アステリア株式会社は2026年9月、荷主企業の経営層や現場担当者を対象に実施した物流DX実態調査の結果を公表し、2026年4月に本格施行された改正物流法への対応について全体の60.2%が「未着手」と回答したことを明らかにしました。従業員300名以下の小規模事業者においては、全荷主が順守対象となる貨物自動車運送事業法の内容を理解している割合が21.2%にとどまっています。
改正物流法本格施行下の実態:アステリア調査に見る荷主の現在地
2026年4月、改正物流効率化法および改正貨物自動車運送事業法が本格施行され、日本のサプライチェーンは制度的な転換期を迎えました。発荷主・着荷主の双方に対し、トラック待機時間の短縮や荷役等附帯作業の適正管理が法的に求められるなか、アステリア株式会社が実施した調査によって、荷主企業の現場対応の遅れが数値として示されました。
調査概要と法改正に至るタイムライン
本調査は、製造業や卸売業、小売業などに属する荷主企業の経営者、役員、正社員、自営業者206名を対象に実施されたものです。調査が実施された背景には、2024年4月の時間外労働上限規制適用に始まり、2026年4月の法改正全面施行に至る一連の政策動向があります。
法改正の進展と調査公表までの時系列は以下の通りです。
| 時期 | 政策・制度の動向および調査の推移 | 主な対象と影響範囲 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | 働き方改革関連法に基づきトラックドライバーの時間外労働上限規制(年960時間)が適用開始。 | 全国の一般貨物自動車運送事業者および就労ドライバー。輸送能力の供給制約が顕在化。 |
| 2024年5月 | 「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」が公布。 | 荷主企業、運送事業者、倉庫事業者を包含する物流サプライチェーン全体。 |
| 2025年4月 | 改正物流関連法の一部が先行施行。全荷主および運送事業者に物流効率化の努力義務が適用。 | すべての荷主および物流事業者。基本方針に基づく荷待ち短縮努力が開始。 |
| 2026年4月 | 改正法が全面施行。特定事業者への義務化および附帯業務の書面契約化が本格稼働。 | 年間貨物取扱量9万トン以上の特定荷主や保有車両150台以上の特定運送事業者等。 |
| 2026年9月 | アステリア株式会社が「荷主企業の物流DX実態調査」を公表。 | 荷主企業の経営者・正社員等206名。法対応の進捗とDX運用の実態を可視化。 |
調査結果から判明した法理解と対応の乖離
調査データによると、法改正そのものの名称認知はある程度進んでいるものの、実務に直結する具体的な制度内容への理解には深刻な偏りが生じています。
特に、全荷主企業に荷役などの附帯業務の書面契約化や作業時間の正確な可視化を義務付けた「貨物自動車運送事業法」について、内容を「詳細まで知っている」「ある程度知っている」と答えた割合は全体の24.8%にとどまりました。物流効率化法の内容理解度も27.7%と、いずれも3割に届いていません。
この理解不足は、企業規模によって二極化しています。従業員数301名以上の企業では貨物自動車運送事業法の理解層が54.5%に達しているのに対し、300名以下の企業では21.2%と大幅に落ち込んでいます。
この知識格差が、そのまま実務の着手状況に直結しています。改正物流法への対応状況として全体の60.2%が「特に行っていない」と回答しました。義務化項目である「物流効率化計画の策定」に着手している企業は9.2%、「物流統括管理者(CLO)の選任」は7.3%、「付帯作業の時間把握」は11.2%と、いずれも1割前後の水準にとどまっています。
参考記事: 改正物流効率化法2026年義務化!特定荷主に課される3大義務と生存リスク
現場管理の実態:アプリ活用率4%未満と根強い紙運用
法令順守のためには、入退場時刻や荷待ち時間、荷役作業時間を正確にデータとして取得・蓄積することが前提となります。しかし、調査結果では現場におけるデータ取得体制の脆弱性が浮き彫りになりました。
現場の管理状況と導入システムの実態は下表の通りです。
| 管理項目 | 記録・管理していない企業の割合 | 現場向けアプリの導入率 | 主な現場の管理実態 |
|---|---|---|---|
| トラックの入退場・待機時間 | 54.4% | 4%未満 | 半数以上が未把握。管理実施企業も手書き受付簿や警備室の台帳記載が中心。 |
| 荷役の作業時間 | 48.5% | 4%未満 | 開始・終了時刻を記録せず属人的に処理。作業ごとの正確な工数算出が不可。 |
| バース予約・接車スケジュール | 51.0% | 4%未満 | 到着順の受付運用が継続。特定時間帯に車両が集中し突発的な滞留が発生。 |
現場業務において負担に感じている項目としては、「在庫状況のリアルタイム把握・共有(29.1%)」や「紙の伝票・日報の管理・保管(24.3%)」が上位を占めています。現場作業員がアナログ管理による非効率さを実感しながらも、管理ツールの未整備により紙伝票や手書き日報への依存を断ち切れない構造が続いています。
参考記事: キリン湘南工場も導入、2026年4月の荷待ち義務化を越えるバース管理
DX推進を阻む「コスト」と「IT人材」の二重の壁
現場のアナログ運用を脱却し、システムやアプリケーションを導入しようとする際、荷主企業は複数の障壁に直面しています。
調査において新システム・アプリ導入のハードルとして挙げられた要因は以下の通りです。
- 初期費用の高さ: 37.9%
- 現場スタッフの習熟不安: 30.6%
- 運用・維持費用の高さ: 30.1%
- 社内IT専門部門・担当者の不在: 26.2%
特に人材面の課題は深刻であり、従業員100名以下の企業においては6割以上で社内にIT専門部門や専任担当者が存在していません。重厚な基幹システムや専用パッケージの導入は、高額な初期費用だけでなく、導入後の保守運用や社内教育の負担が過大となるため、投資に踏み切れない主因となっています。
一方で、荷主企業の47.1%は「モバイル端末の活用による現場負担の軽減」に対して期待を寄せています。法改正の内容を理解している層に限れば、約6割がモバイル端末による効率化を支持しています。管理したい業務としては「在庫・棚卸の記録(42.2%)」をはじめ、「日報・作業報告の入力」「検品結果の記録」が上位に並びました。
導入時に重視する要素としては、「操作が簡単で教育コストが低い(35.4%)」「データ集計・可視化がしやすい(34.0%)」「既存システムとの連携(31.1%)」が挙げられており、最も重要視される要素は既存基盤とのデータ連携性であることが明らかになっています。
参考記事: 荷待ち時間とは?発生原因と法的リスク・DXによる削減手法を徹底解説
業界各プレイヤーへの具体的な影響
荷主企業における法改正対応の遅れと物流DXの停滞は、サプライチェーンを構成する関係各所に異なる影響を及ぼしています。
製造業者・メーカー/卸・問屋・流通業者
製造業や卸売業などの荷主企業にとって、法対応の遅れは単なる管理業務の不備にとどまらず、事業継続上の重大なコンプライアンスリスクへと直結します。2026年4月に本格施行された改正物流効率化法では、年間貨物取扱重量9万トン以上の特定荷主に対し、CLO(物流統括管理者)の選任や中長期計画の策定、定期報告が法定義務として課されています。荷待ち・荷役時間の合計を「原則2時間以内(努力目標1時間以内)」に収める基準が設定されているにもかかわらず、半数以上の企業が待機時間や作業時間を把握すらしていない実態は、行政指導の対象となる蓋然性を高めています。
改善措置が著しく不十分と判断された場合、国土交通省の専門調査組織である「トラック・物流Gメン」による是正勧告や、是正命令、最大100万円の罰金が科されるリスクがあります。さらに、重大な違反に対する「企業名の公表」は、取引先からの信用失墜やESG評価の低下を招きます。
加えて、改正貨物自動車運送事業法により、全ての荷主に対して荷役作業などの適正な対価支払いや付帯作業の書面化が求められています。荷役時間を正確に測定できていない企業は、運送事業者からの正当な待機料金や付帯作業料の請求に対して客観的な検証が行えず、不当な据え置き行為として行政処分の対象となるリスクを抱えることになります。
参考記事: 改正物流効率化法で2026年4月本格施行される2時間ルールと荷主の3大義務
SaaS・テクノロジーベンダー
現場向けアプリの導入率が4%未満にとどまっているという事実は、BtoBのテクノロジーベンダーにとって広大な未開拓市場が存在することを意味しています。これまで物流DXソリューションの多くは、大規模物流センターや大手3PL事業者を主たる対象として設計されてきました。しかし、今回の調査結果は、最も支援を必要としている層が「IT担当者が不在の300名以下の中小荷主」であることを明確に示しています。
この市場を獲得するためには、従来の重厚なパッケージ提案からの転換が不可欠です。荷主側が導入障壁として挙げている「高額な初期費用」「現場の習熟不安」「運用の難しさ」を解消するプロダクト設計が求められます。具体的には、アステリアが提供する「Platio」のようなノーコードによる業務アプリ作成基盤や、初期費用を抑えたサブスクリプション型のSaaSツールが優位性を持ちます。
現場作業員が特別な教育を受けずにスマートフォンやタブレットから直感的に操作でき、既存の販売管理システムやWMS(倉庫管理システム)と容易にAPI連携できる軽量なツール群が、中小荷主の法対応を支える標準インフラとして普及していくと考えられます。
参考記事: 月額4980円からの改正物流効率化法対応で取引維持へ、株式会社TCIが新機能
運送事業者
荷主企業における記録・管理の遅れは、運送事業者の収益性とドライバーの労働環境改善に直接的な足かせとなります。ドライバーの時間外労働上限規制が適用されるなか、運送事業者は拘束時間の短縮と適正運賃の収受を同時に達成しなければなりません。しかし、荷主側が入退場時刻や荷役作業時間を記録していなければ、長時間の荷待ちが発生していても客観的なエビデンスを共有できず、待機時間料の請求や運行計画の改善交渉が難航します。
その結果、運送事業者の間では「荷主選別」がより一層加速しています。デジタルツールを導入して入退場を可視化し、待機時間を2時間以内に抑える取り組みを行っている荷主には優先的に車両を配車する一方、手書き台帳のままで長時間の荷待ちを放置する荷主に対しては、運賃の引き上げ要求や取引停止を通知する動きが一般化しつつあります。
荷主側のDX推進の遅れは、運送事業者にとって「その荷主と取引を継続すべきか否か」を判断する明確なリトマス試験紙として機能しています。
参考記事: 改正物流効率化法が2026年に義務化、9万トン超の荷主が取るべき必須対応
LogiShiftの視点:制度先行と現場乖離を埋める「軽量DX」への転換
2026年4月に本格施行された改正物流効率化法および改正貨物自動車運送事業法は、荷主企業に対して作業時間や待機時間の緻密なデータ化を事実上の法定義務として突きつけました。しかし、アステリアの調査が示した「未着手60.2%」「現場アプリ活用率4%未満」というデータは、行政が描くデータドリブンな物流改革の理想と、荷主企業の現場リソースとの間に横たわる深刻な断絶を浮き彫りにしています。
この断絶の本質は、企業のDX意欲の欠如にあるのではなく、従来のシステム導入手法と現場の実態とのミスマッチにあります。調査で判明した通り、100名以下の企業の6割以上でIT専任者が不在であり、初期費用の高さ(37.9%)と現場スタッフの習熟不安(30.6%)が最大の障壁となっています。数千万円の投資と年単位の開発期間を要する基幹系システムの刷新や、高度なパッケージの全社展開を中小荷主に求めること自体が構造的に破綻しています。
今後の物流改革において成否を分けるのは、重厚なシステム構築ではなく、現場主導で即座に展開できる「軽量なモバイルDX」へのパラダイムシフトです。
アステリアの大野晶子プロダクトマネージャーが指摘するように、法令順守に必要な入退場記録や荷役時間の把握を、単独の法対応業務として現場に押し付ければ、紙運用の増加と現場の疲弊を招くだけに終わります。現場が真に求めているのは、「在庫・棚卸の記録(ニーズ42.2%)」や「日報入力」といった日々のルーティンワークの省力化です。
現場の日常業務をノーコードツール等を用いてモバイル端末上で完結させ、その入力プロセスの延長線上でトラックの入退場時刻や作業実績ログが自動的に集計される仕組みを構築することが唯一の現実解となります。行政が求める2時間ルールの遵守や定期報告データのエビデンス収集を、日常業務の副産物として自然に生成できる環境を整えられるかどうかが、未着手層から脱却するための境界線となります。
まとめ
アステリアの調査によって、2026年4月の改正物流法施行以降も、荷主企業の約6割が法対応に未着手であり、現場アプリの導入率が極めて低い水準にとどまっている実態が明らかになりました。法令違反によるペナルティや運送会社からの荷主選別を回避し、持続可能なサプライチェーンを維持するため、荷主企業の経営層および現場リーダーは直ちに対応を進める必要があります。
明日から意識・着手すべき実務対応は以下の通りです。
- 現場の滞留・作業時間における計測実態の緊急棚卸し
自社拠点におけるトラックの到着、接車、荷役開始、荷役完了の各時刻が「客観的なデータ」として記録されているかを確認し、紙台帳による属人管理を即時停止する準備を進める。
- IT専任者不在を前提としたモバイルツールの選定
高額な専用システムの導入を前提とせず、月額制のSaaSやノーコードで自社構築できる現場向けモバイルアプリを活用し、在庫管理や日報入力と連動させた軽量なデータ取得体制を設計する。
- 運送事業者との客観的データ共有と取引条件の適正化
取得した入退場ログをもとに自社の平均荷待ち時間を算出し、2時間を超過している運行については運送事業者と協議の上、予約枠の調整や附帯作業の契約書面化を速やかに完了させる。
出典: PR TIMES
出典: アステリア株式会社 ニュースリリース



