国土交通省は2026年10月27日、農林水産省や経済産業省など関係省庁を集めた「第2回物流政策推進関係者会議」を開催し、物流改善施策の進捗状況を共有しました。農林水産省が2027年度予算概算要求として前年度比1.6倍の341億4100万円を計上するなど、法規制の執行と連動した省庁横断の支援体制が提示されています。
省庁横断で加速する物流改革と関係団体の推進方針
2026年10月27日に開催された「第2回物流政策推進関係者会議」では、2026年3月に閣議決定された総合物流施策大綱および同年4月に全面施行された改正物流効率化法を踏まえ、各省庁の具体的な予算措置や監視体制、労使団体の要望が共有されました。
会議冒頭、朝日健太郎国土交通副大臣はトラックドライバーの担い手不足に対する危機感を示し、トラック適正化二法に基づく「適正原価」の導入に向けた制度設計を進めていると説明しました。荷主と物流事業者が対等な立場で適正な運賃・料金を収受し、円滑な価格転嫁を行えるよう、2026年7月から有識者検討会を通じて学識経験者、行政、労働組合、荷主団体からの意見聴取を重ねている状況が報告されています。
全日本トラック協会の坂本克己最高顧問は、トラック適正化二法の究極の目的は、エッセンシャルワーカーであるドライバーが自信と誇りと夢を持って職務に従事できる環境を整えることにあると強調しました。日本国憲法第13条の幸福追求権を引き合いに出し、現場従事者の処遇改善が産業界や荷主の持続可能性を支え、ドライバー・社会・経済の「三方よし」を達成する基盤になると述べています。
議事では、国土交通省の奈良和美大臣官房審議官(物流・自動車局担当)が、10月末を期限とする改正物流効率化法の中長期計画の提出状況や、10月・11月に実施されているトラック・物流Gメンの集中監視活動について説明を行いました。特定荷主や特定事業者から提出された計画のうち、荷主と連携した運送効率化や倉庫のパレット化推進、自動車部品販売会社による同業他社との配送共同化プロジェクトといった好事例を取り上げ、業界全体への水平展開を図る方針が示されました。
各省庁および労働側の報告要点は以下の通りです。
| 発表機関・団体 | 登壇者・担当役職 | 主な報告内容・施策方針 |
|---|---|---|
| 国土交通省 | 朝日健太郎 副大臣 奈良和美 官房審議官 | 適正原価導入に向けた検討進捗、10・11月トラック・物流Gメン集中監視の実施、物効法中長期計画の好事例横展開 |
| 農林水産省 | 原田達 食品流通課長 | 2027年度予算概算要求に341億4100万円(前年度比1.6倍)を計上、標準化・デジタル化・モーダルシフト支援 |
| 経済産業省 | 井上博雄 商務・サービス審議官 | 2027年度重点政策「稼ぐ力強化と賃上げの好循環」、エッセンシャルサービスの生産性向上と事業継続コスト軽減 |
| 全日本トラック協会 | 坂本克己 最高顧問 | トラック適正化二法によるドライバーの処遇改善、憲法13条に基づく幸福追求と「三方よし」の実現推進 |
| 運輸労連 | 成田幸雄 中央執行委員長 | 長時間労働前提の賃金体系からの脱却、全産業平均賃金の確保、荷待ち削減における通報者保護体制の確立 |
農林水産省は、食料・農業・農村基本法改正に伴う施策と連動させ、生鮮食料品等の安定供給を維持するため、物流標準化やデータ連携基盤の整備、モーダルシフト支援に向けた予算措置を大幅に拡充しています。経済産業省も中堅・中小企業の生産性向上を支援し、燃料費や労務費の高騰に対する事業継続コストの軽減策を打ち出しました。
意見交換では、公正取引委員会、厚生労働省、中小企業庁の担当官が連携状況を説明したほか、全日本運輸産業労働組合連合会(運輸労連)の成田幸雄中央執行委員長が発言しました。成田氏は、運送業界が長時間労働によって賃金水準を維持してきた過去の構造から決別し、実労働時間を短縮しながら全産業平均の賃金を確保する給与体系への移行が急務であると訴えました。さらに、改正物流効率化法が求める荷待ち時間削減に関して、ドライバー個人が荷主の現場で作業や待機を断ることは力関係上困難であるため、違反行為を情報提供した労働者や事業者が取引停止等の不利益を被らない厳格な保護の枠組みが不可欠であると指摘しました。
参考記事: 改正物流効率化法で2030年の輸送力25%不足を防ぐ計画策定
参考記事: 国土交通省の適正原価タリフ試算は標準比33%減、下限とモデルの二層構造へ
各ステークホルダーに及ぶ実務への影響
関係省庁が足並みを揃え、法規制の運用と予算措置を並行して進める方針を明確にしたことにより、サプライチェーンを構成する事業者には取引基準の見直しが求められます。
製造業者・荷主企業:計画提出から実効的パートナーシップへの移行
年間取扱貨物重量9万トン以上の特定荷主に対して課された中長期計画の提出期限(2026年10月末)を迎え、製造・流通企業は計画の策定段階から実行・検証フェーズへと移ります。今回の会議で示された通り、自動車部品販売会社による同業他社との配送共同化やパレット化の推進など、すでに提出された計画の中から効率化の好事例が国交省によって公表・共有されています。
荷主企業は、自社の物流効率化を単なる運賃抑制の手段として捉えるのではなく、運送事業者に対して荷待ち時間の削減や適正な附帯作業料の支払いを担保する協力体制を築かなければなりません。2028年6月までに全面施行されるトラック適正化二法の「適正原価」を見据え、下限割れの運賃で契約を継続している場合は、行政処分やコンプライアンス監査の対象となるリスクを負うことになります。
運送事業者:原価立証体制の確立と集中監視月間への対応
運送事業者にとっては、国が制度設計を進める適正原価の法制化と、10月・11月のトラック・物流Gメン集中監視の実施が強力な取引適正化の後押しとなります。しかし、運賃交渉において単に制度の存在を主張するだけでは、荷主側の合意を取り付けることは困難です。
自社の走行距離、稼働時間、実車率、待機時間などの実績データをデジタルタコグラフ等の運行管理システムで客観的に把握し、適正原価に自社の適正利益を加えた運賃根拠を明示できる体制が求められます。また、運輸労連が提起したように、現場で解決できない長時間の荷待ちや不当な附帯業務については、トラック・物流Gメンへの情報提供を通じて是正を促す動きが定着しつつあります。通報を行う運送事業者の側にも、日報や待機記録などの客観的エビデンスを揃えて申告する実務的な対応が欠かせません。
行政・規制当局:省庁縦割り打破と規制・予算のパッケージ運用
国土交通省、農林水産省、経済産業省が合同で政策推進会議を開催している背景には、物流問題が単一省庁の所管にとどまらない全産業の共通課題であるという認識があります。公正取引委員会や厚生労働省、中小企業庁も巻き込み、独占禁止法や下請法、労働基準法と連動させた監視体制が敷かれています。
農林水産省が2027年度概算要求で341億4100万円(前年度比1.6倍)を計上したように、規制による締め付けだけでなく、物流標準化やモーダルシフト、データ基盤整備に対する財政支援を拡充することで、事業者の投資負担を緩和するアプローチが鮮明です。規制の厳格化と設備投資支援をセットで運用することにより、法令違反の摘発にとどまらず、産業インフラとしての物流網の維持を官民一体で担保する体制が整えられつつあります。
参考記事: トラック・物流Gメン、6.3万社の通報を是正指導に導く客観的証拠
参考記事: [JAの約1割が特定荷主に指定|2026年10月末期限の物流中長期計画義務化](https://logishift.net/2026/10/01/post-9328/)
LogiShiftの視点:公的規制と連動する価格転嫁モデルへの不可逆的転換
第2回物流政策推進関係者会議で示された各省庁の施策展開は、日本の物流が「市場原理と個別企業間の力関係に委ねられた相対取引」から、全産業を支える重要インフラとしての「公的規制・適正価格転嫁モデル」へと完全に移行したことを示しています。
これまで運送事業者の収益性は、荷主の購買力や下請構造の多重性によって圧縮され続けてきました。しかし、2028年6月までに全面施行されるトラック適正化二法による適正原価(下限規制)の創設と事業許可5年更新制の導入により、コスト割れ取引を放置する運送事業者は市場から退場を余儀なくされます。同時に、荷主側に対してもトラック・物流Gメンの監視強化や改正物流効率化法の定期報告義務が課され、安価な輸送力を買いたたく調達手法は法的な事業リスクへと変貌しました。
さらに注目すべきは、農林水産省が概算要求で前年度比1.6倍となる341億4100万円を投じ、経済産業省が中小企業の生産性向上と事業継続コスト軽減を重点政策に据えた点です。これは、単に法規制で罰則を科すだけでなく、パレット標準化や共同配送、データ連携といった現場の構造改革に対して公的資金を重点配分する方針を意味しています。
企業に求められるのは、法令順守を免罪符とした形式的な書類提出ではなく、公的支援策を最大限に活用したサプライチェーンの物理的統合です。他社との共同配送やパレット化を推進し、荷待ちを極小化した高効率な運行ルートを提示できる荷主と運送事業者だけが、限られたドライバーリソースを安定確保できる環境へと選別が進みます。
取引適正化に向けて明日から確認すべき実務手順
法改正の施行と監視強化が同時進行する中、事業者が直ちに着手すべき実務対応は以下の3点です。
- 自社運行データに基づく原価計算の精度検証
直近の運行実績データ(走行距離、実拘束時間、実車率、燃料消費量)を集計し、現在の収受運賃が自社の運行原価および適正利益を担保できているかを再試行する。トラック適正化二法に基づく適正原価の告示に向け、荷主への価格交渉の論拠となるエビデンスを社内で体系化しておくことが求められる。
- 荷待ち・荷役時間のログ管理と拠点運用の見直し
入出場記録やバース予約システムのデータを活用し、自社拠点または取引先拠点でドライバーの待機時間が2時間ルールの基準内に収まっているかを確認する。10月・11月のGメン集中監視期間において指摘対象とならないよう、待機や付帯作業の発生状況を把握し、契約外作業がある場合は書面による事前合意または作業除外の手続きを進める。
- 省庁支援施策および優良事例の自社適用検討
農林水産省や経済産業省が2027年度に向けて計上している物流効率化予算の要件を精査し、標準パレットの導入、共同配送網への参画、予約受付システムの改修などに活用できる補助制度を特定する。先行して公表された自動車部品や倉庫事業者の好事例を参照し、自社サプライチェーンに適用可能な効率化策の策定に着手する。



