の完全施行を見据え、下請法や物流特殊指定に抵触するリスクを排除するためにも、物流費を「削るべきコスト」から「事業継続のための戦略的投資」と再定義することが求められています。

LogiShiftの視点:原価データに基づく契約モデルへの構造転換

標準的運賃の8割以上を収受できている事業者が約35%にとどまっているという事実は、運送業界における商慣習の根深さと、価格転嫁における構造的課題を鮮明に示しています。

マッチングプラットフォームと多重下請構造の是正

運賃相場が適正水準まで引き上がらない要因の一つとして、多重下請構造の存在と、一部のマッチングサイトにおける低価格競争が挙げられます。荷主が支払った運賃が仲介業者を経由するごとに中抜きされ、実際の運行を担う実運送事業者に届く段階では適正水準を大幅に下回る構造が温存されています。

検討会において業界団体からマッチングサイト事業者に対する規制や指導が求められたように、適正原価制度の実効性を持たせるには、多重下請構造の是正と下請手数料(10%目安)の確実な収受ルールをプラットフォーム全体に適用させることが不可欠です。

客観的データによる説明責任が企業の利益水準を決定づける

物流業界は現在、長年続いてきた「力関係に基づく価格交渉」から「データの客観性に基づく契約モデル」へと構造転換する過渡期にあります。

標準的運賃や今後策定される適正原価は、業界の最低限のセーフティネットとして機能しますが、自社の利益を確保するためには各事業者が自社の運行原価を正確に把握していなければなりません。走行距離、所要時間、積載率、待機時間ごとのコストを瞬時に算出し、荷主に対して論理的に説明できる事業者は、適正な運賃改定を実現しつつ安定した輸送力を提供するパートナーとして選ばれ続けます。

明日から物流担当者・経営層が意識すべき実務ポイント

適正原価の法制化が進むなかで、運送事業者および荷主企業の双方が明日から取り組むべき具体的なアクションを整理します。

  1. 自社の運行実態に基づく原価計算体制の再構築
    自社の車両維持費、人件費、燃料費、間接費を精査し、車両1台・1運行あたりの損益分岐点を正確に把握する仕組みを整えます。標準的運賃との差額要因を分析し、自社独自の原価データを提示できる準備を進めることが交渉力向上の第一歩となります。

  2. 荷待ち・荷役作業など附帯業務の可視化と別建て請求の推進
    実運送で発生している附帯作業や待機時間を日報や運行管理データで客観的に記録します。運賃本体と作業対価を切り分けた見積書を作成し、契約書面への明記と燃料サーチャージの個別適用を標準プロセスとして徹底します。

  3. サプライチェーン持続可能性を見据えた荷主・元請間の協議推進
    荷主企業は取引先運送事業者の収受実態を点検し、適正原価割れのリスクがないかを評価します。運送事業者は一方的な要請にとどまらず、輸送効率化や積載率向上の提案をセットで行うことで、双方にとって持続可能な取引関係を構築します。


出典: LNEWS
出典: 国土交通省 報道発表資料
出典: 全日本トラック協会

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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