厚生労働省は2026年9月15日、長時間労働が疑われる事業場に対して2025年度に実施した監督指導結果を公表しました。監督対象となった運輸交通業2423事業場のうち、過半数を超える54.7%に当たる1326事業場で違法な時間外労働が確認されています。
厚労省による2025年度監督指導結果と運輸交通業の労働実態
厚生労働省が公表した「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年4月から令和8年3月までに実施)」によると、全国2万9150事業場への立ち入り等のうち、38.5%に当たる1万1228事業場で違法な時間外労働が是正指導の対象となりました。労働基準関係法令違反全体では2万2882事業場(78.5%)に達しています。
全産業の平均値と比較して、トラック運送をはじめとする「運輸交通業」の違反率は突出して高い数値を示しました。
運輸交通業と全業種の監督指導結果の比較
2025年度に実施された重点監督指導における主要項目の実績値は以下の通りです。
| 項目 | 全業種合計 | 運輸交通業 | 運輸交通業の割合・特徴 |
|---|---|---|---|
| 監督指導実施事業場数 | 29,150事業場 | 2,423事業場 | 全体の約8.3%を占める |
| 労働基準関係法令違反 | 22,882事業場(78.5%) | 2,072事業場(85.5%) | 全業種平均を7.0ポイント上回る |
| 違法な時間外労働 | 11,228事業場(38.5%) | 1,326事業場(54.7%) | 全業種平均を16.2ポイント上回る |
| 賃金不払残業 | 1,901事業場(6.5%) | 163事業場(6.7%) | 割増賃金の未払いが散見 |
| 健康障害防止措置の未実施 | 5,919事業場(20.3%) | 400事業場(16.5%) | 面接指導や労働時間把握の不備 |
違法な時間外労働が認められた1万1228事業場のうち、時間外・休日労働時間が最も長い労働者の実績を見ると、月80時間超が4991事業場、月100時間超が2842事業場、月150時間超が554事業場、月200時間超が111事業場存在しました。
前年度(2024年度)実績との推移比較
前年度(2024年度:令和6年4月〜令和7年3月実施分)との比較では、監督指導体制の強化と違反割合の微減が見られます。
| 指導項目 | 2024年度実績 | 2025年度実績 | 前年比増減 |
|---|---|---|---|
| 監督指導実施事業場数 | 26,512事業場 | 29,150事業場 | 2,638事業場増加(約10%増) |
| 違法な時間外労働の確認割合 | 42.4% | 38.5% | 3.9ポイント低下 |
| 月80時間超の違法残業事業場 | 5,464事業場 | 4,991事業場 | 473事業場減少 |
| 労働時間把握不適正への是正指導 | 4,016事業場 | 4,045事業場 | 29事業場増加 |
全業種ベースでの違法時間外労働の割合は前年度の42.4%から38.5%へと改善したものの、運輸交通業単体では54.7%と過半数を占めており、他業種との乖離が依然として解消されていません。
自動車運転業務に適用される規制基準の経緯
自動車運転業務に対する労働時間規制は段階的に整備されてきました。これまでの制度改正の経緯は以下の通りです。
- 2019年4月1日:働き方改革関連法に基づき、一般企業向けの時間外労働上限規制(年720時間等)が大企業で施行(自動車運転業務は5年間の猶予)。
- 2020年4月1日:時間外労働の上限規制が中小企業に適用。
- 2023年4月1日:中小企業に対する月60時間超の時間外労働割増賃金率(50%)の適用開始。
- 2024年4月1日:自動車運転業務に対する時間外労働の上限規制(年960時間)施行、および改正「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」適用開始。
- 2026年4月1日:改正流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法(改正物流効率化法)が本格施行。
自動車運転業務においては、特別条項付き36協定を締結した場合でも年間時間外労働の上限は960時間と定められています。一般則と異なり「月100時間未満」「2〜6か月平均80時間以内」とする月次規制は適用除外とされているものの、拘束時間の原則(年間3300時間・1か月284時間)や休息期間(継続11時間以上基本、下限9時間)を定めた改善基準告示と併せて遵守することが法的に求められています。
参考記事: 働き方改革関連法(物流)とは?2024年4月施行の変更点と運送会社が即座に取るべき対応策
参考記事: 改善基準告示を完全解説!2024年4月改正のポイントと実務での対応策
サプライチェーン各プレイヤーに及ぶ影響
監督対象となった運送事業者の半数以上で違法残業が常態化している実態は、サプライチェーンを構成する関係各所に直接的なオペレーションの見直しを迫っています。
運送事業者:監査リスクの増大と収益確保の両立
監督対象の85.5%で労基関係法令違反が認められた結果を受け、運送事業者は労働基準監督署による是正勧告や、国土交通省の貨物自動車運送事業法に基づく行政処分のリスクに直面しています。是正勧告を受けた事業者は、36協定の再締結や運行計画の短縮を余儀なくされます。
しかし、走行時間の単純な圧縮は、実運送体制の維持や売上高の確保と相反します。CUBE-LINXが実施した実態調査では、時間外労働上限規制への対応後に中小運送会社の42.2%が収益低下を報告しています。燃料費高騰や人件費上昇分を適正に運賃へ転嫁できていない事業者が大半を占めるなか、違法残業を解消するための増員や中継輸送の導入は固定費の上昇を招く要因となっています。
参考記事: CUBE-LINX調査、中小運送会社の42.2%が収益悪化|正直者が報われない2024年問題の必須対応
行政・規制当局:合同監査の強化と11月キャンペーンでの集中指導
厚生労働省は、毎年11月に展開する「過重労働解消キャンペーン」において、運輸交通業を含む長時間労働が常態化している事業場への重点監督を継続する方針です。
国土交通省の「トラック・物流Gメン」との連携も進んでいます。違法な時間外労働の背景に荷主側の長時間荷待ちや契約外の附帯業務が存在する場合、労働基準監督署からの情報提供に基づき、トラック・物流Gメンが荷主企業に対して働きかけや要請、是正勧告を行うケースが増加しています。全日本トラック協会の調査員を含めた360名規模の監視網により、運送事業者単体への労務監査にとどまらず、発注側の荷主を巻き込んだ是正指導体制が敷かれています。
参考記事: トラック・物流Gメン、6.3万社の通報を是正指導に導く客観的証拠
SaaS・テクノロジーベンダー:客観的労働時間把握と運行計画の需要増
今回の監督結果では、全国で4045事業場が「労働時間の把握方法が不適正」として指導を受けました。出勤簿の自己申告や曖昧な日報管理を行っている運送事業者に対し、客観的な記録に基づく労務管理ツールの導入が求められています。
デジタルタコグラフと連動した勤怠管理システムや、GPS位置情報を活用した動態管理SaaSへの引き合いが増加しています。運行中の拘束時間、荷待ち時間、荷役時間をリアルタイムで分離・集計できる基盤を整えなければ、監査への対応や改善基準告示の遵守状況を証明できません。運行計画の自動作成ツールや配車最適化アルゴリズムの実務活用が、コンプライアンス維持のための必須設備となりつつあります。
LogiShiftの視点:年960時間規制下の構造的停滞と荷主責任の制度化
監督指導対象の54.7%で違法残業が発覚したという事実は、運送会社単体の運行管理や労使努力だけでは年960時間上限および改善基準告示のクリアが困難である現場実態を示しています。
自動車運転業務に対する年960時間規制の適用から時間が経過した2025年度の調査においても、運輸交通業では監督対象の半数を超える1326事業場で違法な時間外労働が確認されています。この数値が高止まりしている根本的な要因は、物流の発生源である発荷主および着荷主の拠点における非効率な運用です。1運行あたり平均1〜2時間を超える荷待ち時間や、手荷役による附帯作業の常態化がドライバーの拘束時間を引き延ばしています。
2026年4月に本格施行された改正物流効率化法では、年間貨物取扱量9万トン以上の「特定荷主」に対し、物流統括管理者(CLO)の選任や中長期計画の策定、荷待ち時間2時間以内への短縮目標を課しています。今後は、厚労省の労基法違反データと国交省のGメン調査結果が直結し、運行実態を改善しない荷主に対して法的責任や企業名公表のリスクが及ぶことになります。運送事業者は自社の運行データを客観的に開示し、荷主企業は拠点オペレーションを是正する共同のプロセスが不可避となります。
参考記事: 改正物流効率化法が2026年に義務化、9万トン超の荷主が取るべき必須対応
まとめ:明日から自社で取り組むべき監査対策
厚生労働省の監督指導結果が示す通り、運輸交通業に対する行政の監視基準は厳格化しています。立ち入り監査や指導を回避するため、以下の実務対応を即座に確認する必要があります。
- デジタコデータと出退勤記録の突合による労働時間の客観的把握
タイムカードと運行記録計のデータに乖離がないかを点検し、自己申告制による労働時間管理を完全に廃止してください。4045事業場が労働時間の不適正把握で指導を受けている事実を踏まえ、客観的な証拠に基づく管理体制を構築します。
- 拘束時間と荷待ち・付帯作業時間の分離記録
荷待ち時間や契約外の荷役作業が発生している区間を特定し、改善基準告示に定める拘束時間(原則月284時間)を超過していないかを運行ごとに追跡します。
- 荷主に対する運行遅延データの共有と待機料の請求
常態化している荷待ち時間については、客観的な待機記録を荷主企業へ提示し、運行計画の変更や待機料の収受に向けた協議を開始してください。自社のみで法令違反リスクを抱え込まず、発着拠点側の改善措置を促すことが不可避です。
出典: logi-today.com



