冷凍冷蔵倉庫のランニングコストにおいて電気代の4〜6割を空調設備が占める中、日立製作所とロジスティードはビル設備統合ソリューション「HMAX for Buildings」を活用したエネルギー制御と次世代拠点運用の成果を提示しました。天候予測に基づく空調の先行運転や、人と自動化機器の作業エリア分離による照明・空調の最小化により、設備をコストセンターから価値を生む「経営資産」へと進化させる道筋が明らかになっています。
HMAX for Buildingsの基礎知識:設備OTと物流ITの統合制御
物流拠点の効率化といえば、従来はWMS(倉庫管理システム)による在庫管理やバース予約システムによる車両誘導といった「IT(情報技術)」領域の改善が中心でした。しかし、施設の電力消費や老朽化対策を根本から見直すには、空調機、受変電設備、照明、マテハン機器といった「OT(制御技術・運用技術)」のデータをITと連動させる必要があります。
日立製作所が提供する「HMAX for Buildings」は、ビルや大型施設内の多様な設備データを収集・分析し、AIを活用して運用を自律的に最適化するプラットフォームです。
【HMAX for Buildings による統合アーキテクチャ】
[物流ITシステム(上位)]
├ WMS(倉庫管理システム:入出荷スケジュール・作業計画)
└ 天候・日射量予測、電力市場価格データ
│ リアルタイム連携
▼
[HMAX for Buildings(統合データ基盤 / AI制御)]
├ 空調IoT「exiida」(冷凍機・空調の事前冷却・デマンド制御)
├ 人感センサー・照度メッシュ連動制御
└ AGV/AMR・自動搬送設備の動線・運行管理
│
▼
[物流現場・物理設備(OT)]
├ 作業エリア(人向け):局所的な適温空調・作業照明
└ ロボット稼働エリア(機械向け):最小限の空調・無灯火(Dark Warehouse)
従来のビルエネルギー管理システム(BEMS)は、あらかじめ設定したスケジュールや外気温に応じて機器をオン・オフする静的な制御にとどまっていました。これに対し「HMAX for Buildings」は、物流業務のリアルタイムな進捗状況や気象予測を取り込み、動的な最適制御を実現します。
日立グループが培ってきた空調IoT「exiida(エクシーダ)」などの設備制御アセットと、ロジスティードが全世界1,020拠点で蓄積した物流オペレーションのノウハウを融合させている点が特徴です。設備を単に維持管理する対象としてではなく、収益性を高めるための経営資産として機能させます。
| 比較項目 | 従来のビル管理・省エネ手法 | HMAX for Buildings による次世代制御 |
|---|---|---|
| 制御対象 | 空調・照明などの個別単体設備 | 物流設備、空調、受変電、再生エネルギーの統合データ |
| 制御ロジック | 固定スケジュール、閾値による一括運転 | 気象予測、作業計画、電力市場価格に応じたAI自律制御 |
| 倉庫空間の扱い | 庫内全体を一律に調温・照明 | 人とロボットのエリアを完全分離し、局所的に最適配分 |
| データの位置づけ | 故障検知や検針データの事後確認 | オペレーションとエネルギーを同時最適化する経営資源 |
設備最適化が急務となった業界背景と法規制動向
物流施設において、建物の設備制御が経営課題として浮上した背景には、法制度の厳格化とエネルギー構造の劇的な変化があります。
1. 改正物流効率化法による「荷待ち2時間以内」と脱炭素の両立
2026年4月に全面施行された改正物流効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の一部改正)では、特定荷主および特定事業者に対し、物流統括管理者(CLO)の選任や中長期計画の作成が義務付けられました。トラックドライバーの荷待ち時間を原則2時間以内に短縮することが求められる中、入出荷スピードを引き上げるマテハン自動化の導入が急速に進んでいます。
しかし、自動倉庫や無人搬送車(AGV/AMR)を大量導入すると拠点の電力消費量は跳ね上がります。脱炭素(GX)推進が企業の社会的責任として問われる中、庫内オペレーションの迅速化と省エネルギーの達成という二律背反の課題を解決しなければなりません。
参考記事: 改正物流効率化法と2030年問題に備える冷蔵倉庫の必須対応
2. 冷凍冷蔵倉庫における電力コスト高騰と「2030年問題」
冷凍冷蔵倉庫は、一般的なドライ倉庫に比べて電力消費量が突出して高い特性を持っています。東京都環境局等の公表データによると、冷凍倉庫における電力消費の内訳は「冷凍・冷蔵設備」が全体の約76.4%を占め、照明(約7.4%)や空調・換気(約5.2%)を大きく引き離しています。基本料金を決定づける契約電力(ピークデマンド)の抑制は、倉庫の損益分岐点を左右する死活問題です。
さらに、モントリオール議定書キガリ改正に伴う代替フロン規制のタイムリミット(2030年問題)や、昭和・平成初期に建設された冷凍倉庫の老朽化が重なっています。自然冷媒への転換工事や拠点新設を進める際、建屋の断熱性能だけでなく、最初から高度なエネルギー制御システムを組み込むことが不可欠になっています。
参考記事: AZ-COM丸和ホールディングスなどの850億円投資が示す低温物流の必須対応
3. 改正省エネ法および改正建築物省エネ法の施行
エネルギー政策面では、2023年4月施行の改正省エネ法において、非化石エネルギーへの転換とともに「電気の需要の最適化(デマンドレスポンス:DR)」が評価項目に新設されました。系統電力の逼迫時や市場価格が高騰する時間帯に電力消費を抑制し、再エネ余剰時には消費を促す柔軟な設備制御が法的に評価されます。
2025年4月からの新築建築物の省エネ基準適合義務化、および2026年4月以降の中規模非住宅建築物における省エネ基準引き上げにより、倉庫建屋そのものの環境適合性が厳格に問われる段階に入っています。
ロジスティードの事例からみる導入効果と2050年への展望
ロジスティード(2023年にKKRが買収、日立製作所が議決権10%を継続保有して協創関係を維持)の現場知見とHMAX for Buildingsが連携することで、具体的なコスト削減と将来構想が具現化しています。
先行冷却によるピークシフトと太陽光電力の自家消費最大化
ロジスティード九州の冷凍冷蔵倉庫では、屋根に設置した太陽光発電設備と空調IoT「exiida」を連携させた電力制御を運用しています。
冷凍冷蔵倉庫の特性として、一度冷却された貨物や建屋は一定の蓄熱効果(保冷力)を持っています。この物理特性を利用し、雨天などで翌日に太陽光の発電量低下が予測される場合、発電量が多い時間帯に倉庫内を通常設定よりも低めに事前冷却(プレクーリング)します。そして太陽光発電量が低下した時間帯には冷凍機の出力を絞ることで、商用系統からの高額な買電量を抑制し、電力コストを削減しています。
【太陽光発電連動によるプレクーリング(先行冷却)イメージ】
電力使用量
▲
│ [太陽光発電の余剰電力]
│ ┌─────────────┐
│ │ 冷凍機フル稼働 │ [太陽光出力低下時]
│ │(倉庫内を事前冷却) │ ┌──────┐
│ │ │ │ 空調を抑制 │ 蓄熱効果で庫内温度を維持
──┼───┴─────────────┴───┴──────┴─────────────────► 時間
00:00 12:00 16:00
「人とロボットの完全分離」による空調・照明エネルギーの極小化
ロジスティードの櫻田崇治CTOが指摘する重要な運用設計が、「人とロボットの協調」ではなく「作業エリアの完全切り分け」です。
これまで、人と自動搬送機が同一空間で作業するハイブリッド型の現場では、作業員の安全確保と快適性のためにフロア全体に十分な照度と空調を供給する必要がありました。しかし、両者の動線を完全に分離すれば、人間が存在しない保管・搬送エリアの照明を落とし、空調も機器が動作可能な限界ラインまで抑えることができます。
- 人の作業エリア: 厳格な温度管理、明るいLED照明、作業員向けの局所空調を集中配置
- ロボットの稼働エリア: 最低限の機械保全用空調のみを維持し、照明は原則消灯(Dark Warehouse)
自動化機器や無人フォークリフトは、走行ルートを最短距離で自律計算して稼働するため、作業員の手動運転に比べて無駄な加減速や迂回走行が減り、機器自体の消費電力抑制にも寄与します。
参考記事: ニチレイロジGとピーエムティーの冷凍AMR実証!インフラレス自動化3つの変革
2050年に向けた物流アーキテクチャの変革
日立製作所の大隅英貴COO(アーバンソリューション&サービスビジネスユニット COO 兼 日立GLS 取締役社長 CEO)およびロジスティードの櫻田CTOは、2050年を見据えた長期的な物流の未来像を提示しています。
- フィジカルAIによる「Dark Warehouse(無灯火倉庫)」の確立
AIが需要予測、配車計画、庫内搬送を完全自律で統合実行し、ロボット同士が協調して入出荷を完結させることで、照明を一切点灯しない完全無人拠点の運用が実現します。 - パブリッククラウド型物流プラットフォームの普及
荷主企業が自前で拠点を持つことなく、在庫が全国のどの倉庫に保管され、どのルートで運ばれているかを意識せずに利用できる体制へシフトします。サーバーの計算資源を必要な分だけ利用するパブリッククラウドと同様に、物流リソースを従量課金で流動的にシェアする基盤が成立します。
参考記事: 霞ヶ関キャピタル、1万パレット対応の冷凍自動倉庫開設で固定投資リスク軽減へ
次世代物流拠点を構築する3つの導入・設計ポイント
ビル設備制御と自動化を組み合わせた次世代物流拠点を具現化するためには、従来の建設計画とは異なる視点でのプロジェクト推進が不可欠です。現場のオペレーションと設備仕様を適合させるための要点を整理します。
1. 施設計画の初期段階でゾーニングを固定する
自動化による省エネ効果を最大化するには、設計段階から人と機械の動線を物理的・環境的に切り離す空間設計が求められます。
- エアカーテンおよび高速シートシャッターの配置: 人が立ち入る荷捌きエリア(常温・冷蔵)と、ロボットのみが走行する自動保管エリアの間に物理的な熱遮断壁を構築する。
- 照度・空調の回路系統の細分化: 人感センサーと連動したメッシュ状の照明配線だけでなく、ゾーンごとに空調容量を制御できるよう冷媒配管やダクト系統を設計段階から分離する。
既存施設への後付けでは、電源系統や配管の制約からエリア単位の空調制御が困難になるケースが多いため、マスタープランの策定時に建築・設備設計者を巻き込む体制が前提となります。
参考記事: 霞ヶ関キャピタルが東扇島に2万㎡の冷凍自動倉庫を竣工、省人化を加速
2. 物流データ(IT)と設備制御プロトコル(OT)のAPI連携
空調の先行運転やピークカットを成功させるには、データ連携の遅延や欠損を排除しなければなりません。
| 連携データ | 主な連携元 | 設備側の制御アクション |
|---|---|---|
| 荷量予測・作業スケジュール | WMS(倉庫管理システム) | 入出荷ピークに合わせた作業ゾーンの事前冷却・昇温 |
| 車両到着スケジュール | バース予約システム | トラック接車バース周辺の空調ブースター運転とシャッター連動 |
| 発電実績・気象予測データ | 太陽光発電監視盤・気象WebAPI | 自家消費の最大化に向けた蓄熱運転の開始タイミング調整 |
| 機器稼働状況・動線情報 | WES(倉庫運用管理)/フリート管理 | 機械停止時の不要エリア減光、搬送ルート周辺の局所照明 |
これらのデータをリアルタイムに仲介する統合データ基盤としてHMAX for Buildingsのようなミドルウェアを位置付け、プロトコル(BACnet、Modbus、REST-APIなど)の変換仕様を事前に確認しておくことが重要です。
3. 温度変化に対する品質リスクの許容度検証
エネルギーコスト削減のために庫内温度を上下動させる「蓄熱運用」を導入する場合、保管貨物の品質基準を満たしているか事前の実証実験(PoC)が欠かせません。
冷凍食品や医薬品などは、わずかな温度ブレが変質や品質クレームに直結します。空調の出力を弱めた際、ラックの最上段と最下段でどの程度の温度勾配が生じるか、温度ロガーを用いて緻密にマッピングする必要があります。庫内全体の平均温度ではなく、「最も温度が上昇しやすいポイント」の数値を基準にAIの制御パラメータを設定する運用手順を確立してください。
設備を経営資産へ転換するための実践ステップ
物流DXは、WMSのクラウド化やハンディターミナルの刷新といった「ソフトウェアの効率化」から、マテハンや建屋エネルギー(OT)を巻き込んだ「全体最適化」の段階へと移行しています。エネルギー高騰と人手不足が同時に進行する環境下において、光熱費を単なる固定費として放置することは拠点の収益力を直接損なう要因となります。
次世代拠点の構築に向け、事業者は以下のステップで検討を進めることが推奨されます。
- 自社拠点のエネルギー消費内訳の可視化
冷凍機、照明、マテハン機器ごとの電力比率とデマンドピークの発生時間を精緻に把握し、コスト抑制の余地が大きい領域を特定する。 - 人と機械の動線分離を前提としたレイアウト見直し
既存施設であっても、カーテン間仕切りやパーシャル消灯を活用し、作業員が存在しない保管ゾーンの照明・空調を局所的に抑制できる運用を検証する。 - 設備更新時期を見据えたベンダーとの協創
2030年の冷媒規制や老朽化に伴う設備更新のタイミングを捉え、単なる機器更新にとどまらず、天候連動やWMS連動に対応したAI制御プラットフォームの導入を要件定義に盛り込む。
現場のオペレーション知見と最先端の設備制御AIを融合させ、施設全体を収益を生み出す「経営資産」へと再構築する取り組みが求められています。
出典: Yahoo!ニュース
出典: ロジスティード株式会社 企業情報
出典: 日立製作所 ニュースリリース(2026年9月)
出典: 経済産業省 物流効率化法解説



