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ニュース・海外 2026年9月16日

マースク・ハパック、スエズ経由4航路再開で欧州輸送10日短縮へ

マースク・ハパック、スエズ経由4航路再開で欧州輸送10日短縮へ

海運大手のマースク(Maersk)とハパックロイド(Hapag-Lloyd)は2026年9月14日、共同運航組織「ジェミニ・ネットワーク(Gemini Cooperation)」においてスエズ運河を経由するコンテナ船4航路の通航を再開すると発表した。2026年4月に改正物流効率化法が施行された日本の製造・商社にとっても、欧州向け輸送日数が10日以上短縮される選択肢が広がる一方、紅海の治安情勢による突発的な航路変更リスクへの対応が求められる。

スエズ運河復帰と喜望峰迂回のハイブリッド運航

マースクとハパックロイドが再開を決めたのは、アジアと北欧を結ぶ「AE5(ハパックロイド呼称:NE4)」、アジアと地中海を結ぶ「AE11(同:SE2)」「AE12(同:SE1)」、そしてインドと欧州を結ぶ「ME2(同:IEX)」の4航路である。西航の第1便は、マレーシアのタンジュンペレパス港を2026年9月19日に出港するコンテナ船「Antonia Maersk」(AE11)から順次適用される予定だ。

欧州・アジア間11航路のうち6航路がスエズ経由へ

ジェミニ・ネットワークは2025年2月1日に正式始動し、東西基幹航路で29のメインラインサービスと29のシャトルサービスを敷いている。このうち欧州とアジア・中東を接続する基幹航路は11航路存在する。今回の決定により、先行してスエズ運河経由で運航されていた「AE15」および「AE19」の2航路に加え、計6航路がスエズ運河経由へと復帰した。

サービス名(マースク/ハパック) 接続地域 経由ルート 復帰時期
AE15 アジア〜地中海 スエズ運河経由 2026年7月
AE19 アジア〜地中海(紅海寄港) スエズ運河経由 2026年8月
AE5 / NE4 アジア〜北欧 スエズ運河経由 2026年9月
AE11 / SE2 アジア〜地中海 スエズ運河経由 2026年9月
AE12 / SE1 アジア〜地中海 スエズ運河経由 2026年9月
ME2 / IEX インド〜欧州 スエズ運河経由 2026年9月

船腹需給と運行データに表れる市場の二極化

海事分析機関Sea-Intelligenceの調査によると、2026年9月時点におけるアジア発欧州向け(西航・ヘッドホール)全体の船腹量のうち、喜望峰迂回からスエズ運河・紅海へ回帰した割合は18%にとどまる。一方、欧州発アジア向け(復航・バックホール)では、アジア諸港での台風被害や混雑に伴うコンテナ船の回送遅延を解消するため、すでに船腹量の38%がスエズ運河経由へ切り替えられている。

また、英海事メディアLloyd’s Listのデータによると、紅海南部とアデン湾を隔てるバブ・エル・マンデブ海峡を通航した18,000 TEU超の超大型コンテナ船の隻数は、2025年通年でわずか1隻であったのに対し、2026年は9月14日時点で44隻へと急増した。

運賃分析機関Xenetaの試算では、喜望峰迂回によって長期航路に吸収されていた世界のコンテナ船腹量のうち、スエズ運河への大規模な回帰が進むことで約6%から8%の輸送能力が市場へ再放出される。これは、スポット運賃に対する直接的な下押し圧力として働く。

参考記事: 地中海29.7%のGemini Cooperation始動でルート再設計が加速

ジェミニ・ネットワークの配船戦略と軍事護衛体制

マースクとハパックロイドが紅海通航を再開させた背景には、欧州・地中海ネットワークにおける定時性の回復と、海軍による護衛支援体制の確立がある。

定時性90%目標に向けたスエズ回廊の活用

ジェミニ・ネットワークは結成当初から、ハブ・アンド・スポーク型の寄港地集約と定時性(オンタイム・パフォーマンス)90%以上の達成を最大の差別化要因として掲げている。アフリカ南端の喜望峰を迂回するルートは、航行距離が約3,500海里延伸し、片道で10日から14日の航海日数の増加を強いる。

両社はアジア〜地中海航路「AE15」(平均船型18,400 TEU)を2026年7月にスエズ運河経由へと先行復帰させた。さらにサウジアラビアのジェッダ港を経由する「AE19」を開設することで、地中海ハブ(スペイン・アルヘシラス港やエジプト・ポートサイド港)を経由したフィーダー網との接続効率を高めた。今回の4航路追加は、この定時性向上モデルを北欧航路(AE5)および地中海・西アジア航路全体へ水平展開する措置である。

民間商船を巡る防衛環境と運航リスク管理

通航再開の前提となっているのは、欧米主導の有志連合海軍による直接的な警護支援(Naval assistance)の存在である。紅海およびバブ・エル・マンデブ海峡周辺では、イエメンのアンサール・アッラー(フーシ派)による支配地域からの無人機や対艦ミサイル攻撃の脅威が継続している。2026年にもフーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡の北方約100マイルに位置する要衝の島嶼部を掌握するなど、軍事的な緊張状態は解消していない。

ペルシャ湾側でも、イラン海峡当局がホルムズ海峡の「非適合ブラックリスト」対象船を2026年9月初旬の56隻から77隻へ拡大し、P&Iクラブ(船主責任相互保険組合)や船級協会に取引停止を求めるなど、海域全体の地政学的摩擦は続いている。

マースクおよびハパックロイドは、軍事護衛が得られる船団編成を組みつつ、紅海現地の安全状況をリアルタイムで再評価する体制を敷いている。状況の悪化が確認された場合は、即座に喜望峰迂回ルートへ差し戻す柔軟なスイッチング規定を保持したまま運航を継続している。

参考記事: [国際海事機関計画をイランが拒絶、約9割を中東に依存する日本企業の危機に直結](https://logishift.net/2026/06/26/post-6443/)

航路流動化に直面する日本企業の調達実務

欧州とアジアを結ぶ基幹航路が「喜望峰一律迂回」から「スエズ経由と喜望峰経由の混在」へと移行した事象は、日本の輸出入企業の実務に直接の影響を与える。

輸送日数10〜14日の格差と在庫管理

スエズ運河経由便(AE5、AE11等)のトランジットタイムは、喜望峰迂回便と比較して片道で10日〜14日短縮される。横浜港・名古屋港・神戸港などの国内主要港から欧州基本港(ロッテルダム、ハンブルク、アントワープ)へ輸出入を行う荷主にとって、調達リードタイムの短縮は棚卸資産の圧縮を可能にする。

しかし、同一アライアンス内でも航路ごとに経由ルートが分かれ、さらに有事の際には喜望峰へ即座にリルート(航路変更)される契約条件が設定されている。

荷主企業の実務では、以下のオペレーション管理が求められる。

  • 発注点と安全在庫の二重基準設定:スエズ経由(標準リードタイム約30〜35日)と喜望峰迂回(約42〜48日)の双方が混在するため、調達システム上で納期の静的固定を廃止し、船社ブッキング確定時点の経由ルートに応じた動的な安全在庫係数を適用する。
  • コンテナトラッキングの起点監視:シンガポール港やタンジュンペレパス港などの東南アジア中継港を出港した段階で、本船がマラッカ海峡からインド洋を経てアデン湾へ向かうか、喜望峰方面へ南下するかをAIS(自動船舶識別装置)データで追跡し、国内工場の生産投入計画を自動補正する。

運賃指標と付加運賃の変動耐性

マースクは紅海危機以降、CTS(コンテナ貿易統計)などのグローバル市場指数に四半期運賃を即時追従させるプライシングモデルを採用している。スエズ回帰によって船腹供給が6〜8%緩む局面では、スポット運賃の下落傾向を調達価格へ即座に反映させる交渉余地が生まれる。

その一方で、スエズ運河・紅海を通航する貨物には、高額な戦争危険付加運賃(WRS: War Risk Surcharge)や緊急運航サーチャージが船社から課される。

コスト項目 スエズ運河経由ルート 喜望峰迂回ルート
所要日数(アジア〜欧州) 約30〜35日(短縮) 約42〜48日(長期化)
基本運賃(フレート水準) 船腹効率化による下落圧力 船腹逼迫による高止まり圧力
戦争危険付加運賃(WRS) 適用(船体保険料急騰に伴う) 原則として非適用
燃料サーチャージ 航海距離短縮により抑制 航海距離延伸により30〜50%増

フォワーダーや船社との運賃契約において、単なるオールイン(諸掛込み)運賃ではなく、基本フレート、燃油サーチャージ、WRSの内訳を個別にブレークダウンした契約形態へ改めることが、コスト管理上の要件となる。

参考記事: マースクが158億ドルの教訓で運賃即時連動へ、荷主の調達戦略を見直せ

ハイブリッド海運環境における針路

2026年の東西海上コンテナ輸送は、地政学的リスクが残存したまま経済効率性と納期遵守を両立させる「ハイブリッド運航」の段階に入った。

マースクとハパックロイドによる4航路のスエズ再開は、他の海運アライアンス(Ocean AllianceやPremier Alliance)の配船判断にも連鎖する。先行してスエズ経由の比率を高めた船社がリードタイム面で競争優位を確保する一方、万一の攻撃発生時には航路変更による大規模なスケジュール崩壊を抱え込む。

日本のロジスティクス担当部門やサプライチェーン統括部門は、単一の船社や単一の航路に依存する調達構造から脱却し、スエズ経由便と喜望峰経由便を戦略的に組み合わせたアロケーション(船腹枠)配分を確立していく必要がある。

出典: SupplyChainBrain
出典: Splash 247
出典: The Loadstar
出典: Lloyd’s List

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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