楽天グループは2026年8月5日、楽天市場の国内EC流通総額10兆円達成に向け、物流受託サービスの拡充や受取方法の標準化を柱とする2026年下半期戦略を発表した。自社物流網「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」の利用店舗が1万2000店を突破するなか、2026年8月から冷凍配送の取り扱いを開始し、2027年以降には大手3社による置き配の原則デフォルト設定へ移行する。
楽天市場「10兆円戦略」における物流施策と機能改定の詳細
楽天グループは出店者向けカンファレンス「楽天EXPO」の「2026年下半期戦略共有会」において、コマース&マーケティングカンパニー プレジデントの松村亮副社長執行役員より、2025年に達成した国内流通総額6.3兆円から中長期目標である10兆円へと拡大するための具体方針を提示した。
物流領域における骨子は、配送品質向上を旗印としたRSLの機能拡張と、ラストワンマイルの受け取り環境の刷新である。
RSLの取扱領域拡張と「最強翌日配送」の強化
楽天市場では2024年7月より配送品質向上制度を運用し、基準を満たした商品に配送ラベルを付与してきた。2026年6月からは「最強翌日配送」ラベルを獲得した商品の検索結果における表示優遇を開始し、週末限定のポイントキャンペーンなどを通じてエンドユーザーへの訴求を強めている。
この翌日配送網を支える中核インフラがRSLである。2026年4月に小型商品向けの「メール便5cm」および「宅配便40サイズ」を新設した結果、2026年上半期の利用実績は2025年下半期比で13.8%増加した。
さらに取扱商材の幅を広げるため、以下のスケジュールでサイズと温度帯の拡張を実施する。
- 2026年8月開始:60〜140サイズの冷凍配送に対応
- 2026年10月開始:180〜260サイズの大型商品に対応
いずれの領域においても「最強翌日配送」の対象とし、従来は外部の専門倉庫や自社出荷に依存していた冷凍食品・生鮮品や家具・家電といった大型商材をRSLのネットワークへ組み込む。
参考記事: フローズン輸送完全ガイド|温度管理の裏側から3PL選定・物流DXまで徹底解説
配送3社を巻き込む「置き配デフォルト化」の要件
ラストワンマイルの配送効率化に向けて、受け取り方法のルールを刷新する。楽天市場では2025年12月より主要キャリアに対応した置き配機能を提供してきたが、出店店舗ごとの個別申込制をとっていた。
新ガイドラインの適用に伴い、2027年以降は注文画面における「置き配」を初期値(デフォルト設定)とする運用へ移行する。
| 項目 | 従来の仕様 | 2027年以降の新運用 |
|---|---|---|
| 適用方式 | 出店店舗による個別申込制 | 全店舗一律の原則必須設定 |
| 対象配送キャリア | 導入店舗が契約する指定配送業者 | 日本郵便・ヤマト運輸・佐川急便 |
| 対象配送種別 | 店舗が任意設定した配送区分 | 宅配便、宅配便(特定送料)、小型宅配便 |
| 注文時の初期値 | 対面受取(置き配は選択制) | 置き配(対面受取への変更が可能) |
政府が2026年3月に閣議決定した総合物流施策大綱では、宅配便の再配達率削減に向けて多様な受取方法の利用率を2030年度までに50%程度へ引き上げる数値目標を定めている。楽天市場のデフォルト化は、主要キャリア3社の配送網全体における対面配達工数の削減を後押しする。
参考記事: 置き配サービスとは?主要4キャリアの比較からEC導入メリット・防犯対策まで解説
AI機能の統合と2027年出店料改定の背景
店舗運営基盤である「RMS(Rakuten Merchant Server)」にはAIツール群を実装する。出店店舗の5割以上が毎月利用する「Rakuten AI for RMS」において、2026年4月に売上データ分析、7月にレビューデータ連携を導入した。さらに出店5万店超の専門性を反映させる「AI店長」構想を進め、商品登録やバナー生成、広告運用の自動化を図る。
機能拡張が進む一方、システム基盤や物流ネットワークの維持管理コストを賄うため、費用負担の見直しも公表された。GPU調達費やサーバー設備投資、物流拠点整備への継続投資を理由に、2027年第1四半期に月額出店料の一部改定を予定している。また、買い回り施策に伴うマーケティング費用負担についても、2028年頃をめどに見直しの検討を進める。
楽天市場の物流・プラットフォーム施策タイムライン
2021年の日本郵便との資本業務提携から公表された2028年の構想まで、楽天市場の物流およびシステム展開の推移は下表の通りである。
| 年月 | 実施項目・施策内容 | 主な対象・影響範囲 |
|---|---|---|
| 2021年3月 | 日本郵便と楽天グループの資本業務提携 | 物流拠点の共同構築・配送効率化の推進 |
| 2024年7月 | 配送品質向上制度(旧「最強配送」ラベル)導入 | 基準を満たす出荷リードタイム設定商品 |
| 2025年12月 | 主要3キャリア対応の「置き配」機能リリース | 楽天市場出店店舗(任意申込制) |
| 2026年4月 | RSLでメール便5cm・宅配便40サイズ新設 | 小型・薄型商材を取り扱う出店店舗 |
| 2026年6月 | 最強翌日配送ラベル獲得商品の検索結果優遇 | 楽天市場全域の検索アルゴリズム |
| 2026年8月 | RSLで60〜140サイズの「冷凍配送」開始 | コールドチェーン商材(食品・生鮮等) |
| 2026年10月 | RSLで180〜260サイズの大型商品対応開始 | 家具・家電・大型レジャー用品等 |
| 2027年1月 | RMS商品一括編集機能(月額1万円)の無料化 | 5万件超の商品CSV編集を行う出店店舗 |
| 2027年1Q | 楽天市場の月額出店料の一部改定 | 全出店事業者 |
| 2027年以降 | 宅配主要3社の「置き配」デフォルト設定化 | 日本郵便・ヤマト・佐川を利用する通常注文 |
| 2028年頃 | 買い回りイベントのマーケティング費用負担改定 | セール参加店舗 |
EC事業者・運送会社・3PLへの具体的影響
EC事業者:配送リードタイム対応と出店固定費の再設計
出店店舗にとって、「最強翌日配送」ラベルの有無がモール内検索順位に直結する仕組みが確立された。土日祝日を含む365日出荷や14時までの注文当日出荷といった基準を自社拠点で維持できない事業者は、RSLへの外部委託へ移行するか、対応可能な外部3PLとの連携体制を組まなければ露出減を招く。
RSLが冷凍(60〜140サイズ)および大型(180〜260サイズ)に対応したことで、これまで自社出荷を余儀なくされていた商材でもモール推奨の翌日配送枠に参入できる環境が整った。一方で、2027年第1四半期には月額出店料の一部改定が控えており、商品一括編集機能の無料化(月額1万円削減)といったコスト抑制要素と差し引きながら、SKUごとの利益計算とフルフィルメントコストの再点検が求められる。
運送事業者:主要3社における置き配標準化と再配達抑制
日本郵便、ヤマト運輸、佐川急便の主要宅配便において、楽天市場経由の荷物が一律で「置き配デフォルト」となる措置は、ラストワンマイルの配送完了率に直接寄与する。国土交通省のサンプル調査によると、2025年4月時点の宅配便再配達率は8.4%であり、政府目標である6%の達成に向けた障壁となっていた。
国内流通総額6.3兆円規模のECモールが初期設定を非対面受取へ倒すことにより、ドライバーの不在持ち戻り回数が減少し、荷物1個あたりの配達完了時間が短縮される。一方で、誤配や水濡れ、盗難などの配送事故発生時における責任分解点や、オートロック集合住宅での解錠ソリューションの適用など、現場ドライバーの配送フローに関する事前周知が欠かせない。
参考記事: ラストワンマイルとは?物流現場の課題と効率化に向けた再構築ステップ
倉庫事業者・3PL:モール直営物流の拡張に対する差別化
RSLの利用店舗数が1万2000店を突破し、常温の標準サイズだけでなく冷凍や大型荷物までカバー範囲を広げたことは、EC通販代行を手掛ける3PL事業者に対する競合圧力となる。楽天市場単独で出荷が完結する店舗にとっては、システム連携の手間がなく検索優遇を得やすいRSLへの集約が合理的な選択肢となるためである。
外部の物流倉庫や3PLが荷主をつなぎ留めるためには、AmazonやYahoo!ショッピングなど複数モールの一元管理(オムニチャネル対応)や、名入れ・ギフト包装といった流通加工業務、精密なロット・賞味期限管理など、画一的なプラットフォーム物流では担いにくい付加価値の提供が必須となる。
参考記事: AZ-COM丸和ホールディングスなどの850億円投資が示す低温物流の必須対応
LogiShiftの視点:AIと配送網の垂直統合が迫るECサプライチェーンの選別
今回の下半期戦略は、ECプラットフォームの競争軸が「販促キャンペーンやポイント還元」から「AI技術と物理的な物流インフラの完全統合」へと移り変わった実態を示している。
楽天市場はこれまで、出店者が独自の配送業者や配送条件を設定する「個店主義」を特徴としてきた。しかし、流通総額10兆円を現実的な射程に収める過程で、検索表示アルゴリズムに翌日配送実績を組み込み、置き配を標準仕様とし、RSLの温度帯・サイズ枠を広げることで、Amazonに近い規律重視のインフラ垂直統合型モデルへと舵を切っている。
出店料の改定予定が示された点も、この構造転換を裏付けている。先端AIインフラの維持と自動化物流拠点の拡張には継続的な資本投下が必要であり、プラットフォーム側はシステム利用料を出店者に求め、出店者側はそのコストを上回る販売回転率と配送リードタイムを確保しなければ生き残れない。
物流インフラの仕様が売り場の露出を決め、AIによる需要予測が倉庫出荷と直結する環境下では、配送網を単なる「コスト要因の外注先」として扱う事業者はプラットフォーム上の競争優位を失う。出荷能力そのものをマーケティングの中核武器として再定義できるかどうかが、出店者と物流事業者の双方に問われている。
参考記事: 物流2026年問題とは?2024年問題との違いや法改正、実務で必要な対策を徹底解説
明日から現場と経営層が取り組むべき実務アクション
- 自社取扱SKUにおけるRSL対応枠(冷凍・大型)の適合性検証
自社出荷または一般3PLに委託している商材のうち、60〜140サイズの冷凍品や180〜260サイズの大型品について、RSLへ移管した場合の保管・配送費と「最強翌日配送」ラベル獲得による売上増の採算性を試算する。
- 2027年の「置き配デフォルト化」に向けた梱包仕様と補償規約の確認
原則置き配への移行に伴い、風雨に耐えうる資材スペックへの切り替えや外装破損時の補償範囲について、利用中の運送キャリア3社との契約内容および楽天市場のガイドライン要件を再確認する。
- 2027年第1四半期の出店料改定を織り込んだ利益計画の再策定
2027年1月に予定される商品一括編集機能の無料化によるコスト削減効果を反映させつつ、予定されている月額固定費用の改定を見越し、販売手数料と物流委託費を含めた商品群別の損益分岐点を再点検する。
出典: ネットショップ担当者フォーラム
出典: 日本ネット経済新聞
出典: 国土交通省



