- キーワードの概要:MFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)とは、消費地に近い都市部や駅周辺などに設置される、小規模で高度に自動化された物流拠点のことです。配送先との距離を極限まで縮めることで、注文から最短15分〜数時間での配送を可能にします。
- 実務への関わり:ラストワンマイルの配送コストと時間を大幅に削減できるため、即時配送サービスの構築や配送効率化に貢献します。店舗併設型やダークストア型など、自社のビジネスモデルに合わせた柔軟な拠点展開が可能です。
- トレンド/将来予測:EC需要の増加やドライバー不足(2024年問題)に対応するため、都市型自動倉庫を活用したMFCの重要性はさらに高まっています。国内外でマテハン技術やロボットを活用した高度な自動化ソリューションの導入が急速に進むと予想されます。
注文から最短15分で商品を届ける「クイックコマース」や、都市部における当日配送の実現。これを物理的に可能にするのが、マイクロ・フルフィルメント・センター(MFC)です。MFCは、消費地に近い都市部や駅周辺などに設置される、数百平方メートルから数千平方メートル程度の小規模かつ高度に自動化された物流拠点を指します。配送先までの物理的距離を極限まで縮めることで、出荷からお届けまでの時間を分単位・時間単位に短縮する役割を担います。
- MFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)の定義と大型配送センター(DC)との決定的な違い
- MFCの基本概念と「ラストワンマイル」を極小化する仕組み
- 従来の大型DCとMFCの比較
- EC市場拡大と運送規制強化がもたらすMFC導入の背景
- 即時配送(クイックコマース)需要の急増と消費行動の変化
- ドライバー労働時間の上限規制に伴うラストワンマイルの配送リソース不足
- 実務から見たMFCの4つのビジネスモデルと自社に適した形態の選び方
- 「店舗併設(In-store)型」と「ダークストア型」の特徴と適正
- 広域をカバーする「ハブ&スポーク型」と「完全自動(Automated)型」
- MFCを支える最先端の自動倉庫テクノロジーと国内外の先進導入事例
- MFCに採用される代表的な自動化ソリューションとマテハン技術
- 国内外の小売・EC企業における実在の稼働事例
- 自社でMFC導入を検討するための「4つのステップ」と実務チェックリスト
- 投資対効果(ROI)の算出と立地・物件選定における現実的な課題
- 既存システム(WMS/ERP)との連携と現場オペレーションの構築
MFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)の定義と大型配送センター(DC)との決定的な違い
MFCの基本概念と「ラストワンマイル」を極小化する仕組み
MFCの最大の目的は、EC物流におけるコストと時間のボトルネックとされる「ラストワンマイル」(最終配送拠点からエンドユーザーまでの配送区間)を極小化することにあります。この目的を達成するために、MFCは以下のような仕組みと技術で構築されています。
- 都市部への近接配置(ダークストアの活用):地価の高い都市部や駅周辺の遊休スペース、または実店舗のバックヤードを配送専用のダークストア(一般顧客が立ち入らない、配送準備に特化した店舗型倉庫)に改装して活用します。消費者の居住エリアから半径数キロメートル圏内に拠点を配置することで、物理的な移動時間を根本的に削減します。
- 高密度な自動倉庫の導入:限られた床面積を最大限に活用するため、天井高の低いビルや店舗スペースにも設置可能な自動倉庫(立体格子状のキューブストレージシステムやシャトル方式のピッキングシステム)を導入します。これにより、従来の平置き棚に比べて保管効率を3倍から4倍に高め、狭小なスペースであっても十分な在庫量を確保します。
- クイックコマースとの親和性:注文を受けてから数十分以内で配達を完了するクイックコマースのビジネスモデルを支えます。受注データが自動倉庫の制御システムに連携されると、ロボットが数秒で対象商品をピッキングし、スタッフの梱包作業を経て、待機しているデリバリースタッフへと引き渡されます。この一連の工程をシステムで標準化・高速化することにより、注文から最短15分から30分での出荷を実現します。
従来の大型DCとMFCの比較
MFCと、従来の郊外型大型配送センター(DC)は、保管する商品の特性や配送の役割において明確な違いがあります。それぞれの特徴を整理した比較は以下の通りです。
| 比較項目 | マイクロフルフィルメントセンター(MFC) | 大型配送センター(DC) |
|---|---|---|
| 主な設置立地 | 都市部の消費地近郊、駅周辺、既存店舗のバックヤード | 高速道路のインターチェンジ周辺などの郊外 |
| 拠点面積 | 約500平方メートル 〜 3,000平方メートル程度 | 約10,000平方メートル 〜 数万平方メートル以上 |
| 配送リードタイム | 最短15分 〜 数時間(即日配送) | 翌日 〜 数日(計画配送) |
| 対象SKU数 | 約2,000 〜 10,000SKU(売れ筋・高回転商品中心) | 数万 〜 数十万SKU(ロングテール商品を含む全商材) |
| 主な配送手段 | 軽バン、バイク、自転車(ギグワーカー、自社デリバリー) | 大型・中型トラック、大手宅配便ネットワーク |
| 初期投資の傾向 | 坪単価の設備投資額は高いが、総額は小規模に抑えやすい | 大規模な建築・用地取得費および大型マテハン導入費が発生 |
この比較から明らかなように、MFCと従来の大型DCは二者択一の関係ではありません。実務においては、両者の強みを掛け合わせた「ハブ&スポーク」型のネットワークを構築します。
例えば、月間30,000件の注文を処理する雑貨ECを運営する場合、全50,000SKUにおよぶフルラインナップの在庫は郊外の大型DCに集約して一括保管します。その中から、過去の購買データ分析に基づき「今週注文が集中する」と予測された上位1,500SKU(売れ筋商品の3%に相当)のみを、都心部にある2,000平方メートルのMFCに事前に転送・補充しておきます。この運用設計により、注文頻度の高い主要商品を消費者の最も近くから即時に出荷できる体制が整い、幹線輸送とラストワンマイルの双方のコスト最適化を同時に達成することが可能です。
EC市場拡大と運送規制強化がもたらすMFC導入の背景
即時配送(クイックコマース)需要の急増と消費行動の変化
食品や日用品、医薬品などを中心に、注文から30分から1時間程度で商品を届ける「クイックコマース」の需要が急増しています。消費者は単に「翌日に届く」ことだけでなく、「必要なときに、今すぐ届く」利便性を重視するようになり、EC物流に求められるリードタイムは劇的に短縮されました。
この消費行動の変化に対応するためには、従来の郊外に位置する大型物流倉庫から都心部へ数時間かけて配送するモデルでは限界があります。そこで機能するのが、消費地に近い都市部に配置されるダークストアや、既存の小売店舗のバックヤードを活用したマイクロフルフィルメントセンターです。消費者に極めて近い位置に在庫を保有することで、受注から発送までのタイムラグを極小化できます。
具体的な運用モデルとして、300平米の店舗裏スペースを自動倉庫化した都市型拠点のケースが挙げられます。この構成では、注文を受信してから自動ピッキングによって最短3分で梱包を完了し、即座に配送スタッフへ引き渡すオペレーションが可能になります。この迅速な庫内処理が、クイックコマースにおける30分配送を物理的に支える基盤となります。
ドライバー労働時間の上限規制に伴うラストワンマイルの配送リソース不足
トラックドライバーの年間時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題など)に伴う人手不足は、EC物流の持続可能性に直結する課題です。特に長距離輸送の制限や運賃の上昇は、郊外から都市部への配送効率を悪化させる要因となっています。
従来の郊外型DCから各家庭へ個別に届けるプロセスでは、配送距離が長くなるほど移動や渋滞に時間を取られ、配送ドライバー1人あたりの1日の配達個数が頭打ちになります。これに対し、消費地との距離を縮めるマイクロフルフィルメントセンターは、ラストワンマイルの配送距離を劇的に短縮する解決策となります。配送における具体的な効率性の違いは以下の通りです。
| 評価項目 | 郊外型DCからの配送 | 都市型MFCからの配送 |
|---|---|---|
| 平均配送距離 | 15km 〜 30km | 2km 〜 5km |
| 配送手段 | 大型トラック・軽バン | 軽バン・自転車・電動モビリティ |
| 1台あたりの1日配送回転数 | 2回 〜 3回 | 6回 〜 10回 |
| 配送リードタイム | 半日 〜 翌日 | 15分 〜 60分 |
例えば、郊外倉庫から片道20km離れたエリアへ配送していた体制を、都市部に構えたマイクロフルフィルメントセンター起点に切り替えた場合、1台の軽配送車両が1日に配送できる件数は従来の15件から35件へと2倍以上に向上します。さらに、距離が短いことから自転車や小型の電動モビリティによる配送も可能となり、普通免許を持つドライバーに依存しないラストワンマイルの構築が実現できます。配送リソースが制限される中にあっても、配送効率を最大化することで、物流コストの増大を抑制できます。
実務から見たMFCの4つのビジネスモデルと自社に適した形態の選び方
マイクロフルフィルメントセンター(MFC)を導入する際、自社のリソースや取り扱う商材に合わせて最適なビジネスモデルを選択することが、投資対効果を最大化するための前提条件となります。まずは、各モデルの特徴と適正をまとめた比較マトリクスを示します。
| ビジネスモデル | 対象商材の例 | ラストワンマイルの目標時間 | 初期投資規模 | 主なターゲット事業者 |
|---|---|---|---|---|
| 店舗併設(In-store)型 | 生鮮食品、惣菜、日用品 | 1時間〜3時間 | 極小(既存店改修) | 地方スーパー、ドラッグストア |
| ダークストア型 | 生鮮食品、日用雑貨、医薬品 | 15分〜30分 | 小〜中(専用物件確保) | クイックコマース事業者、都市型ネットスーパー |
| ハブ&スポーク型 | アパレル、コスメ、生活雑貨 | 当日〜翌日午前 | 中〜大(複数拠点網) | 複数店舗を展開する小売チェーン、EC物流事業者 |
| 完全自動(Automated)型 | EC向け高頻度回転品、ガジェット、アパレル | 即日配送 | 大(自動化マテハン導入) | 出荷密度が極めて高い都市型EC、3PL |
「店舗併設(In-store)型」と「ダークストア型」の特徴と適正
「店舗併設(In-store)型」は、既存の実店舗のバックヤードや売り場の一部をMFC化するモデルです。最大のメリットは、新たな物件取得コストを抑え、既存の店舗網と在庫をそのまま活用できる点にあります。例えば、店舗の裏手にある30坪程度のバックヤードをピッキング・梱包エリアに改装し、店頭に並んでいる商品をピッカーが回収する体制をとることで、初期投資を数百万円規模に抑制可能です。
しかし、店舗併設型には「実店舗のお客様とECピッカーの動線が重なり、作業効率が低下する」「店頭で商品が売り切れた場合にEC側で欠品が発生する」という実務上のデメリットがあります。店頭でのピッキング時にリアルタイムの在庫引き当てシステムがないと、EC側の在庫差異が頻発するためです。このため、実店舗への来店客数とのバランス調整が必要となります。店舗併設型は、EC化率がまだ低く、1日の出荷件数が50件未満の立ち上げ初期段階にある地方スーパーやドラッグストアにおいて、スモールスタートを切るためのアプローチとして適正が高いといえます。
一方の「ダークストア型」は、一般の買い物客が立ち入らない、EC配送に特化した専用拠点です。接客を想定していないため、一等地のロードサイド店舗である必要はなく、家賃相場が安い都市近郊のビルや、大通りから一本入った1階物件などを配送拠点として活用できます。通路幅を狭くし、ピッキング効率を最優先した棚割りと作業動線を設計できるため、ピッキング生産性は店舗併設型の2倍以上に向上します。
このモデルは、注文から30分以内の超高速配送を強みとするクイックコマースに欠かせない存在です。ただし、新規の賃料や光熱費、ピッキング専用スタッフの固定人件費が発生するため、採算性を確保するには「1拠点あたり1日150件以上の注文」を安定して獲得できる人口密度と需要が必要です。生鮮食品や日用品を特定の高需要エリアへ迅速に届ける必要がある都市型EC物流において、高い効果を発揮します。
広域をカバーする「ハブ&スポーク型」と「完全自動(Automated)型」
「ハブ&スポーク型」は、在庫を一括管理する郊外の大型物流センター(ハブ)と、消費地近郊に複数配置された配送デポとしてのMFC(スポーク)を組み合わせる配送網構成です。多品種の在庫を中央のハブに集約し、各スポークには需要予測に基づいた高頻度回転品のみを配置することで、全体の在庫保有コストを最小限に抑えます。ハブで一括ピッキングされた商品を夜間から早朝にかけてトラックで各スポークに送り、スポークからラストワンマイルの配送を実施する体制を構築します。
実務におけるデメリットは、ハブからスポークへの二次輸送(横持ち便)が発生するため、輸送コストと二重荷役の手間が増える点です。このため、1店舗あたりで数万SKUを管理するものの、即時配送よりは「当日中・翌日午前中」の確実な配送が求められるアパレル、コスメ、家電などのEC物流に最も適合します。広域に店舗網や顧客基盤を持つ大手小売チェーンが、物流の全体最適化を図るために導入するケースが一般的です。
「完全自動(Automated)型」は、MFCの内部にAutoStore(オートストア)やシャトル式の自動倉庫などの高度なマテハン機器を導入し、ピッキングや格納、仕分け作業の大部分を自動化したモデルです。最大のメリットは、圧倒的な保管効率と省人化です。通常の棚保管と比較して、天井高を有効活用することで約3倍の密度で商品を格納できるため、地価が高くスペース確保が難しい都市部であっても、150坪程度の狭小地で2万〜3万SKUの在庫を保有することができます。
しかし、導入には数億円規模の初期設備投資と、マテハンベンダーとの緊密なシステム連携が必要であり、導入までに1年前後の準備期間を要します。したがって、このモデルを選択すべきなのは、人手不足による人件費の高騰が深刻であり、かつ1日の出荷件数が最低でも数千件から1万件規模に達する都市型のEC事業者や、複数の荷主の荷物を共同配送で処理する3PL事業者に限られます。将来的な人件費の削減効果と出荷処理能力の向上から、明確な投資対効果(ROI)を算出できる大規模事業者に向けたソリューションです。
MFCを支える最先端の自動倉庫テクノロジーと国内外の先進導入事例
MFCに採用される代表的な自動化ソリューションとマテハン技術
都市部の限られた敷地面積で最大の保管効率と出荷能力を発揮するためには、垂直方向の空間を有効活用する自動倉庫の導入が不可欠です。都市部のダークストアや既存店舗の裏スペースといった狭小地では、従来型の大型物流センターで使われていたフォークリフトや固定棚によるレイアウトは機能しません。現在、世界のEC物流現場で稼働している代表的な3つのシステムの特徴を整理しました。
| システム名 | 主要な技術特徴とピッキング原理 | MFCでの主な強み | 主な適応領域 |
|---|---|---|---|
| AutoStore | 格子状(グリッド)に組まれたアルミニウム製ラック内に、コンテナ(ビン)を隙間なく積み重ね、最上部を自律型ロボットが縦横に走行して商品が入ったコンテナを引き出すキューブ型ストレージ。 | 通路スペースを不要にするため、通常の棚保管と比較して保管効率が最大4倍に向上。狭小スペースの収納力を最大化。 | 都市型ダークストア、アパレル・日用雑貨などの多品種少量EC。 |
| Exotec「Skypod」 | 自律走行ロボット「スカイポッド」が、ラックの垂直方向の昇降と、フロアの水平方向の走行を1台でシームレスに行う3次元走行シャトルシステム。 | ロボットが時速約14kmで高速移動し、注文からピッキングステーションへのビンの搬送時間を劇的に短縮する高い処理スピード。 | 処理能力の急激な変動への対応が必要なEC物流、クイックコマース。 |
| Takeoff Technologies | 自動倉庫メーカーのシャトル技術をベースに、常温・冷蔵・冷凍の3温度帯に対応した保管エリアをコンパクトに収める食料品EC特化型のパッケージ。 | 常温・冷蔵・冷凍を1拠点内で統合管理。既存スーパーマーケットのバックヤードに容易に収まる専用設計。 | ネットスーパー、食料品および日用品のラストワンマイル配送。 |
国内外の小売・EC企業における実在の稼働事例
MFCを実際の店舗ネットワークや配送システムに組み込み、ラストワンマイルの効率化に成功している実在の企業事例を紹介します。
1. 米国Walmart(ウォルマート):店舗併設型MFCによる店舗ピックアップの高速化
Walmartは、実店舗の敷地内に「Market Fulfillment Center(MFC)」を併設する戦略を全米で推進しています。同社はAlert Innovation社の自動ピッキングロボット「Alphabot(アルファボット)」などの技術を採用しています。Alphabotは店舗のバックスペースに構築された立体自動倉庫内を3次元に移動し、常温・冷蔵の商品を自動で取り出します。ピッカーの歩行距離をほぼゼロにした結果、オンラインで注文された食料品のピッキング速度は従来の約10倍に向上しました。店舗での即時受け取り(Click & Collect)や、店舗を起点としたラストワンマイル配送の迅速化を支える基盤となっています。
2. 米国Albertsons(アルバートソンズ):Takeoff社のソリューションによる食料品ECの収益化
大手食品スーパーのAlbertsonsは、Takeoff Technologies社と提携し、既存店舗の裏スペースを改造したMFCを順次導入しています。約1,000から1,500平米のスペースに常温および冷蔵の自動ピッキングシステムを稼働させています。従来の店舗棚から人間がカートを押して商品をピッキングする手法と比較して、ピッキング速度を約4倍に改善しました。限られた店舗スペース内でオンライン注文の処理件数を爆発的に増やし、配送コストを圧縮することで、食料品EC物流における採算性の向上を実現しています。
3. 国内ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H):店舗内MFCでのネットスーパー改革
国内の先進事例として、マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東を傘下に持つU.S.M.Hの取り組みがあります。同社は茨城県つくば市の「カスミみどりの駅前店」に、AutoStoreを導入した店舗併設型のマイクロフルフィルメントセンターを本格稼働させました。店舗のバックヤードスペースに自動倉庫を配置し、同社のオンラインデリバリーサービスの注文商品を自動でピッキング・仕分けしています。これにより、店舗スタッフの作業負荷を大幅に削減すると同時に、注文から商品引き渡しまでのリードタイム短縮を実現し、地域におけるオンライン購買の利便性を高めています。
自社でMFC導入を検討するための「4つのステップ」と実務チェックリスト
都市型配送の効率化やクイックコマースの実現に向けて、マイクロフルフィルメントセンター(MFC)の導入を本格的に検討する際、単なる設備の選定だけでなく、投資対効果(ROI)の精緻な試算や都市部特有の物件制約、既存システムとの連携といった「実務上の障壁」をクリアする必要があります。これらを体系的に進めるための4つのステップを解説します。
投資対効果(ROI)の算出と立地・物件選定における現実的な課題
ステップ1:需要予測に基づいた投資対効果(ROI)の算出
MFCの構築には、都市部の高い賃料や、自動倉庫などのマテハン機器、システム開発費といった初期投資が発生します。これらを回収できるかを検証するため、既存のEC物流データを用いて具体的なコスト削減効果を試算します。
例えば、月間3万件の注文を処理するアパレルEC物流において、郊外の大型DCから都市型のMFCへ移行する場合のシミュレーションを行います。従来の郊外配送ではラストワンマイルの配送コストが1個あたり平均800円かかっていたところ、配送距離の短縮により550円へと削減(250円の削減)されます。さらに、高密度な自動倉庫を導入することで、ピッキング人件費が1件あたり150円から50円へと低減(100円の削減)します。この結果、1件あたり計350円、月間で1,050万円の運営コスト削減が実現します。初期投資額が設備導入と内装工事を合わせて3億円の場合、約2.4年で投資回収が可能となる計算が成り立ちます。
ステップ2:都市部における立地・物件選定の制限回避
都市部でMFCを設置する場合、坪単価の高い賃料や物件スペックの制限が大きな障壁となります。配送対象エリアへのアクセスが良好な都心部のビルや、既存店舗のバックヤードを「ダークストア」として転用する場合、一般的な大型物流センターに比べて床荷重や天井高のスペックが劣ることが多くあります。
具体的には、オフィスビルや商業施設の1階を賃貸する場合、床荷重が500kg/㎡、天井高が3m程度に制限されるケースが多々あります。この場合、スタッカークレーンを用いる高層の自動倉庫は導入できません。そのため、床面にレールを敷いてグリッド上をロボットが走行するタイプや、天井高の制限を受けにくい超高密度型の自動倉庫を選定し、限られたデッドスペースを有効活用する設計を行います。また、消防法における指定可燃物の保管上限や、荷受スペース(トラックの駐車可否)の有無についても、物件契約前の初期段階で必ず確認を完了させる必要があります。
既存システム(WMS/ERP)との連携と現場オペレーションの構築
ステップ3:既存システム(WMS/ERP)とのリアルタイム連携
MFCにおける自動化設備の能力を最大限に引き出すためには、基幹システム(ERP)や既存の倉庫管理システム(WMS)とのデータ連携が欠かせません。特に注文から配送までを短時間で行うクイックコマースに対応する場合、バッチ処理によるデータ同期では対応できません。
ECサイトで注文が確定した瞬間に、API経由でMFCのWMSへ注文データを即時送信し、倉庫制御システム(WCS)および倉庫実行システム(WES)を介して自動倉庫へピッキング指示を1分以内に届ける仕組みを構築します。在庫情報の同期ズレ(実在庫とECサイト上の表示の不一致)は欠品やキャンセルを誘発するため、自動倉庫内の在庫と基幹システムの在庫データをリアルタイムに双方向更新する連携仕様を定義する必要があります。
ステップ4:ラストワンマイル配送網の構築と出荷オペレーション
自動倉庫によってピッキングが高速化されても、配送員への受け渡し(ステージング)が滞れば全体のリードタイムは短縮されません。MFCの限られたスペース内に、ピッキング済みの商品を配送先・配送ルート別に仕分ける一時保管エリアを設計します。
具体的には、ピッキング完了から配送員が商品を受け取って出発するまでを5分以内で行うため、WMSと配送業者の管理システム(TMS)を連携させます。配送員がMFCに到着するタイミングをGPSで予測し、そのタイミングに合わせて出荷口に商品を準備するオペレーションを構築します。これにより、配送員の待機時間をゼロに近づけ、車両の回転率を高めることができます。
以下は、自社でMFCの導入可否を判断するための簡易的な実務チェックリストです。各項目の該当状況を確認し、検討の判断材料として活用してください。
| 評価項目 | チェック内容 | 判断基準と実務アクション |
|---|---|---|
| 配送リードタイム | 現状の配送リードタイムに顧客から不満、または短縮の要望があるか | 当日配送や注文後数時間以内の配送ニーズが全体の30%以上を占める場合、MFCの導入効果が高い。 |
| 配送コスト割合 | 総物流コストに占めるラストワンマイル配送費の割合が上昇しているか | 配送費比率が50%を超えている場合、都市部への拠点分散(MFC化)による配送距離短縮を検討。 |
| 物件スペック | 検討中の都市部物件(または既存店舗)の床荷重・天井高は十分か | 床荷重500kg/㎡以上、天井高2.7m以上を確保できるか確認。不足する場合は対応可能なマテハンを選定。 |
| システム連携性 | 既存のWMS/ERPがAPI等によるリアルタイム連携に対応しているか | バッチ処理のみ対応の場合、データ連携ミドルウェアの導入、またはWMSの刷新予算をプロジェクトに組み込む。 |
| 取扱商品の特性 | 常温・冷蔵・冷凍などの温度帯管理や、商品のサイズ制限をクリアできるか | 自動倉庫の対応温度帯を確認。多温度帯(3温度帯など)に対応する場合、設備投資額が約1.5倍〜2倍に膨らむため要検証。 |
よくある質問(FAQ)
Q. 物流用語の「MFC(マイクロ・フルフィルメント・センター)」とは何ですか?
A. MFCとは、消費地に近い都市部や駅周辺などに設置される、小規模かつ高度に自動化された物流拠点のことです。敷地面積は数百〜数千平方メートル程度で、配送先までの物理的距離を極限まで縮めることで、注文から最短15分といった超高速配送(クイックコマース)を可能にします。
Q. MFCと従来の大型物流センター(DC)にはどのような違いがありますか?
A. 主な違いは「立地」と「規模」です。従来の大型DCは郊外に設置され広大なエリアをカバーしますが、MFCは都市部の限られたスペースに設置されます。消費者のすぐ近くに拠点を構えることで、出荷からお届けまでの「ラストワンマイル」の時間を分単位・時間単位に短縮できる点がMFCの強みです。
Q. なぜ今、物流業界でMFCの導入が進んでいるのですか?
A. 主な背景は、即時配送(クイックコマース)需要の急増と、ドライバーの労働規制強化による配送員不足です。消費地の近くに拠点を設けるMFCは、配送距離を劇的に短縮できるため、限られた配送リソースでも効率的な当日配送や時間指定配送を実現できます。