- キーワードの概要:先に仕入れた(入庫した)商品から順番に出荷するという、物流や在庫管理における最も基本的なルールです。商品の品質劣化を防ぎ、廃棄ロスを減らすために欠かせない考え方です。
- 実務への関わり:現場で徹底することで、商品の鮮度維持や正確な在庫把握が可能になり、顧客満足度の向上につながります。作業動線が複雑になるといった課題もありますが、適切なラック設備やシステムの導入で解決できます。
- トレンド/将来予測:物流業界の労働力不足やコンプライアンス要件の厳格化を背景に、WMS(倉庫管理システム)や自動倉庫などのデジタル技術を活用し、先入先出の管理を自動化・効率化する動きが急速に進んでいます。
物流やサプライチェーン管理において、最も基本的でありながら最も奥深い原則が「先入先出(FIFO)」です。日々の庫内オペレーションから、経理部門における棚卸資産評価まで、企業活動の根幹を支えるこの概念は、昨今の「物流2026年問題」に代表される慢性的な労働力不足とコンプライアンス要件の厳格化を背景に、その重要性をさらに増しています。
本記事では、先入先出の基本定義から始まり、現場が直面するリアルな課題と実務上の落とし穴、そして最新のマテリアルハンドリング(保管設備)やWMS(倉庫管理システム)を活用したDXアプローチ、業界別のベストプラクティスまで、圧倒的な網羅性と専門性で徹底解説します。単なる理論に留まらず、現場の生産性と品質をいかに両立させるかという「超・実務的」な視点から、在庫管理のプロフェッショナルが知るべき知見を余すところなく提供します。
- 先入先出(FIFO)とは?図解でわかる基本定義
- 物流における先入先出(品質管理・消費期限管理)
- 会計・財務における先入先出法(棚卸資産評価への影響)
- 先入先出(FIFO)と後入先出(LIFO)の違い【比較表】
- 物流現場で先入先出を徹底する3つの最大のメリット
- 商品劣化・陳腐化・滞留による廃棄ロスの徹底削減
- 厳密なトレーサビリティ確保と顧客満足度の向上
- 棚卸し作業の抜本的効率化と正確な在庫・資産把握
- 先入先出のデメリットと陥りやすい実務的課題(落とし穴)
- 保管スペースの圧迫と保管効率の大幅な低下
- 入出荷の作業動線複雑化とヒューマンエラーの誘発
- 返品処理やイレギュラー対応によるFIFOの崩壊
- システム障害(WMS停止)時のブラックボックス化リスク
- 先入先出を効率的に実現する具体的な保管設備(マテハン)
- 流動ラック(フローラック)による自然な動線分離と強制FIFO
- 両側アクセスのパレットフローラックと傾斜ラック
- 自動倉庫(AS/RS)とシャトル式ラックによる完全自動化
- 【DX・システム化】先入先出の精度を高める最新アプローチと実装手順
- WMS(倉庫管理システム)によるロット・日付管理の完全自動化
- ハンディターミナル・DPS・AMRによるピッキング作業支援
- 組織的課題を乗り越えるDX実装の3ステップと重要KPI
- 業界別に見る先入先出の運用事例と重要ポイント
- 食品・医薬品業界(厳格な消費期限・FEFO管理の絶対防御)
- アパレル・EC・日用品業界(トレンド変化・状態劣化への対応)
- 製造業・部品サプライヤー(ジャスト・イン・タイムと設計変更)
先入先出(FIFO)とは?図解でわかる基本定義
物流や在庫管理の現場、あるいは経理部門などで日常的に飛び交う「先入先出」。まずはこの概念を明確に定義します。先入先出とは、英語の「First In, First Out」の頭文字をとって「FIFO(ファイフォ、またはフィーフォ)」とも呼ばれ、両者は全くの同義として扱われます。「先に仕入れた(入庫した)ものから順番に払い出す(出庫する)」という非常にシンプルな原則ですが、実務においては物流現場における「品質管理・消費期限管理の手法」と、経理・財務における「棚卸資産評価の会計手法」という2つの重要な側面を持っています。
物流における先入先出(品質管理・消費期限管理)
物流現場における先入先出(FIFO)は、単なるスローガンではなく、商品の品質劣化を防ぎ、廃棄ロスを撲滅するための絶対的な運用ルールです。特に、食品の消費期限管理や、医薬品・化粧品における厳密なロット管理においては、この原則が崩れることは重大なコンプライアンス違反やリコールに直結します。さらに厳密な現場では、単なる入庫順ではなく「消費期限の近いものから先に出す」というFEFO(First Expired, First Out)という概念に昇華させて運用されます。
現代の高度化されたセンターでは、このFIFO/FEFOはWMS(倉庫管理システム)によってシステム的に統制されています。具体的には、入庫時の検品プロセスでハンディターミナルを用いて製造年月日、賞味期限、ロット番号をスキャンし、システム上の在庫データに紐付けます。出庫指示がかかると、WMSは自動的に最も期限の古い在庫が保管されているロケーション(棚)を計算し、ピッキング作業者に指示を出します。
しかし、現場の真の苦労は「システムが想定しないイレギュラー」にあります。例えば「日付の逆転(日付の戻り)」です。メーカーからの納品時に、昨日入荷した商品よりも製造日が古い商品が納品されるケースが多々あります。現場では入庫検品時にこれをシステムで弾く設定にするか、あえて別エリアに隔離して特例出荷するなどのイレギュラーな運用判断が日常的に迫られます。庫内作業の標準化と属人化の排除は急務であり、WMSと適切なルール設計によるFIFOの完全な仕組み化は、あらゆる物流センターがクリアすべき基本要件です。
会計・財務における先入先出法(棚卸資産評価への影響)
一方、経理や財務の視点において「先入先出」は、棚卸資産評価の計算手法の一つ(先入先出法)を指します。これは「先に仕入れた在庫から順番に販売された」と仮定して、期末に残っている在庫の金額(評価額)や売上原価を算出する会計上のルールです。
ここで実務上よく発生する「すれ違い」があります。物流担当者は「物理的に古いモノから出庫しているか」を重視しますが、経理担当者は「帳簿上の単価計算の順序」を指しています。極端な話、会計上の先入先出法を採用していても、現場の物理的な出荷順序が全くランダムになっているケースも存在し得るのです。
インフレ(物価上昇)局面においては、過去の安い仕入れ単価が売上原価として先に計上され、期末在庫には直近の高い仕入れ単価が残るため、利益が大きく計上されやすいという財務的な特徴があります。在庫管理システムを導入・刷新する際は、現場の物理的なロット管理機能だけでなく、上位のERP(基幹システム)側で行われる会計上の棚卸資産評価ロジックとどのようにデータを連携させるか、事前の要件定義がプロジェクト成功の鍵を握ります。
先入先出(FIFO)と後入先出(LIFO)の違い【比較表】
FIFOと対をなす概念に「後入先出(LIFO:Last In, First Out)」があります。これは「最後に入庫した(新しい)ものから先に出庫する」という概念です。両者の違いを明確にするため、物流および会計の視点から比較表にまとめました。
| 比較項目 | 先入先出(FIFO) | 後入先出(LIFO) |
|---|---|---|
| 基本定義 | 最も古い(先に入った)在庫から出庫・消費する | 最も新しい(後に入った)在庫から出庫・消費する |
| 物流での主な対象商材 | 食品、医薬品、化粧品など、消費期限管理が必要なもの | 経年劣化がほぼない資材(砂利、石炭など)や、同ロットの一括大量出荷 |
| 現場の適正保管設備 | 流動ラック、両面アクセス型の自動倉庫 | ドライブインラック、平置き(段積み)、押し込み式ラック |
| 庫内作業の難易度 | 高い(厳密なロット管理・動線確保が必要) | 低い(手前にある最新の在庫から取るだけで済む) |
| 会計上の扱い | 日本の会計基準、IFRS(国際財務報告基準)で広く承認 | IFRSでは適用が禁止されている(日本では要件次第で可) |
実務における高度なテクニックとして、保管効率を極限まで高めるために、あえてLIFOの構造を持つ「ドライブインラック(通路をなくし奥から詰めて保管するラック)」を採用するケースがあります。物理的な取り出し口は手前の新しい在庫から取るLIFO構造になりますが、WMS上で「パレットごとのロット・期限」を厳密に管理し、「同一ロットで1列を埋める」「列ごとに払い出す」などの運用ルールを設けることで、実質的なFIFOを担保しています。このように、FIFOとLIFOは単なる対立概念ではなく、現場の商材特性と保管効率のバランスを見極めて使い分けることが重要です。
物流現場で先入先出を徹底する3つの最大のメリット
先入先出(FIFO)は「先に入庫した商品から順番に出庫する」という基本原則ですが、なぜ多くの現場がコストをかけてまでこの原則を死守しようとするのでしょうか。それは、単に「古いものから売るべき」という道徳的な理由ではなく、企業の利益水準やブランド価値を守るための強力な防衛策だからです。
商品劣化・陳腐化・滞留による廃棄ロスの徹底削減
食品や医薬品における消費期限管理は人命や健康に直結するため、FIFOによる運用が絶対条件です。しかし、明確な使用期限が定められていない商材であっても油断は禁物です。例えばアパレル商材の場合、長期間倉庫の奥に滞留することで、生地の黄変、カビの発生、パッケージの色褪せといった物理的な劣化を引き起こすだけでなく、「トレンド落ち」による商品価値の致命的な低下を招きます。
シーズン性の高い春物が倉庫の奥に数ヶ月眠ってしまえば、夏休みのセールですら売れない「完全な死筋在庫(デッドストック)」となり、結果として大量の廃棄ロスを生み出します。後入先出(LIFO)的な運用を放置すると、手前の取りやすい在庫ばかりが回転し、奥の在庫は恒久的に動かなくなります。重要なKPIである「廃棄ロス率」を極小化し、「在庫回転率」を健全に保つため、FIFOの徹底はキャッシュフローを圧迫する見えない損失を食い止める最大の武器となります。
厳密なトレーサビリティ確保と顧客満足度の向上
次に挙げられるメリットは、ロット管理の精度向上によるトレーサビリティ(追跡可能性)の確保です。製造業やEC物流において、万が一製品の不具合や異物混入によるリコールが発生した場合、FIFOが徹底されていれば「いつ製造・入庫されたどのロットを、どこの出荷先へ送ったか」を瞬時に特定でき、影響範囲と回収コストを最小限に抑えることができます。
また、卸売や小売店へのBtoB出荷においては、「納品する商品の消費期限が、前回納品したものより古くてはならない(日付の逆転防止)」という厳しい商習慣が存在します。FIFOが機能していないセンターから古い日付の商品が混入して出荷されると、取引先からの重大なクレームに発展し、最悪の場合は取引停止処分を受けます。WMSを用いた正確な引当とFIFOの順守は、荷主およびエンドユーザーからの信頼(顧客満足度)に直結するのです。
棚卸し作業の抜本的効率化と正確な在庫・資産把握
3つ目のメリットは、在庫の滞留を防ぐことで、日々の在庫管理や期末の棚卸し作業が劇的に効率化される点です。
FIFOが守られていない現場では、手前には新ロット、奥にはホコリを被った旧ロットがカオス状に混在しています。作業員は棚卸しのたびに商品を全て通路に引っ張り出して数を数え、一つひとつのロット番号や期限を確認しなければならず、膨大な無駄工数が発生します。一方で、FIFOが整流化されている現場は、常に「古いものから順に」出ていくため、手前にある在庫のロットと全体の数量を確認するだけで済むケースが多く、実地棚卸の時間が大幅に削減されます。
また、実際のモノの動き(実地在庫)と帳簿上の動きが一致しやすくなるため、経理部門が求める正確な財務状況の把握が可能になります。物価変動が激しい昨今においては、FIFOに基づく正しい原価計算が、精緻な利益管理と適切な経営判断を支える基盤となります。
先入先出のデメリットと陥りやすい実務的課題(落とし穴)
先入先出(FIFO)は品質保証の要ですが、物流現場の最前線に立つ管理責任者にヒアリングを行うと、「FIFOを徹底しようとすればするほど、現場の生産性が落ちる」という深刻なジレンマに直面していることがわかります。ここでは、理想論だけでは語れない、FIFO運用において現場が最も苦労するデメリットと実務的な落とし穴を解説します。
保管スペースの圧迫と保管効率の大幅な低下
先入先出を徹底する上で、現場が最初に直面する物理的ハードルが「保管効率」の大幅な低下です。古いロットを優先的にピッキングするためには、常に古い在庫へ直接アクセスできる状態を維持しなければなりません。
WMSを用いて厳格なロット管理を行う場合、同一の棚(ロケーション)に異なるロットを前後に混載するとピッキングミスを誘発するため、「1つの棚には1つのロットしか置かない」というルールを敷くのが一般的です。その結果、あるロットの在庫が残りわずかになっても、その棚には新しいロットを補充できず、棚の中にスカスカのデッドスペースが生まれる「ハニカム現象(虫食い状態)」が常態化します。LIFOであれば隙間にどんどん押し込めるため保管効率を90%近くまで高められますが、厳格なFIFO環境下では実質的な保管効率が60%〜70%程度まで落ち込むケースも珍しくありません。
入出荷の作業動線複雑化とヒューマンエラーの誘発
2つ目の課題は、作業動線の著しい複雑化です。平置き(ブロック積み)の現場において、新しいロットが入荷した際、手前に積まれた古いロットを一度フォークリフトでどかし、奥に新ロットを格納してから、再度古いロットを手前に戻すという「山崩し(パレットの差し替え)」が発生します。これは完全な荷役作業の無駄です。
また、ピッキング作業員は常に「日付の古いものはどれか」をWMSの指示と照らし合わせながら探し回るため、倉庫内の歩行距離が爆発的に増加します。「急ぎの出荷」や「繁忙期」になると、作業員はつい取り出しやすい手前の新ロットを無意識にピッキングしてしまい、結果として「システム上の理論在庫と実在庫のロットが合わなくなる」というヒューマンエラーが多発します。
返品処理やイレギュラー対応によるFIFOの崩壊
実務上の大きな落とし穴となるのが「返品商品」の扱いです。店舗やエンドユーザーから返品された良品を、手近な空いている棚に適当に戻せば、瞬く間にFIFOは崩壊します。
返品された商品は、本来なら「すでに出荷された古いロット」であることが多いため、再入庫した瞬間に「倉庫内で最も優先して出荷すべき最古の在庫」となります。しかし、現場の運用ルールが甘いと、新しく入荷したピカピカのロットの後ろに返品在庫が隠れてしまい、最終的に廃棄処分となってしまいます。返品専用の一時置き場を設け、システム上も物理的にも「優先引当エリア」として再割り当てする泥臭い運用ルールが不可欠ですが、これが現場の工数を著しく圧迫します。
システム障害(WMS停止)時のブラックボックス化リスク
デジタル化が進んだ現代のセンターで最も恐れられているのが、システム障害やネットワークトラブルでWMSが突然停止した際のブラックボックス化です。
WMSに完全に依存したフリーロケーション運用を行っている場合、システムがダウンした瞬間に「どの棚に、どのロット番号が、いくつあるか」が人間の目では一切判別できなくなり、出荷作業が完全に停止します。苦肉の策として紙のピッキングリストや目視での出荷に切り替えた途端、厳密な先入先出のルールは崩れ去り、後日膨大な棚卸しとロット調整作業に追われることになります。このような事態を防ぐためのBCP(事業継続計画)の策定が、システム導入とセットで求められます。
先入先出を効率的に実現する具体的な保管設備(マテハン)
前述した「保管効率の低下」や「動線の複雑化」という課題を根本から解決するためには、運用ルールだけで人間を縛るのではなく、物理的なアプローチが不可欠です。ここでは、最新のマテリアルハンドリング(マテハン)設備を用いて、現場に負荷をかけずに先入先出を強制・自動化する具体的な仕組みを解説します。
流動ラック(フローラック)による自然な動線分離と強制FIFO
ケース品やオリコン単位のピッキングにおいて、最もアナログでありながら最強の先入先出(FIFO)実現ツールが流動ラック(フローラック)です。
棚板に数度の傾斜とローラーが設けられており、入庫側(後方)から商品を補充すると、自重によって出庫側(前方)へと自動的に商品が流れていきます。この設備の最大のメリットは、入庫動線と出庫動線が完全に分離される点です。作業者が通路で交錯することがなくなり、安全性と作業効率が飛躍的に向上します。また、「補充した順にしか取り出せない」ため、物理的に強制的なFIFOが成立し、ピッキングミスが起き得ません。
ただし、実務上の悩みとして「段ボール底面の品質低下(湿気など)によるたわみでローラー上で商品が止まってしまう」といったトラブルや、定期的なローラーの清掃・保守が必要になる点は考慮すべきです。
両側アクセスのパレットフローラックと傾斜ラック
パレット単位での大量保管において、一般的な平置きやドライブインラックは構造上LIFOになりがちです。これをFIFO対応にする解決策が、パレットフローラック(傾斜ラック)です。
原理は流動ラックと同じですが、数トン単位の荷重に耐える強力なブレーキローラーが内蔵されており、入庫口からフォークリフトで押し込むと、反対側の出庫口へとパレットが安全な速度で流れます。フォークリフトの接触事故リスクを劇的に下げることができます。
しかし実務で最も苦労するのは「端数パレットの扱い」です。出庫側に端数(バラ)の乗ったパレットが残っていると、背後にある次のロットを引き出すことができません。そのため、「端数が出たパレットは、専用のバラピッキングエリアに横持ち(移送)する」というルールと、それに伴うWMS上のロケーション移動処理をセットで設計する必要があります。
自動倉庫(AS/RS)とシャトル式ラックによる完全自動化
より高度で大規模な物流センターでは、自動倉庫(AS/RS)やシャトル式ラックの導入が最適解となります。クレーンやシャトル台車がXYZ軸を高速移動し、WMSからの指令に基づき指定されたパレットやオリコンをピンポイントで入出庫します。
人が入る通路幅という概念が消滅するため、保管効率は通常のラックの2〜3倍に跳ね上がり、ロット管理における「人間の判断ミス」をゼロにできます。近年主流の高密度保管型のシャトル式ラックでは、1つの深いレーンに複数パレットを格納するため、基本の物理動作はLIFOになります。これをFIFO運用として成立させるため、夜間の非稼働時間にシャトル台車を使って在庫の「並べ替え(デフラグメンテーション)」を自動で行わせるプログラムが組み込まれており、システムとハードウェアの高度な融合が実現されています。
【DX・システム化】先入先出の精度を高める最新アプローチと実装手順
どれほど優れた保管設備を導入しても、入出荷される商品の「情報」が正確に管理されていなければ現場は機能不全に陥ります。「物理的な設備」と「情報管理のシステム」は、先入先出を成功させる車の両輪です。ここでは、労働力不足が深刻化する環境下でも品質と効率を両立するDXの実装手順を解説します。
WMS(倉庫管理システム)によるロット・日付管理の完全自動化
先入先出のシステム化における中核はWMSです。WMSが自動的に「最も期限の古い在庫」の保管ロケーションを割り出し、ピッキングを指示することで、作業者が棚の前で古い商品を探す「迷い時間」が完全にゼロになります。
導入時に現場が最も苦労するのは「入荷時のデータ入力負荷とヒューマンエラー」です。手入力による日付の打ち間違いが起きると、システム上の先入先出が根底から崩壊します。これを防ぐため、GS1-128などの複合バーコード(商品コードとロット・期限が一体化したバーコード)のスキャンや、AI-OCRを活用した納品伝票の自動読取を実装し、マスタデータ管理の精度を極限まで高めることが現在のプロの実務標準です。
ハンディターミナル・DPS・AMRによるピッキング作業支援
WMSが正しい指示を出しても、作業員が間違った商品を手に取っては意味がありません。そこで活躍するのが各種のデジタルツールとロボティクスです。
- ハンディターミナル(HT):作業者が誤って手前にある「新しいロット」の在庫をスキャンした場合、端末がエラー音を発し、ピッキングを物理的にブロックします。
- DPS(デジタルピッキングシステム):対象の棚に取り付けられたランプが点灯し、取るべき場所と数を視覚的に指示するため、商品知識のない新人でも即座に正確なFIFOが実行可能です。
- AMR(自律走行搬送ロボット):最新のセンターでは、作業者が歩き回るのではなく、ロボットが「最も古い在庫が乗った棚」をまるごと作業者の目の前まで運んでくるGTP(Goods to Person)方式が採用され、歩行ロスの削減と完全なFIFOを同時に実現しています。
組織的課題を乗り越えるDX実装の3ステップと重要KPI
システム化を推進する際、最大の障壁となるのが「今まで目視とカンでやってきたから変えたくない」という現場の抵抗感(チェンジマネジメントの欠如)です。組織的課題を乗り越え、少ない人員でFIFOを維持するためのDX実装は、以下の3ステップで進めます。
- ステップ1:情報管理の徹底と可視化
まずはハンディターミナルを導入し、全在庫のロット・期限データをシステム上で可視化します。ここで追うべきKPIは「ピッキング生産性(行/時)」と「出荷ミス率」です。 - ステップ2:物理設備との連携(保管・作業の最適化)
情報基盤が整った後、賞味期限の短い高回転品には流動ラックを、多品種少量品にはAMRや自動倉庫を導入し、WMSとAPI連携させます。KPIとして「保管効率」と「歩行距離の削減率」をモニタリングします。 - ステップ3:在庫評価と経営指標の連動
FIFOが倉庫内で正確に運用されると、会計上の棚卸資産評価も実態と一致します。古い在庫から順に費用化していくため、期末在庫の単価が直近の時価に近くなり、精緻な原価計算が可能になります。
業界別に見る先入先出の運用事例と重要ポイント
先入先出を形骸化させないためには、業界・商材の特性に合わせたカスタマイズが不可欠です。ここでは、各業界における物流実務者が直面する特有の課題と、その解決策となる運用ノウハウを解説します。
食品・医薬品業界(厳格な消費期限・FEFO管理の絶対防御)
食品や医薬品の物流現場において、先入先出は「品質保証そのもの」であり、コンプライアンスの要です。前述の「FEFO(消費期限の近いものから出荷)」が絶対条件となり、逆転出荷が発覚した場合は甚大なリコール問題に発展します。
この業界で必須となるのが、システム停止時のアナログなバックアップ体制(フェイルセーフ)です。プロの現場では、入庫検品時に外箱に「月別・週別のカラーラベル(例:1月入庫は赤シール、2月は青シール)」を貼付します。これにより、万が一WMSがダウンしても「今は赤いシールのロットからピッキングする」という目視でのFIFO維持が可能となり、出荷を止めずに品質を守り抜くことができます。
アパレル・EC・日用品業界(トレンド変化・状態劣化への対応)
多品種少量を扱うEC物流では、厳格な消費期限はないものの「トレンドの短サイクル化」や、長期保管による衣類の黄ばみ・パッケージ劣化を防ぐためにFIFOが重視されます。
EC物流では保管効率を最大化する「フリーロケーション運用」が主流ですが、同じSKU(単品)が倉庫内に分散しやすくなります。WMSは歩行距離を最短にするよう指示を出しますが、FIFOを優先すると「わざわざ奥の棚の古い在庫を取りに行く」という非効率が生じます。これを解決するため、現場では出荷作業の裏で「棚寄せ(ロケーションの統合)」を定期的に実施します。古い在庫をピッキングしやすいゴールデンゾーン(手前や腰の高さの棚)に集約し、新しい在庫は上段やバックヤードに格納することで、ピッキング効率と先入先出を両立させています。
製造業・部品サプライヤー(ジャスト・イン・タイムと設計変更)
自動車部品や電子部品のサプライヤーにおける物流では、生産ラインの「ジャスト・イン・タイム(JIT)」を支えるためのFIFOが求められます。部品は経年劣化しにくいものも多いですが、FIFOが極めて重要な理由は「設計変更(マイナーチェンジ)」への対応です。
メーカーから「あるロットから仕様がわずかに変更された」という通知が来た際、FIFOが守られていれば、古い仕様の部品を確実に使い切ってから新しい仕様の部品へとスムーズにラインを切り替えることができます。ここでLIFO的な運用をして新旧の部品が混在してしまうと、完成品の品質不良や組み立てラインの停止という大事故を引き起こします。そのため、製造業の倉庫では、工程ごとに細かく区切られた流動ラックや、カンバン方式と連動した厳密なロットトレースシステムが構築されています。
このように、先入先出は「古いものから順に出す」というシンプルな原則でありながら、現場のレイアウト、マテハン設備、そしてシステムと人のルールの掛け合わせによって初めて成立する高度なロジスティクス戦略です。自社の業界特性を深く理解し、最適な投資と運用設計を行うことこそが、激動の物流環境を生き抜く強靭なサプライチェーン構築への第一歩となります。
よくある質問(FAQ)
Q. 先入先出(FIFO)とは何ですか?
A. 先入先出(FIFO)とは、先に仕入れた(入庫した)古い商品から順に出荷・販売していく在庫管理の基本原則です。物流現場では商品の品質保持や消費期限管理のために不可欠であり、会計分野でも棚卸資産の評価方法として使われます。労働力不足が懸念される昨今、その重要性はさらに増しています。
Q. 先入先出(FIFO)と後入先出(LIFO)の違いは何ですか?
A. 先入先出(FIFO)が「先に入庫した古い商品から出荷する」手法であるのに対し、後入先出(LIFO)は「後から入庫した新しい商品から出荷する」手法という違いがあります。先入先出は商品の劣化や消費期限切れによる廃棄ロスを防ぐのに適しています。一方、後入先出は保管効率や作業スピードを優先する場面で用いられます。
Q. 物流で先入先出(FIFO)を導入するメリットは何ですか?
A. 最大のメリットは、商品の劣化や陳腐化、滞留による廃棄ロスを徹底的に削減できる点です。さらに、厳密なトレーサビリティの確保により顧客満足度が向上するほか、正確な在庫把握によって棚卸し作業が抜本的に効率化されます。結果として、現場の生産性と品質を両立させることが可能になります。