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Home > 輸配送・TMS> 国交省原田総括審議官、2030年の輸送力不足に向け適正原価導入へ
輸配送・TMS 2026年9月13日

国交省原田総括審議官、2030年の輸送力不足に向け適正原価導入へ

国交省原田総括審議官、2030年の輸送力不足に向け適正原価導入へ

国土交通省の大臣官房総括審議官兼物流統括調整官に就任した原田修吾氏は、2026年9月10日の専門紙記者合同取材において、物流改革の流れを一段と加速させる方針を表明した。会見では、2030年度に懸念される輸送能力不足への対応として、トラックドライバーの就労環境改善や適正原価の制度化、自動運転技術の社会実装を重点施策に挙げた。

国土交通省新体制が示す物流政策の継続性と重点施策

原田総括審議官の着任経緯と2026年9月就任会見の事実関係

国土交通省は2026年8月7日付の幹部人事において、大臣官房審議官(公共交通政策、物流・自動車局担当)を務めていた原田修吾氏を大臣官房総括審議官(兼 物流統括調整官)に任命した。前任の岡野まさ子氏が鉄道局長へ就任したことに伴う人事であり、2026年9月10日に専門紙記者との就任合同取材が行われた。

会見において原田総括審議官は、2024年4月に時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されて以降進められてきた物流構造改革について言及した。これまでの改革路線を継承するだけでなく、2030年度に予測される深刻な輸送能力不足を回避するため、「改革の流れを加速していくことに尽きる」と述べ、行政としての実行スピードを引き上げる姿勢を明確にした。

以下の表は、今回の人事および会見に至る一連の経緯を時系列で整理したものである。

年月日 主な出来事・人事発令 政策上の位置づけと主な決定内容
2024年7月1日 原田修吾氏が九州運輸局長に就任 地方ブロックにおける物流2024年問題への初動対応と現場指導を統括。
2025年7月1日 大臣官房審議官(公共交通・物流担当)就任 物流効率化法改正の施行準備およびトラック適正化2法の法制化作業を牽引。
2026年8月7日 大臣官房総括審議官兼物流統括調整官に就任 国土交通省の物流政策を取り仕切るトップとして実務全般を統括。
2026年8月26日 適正原価設定に向けた有識者検討会に出席 荷主と運送事業者が納得して運賃交渉を行うための基準作りを推進。
2026年9月2日 日本倉庫協会正副会長との意見交換会に出席 保管・荷役領域における労働環境改善や物流DXの連携強化を確認。
2026年9月10日 専門紙記者合同取材(就任会見)を実施 物流改革の加速、ドライバーの処遇改善、自動運転の社会実装方針を表明。

参考記事: 2030年の最大25%輸送力不足回避へ国土交通省などの政策加速による必須対応

1990年物流二法以降の制度疲労と「適正原価」設定の狙い

就任会見やそれに先立つ有識者検討会において、原田総括審議官は現在の物流業界が直面している課題の歴史的背景に踏み込んだ。物流の危機的状況は直近数年で突発的に生じたものではなく、1990年の「物流二法(貨物自動車運送事業法および貨物流通業務効率化法)」による需給調整規制の廃止と参入緩和以降、30年以上にわたり蓄積してきた「制度疲労」が根本原因であるとの認識を示している。

参入規制が緩和されたことで事業者数は大幅に増加し、競争激化に伴う多重下請け構造や運賃の下落が進んだ。その結果、トラックドライバーの長時間労働と全産業平均を下回る低賃金構造が固定化される事態を招いた。政府はこれまで「標準的な運賃」の告示などを通じて運賃水準の適正化を図ってきたが、原田総括審議官はこれをさらに一歩進め、荷主と運送事業者が対等に協議するための「適正原価」を制度化する検討を加速させている。

適正原価は、燃料費や車両購入費、安全投資コスト、そして何よりもドライバーの賃金を適正に支払うために必要な原価を科学的・客観的に算出する枠組みである。これを公的な交渉基準として提示することで、運送事業者が荷主に対して正当な価格交渉を行える環境を整備し、商慣行の歪みを是正することを狙いとしている。

以下の表は、規制緩和から現在に至る法制度の変遷と、適正原価が目指す構造改革の内容を比較したものである。

項目 1990年規制緩和期(物流二法) 2024年〜2026年(過渡期) 2026年以降(適正原価導入期)
参入基準と需給調整 免許制から許可制へ移行。需給調整規制を廃止。 許可更新制(5年)の導入議論。事業者の質の担保へ転換。 安全運行体制や労務管理を厳格審査。適格事業者をスクリーニング。
運賃決定の仕組み 市場原理に基づく自由運賃制。荷主優位の価格設定。 標準的な運賃の告示・改定。目安としての提示にとどまる。 法的根拠に基づく適正原価を算定。交渉の公的基準として機能。
価格転嫁・取引環境 多重下請けの常態化。買いたたきや無償付帯業務が横行。 トラック適正化2法公布。トラック・物流Gメンによる監視強化。 実運送体制管理簿の義務化。下請多重構造の縮小と直接契約の推進。
ドライバーの労働環境 長時間労働と低賃金の固定化。若年層の敬遠。 時間外労働の上限規制(年960時間)の適用開始。 労働時間短縮と適正原価による賃上げ原資確保を両立。

参考記事: 標準的な運賃の2024年改定ポイント|実務での計算・届出と荷主交渉術

2030年問題を見据えた自動運転の社会実装とインフラ強靱化

政府の試算によると、何らの実効策も講じない場合、2030年度には国内の輸送能力に対して最大約25%から34%の輸送能力が不足し、日本経済に数兆円規模の損失が発生すると見込まれている。原田総括審議官は会見において、この「2030年問題」を克服するため、労働環境の改善と並行して「自動運転技術の社会実装」などの先端技術活用を強力に後押しする方針を強調した。

新東名高速道路の一部区間等で進められているレベル4自動運転トラックの実証実験をはじめ、幹線輸送における隊列走行や自動運転の本格運用は、長距離ドライバー不足を根本から解決するための国家的重要テーマに位置づけられている。中継輸送拠点の整備に対する税制特例や財政投融資支援と組み合わせることで、東京—大阪間をはじめとする主要大動脈の輸送維持を図る構想である。

また、頻発する自然災害への耐性強化や、脱炭素化(GX)に対応したダブル連結トラックの運行区間拡大、内航海運や貨物鉄道との連携によるモーダルシフトの再構築など、省庁の枠を超えたサプライチェーンの強靱化が推進されている。

参考記事: 国土交通省など3省の最大25%輸送力不足対策|荷主企業の構造改革が必須対応に

荷主・運送・倉庫の各プレイヤーに及ぶ実務インパクト

国土交通省の新体制が物流改革の加速方針を明確にしたことは、サプライチェーンを構成する行政、運送事業者、荷主企業の三者に対して具体的な実務上の変化を求めている。

行政・規制当局:トラック・物流Gメンと連携した監視・是正の厳格化

行政当局における最大の実務方針は、法改正に伴う規制的措置の厳格な執行である。国土交通省は2024年11月に体制を360名規模へ大幅拡充した「トラック・物流Gメン」を軸として、全国の物流拠点や荷主企業に対する監視活動を活発化させている。

原田総括審議官の着任により、従来の「働きかけ」にとどまっていた指導スタイルから、悪質な事例に対する貨物自動車運送事業法に基づく「要請」や「勧告・企業名公表」への移行ペースが一段と早まる見通しである。特に、全国約6.3万社の運送事業者から寄せられる目安箱への通報情報と、地方運輸局や全日本トラック協会の調査員によるプッシュ型調査を突合し、同一荷主に対する複数回の違反事実を確認した場合は、迅速に行政処分を行う運用が定着しつつある。

さらに、経済産業省や農林水産省、公正取引委員会との省庁間連携も密接になっている。2026年4月に全面施行された改正物流効率化法に基づく特定荷主への監督と、下請法や2027年4月に施行を控える改正物流特殊指定の運用を相互に接続させることで、規制の抜け穴を封じる法執行体制が敷かれている。

参考記事: トラック・物流Gメン、6.3万社の通報を是正指導に導く客観的証拠

運送事業者:適正原価を根拠とした適正運賃・料金収受への転換

トラック運送事業者にとっては、行政の強い後押しを背景に、長年是正できなかった取引条件を改定するための実務的な好機が訪れている。これまでは荷主との力関係から、運賃の据え置きや無償での付帯作業を呑まざるを得ない構造が続いていたが、国交省が示す「適正原価」や改定された「標準的な運賃」が強力な交渉の拠り所となる。

具体的には、基本運賃の引き上げ交渉に加え、荷待ち時間料や積込料・取卸料、燃料サーチャージを別建てで請求する「メニュープライシング」の導入が不可欠となる。デジタルタコグラフや動態管理システムから得られる客観的な運行データを揃え、待機時間や作業実態を数値化して荷主へ提示する実務が求められている。

ただし、運送事業者側にも厳しい選別が待ち受けている。トラック適正化2法により、事業許可の更新制や安全投資基準が厳格化される中、法令を遵守せず安価な運賃で引き受ける事業者は市場からの退場を余儀なくされる。適正運賃を収受し、それをドライバーの賃上げへと還元して人材を確保できる事業者のみが事業を継続できる環境へと変化している。

参考記事: トラックGメンとは?行政処分のリスクと荷主企業が講じるべき不当慣行対策

発荷主・着荷主企業:CLO主導による取引環境の適正化と物流プロセスの刷新

製造業者や卸売業者、小売業者などの荷主企業にとって、今回の国交省の姿勢は、物流改革への対応がもはや「努力義務」ではなく「経営上の義務」であることを再認識させるものである。2026年4月の改正物流効率化法の全面施行により、年間取扱貨物重量9万トン以上の「特定荷主」には、役員級の物流統括管理者(CLO)の選任と中長期計画の策定が義務付けられた。

CLOは、自社の営業部門や製造部門が設けている厳しいリードタイム設定や、発注ロットの細分化といった商慣行にメスを入れる役割を担う。荷待ち時間を「原則2時間以内(努力目標1時間以内)」に収めるため、トラック予約受付システムの導入や受入バースのオペレーション改善が急務である。

特に、納品先となる「着荷主(スーパー、ドラッグストア、流通センター等)」の責任は一段と重くなっている。公正取引委員会が公表した2027年4月施行の改正物流特殊指定では、契約外の荷下ろしや検品の強要、長時間の荷待ち発生が不公正な取引方法として厳格に禁止される。運送事業者から敬遠されて貨物を運んでもらえなくなる「物流難民化」や、行政指導による企業名公表という信用リスクを避けるためにも、荷主企業はサプライチェーン全体のプロセスを抜本的に見直す必要がある。

参考記事: 改正物流効率化法、年間9万トン以上の特定荷主にCLO選任を義務化の必須対応

参考記事: 2027年4月改正、公正取引委員会の物流特殊指定による着荷主規制への必須対応

LogiShiftの視点:制度依存から「パートナーシップ型サプライチェーン」への転換

適正原価が突きつける「選ばれる荷主」と「選ぶ運送事業者」の選別

原田総括審議官が表明した「物流改革の流れの加速」と「適正原価の設定」は、従来の荷主主導による調達構造の終焉を告げている。国交省が算定を進める適正原価は、単なる参考指標ではなく、今後の運賃交渉や公的機関による指導の「下限ライン」として機能する可能性が高い。

この変化は、荷主と運送事業者の関係を根本から再構築する。これまでは「荷物を出す側」が圧倒的な優位に立っていたが、2030年の輸送力不足が現実味を帯びる中、運送事業者側が「適正原価を支払わない荷主」や「荷待ち時間の長い現場」との契約を打ち切る動きが常態化しつつある。

運送事業者が輸送能力という希少な経営資源をどの荷主に配分するかを選択する時代において、荷主企業が生き残るための条件は明快である。コスト削減のみを追求する姿勢を改め、運送事業者を自社の事業継続に欠かせない対等なパートナーとして位置づけ、双方が納得できる取引条件を早期に確立した企業だけが安定した輸送力を確保できる。

2030年の輸送力不足を乗り越える自律的な共同化・標準化の実行

行政主導の法整備が進む一方で、制度への受動的な対応にとどまる企業は、やがてコスト高と輸送力制約の挟み撃ちに遭うことになる。特定荷主が提出する中長期計画を形式的な文書作成で終わらせず、実効性のある構造改革へと昇華させる必要がある。

鍵を握るのは、個別企業ごとの最適化を超えた「標準化」と「共同物流」の推進である。パレットの規格統一(JIS規格T11型)や、事前出荷情報(ASN)のデジタル連携、さらには競合他社との幹線共同輸送や中継輸送の枠組み構築など、業界全体でのアセットシェアリングが不可欠となる。

原田総括審議官が言及した自動運転トラックの社会実装も、拠点側の入出荷システムや荷役体制が標準化されていなければその恩恵を享受することはできない。行政が法制面・予算面で環境整備を加速させている今こそ、民間企業側も社内の壁や競合の垣根を越え、自律的なサプライチェーンの再設計に踏み切るべきである。

まとめ:明日から取り組むべき物流ガバナンスの確立

国土交通省の新体制による改革加速のメッセージを受け、各企業の経営層および物流現場のリーダーは、自社の物流戦略を直ちに見直す必要がある。明日から着手すべき具体的なアクションは以下の通りである。

  1. 自社の取引条件と待機実態の客観的データ検証

まずは自社拠点におけるトラックの待機時間および荷役作業の実態をデジタルデータで正確に把握する。デジタルタコグラフの運行ログやバース管理システムの記録を確認し、2時間を超える待機や契約外の無償作業が発生していないかを総点検する。

  1. 改正法および適正原価を前提とした運賃改定協議の開始

国土交通省が検討を進める適正原価の動向や標準的な運賃を念頭に置き、現行の委託運賃が適正水準にあるかを検証する。運送事業者からの運賃改定要請に対して協議を拒絶することは法令違反リスクに直結するため、燃料サーチャージや付帯業務費用を含めたメニュープライシングの合意形成を進める。

  1. CLO主導による全社的なサプライチェーン改革の推進

特定荷主の指定要件に該当する企業は、選任された物流統括管理者(CLO)に十分な権限を付与し、営業・製造部門を巻き込んだ横断的な改革を実行する。無理な即日出荷や過度なリードタイム短縮、納品時間の指定を見直し、運送事業者に選ばれる持続可能なサプライチェーン体制を確立する。


出典: Daily Cargo電子版
出典: トラックNEWS

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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