一般貨物運送とは?許可要件から収益最大化の実務、2024年問題への対応まで徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:一般貨物運送とは、緑ナンバーを付けたトラックを使って、不特定多数の荷主から依頼を受けて有償で荷物を運ぶ事業のことです。参入には国からの厳しい許可が必要であり、安全に荷物を届けるという重要な社会インフラとしての役割を担っています。
  • 実務への関わり:事業を行うには、運行管理者による日々の点呼や労働時間の管理など、徹底したルール遵守が求められます。複数の荷主から柔軟に仕事を受けられるため、帰り道の空車を減らして収益を最大化する工夫や、適正な運賃交渉のための原価計算が現場で重要になります。
  • トレンド/将来予測:2024年以降の労働時間規制による人手不足が深刻化する中で、事業者の再編や他社と協力して荷物を運ぶ協業モデルが増加しています。配車システムなどの物流DXの導入が進む一方、システム障害に備えたアナログな対応力を含めた組織づくりが急務となっています。

現代のサプライチェーンにおいて、物流は単なる「モノの移動」から「戦略的な付加価値の源泉」へと変貌を遂げています。中でもトラック輸送は国内貨物輸送量の大部分を担う社会の血液であり、その根幹をなすのが各種の運送事業制度です。貨物自動車運送事業は、適用される法的区分によって参入ハードルや日々の実務運用、そして収益モデルが劇的に変わります。事業計画の立案や物流システムの導入検討において、この土台となる制度を正確に把握することは不可欠です。本記事では、法律で定められた正式名称である「一般貨物自動車運送事業」「特定貨物自動車運送事業」「貨物軽自動車運送事業」の定義を比較し、現場で直面する実務上の落とし穴や、収益最大化のための重要KPI、そして物流DXの推進に向けた組織的課題まで、日本一詳細な視点で徹底解説します。

一般貨物自動車運送事業とは? 定義と他事業との違い

法律に基づく「一般貨物自動車運送事業」の定義と社会的使命

貨物自動車運送事業法上、「一般貨物自動車運送事業」とは、他人の需要に応じ、有償で自動車(三輪以上の軽自動車及び二輪の自動車を除く)を使用して貨物を運送する事業を指します。いわゆる「緑ナンバー(事業用自動車)」を付けたトラックでの事業であり、国土交通大臣の厳しい審査を経た「許可」が必要となります。この制度の根底には「輸送の安全確保」と「公共の福祉の増進」という強力な社会的使命が存在します。

現場の物流実務者にとって、一般貨物の許可取得・維持は、経営における最重要かつ最も労力を要する課題です。なぜなら、単にトラックに荷物を積んで走らせるだけでなく、国家資格を持つ「運行管理者」の選任が絶対条件となり、毎日の対面点呼、アルコールチェック、厳格な労働時間管理(改善基準告示の遵守)、定期的な健康診断や適性診断の受診など、コンプライアンス遵守のハードルが極めて高く設定されているからです。

近年では物流DXの推進により、IT点呼やクラウド型動態管理システムによる業務効率化が進んでいますが、実務上の落とし穴は「システムに依存しすぎた場合の脆弱性」にあります。例えば、配車システムや連携するWMS(倉庫管理システム)、クラウドサーバーが通信障害でダウンした際、運行管理者が即座に紙の配車表やホワイトボード、電話によるアナログな緊急指示系統へとバックアップ体制(BCP:事業継続計画)を切り替えられるかどうかが、プロの現場を支える生命線となります。システムはあくまでツールであり、最終的に輸送の安全を担保するのは現場の強固な組織力です。

特定貨物自動車運送事業との違い(単一荷主リスクの実態)

起業検討時や新規事業参入時に迷いやすいのが、「特定貨物自動車運送事業」との違いです。特定貨物とは、特定の「単一荷主」の貨物のみを有償で運送する事業です。車両規模や緑ナンバーを使用する許可制である点は一般貨物と同じですが、決定的な違いは「不特定多数の荷主から仕事を受けられない」という法的制限にあります。

現場のリアルな運用で言うと、特定貨物は大手メーカーなどの専属下請けとしてスタートすることが多く、契約当初は車両稼働が安定しているように思えます。しかし、最大のリスクは「荷主企業の業績悪化や物流戦略の変更、最悪の場合は倒産」が、即座に自社の存続危機に直結することです。運送業の利益を左右する重要KPIに「実車率(総走行距離のうち、実際に荷物を積んで走った距離の割合)」がありますが、特定貨物の場合、帰り便(復路)を利用して他社の荷物を積む(求車求荷システムの利用等)といった柔軟な運用が法的にできません。常に片道が空車(空気を運ぶ状態)となるリスクを抱え、利益率の改善に構造的な限界が生じます。

そのため、実務上は特定貨物でスタートした運送企業であっても、事業規模の拡大やリスクヘッジの観点から、一般貨物への切り替え(事業計画変更)を行うケースが圧倒的多数を占めます。一般貨物へ移行することで、複数荷主との柔軟な契約が可能になり、共同配送の構築や、国交省が推奨する「標準的運賃」を用いた適正な運賃交渉の土俵に上がることができるのです。

貨物軽自動車運送事業との違い(スケールアップ時の組織的壁)

次に、EC市場の急拡大に伴いラストワンマイル配送の現場で爆発的に増加している「貨物軽自動車運送事業」との違いを整理します。こちらは軽トラックや軽バンを使用し、いわゆる「黒ナンバー」を付けて行う事業です。一般貨物が非常に厳しい「許可制」であるのに対し、軽貨物は運輸支局等への「届出制」であり、資金要件の縛りもなく、車両1台から即日または短期間で開業できるのが最大の特徴です。

以下の比較表にて、各事業の違いを視覚的に整理しました。

比較項目 一般貨物 特定貨物 軽貨物
法的名称 一般貨物自動車運送事業 特定貨物自動車運送事業 貨物軽自動車運送事業
対象荷主 不特定多数 単一(特定の荷主のみ) 不特定多数
使用車両 普通車・大型車等(三輪・二輪除く) 普通車・大型車等(三輪・二輪除く) 軽自動車・二輪車
ナンバー色 緑ナンバー 緑ナンバー 黒ナンバー
行政手続き 許可制(厳格な審査・数ヶ月〜1年) 許可制(厳格な審査・数ヶ月〜1年) 届出制(即日〜数日)
最低車両台数 営業所ごとに5台以上 営業所ごとに5台以上 1台から可能
運行管理者の配置 必須(国家資格) 必須(国家資格) 不要(※要件により安全運転管理者は必要)

実務的な苦労のポイントとして、軽貨物で起業した個人事業主や法人が事業のスケールアップを狙い、新たに一般貨物の許可を取得しようとする際、強烈な「組織化の壁」に直面します。軽貨物の世界ではドライバーが個人事業主(業務委託)であることが多く、稼いだ分だけ報酬を得る歩合制が主流です。しかし一般貨物では、労働基準法や改善基準告示に基づく厳密な労働時間管理、残業代の計算、社会保険の加入など、個人事業主感覚の柔軟(悪く言えばルーズ)な管理から、組織的な労務管理体制へと劇的にアップデートしなければなりません。ここで生じるドライバーの反発(「手取りが減る」「縛られるのは嫌だ」といった離職リスク)や事務作業の煩雑化を乗り越えるためのマネジメント力が、経営者に強く求められます。

一般貨物自動車運送事業の許可要件と取得フロー

許可取得に必要な5つの要件(人・物・金・場所・欠格事由のリアル)

一般貨物自動車運送事業として不特定多数の荷主から業務を請け負うためには、実務上クリアすべき非常に厳格な基準が存在します。行政書士などの専門家や物流企業の経営層が現場で直面するレベルのリアルな許可要件は以下の5つであり、これらを申請時から許可取得時まで継続して満たす必要があります。途中で一つでも要件を欠くと不許可となるため、綿密な事業計画が不可欠です。

  • 1. 人の要件(最大のボトルネック):
    最低でも運転者5名、そして有資格者の「運行管理者」と整備管理者が各1名必要です。実務において最大の壁となるのが運行管理者の確保です。試験の合格率は約30%前後と難易度が高く、有資格者の採用は年々困難になっています。もし稼働後に運行管理者が退職して不在となれば、事業停止処分(営業用トラックの運行不可)に直結します。そのため、経営層自らが資格を取得することはもちろん、複数名の有資格者を配置するバックアップ体制が必須です。また、ドライバーに対しても社会保険等の未加入は絶対に許されません。
  • 2. 物の要件:
    営業所に配置する事業用自動車(トラック等)が5台以上必要です(※霊柩車や島しょ部などの例外を除く)。すべて自社所有である必要はなく、リース契約でも車検証の「使用者」が自社であれば問題ありません。近年は新車トラックの納期遅延や中古トラック市場の高騰が続いているため、申請前から確実な車両確保のルートを確立しておく必要があります。
  • 3. 金の要件(残高証明の罠):
    事業開始に要する資金(車両費、土地建物費、1年分の保険料、数ヶ月分の運転資金など)を全額自己資金で確保している必要があります。実務上の深刻な落とし穴は、「申請受付時」と「許可処分時(数ヶ月後)」の計2回、銀行の残高証明書の提出が求められる点です。この待機期間中(半年近くに及ぶこともあります)に、別事業への投資や設備支払いで口座残高が要件金額を1円でも下回ると、即座に申請が取り下げ扱いになります。キャッシュフローが完全にロックされる期間の長さを経営計画に織り込む必要があります。
  • 4. 場所の要件(前面道路トラブル):
    営業所、休憩・睡眠施設、そしてすべての車両を収容できる車庫が必要です。都市計画法や農地法に抵触しない(市街化調整区域の原則不可など)ことは当然ですが、実務で一番詰まるのが「車庫の前面道路の幅員証明」です。車両制限令に基づき、出入りする最大車両に対して十分な道路幅員が確保されているか、自治体の道路管理課から幅員証明書を取得する必要があります。しかし、現地実測と公図にズレがあったり、行政と警察で認識が異なったりすることで、申請が数ヶ月ストップするケースが頻発しています。
  • 5. 欠格事由:
    申請者(法人の場合は役員全員)が、貨物自動車運送事業法等の違反により罰金以上の刑に処せられ、一定期間を経過していないなどの事由に該当しないことが求められます。

事業開始までの具体的な手続き・期間と巡回指導への備え

許可要件を整えた後、実際に緑ナンバーのトラックを稼働させるまでのフローは以下の通りです。運輸支局が公表する標準処理期間は「3〜5ヶ月」ですが、事前の物件探しや行政窓口での事前相談を含めると、実務上は半年から1年以上の長期プロジェクトになります。

ステップ 手続き内容 実務現場での注意点・期間目安
1. 事前準備・申請 運輸支局へ許可申請書および添付書類一式を提出 前述の「場所の要件(幅員証明等)」のクリアに数ヶ月。申請書類は数十ページに及び、資金要件の厳密な計算(自賠責や任意保険の掛金まで網羅)が必要です。
2. 役員法令試験 申請受理の翌奇数月に、法人の常勤役員が法令試験を受験 合格率50%前後の難関です。これに合格しないと実体的な審査が開始されず、2回不合格で申請は取り下げ(最初からやり直し)となります。経営トップ層の徹底した過去問対策が必須です。
3. 審査・許可書の交付 運輸局での審査完了後、許可証の交付式に出席 審査期間(標準処理期間)は約3〜5ヶ月。この間に前述の「2回目の残高証明提出」があります。交付時に登録免許税(12万円)の納付が必要です。
4. 各種届出・緑ナンバー取得 運行管理者・整備管理者の選任届出、事業用自動車等連絡書の取得、車検証書の書き換え ここから実働部隊が猛スピードで動きます。車両のナンバーを事業用の緑ナンバーへ変更します。同時に、デジタコやドラレコ等の通信機器のセットアップ、任意保険の切り替えを数日内で一気に完了させる高度なスケジュール管理が求められます。
5. 運輸開始届と適正化事業実施機関の巡回指導 営業開始後、運輸支局へ運輸開始届を提出。その後、数ヶ月以内に巡回指導が入る 許可日から「1年以内」に運輸を開始し、開始後速やかに提出します。実務上の最大の壁は、開始後に行われる「適正化事業実施機関(トラック協会等)による新規事業者向け巡回指導」です。運転者台帳、点呼記録簿、乗務記録、拘束時間の管理帳票などが適法に運用されているか厳格にチェックされ、悪質な場合は行政監査へと移行します。

このように、一般貨物運送の立ち上げは単なる書類作成の枠を超え、人・物・金・場所をダイナミックに動かす経営課題そのものです。運輸開始はゴールではなく、コンプライアンスという終わりのないマラソンのスタート地点に過ぎません。

一般貨物運送で使用される主な車両の種類と戦略的選定

トラックの形状と用途(平ボディ・バン・ウィング車)と荷役の課題

運送事業の収益性は、「何を」「どうやって」運ぶか、つまり導入する車両の形状に大きく依存します。自社のターゲットとする荷主の特性や、今後のビジネスモデルを見据え、どのような形状の車両を揃えるかが経営の成否を大きく左右します。一般貨物運送においてベースとなるのが、ドライ(常温)貨物を運ぶ以下の3つの形状であり、これらは輸送する貨物だけでなく、現場の「荷役手法」を決定づけます。

  • 平ボディ(オープンデッキ)
    屋根がなく、荷台が露出している古くからある形状です。鋼材、建設機械、木材などの長尺物や重量物において、クレーンを使って上方から積み込む「上積み」が必須の現場で重宝されます。しかし現場のリアルとして、雨天時の「シート掛け(固縛)」という重労働と高所作業による転落リスクがドライバーの大きな負担となります。このシート掛けの手間や危険手当を、運賃とは別の「附帯業務料金」として荷主から適切に収受できるかが、収益化の鍵を握ります。
  • バン車(箱車)
    荷台がアルミ等の箱で覆われており、後方の観音扉から荷役を行います。雨風や盗難から完全に貨物を守れる反面、原則として手積み・手降ろしや、カゴ車でのプラットホーム付け(ロールイン)に限られます。側面からのパレット荷役には向かないため積込・荷降ろしの待機時間が長引きやすく、最新のバース予約システムや自動荷役機器を活用した「待機時間削減」の取り組みが最も急務となる車種です。
  • ウィング車
    荷台の側面が鳥の羽(ウィング)のように油圧で跳ね上がる形状です。側面からフォークリフトで一気にパレット積みが可能なため、パレット化が進む現代の物流(2024年問題対策)において主力となっています。積載率の向上や荷役時間の劇的な短縮が見込める一方、倉庫の庇(ひさし)に開いたウィングを激突させる物損事故が後を絶ちません。運行管理者による徹底した拠点ごとの施設情報(天井高・進入角度・強風の有無)の共有と安全教育が不可欠です。

特殊輸送車両(冷蔵冷凍車・ダンプ等)と投資回収の考え方

さらに収益性を高め、競合他社に対する圧倒的な優位性(参入障壁)を築くためには、特殊な構造を持つ車両の導入が選択肢に入ります。しかし、これらは車両価格(上物・架装費用)が非常に高額となるため、精緻な投資回収シミュレーションと原価管理が求められます。

  • 冷蔵冷凍車(チルド・フローズン)
    荷台に断熱材と冷凍機を備え、食品や医薬品の定温輸送を行います。近年は前室と後室で異なる温度帯を設定できる「2層式(2エバポレーター)」が主流です。現場で最も苦労するのが「温度証明の担保と品質事故リスク」です。車載の温度記録計とシステムを連携させることが常識となっていますが、万が一機器が故障した場合、数千万円単位の貨物事故(温度逸脱による全量廃棄・荷主からの損害賠償)に直結します。定期的な冷凍機のメンテナンス費用を原価にしっかり組み込む必要があります。
  • ダンプ車・タンクローリー
    土砂や産業廃棄物、化成品や食品バルク(液体)などを輸送します。これらは「往復で違う荷物を積む」ことが極めて難しく、構造的に空車回送リスクが高くなります。そのため、往路の片道運賃だけで往復分の原価と利益を賄える強気な運賃設定が必要です。特にタンクローリーでは、前回積載した物質が混入する「コンタミネーション(異物混入)」を防ぐための「洗浄証明書」の厳密な発行と洗浄コストの負担ルールを明確にすることが実務上の絶対条件となります。

事業を立ち上げる、あるいは増車する際は、単なる「積載トン数」だけでなく、車両の残価設定(数年後の売却価値)や、現場の荷役実態、非常時の業務継続計画(BCP)までを見据えた車両選定を行うことが、結果として利益率の向上とドライバーの定着に繋がります。

一般貨物運送の運賃体系と収益最大化のための重要KPI

一般貨物の基本的な運賃体系と原価計算の徹底

厳しい審査を経て許可を取得した後、多くの経営者が直面する最大の壁が「適正な運賃設定と収益化」です。初期投資(車両代、営業所確保、システム導入など)を回収し、事業を継続させるためには、業界にはびこる「どんぶり勘定」からの脱却が不可欠です。一般貨物運送では不特定多数の荷主の多様なニーズ(大ロット、長距離、特殊荷役など)に応えるため、以下の運賃体系を最適に組み合わせるのが実務の基本です。

運賃体系 概要と適用シーン 実務上の運用リスクと重要KPI
距離制運賃 営業所から積地、降地までの実車走行距離をベースに算出。チャーター便や長距離輸送で主流。 渋滞や悪天候による所要時間増がダイレクトに収益を圧迫します。重要KPIは「実車率」。配車時の回送距離(空車走行)をいかに減らし、帰り荷(復路の荷物)を確実におさえるかが黒字化の鍵です。
時間制運賃 車両とドライバーを拘束した「時間」で算出。ルート配送や搬入・据付作業を伴う現場への納品に適用。 荷主都合による「待機時間」の扱いが最大のトラブル要因です。重要KPIは「車両稼働率」と「待機時間削減率」。超過した場合は「超過料金」として請求できる取り決めを標準運送約款に基づき事前契約に盛り込むことが必須です。
個建・重量制運賃 荷物1個あたり、または重量(トン/kg)あたりで算出。路線便(特合せ)やパレット輸送で採用。 重要KPIは「積載率」。容積は大きいが軽い荷物の場合、実重量ベースではトラックの空間が埋まっても売上が立たず大赤字になります。容積重量換算(才数計算)を厳格に行う荷姿確認の現場フローが求められます。

これらを適切に運用するためには、「正確な原価計算」が不可欠です。車両1台を1日稼働させるのにいくらかかるのか。固定費(車両の減価償却費、各種保険料、車庫代、運行管理者等の間接部門人件費)と変動費(燃料費、修繕費、タイヤ代、高速代)を精緻に算出し、損益分岐点を常に把握する仕組み作りが経営の第一歩です。

「標準的運賃」の活用とタフな運賃交渉を支えるエビデンス

昨今の深刻なドライバー不足や燃料費の乱高下を受け、国土交通省は適正な運賃収受の指標として「標準的運賃」を告示しています。しかし、物流の最前線では「標準的運賃のタリフ(運賃表)をそのまま提示しても、荷主の予算と合わず失注してしまう」というジレンマに陥る企業が後を絶ちません。ここで必要になるのが、デジタルツールを活用した客観的なエビデンスに基づくタフな交渉力です。

実際の現場では、基本となる運賃に加え、燃料サーチャージ、高速道路料金、休日・深夜割増、そして「待機時間料」や「附帯業務料(手積み・手降ろし、フォークリフト作業、ラベル貼りなど)」を明確に切り分けて請求する必要があります。ここを曖昧にした「運賃込み込み(オールイン)」の契約を結ぶと、ドライバーの労働力だけが無料で搾取される事態に陥ります。

荷主との交渉において、現場の「待機が長くて大変」「手降ろしがキツイ」という感情的な訴えは通用しません。クラウド型の動態管理システムやデジタルタコグラフのデータを活用し、「特定センターでの月間平均待機時間が120分であり、原価換算で月額〇〇万円の逸失利益が発生している」「パレット積みから手降ろしに変更されたことによる作業時間のロス」などを客観的な数値データとして提出することが、値上げ交渉成功の絶対条件です。適正運賃の収受は、車両の適切なメンテナンスやドライバーの待遇改善に直結し、結果として「輸送の安全」を守ることに繋がります。

一般貨物運送業の未来:2024年以降の業界再編と物流DXの実践

2024年・2026年問題がもたらす業界再編と協業モデルの台頭

自動車運転業務における時間外労働の上限規制が適用された「2024年問題」は、業界再編の序章に過ぎません。現場ではすでに、改善基準告示(拘束時間や休息期間のルール)のさらなる厳格化や労働力不足のピークが懸念される「2026年問題」を見据えた生き残り競争が始まっています。労働時間の制約から、従来のドライバー1名による「長距離・車上泊モデル」は物理的に崩壊しつつあります。

こうした中、業界では以下のような再編と新たなビジネスモデルが急速に進行しています。

  • 事業承継とM&Aの加速:経営者の高齢化と、コンプライアンス維持やシステム投資に必要な資金の不足から、自社の緑ナンバー(事業許可)を単独で維持できず、管理体制の整った大手・中堅企業へのM&A(事業譲渡)を選択する企業が急増しています。
  • 中継輸送とスワップボディの導入:長距離輸送を維持するため、中間地点でドライバーが交代する「中継輸送」や、荷台部分(スワップボディ)のみを切り離してトラクタを交換する方式の導入が進んでいます。これにより、ドライバーは日帰り運行が可能となり、労働環境が劇的に改善されます。
  • 共同配送とネットワークの再構築:単一の荷主や自社だけのネットワークに固執する時代は終わりました。同業他社との共同配送(積載率の向上)や、ラストワンマイルを機動力でカバーする軽貨物事業者との業務委託連携を図り、輸配送ネットワークを再構築する動きが急務となっています。

物流DX推進時の組織的課題とチェンジマネジメント

これら業界再編の荒波を乗り越え、複雑化する運賃体系や分単位の労務管理を適法に運用するための唯一の生存戦略が「物流DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。配車計画のAI自動化、クラウド動態管理、電子受領書(電子サイン)の導入など、テクノロジーの進化は目覚ましいものがあります。しかし、「システムを入れれば明日からバラ色になる」ほど物流現場は甘くありません。

現場へのシステム導入時、経営層が直面する最大のハードルは「組織的課題(現場の反発)」です。例えば、これまで長年の勘と経験で業務を回してきたベテランドライバーが、スマートフォンでの動態管理アプリの操作を「面倒だ」「会社から監視されているようだ」と拒否し、シャドーIT(会社の許可を得ない個人のLINE等での業務連絡)へ逃避するケースは日常茶飯事です。また、配車担当者も「AIに自分の仕事を奪われる」という警戒心から、システムの運用をサボタージュすることがあります。

この組織的課題を解決する「チェンジマネジメント(変革管理)」こそが経営層の責務です。文字を極大化しタップ数を最小限に絞った使いやすいUI/UXの選定はもちろん、導入初期に運行管理者や経営陣自らがトラックに横乗りして操作を直接教え込むといった泥臭いサポートが成否を分けます。「このシステムは皆さんを監視するためではなく、皆さんの待機時間を減らし、適正な給与を支払い、過労事故から守るための強力な盾なのだ」という目的を根気強く対話することが不可欠です。

これらの実務的な壁を乗り越えて物流DXを現場に定着させた企業は、配車業務の属人化解消、リアルタイムな労務アラートによる法令違反の未然防止、そしてデータに基づく荷主との対等な運賃交渉という、圧倒的な競争優位性を手に入れることができます。一般貨物自動車運送事業の許可を確固たるものにし、次世代へ事業を力強く繋ぐために、今こそ自社の組織体制を見直し、現場に寄り添ったDXを一歩ずつ進めていくことが求められています。

よくある質問(FAQ)

Q. 一般貨物運送(一般貨物自動車運送事業)とは何ですか?

A. 一般貨物運送とは、他人の需要に応じ、有償でトラックを使用して貨物を運送する事業のことです。法律で定められた正式名称は「一般貨物自動車運送事業」であり、国内貨物輸送の大部分を担っています。特定の荷主のみを対象とする「特定貨物」や軽自動車を使用する「軽貨物」とは明確に区分されます。

Q. 一般貨物運送と特定貨物運送の違いは何ですか?

A. 最大の違いは「対象となる荷主の数」です。一般貨物運送は不特定多数の荷主から依頼を受けて貨物を運びますが、特定貨物運送は「特定の単一荷主」のみを対象として運送を行います。一般貨物の方が幅広く営業できる反面、特定貨物には単一荷主リスクが伴うなど、実務運用や収益モデルが大きく異なります。

Q. 一般貨物運送の許可要件は何ですか?

A. 許可を取得するには、「人・物・金・場所・欠格事由」の5つの要件を全て満たす必要があります。具体的には、有資格者や運転者の確保(人)、基準を満たすトラックの用意(物)、事業開始に必要な自己資金(金)、適切な営業所・車庫の設置(場所)、過去の法令違反等の欠格事由に該当しないことが求められます。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。