ロット管理完全ガイド|基礎知識から現場の運用ルール・DX戦略まで徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:ロット管理とは、同じ日、同じ工場など「同じ条件」で作られた製品のまとまり(ロット)に共通の番号をつけ、倉庫に入ってから出ていくまでを追跡・記録する管理方法です。製品の品質を保証するために欠かせない仕組みです。
  • 実務への関わり:現場では、入荷時にロット番号を確認してシステムに登録します。これにより、古い製品から先に出荷する「先入れ先出し」が確実に実行でき、有効期限切れによる廃棄を減らせます。また、万が一不良品が出た場合も、影響範囲を特定して素早く回収できます。
  • トレンド/将来予測:かつては紙やExcelでの手作業が多く、ミスや作業負担が課題でした。しかし現在は、WMS(倉庫管理システム)やバーコードなどを活用したデジタル化が進んでおり、人手不足を補う自動化といったDX推進が今後の主流になっていきます。

物流・サプライチェーンの高度化が進む現代において、品質保証と在庫最適化の要となるのが「ロット管理」です。食品の異物混入や医薬品の品質問題、製造業における大規模なリコールなど、たった一つのミスが企業の存続を揺るがす事態に発展するリスクが高まる中、精緻なトレーサビリティの確保は経営上の最重要課題となっています。本記事では、ロット管理の基本概念から「シリアル管理」との決定的な違い、導入によるメリットや現場が直面するリアルな課題までを網羅的に解説します。さらに、実務上の落とし穴を回避するための具体的な運用ルール作り、成功を測る重要KPIの設計、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた最新のシステム化戦略に至るまで、物流・SCM担当者が実務で即活用できる深い知見を圧倒的なボリュームでお届けします。

ロット管理とは?基本概念と重要性をわかりやすく解説

ロット管理の定義と目的

ロット管理とは、同じ製造日、同じ工場、同じ生産ラインといった「同一条件下で生産された製品のまとまり(ロット)」に共通の識別番号を付与し、入荷から保管、出荷までを一貫して追跡・管理する手法です。しかし、このような表面的な定義をなぞるだけでは現場の実務は回りません。物流・製造現場におけるロット管理の本質的な目的は、万が一の際のトレーサビリティ(追跡可能性)の確保と、厳密な有効期限管理に基づく先入れ先出しの完全な実現にあります。

実際の現場では、入荷時の荷受け担当者がメーカー発行のロット番号を外箱のラベル等から読み取り、在庫管理システムやWMS(倉庫管理システム)の在庫データに紐付ける作業から全てが始まります。ここで実務上の大きな落とし穴となるのが「メーカーごとのロット表記の揺れ」と「複数ロットの混載パレット」の処理です。A社は「製造年月日のみ」をロットとし、B社は「独自の英数字10桁」を用いるなど、荷主や仕入先によってロットの定義はバラバラです。これを入荷時に自社の管理基準にどう読み替えてマスタ登録するかが、最初のハードルとなります。

また、納品されたパレット内に異なるロットが混ざっている場合、入荷検品時に目視で仕分けて別々のロケーションに格納しなければ、ピッキング時に必ず「ロット割れ(システム上の引当と異なるロットを現物ピッキングしてしまう致命的なミス)」が発生します。一度ロット割れが起きると、以降のシステム上の在庫データと現物が連鎖的にズレていくため、デジタルでの自動化を推進しつつも、現場の物理的な仕分けルールを徹底することが実務におけるリアルなロット管理の姿と言えます。

「シリアル管理」との違いは?対象と用途の比較

ロット管理の導入や見直しを検討する際、DX推進担当者や現場責任者の間で必ず議論に上がるのが「シリアル管理との違い」です。この両者は、管理の「粒度」と「現場に与える作業負荷」において決定的な違いがあり、自社の商材特性を無視して要件定義を行うとプロジェクトは必ず失敗します。

ロット管理が「同一のグループ」を管理対象とするのに対し、シリアル管理は「製品1点ごと(個体)」に一意の製造番号(シリアルナンバー)を付与して管理します。以下の比較表で、それぞれの対象商材と用途を明確に整理しました。

比較項目 ロット管理 シリアル管理
管理の単位 グループ(同一条件下で製造されたまとまり) 個体(製品1点ごと)
主な対象商材 食品、飲料、医薬品、化粧品、一般消費財、アパレル PC、スマートフォン、高級家電、自動車部品、医療機器
主な目的 有効期限管理、先入れ先出し、大規模なリコール対応 保証期間の管理、盗難対策、ピンポイントでの修理・保守対応
現場の作業負荷 中(1ロットにつき1回の入力で複数個を一括処理可能) 高(入出庫時に100個あれば100回のバーコードスキャンが必須)

実務者が最も痛感する違いは、入出庫時のスキャン回数とピッキング工数です。ロット管理であれば「ロット番号A-001の製品が100ケース」という形で一括計上が可能ですが、シリアル管理は全数スキャンが求められます。「単価が低く回転率が高い商材」にシリアル管理を適用しようとすると、現場の作業ラインが完全に崩壊します。どこまでのトレーサビリティを求めるのかを天秤にかけ、適切な管理単位を選択することがシステム導入成功の鍵となります。

なぜ今、ロット管理が重要視されているのか

近年、食品の異物混入や製造業における品質データ改ざん問題などが多発し、消費者の安全意識やコンプライアンス要件は過去最高レベルに達しています。さらにSNSの普及により、一つの不良品が瞬時に拡散されブランドイメージを失墜させる時代です。企業にとってロット管理による精緻なトレーサビリティの構築は、もはや品質保証の「オプション」ではなく、企業存続を左右する「命綱」となっています。

具体的に、手書きやExcelの限界を突破し、本格的な在庫管理システムを伴うロット管理が急務とされる理由として、以下の3点が挙げられます。

  • 法規制・HACCP対応の義務化: 食品業界におけるHACCPの制度化や、医療・医薬品業界におけるGDP(Good Distribution Practice)ガイドラインの厳格化により、流通経路の全工程でロット単位の記録を残すことが実質的に義務付けられています。
  • 属人化からの脱却と労働力確保: ベテラン作業員の「記憶」や「勘」に依存した先入れ先出しを廃止し、システム主導の自動引当ロジックを用いることで、ピッキングミスを根絶します。これは外国人労働者やスポットスタッフを即戦力化するためにも不可欠です。
  • 廃棄ロスの削減とSDGsへの貢献: 厳格な有効期限管理により、倉庫の奥底に眠っていた古い在庫の出荷漏れ(期限切れによる強制廃棄処分)を防ぎます。これは企業の利益率を直接的に改善するだけでなく、食品ロス削減といった社会的責任(CSR)を果たす上でも極めて重要です。

これまで「現場の頑張り」でカバーしてきたロット追跡も、物流のスピード化・多品種化に伴い限界を迎えています。事業継続リスクの回避と在庫回転率の向上を両立するためには、ITツールを活用した確実な仕組みづくりが不可欠なのです。

ロット管理を導入する4つのメリット

1. トレーサビリティ(追跡可能性)の確保と品質保証

ロット管理最大のメリットは、サプライチェーン全体におけるトレーサビリティの確立です。「いつ、どの工場の、どのラインで、どの原料を使って製造され、どの顧客(卸売業者や小売店)へ出荷されたか」を製品群ごとに追跡できる状態を作ります。医薬品や精密部品の製造業においては、製造記録と出荷先記録をロット番号で完全に紐付けることで、厳格な品質保証体制を構築できます。

ここで重要なのは、品質保証部門が求める「完璧な追跡網」と、物流現場が許容できる「作業負荷」のバランスです。前述した個品管理(シリアル管理)を全製品に適用すれば完璧な追跡が可能ですが、現場はスキャン作業に忙殺されます。ロット管理は「製造単位(群)」で一括追跡するため、現場の入力負荷を低く抑えつつ、品質保証に必要な追跡精度を十分に担保できる、極めてコストパフォーマンスに優れた現実的な手法です。WMSとハンディターミナルを連携させれば、入荷時のバーコードスキャン一つでこれらのトレーサビリティ情報を瞬時にデータベースへ格納することが可能です。

2. 先入れ先出し(FIFO / FEFO)の徹底と在庫の最適化

物流倉庫において「先入れ先出し」は基本中の基本ですが、目視や属人的な判断に頼っていると、作業員が取り出しやすい手前にある商品からピッキングしてしまう「手前取り」がどうしても頻発します。ロット管理をシステム化することで、この課題を強制的にクリアできます。

さらに高度な物流現場では、単なる入荷日基準の「FIFO(First In, First Out)」から、有効期限・消費期限を基準とする「FEFO(First Expired, First Out:期限先出し)」へと管理レベルを引き上げることが可能です。入荷日が新しくても、製造ロットが古い(期限が短い)ものが納品されるケースは多々あります。WMSにロットと期限日を紐付けておけば、システムが自動的に「最も期限の近いロット」を判定し、作業員の端末へ「どのロケーションの、どのロットをピッキングするか」をピンポイントで指示します。

また、指示と異なる新しいロットのバーコードを誤ってスキャンした場合、エラー音で警告しシステム的に次の画面へ進めないようにする「システムロック」をかけることで、物理的に先入れ先出しを強制します。これにより、倉庫の奥に古いロットが滞留するデッドストックを防ぎ、在庫の鮮度維持を極限まで高めることができます。

3. 有効期限管理による廃棄ロス(期限切れ)の削減

食品や化粧品を取り扱う現場において、有効期限管理は企業の利益率に直結する最重要課題です。ロット管理をデジタル化することで、在庫管理システム上で「期限切れまであと何日か」を自動計算し、規定日数を切ったロットは引当不可(ロック状態)にする運用が可能になります。

特に食品物流における「3分の1ルール(賞味期限の3分の1を過ぎると小売店に納品できない商慣習)」など、納品先ごとに異なるシビアな納品期限条件に対しても、ロットベースの管理があれば圧倒的な強みを発揮します。システム内に「得意先条件マスター」を設定しておくことで、A社への出荷は残り期限が1/2以上のロット、B社へは1/3以上のロットといったように、システムが自動で出荷可否を判定・引当を行います。Excelでの目視チェックでは見落としがちな期限間近の在庫も、ダッシュボード上のアラート機能で早期に把握できるため、アウトレット販売や値引きへの切り替えといったアクションを迅速に起こし、廃棄ロスを劇的に削減できます。

4. 不良品発生時の回収(リコール)コスト最小化

万が一、製造不良や異物混入が発生した場合、ロット管理の精度が企業の運命を左右します。ロット管理が適切に行われていない場合、不具合の影響がどの範囲に及んでいるか特定できず、市場に流通している「全製品」を自主回収せざるを得ません。しかし、トレーサビリティが機能していれば、影響範囲を「特定のロットのみ」に限定でき、回収・廃棄にかかる莫大なコストとブランドダメージを最小限に食い止めることができます。

項目 ロット管理なし(全回収) ロット管理あり(ピンポイント回収)
対象範囲 市場流通品の全量 該当のロット番号のみ
回収・廃棄コスト 数千万〜数億円規模の甚大な損失 数十万〜数百万円規模に極小化
原因究明のスピード 広範囲な調査が必要で長期化 製造日時・原料ロットから即座に特定

先進的な企業では、リコール対応力を高めるための重要KPIとして「Mock Recall(模擬リコール)の完了時間」を設定しています。これは「あるロットに不具合があったと仮定し、そのロットが現在自社倉庫のどこに何個あり、すでにどの顧客へ何個出荷されたかを特定するまでの時間」を測る訓練です。ロット管理システムが正常に稼働していれば、この特定作業は数十分から数時間以内で100%完了させることが可能です。

ロット管理のデメリットと現場のリアルな課題

管理工数・現場の作業負荷の爆発的な増加

ロット管理は、品質を保証しリスクをヘッジするために不可欠な仕組みですが、管理の粒度を上げることは、そのまま「現場の作業負荷の爆発的な増加」という最大のデメリットに直結します。経営層や品質保証部門が理想とする管理体制と、日々の出荷ノルマに追われる物流現場の実態には、常に大きな乖離が存在します。

例えば入庫時、これまでは「商品Aが100個」と数えるだけで済んでいた検品作業が、「商品Aのうち、ロットXが40個、ロットYが60個」といった詳細な仕分けに変わります。現場の実務において最も苦しいのが「スペース効率(保管効率)の悪化」です。ロット混入を防ぐためには「1間口(ロケーション)につき1ロット」の原則を守る必要があります。そのため、ロットXが残り2個しかなく間口がスカスカでも、そこに新しいロットYを補充することは許されません。結果として倉庫内の空きスペースが無駄に消費され、保管キャパシティが逼迫します。

また、出荷時には厳格な先入れ先出しが求められるため、古いロットを奥から手前へ引き出す「棚替え作業」や、ピッキングエリアに常に古いロットを補充し続ける「ダブルトランザクション(補充作業)」の負担が急増し、動線の複雑化による生産性低下は避けられません。

Excelや手書き管理の限界とヒューマンエラー

多くの中小現場では、ロット情報の記録を依然として紙の野帳(クリップボード)やExcelに依存しています。しかし、このアナログな「バケツリレー式」の運用は、致命的なヒューマンエラーの温床となります。

製造業や食品・医薬品のロット番号は、「A1234-B567」のように桁数の多い英数字の組み合わせであるケースが一般的です。薄暗い倉庫内で、類似したロット番号(例:「B」と「8」、「O」と「0」など)を手書きで書き写す際の見間違いや、事務所に戻ってからExcelへ手入力する際の打ち間違いは日常茶飯事です。このようなミスが一つでも発生すれば、いざという時のトレーサビリティは完全に崩壊します。

また、情報のタイムラグも深刻な課題です。現場での動きがExcelに反映されるまでに数時間のズレが生じるため、「Excel上は古いロットの在庫があるから引当をかけたのに、現場に行くとすでに新しいロットが出荷されてしまっている」という在庫差異(逆転現象)が頻発します。このデータと現物のズレを修正するための棚卸しや調査に、現場管理者は膨大な時間を奪われることになります。

ノウハウの属人化とイレギュラー対応時の運用リスク

システム化されていないロット管理の現場で最も恐ろしいのは、運用のコア部分が特定の「ベテラン作業者の頭の中」に依存してしまう属人化のリスクです。得意先ごとの複雑な納品期限ルール(特採対応や日付指定など)を現場リーダーの記憶だけでさばいている状態は、その人物が休んだ途端に物流機能が麻痺する時限爆弾のようなものです。

さらに実務上の巨大な落とし穴となるのが、返品(リバースロジスティクス)におけるロット管理の崩壊です。一度出荷した製品が「良品戻し」として倉庫に返品されてきた際、外箱が開梱されていると元のロット番号が判別できないケースが多々あります。現場の判断でこれを「不明ロット」や「最新ロット」として適当に再入庫してしまうと、システム上の在庫と現物のロットが完全に乖離し、次にその商品をピッキングした際に必ずロット割れを引き起こします。

このように、ロット管理は現場に多大な負荷と属人化のリスクを強いる諸刃の剣です。これらのリアルな課題を乗り越え、真の意味で機能するトレーサビリティを確立するためには、現場の悲鳴を精神論で片付けず、運用ルールの抜本的な見直しと適切なITツールの活用へとステップアップしていく必要があります。

現場で失敗しない!ロット管理の具体的な運用方法とルール作り

最適な「ロット番号」の採番ルールと設定例

ロット管理の第一歩は、意味を持たせつつも現場が扱いやすい「ロット番号の採番ルール」を策定することです。現場で最も苦労するのは、メーカーから入荷した商品の「外装ロット(段ボールに印字されたロット)」と「内装ロット(個包装に印字されたロット)」が異なるケースです。自社でルールを策定する際は、ピッキングの最小単位となる包装形態に合わせて管理基準を統一する必要があります。

自社で製造を行う場合、採番は「不具合発生時に必要な情報」に絞り、作業者が直感的に理解できる長さに抑えることが重要です。

構成要素 桁数/文字例 意味・役割
製造年月日 231015 (6桁) 2023年10月15日製造。有効期限管理の基準となる必須項目
製造拠点・ライン A2 (2桁) A工場・第2ライン。不具合発生時の特定範囲を絞り込む
シフト・時間帯 M (1桁) M=Morning(午前シフト)。原料切り替えのタイミングを把握
連番(識別子) 01 (2桁) 同シフト内でのバッチ番号。過剰な生産によるロット肥大化を防ぐ

上記を組み合わせると「231015-A2M-01」となります。このルールを全社で統一することで、番号を見ただけで「いつ・どこで・どのタイミングで作られたか」を現場の作業員が瞬時に判断できるようになります。また、将来的なシステム連携を見据え、GS1-128などの標準バーコードへ変換することを前提とし、ハイフンを含まない固定長で設計しておくことも重要なポイントです。

トレースフォワードとトレースバックの仕組みづくりと重要KPI

食品・医薬品・化粧品をはじめとする現場では、ロット管理によって双方向の追跡網を機能させることが求められます。

  • トレースフォワード(追跡): 原材料や製造工程を起点とし、完成品が「どの卸売業者や店舗へ出荷されたか」を下流に向かって追う仕組みです。異物混入が発覚した場合、該当ロットの出荷先を即座に特定し、ピンポイントで製品回収(リコール)を行うために不可欠です。
  • トレースバック(遡及): 顧客からのクレーム報告を起点とし、製品ロット番号から「いつの、どのラインの製造か」「どのサプライヤーから納品された原料ロットか」を上流に向かって遡る仕組みです。これにより、原因究明のスピードが劇的に向上します。

この仕組みが正しく機能しているかを測るための重要KPIとして、前述の「Mock Recall(模擬リコール)の完了時間」のほか、「ロット割れ発生率」を現場の品質指標として設定することをお勧めします。システム上の引当ロットと、現場が実際にピッキングしたロットの不一致率を可視化することで、保管ルールやピッキング精度の改善に直結させることができます。

実務上の落とし穴:返品処理・混載パレットの運用ルール徹底

どんなに完璧な採番ルールを設計しても、現場で正しく運用されなければ絵に描いた餅です。導入時に現場が最も苦労するのは、先にも触れた「イレギュラー対応」です。

返品(良品戻し)の再入庫ルールは特に厳格化する必要があります。「ロットが判別できない返品は、良品であっても絶対に正規のピッキングロケーションに戻さず、専用の保留(ホールド)エリアへ隔離する」というルールを徹底します。また、パレットの端数(バラ)をスペースの都合で別ロットの箱に混載してしまうといった「ちょっとしたルール違反」を防ぐため、物理的な保管ルールとして「1間口1ロット」を厳守させ、端数は視覚的に目立つ専用の端数ロケーションで管理するといったマニュアル化が必須です。

万が一WMSなどのネットワークがダウンした際のバックアップ体制(一時的な手書き台帳への記録ルールと、復旧直後のシステム反映手順)も、必ず現場マニュアルに組み込んでおくべきです。しかし、ルールの徹底を進めれば進めるほど作業員の負荷は増大します。この物理的な限界を突破するためには、次セクションで解説するITツール活用が不可欠なステップとなります。

ロット管理を劇的に効率化するシステム化とDX戦略

在庫管理システム・WMS導入による自動化とペーパーレス化

ロット管理を導入する最大の障壁である「入力・確認工数の爆発的な増加」を劇的に解消し、強固なトレーサビリティを構築する唯一の解決策が、在庫管理システムやWMS(倉庫管理システム)を用いたDX戦略です。

WMSを導入することで、ロット情報は入荷から出荷まで一気通貫でデータ化されます。入庫時に製造日やロット番号を登録しておけば、システムが自動的に出荷すべきロットを判定し、ハンディターミナルに指示を出します。作業者は画面の指示に従い、指定されたロケーションのバーコードと商品・ロットのバーコードをスキャンするだけで、完璧な先入れ先出し(FEFO)が実現できます。

ここでDX推進の大きな障壁となるのが「組織的課題」です。多くの場合、基幹システム(ERP)を管轄する情報システム部門と、WMSを管轄する物流現場との間で、マスターデータ(商品コードやロットの桁数定義など)の持ち方について対立が生じます。サプライチェーン全体で有効期限管理を最適化するためには、ERP側の製造ロット・受注データと、WMS側の在庫データをシームレスにAPI連携させる必要があります。システム導入前に、各部門を横断したプロジェクトチームを立ち上げ、データ連携の仕様を徹底的にすり合わせることが成功の前提条件です。

バーコード・RFIDからIoTまで!最新のデータ入力手法

システムを導入しても、現場のデータ入力作業そのものが煩雑であっては意味がありません。入力工数を最小化するためには、最適なハードウェアデバイスとの組み合わせが不可欠です。現場の環境や商材に応じた代表的な入力手法を以下の表で比較します。

入力手法 メリット(現場視点) デメリット・実務での課題
バーコード / 2次元コード 導入コストが低く、既存のハンディターミナルを流用しやすい。GS1-128などの標準規格を使えば、有効期限やロット情報を一度のスキャンで取得可能。 一つずつスキャンする手間がかかる。食品工場などでの手袋着用時や、暗所・冷凍庫内での読み取り精度低下が課題。
RFID(ICタグ) ゲートを通過するだけで複数ロット・複数箱を一括で読み取れるため、入荷・出荷の検品工数が激減する。 タグの単価(数円〜十数円)がネック。また、液体や金属の多い商材・現場では電波干渉が発生し、読み飛ばしのリスクがある。
IoT重量計 / 画像認識 棚に置くだけで自動的に重量から残数を計算、またはカメラでロットラベルを自動OCR処理し、作業者の入力作業を実質ゼロにできる。 初期投資が高額。画像認識はラベルの汚れや印字の擦れ、倉庫内の照明環境に大きく依存するため、エラー時の手動補正フローが必要。

実務現場では、「すべてを最新のRFIDにする」といった極端なアプローチは失敗しがちです。パレット単位の移動にはRFIDを用い、ピッキング時の個品ロット確認には2次元コードを用いるといった、費用対効果を見極めたハイブリッドなデータ取得が現在の主流となっています。

DX推進時の組織的課題と労働力不足を見据えたシステム選定

なぜ今、ロット管理のシステム化に多額の投資をする必要があるのでしょうか。その背景には「物流2024年問題」、さらには労働人口の減少がより深刻化する「2026年問題」が横たわっています。ベテラン倉庫スタッフの「勘と記憶」に依存した属人的な運用は、もはや崩壊の危機にあります。自動搬送ロボット(AGVやAMR)や自動ソーターなどの省人化機器を導入する際にも、精緻なロット管理データが根底になければ機器は正しく稼働しません。

経営層からシステム導入の予算を引き出すためには、明確なROI(投資対効果)の提示が必要です。「期限切れによる廃棄ロス削減額」+「ピッキング時のロット探索工数・棚卸し工数の削減額」+「万が一のリコール発生時に回避できる想定被害額」を算出し、システム投資がいかに強力な経営インパクトをもたらすかを定量的に示してください。

これからの時代を生き抜くためのシステム選定では、機能の多さよりも「現場が使いこなせるか」が最重要です。外国人労働者やスポット派遣社員でも直感的に操作できるシンプルなUI/UXを備え、一部ロットの出荷保留(ホールド)といったイレギュラー対応を現場の権限でスムーズに行える柔軟なシステムを選ぶことが求められます。ロット管理の高度化は、不具合発生時の迅速な対応という「守りのリスク管理」と、属人化を排除し多様な人材を即戦力化する「攻めの労働力対策」を両立する、最重要の経営戦略です。本記事を参考に、自社の現場運用に最適な仕組みづくりに向けた第一歩を踏み出してください。

よくある質問(FAQ)

Q. ロット管理とは何ですか?

A. ロット管理とは、同じ条件で製造・入荷された製品のまとまり(ロット)ごとに番号を割り当てて在庫や品質を管理する手法です。食品や医薬品の期限管理、製造業の品質保証において重要な役割を果たします。万が一不良品が発生した際も、ロット番号から原因の特定や対象商品の迅速な追跡・回収が可能になります。

Q. ロット管理とシリアル管理の違いは何ですか?

A. ロット管理が「同じ条件で製造された製品のグループ(まとまり)」ごとに番号を付与するのに対し、シリアル管理は「製品一つひとつ(個体)」に固有の番号を割り当てて管理する手法です。ロット管理は食品や日用品の期限管理などに、シリアル管理は家電やPCなど個体別の保証や修理履歴の追跡にそれぞれ適しています。

Q. ロット管理を導入するメリットは何ですか?

A. ロット管理導入の最大のメリットは、精緻なトレーサビリティの確保による品質保証です。不良品発生時の迅速な原因特定やリコール(回収)コストの最小化が可能になります。また、先入れ先出し(FIFO/FEFO)や有効期限の管理が徹底されるため、期限切れによる廃棄ロスを防ぎ、在庫の最適化を実現できる点も大きな利点です。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。