三井倉庫ロジスティクス株式会社と株式会社T2は、株式会社日立産機システムの産業機械を対象に、関東―関西間の約456kmで自動運転トラックによる幹線輸送実証を実施しました。高速道路と一般道の切替拠点「トランスゲート」を活用した本実証は、重量物輸送におけるドライバー不足の抜本的な解決と、2027年度以降のレベル4完全無人化を見据えた運行オペレーションの確立において極めて大きな意義を持ちます。
東名・名神間約456kmを走行した実証実験の全貌と運行スキーム
今回の取り組みは、三井倉庫ロジスティクス、自動運転スタートアップのT2、そして日立グループで産業向け機器を手がける日立産機システムの3社が連携し、実際の商流資材である産業機械(空気圧縮機およびサービス部品)を自動運転トラックで輸送した先行事例です。
実証は2026年6月から8月にかけて計3回実施され、高速道路区間においてレベル2自動運転(ドライバー監視のもとで行われる特定条件下での自動運転)を適用しながら、ルートの妥当性や運行オペレーションの有効性が検証されました。
実証実験の概要と各社の役割分担
本プロジェクトの運行区間、輸送品目、検証項目および各社の役割について、以下の通り整理します。
| 項目 | 詳細な運用内容 | 物流・産業における意義 |
|---|---|---|
| 実施期間 | 2026年6月22日、7月21日、8月17日(計3回) | 夏季の複数日程における走行データの収集と安定性検証。 |
| 全体運行区間 | 神奈川県綾瀬市〜兵庫県尼崎市・大阪府大阪市(約456km) | 日本の大動脈である関東―関西間を結ぶ長距離幹線ルート。 |
| 自動運転区間 | 綾瀬スマートIC〜尼崎IC間(約450km) | 全行程の約98%以上を東名・名神等の高速道路レベル2自動運転で走行。 |
| 輸送対象品目 | 空気圧縮機(コンプレッサー)、サービス部品 | 高い輸送品質と安全性が求められる重量級の産業資材。 |
| 主要な検証内容 | 運行オペレーションの有効性、所要時間、トランスゲート活用 | 有人・無人切替拠点を軸とした高効率オペレーションの妥当性評価。 |
本実証における3社の役割分担は以下の通りです。
- 株式会社日立産機システム: 拠点および運行ルートの選定、実証対象となる貨物(空気圧縮機・サービス部品)の手配
- 三井倉庫ロジスティクス株式会社: 自動運転トラックを組み込んだ効率的な運行オペレーションおよび輸配送プロセスの構築・検討
- 株式会社T2: 自社開発の自動運転トラックの提供、実走行データの収集・解析、自動運転技術の検証
「トランスゲート綾瀬」至近の拠点配置による有人区間の極小化
本実証における運用設計上の最大のポイントは、T2が神奈川県綾瀬市の東名高速道路・綾瀬スマートIC近郊に開設した有人・無人切替拠点「トランスゲート綾瀬」を強く意識したルート設計にあります。
出発地として設定された日立産機システムの「相模事業所」(神奈川県綾瀬市)は、トランスゲート綾瀬からわずか約1.7kmの距離に位置しています。
将来的なレベル4(特定条件下における完全無人運転)の社会実装時において、自動運転トラックは高速道路区間を無人で自律走行し、インターチェンジ周辺の一般道区間や顧客施設への納品はプロドライバーが運転を引き継ぐ運用(有人運転)となります。
出発地や到着地となる物流拠点がトランスゲートの至近に位置していれば、ドライバーが乗車して運転する一般道区間(有人走行区間)が極小化されます。これにより、ドライバーの拘束時間が劇的に短縮され、車両の往復運行や効率的なリソース配分が可能となります。
相模事業所を出発した車両は、綾瀬スマートICから東名高速道路へ流入し、名神高速道路の尼崎ICまでの約450kmを自動運転システム主導で巡航。その後、兵庫県尼崎市の「グローバル部品センター尼崎」および大阪市の「関西物流センター」へと荷物を届けました。
三井倉庫ロジスティクスとT2が積み重ねてきた連携の歩み
三井倉庫ロジスティクスとT2の協業は、今回の一過性の実証にとどまるものではありません。物流業界の「2024年問題」をはじめとする深刻な労働力不足への対策として、長期的かつ戦略的なパートナーシップのもとで段階的に進展してきました。
両社の提携の経緯および自動運転トラック実装に向けた主要なタイムラインは以下の通りです。
| 時期 | 主な出来事・取り組み内容 | 物流ネットワーク構築への意義 |
|---|---|---|
| 2023年8月〜9月 | 三井倉庫ロジスティクスがT2へ資本参画 | レベル4幹線輸送を見据えた資本業務提携を締結。 |
| 2025年7月 | 国内初のレベル2商用運行に三井倉庫ロジスティクスが参画 | 実商流(電機・家電関連資材等)での定期運行をスタート。 |
| 2025年8月 | 三井倉庫ロジスティクスがT2へ追加出資を実施 | 運行プラットフォーム構築への関与を強化。 |
| 2025年9月 | 拠点クロスドックと自動運転を組み合わせた混載実証を開始 | 複数荷主の貨物を集約・中継する高積載オペレーションの検証。 |
| 2026年4月 | T2が切替拠点「トランスゲート綾瀬」「神戸西」を開設 | 有人・無人運転を円滑に切り替える地上インフラの整備。 |
| 2026年6月〜8月 | 日立産機システムの産業機械輸送実証(計3回)を実施 | 重重量物である産業機械分野への自動運転適用を検証。 |
| 2027年度以降 | 高速道路での「レベル4」完全無人幹線輸送の開始目標 | 幹線輸送の無人化による輸送力不足の抜本的解決。 |
三井倉庫ロジスティクスは2023年の出資以降、2025年7月にはT2が展開するレベル2自動運転トラックの商用運行に国内第1号企業として参画し、パナソニックやアクアなどの貨物輸送を行ってきました。さらに2025年8月には追加出資を行い、関係性を強固にしています。
今回の実証は、これまでの日用品や家電製品を中心とした領域から、さらに高い輸送管理体制が求められる「重量級の産業機械」へと対象を拡張させたものであり、定期輸送に向けた具体的な検討段階へと移行しています。
参考記事: 株式会社T2が国交省事業に採択、2026年1月からの共同実証で幹線無人化が加速
産業機械輸送の自動化が主要プレイヤーに及ぼす影響
重量物であり、かつデリケートな精密制御機構を備える産業機械の自動運転実証は、物流エコシステムに関わる各プレイヤーに構造的な影響をもたらします。
1. 倉庫事業者・3PL(三井倉庫ロジスティクス等):拠点配置まで踏み込む「4PL機能」の高度化
三井倉庫ロジスティクスのような3PL・ロジスティクスプロバイダーにとって、本実証は単なる「運送の受託・手配」から「インフラ連動型のサプライチェーン最適化(4PL機能)」へと提供価値が大きく昇華する契機となります。
自動運転トラックの導入効果を最大化するには、車両性能だけに頼るのではなく、切替拠点である「トランスゲート」と荷主の生産拠点・物流拠点の物理的な距離をいかに縮めるかという空間設計が不可欠です。
3PL事業者は今後、荷主企業に対して以下のような高度なソリューションを提示することが求められます。
- 自動運転ハブ連動型の拠点配置コンサルティング: トランスゲートから半径数キロ圏内にある自社拠点や荷主拠点を活用し、一般道区間の有人運転拘束時間を最小化する拠点ネットワークの再設計。
- 複数荷主の共同輸送・クロスドック運用: トランスゲート近接拠点を「クロスドックセンター(積み替えハブ)」として機能させ、複数荷主の荷物を集約して自動運転幹線便に高積載で積み込むオペレーションの確立。
- 商用運行の統合管理: 自社の運行管理システムとT2の自動運転プラットフォームをAPI連携させ、運行ダイヤ、荷役スケジュール、ドライバーの乗り継ぎを一元管理するオーケストレーション機能の提供。
これにより、3PLは運賃競争から脱却し、荷主の事業継続性を支える不可欠なパートナーとしてのポジションを確立できます。
2. 製造業者・メーカー(日立産機システム等):供給網リスクを能動的に防衛する戦略的アプローチ
日立産機システムをはじめとする産業機械・重電・素材メーカーにとって、長距離幹線輸送の担い手不足は自社の事業活動を根底から揺るがす重大な経営リスクです。
空気圧縮機や産業用機器、保守用サービス部品などは、工場の生産ラインや社会インフラを維持するために欠かせない基幹資材です。長距離トラックの手配難によって部品の供給が遅延すれば、顧客工場の操業停止など甚大なサプライチェーン障害を招きかねません。
本実証に荷主として参画した背景には、以下のような戦略的意図が存在します。
- 将来の優先的な輸送キャパシティの確保: 2027年度以降のレベル4実用化を見据え、早期から実証を通じて運行知見を蓄積することで、逼迫が予想される自動運転幹線枠を優先的に確保する。
- 重量物・精密機械の輸送品質検証: 加減速時のショックや急ブレーキが抑制される自動運転トラックの走行特性を検証し、製品の破損や荷崩れリスクがないことを事前に証明する。
- リードタイムの安定化: 労働時間規制に左右されない自動運転幹線網を活用することで、関東―関西間の翌日配送体制を将来にわたって維持する。
受け身で運送会社に依存するのではなく、荷主自らがアセットや貨物を提供して新しい物流基盤の立ち上げに関与する姿勢は、今後の製造業における「物流BCP」の標準モデルとなります。
参考記事: 東レ株式会社が520km自動運転トラック商用運行、自社輸送力確保が加速
参考記事: 王子物流とT2が関東―関西約510kmで自動運転商用輸送を開始、幹線省人化が加速
3. テクノロジーベンダー(株式会社T2):車両と地上拠点を一体提供するオープンプラットフォーム化
自動運転システムの開発および運行を手がけるT2にとって、本実証の成功は車両技術単体の優位性を超え、「運行オペレーション基盤の確立」を強くアピールする結果となりました。
T2の戦略における際立った特徴は、自動運転トラックというハードウェア・ソフトウェアの開発にとどまらず、有人・無人の結節点となる「トランスゲート」という地上インフラを自ら主導して設置・拡大している点です。
- 多様な荷種データによるアルゴリズムの高度化: 日用品や化学品に加え、高重量かつ重心位置が特殊な産業機械の運行データを取得したことで、AIの車両制御アルゴリズムの汎用性と安全性が飛躍的に向上。
- トランスゲートを核とした参入障壁の低減: 荷主や物流会社に対し、専用の切替拠点を提供することで、各社が個別に高額な中継設備を整備することなく自動運転幹線網を利用できる環境を構築。
- オープンプラットフォームとしての地位確立: 2026年7月時点で累計約50社が実証に参加し、21社が商用運行を利用する中、大手物流会社やメーカーを巻き込んだ業界標準インフラ(協調領域)としての存在感を強めています。
参考記事: 株式会社T2が左右25cmの隙間を自動通行、無人輸送実現に直結
参考記事: 三井不動産のT2出資と165億円調達で加速するIC近接拠点の自動運転ハブ化
LogiShiftの視点:切替拠点を軸とする「ネットワーク設計」への構造転換
今回の三井倉庫ロジスティクス、T2、日立産機システムによる取り組みは、物流の自動化が「車両単体の性能検証」という初期段階を終え、「切替拠点を軸としたインフラ主導の構造変革」へと本格的に突入したことを示しています。
構造的変化:車両開発から「地上インフラ・ネットワーク設計」への重心シフト
従来の自動運転に関する議論は、「AIがどれだけ複雑な道路環境を認識できるか」「センサーの認識精度がどれほど向上したか」といった車両技術そのものに偏重していました。
しかし、実際のサプライチェーンにおいて自動運転を機能させるための本質的なボトルネックは、「車両の性能」ではなく「一般道と高速道路の結節点(トランスゲート)と、荷主拠点の位置関係」にあります。
今回の実証で、トランスゲート綾瀬からわずか1.7kmに位置する日立産機システムの相模事業所が出発地に選定された事実は極めて象徴的です。
高速道路区間がどれほど完全無人化されたとしても、トランスゲートから納品先までの一般道区間が長ければ、結局は多くのドライバーリソースを拘束することになります。逆に、トランスゲート至近に主要な物流ハブや生産拠点を配置できれば、1人のドライバーが短時間で何度も往復・ピストン運行を行い、極小の人員で膨大な幹線貨物を処理できるようになります。
物流ネットワークの競争軸は、「どの運送会社を使うか」から、「トランスゲートを起点とした高効率な動線上に自社のアセットを配置できているか」というインフラ適合度へと構造的に転換しています。
産業機械輸送における「加減速の均一化」とパレタイズの重要性
日立産機システムが扱う空気圧縮機のような産業機械は、輸送中の急加減速や強い衝撃によって内部の精密機器や配管に歪みが生じるリスクを伴います。
プロドライバーのスキルに依存していた従来の輸送では、運転者ごとのブレーキタイミングやアクセルワークのバラつきが品質リスク要因となっていました。
これに対し、高度なセンサーフュージョンとAI制御によって走行する自動運転トラックは、急発進や急ブレーキを排した「極めて滑らかな巡航走行」を一定のパターンで維持します。この制御特性は、重量物や精密機器の荷崩れ・破損リスクを低減させる上で、人間の運転以上の均一な品質をもたらします。
ただし、この恩恵を完全に享受するためには、現場オペレーションにおける「荷役分離」の徹底が前提となります。
高額な自動運転トラックをトランスゲートや荷主拠点で長時間滞留させないためには、手作業によるバラ積みを完全に排除し、標準パレット(T11型等)やスワップボディコンテナを活用した「数分単位での荷役完了(ドロップ&フック)」に対応できる物理体制を整えなければなりません。
まとめ:自動運転ネットワーク接続に向け明日から意識すべきアクション
三井倉庫ロジスティクスとT2、日立産機システムによる約456kmの実証実験は、産業機械のような重要資材の幹線輸送が自動化プラットフォームへ統合される未来を明確に提示しました。
2027年度以降に本格化するレベル4完全無人運行の恩恵を取り込み、持続可能なサプライチェーンを構築するために、企業の経営層や現場リーダーが明日から取り組むべきアクションは以下の3点です。
- 自社幹線ルートとトランスゲート位置の照合・適合性評価
自社が利用している主要幹線ルート(東名・名神軸など)の運行ダイヤ、物量、発着拠点の位置関係をデータ化し、現在整備が進んでいる「トランスゲート綾瀬」「トランスゲート西宮北」「トランスゲート神戸西」等の切替拠点から自社拠点までのアクセス距離・時間を算出して、自動運転幹線網への移行シミュレーションを開始する。
- 産業資材・重量物におけるパレット化と荷役分離の推進
重量物や異型資材であっても手積み・手降ろしを極力排除し、標準パレット輸送への切り替えや、コンテナ部を迅速に着脱できるスワップボディ等の導入可能性を荷主・物流事業者間で協議する。
- インターチェンジおよび切替ハブ至近を重視した拠点ポートフォリオの再設計
物流センターの新設、統合、契約更新を検討する際、単に消費地からの距離や賃料単価だけでなく、主要高速道路のインターチェンジや有人・無人切替拠点へのアクセスの良さを立地選定の最優先評価指標として組み込む。
自動運転トラックを活用した物流インフラの再編は、着実に現実の商流へと浸透しています。この地殻変動を静観するのではなく、自社の輸送オペレーションと拠点ネットワークをいち早く次世代インフラへ接続させることが、将来の輸送力確保と事業競争力の直結につながります。
出典: PR TIMES
出典: 三井倉庫ロジスティクス 公式リリース
出典: 三井倉庫ロジスティクス 公式リリース(商用運行参画)
出典: 三井倉庫ロジスティクス 公式リリース(追加出資)
出典: PR TIMES (T2 混載実証発表)
出典: PR TIMES (T2 切替拠点設置発表)
出典: PR TIMES (T2 実装支援事業採択発表)



